稲村ヶ岳(いなむらがたけ)は、奈良県吉野郡天川村にある大峰山脈の山。標高1,726.1m、関西百名山の一座。女人大峯、稲邑ヶ岳とも記される。
天川村の東部、大峰山脈の北部、山上ヶ岳の南西に位置し、山域は吉野熊野国立公園の指定区域内にある。三等三角点「稲村岳」(標高1,725.9m)が設置されている。尾根伝いの北東に山上ヶ岳、東に大普賢岳、南東に行者還岳、南に弥山・八経ヶ岳、西に観音峯、北に大天井ヶ岳があり、山頂展望台から各ピークを望むことができる。天候が整えば奈良盆地や生駒山、金剛山、額井岳、釈迦ヶ岳などを遠望できる。
山頂部は北の大日山(だいにちさん)と南の稲村ヶ岳からなる。大日山と稲村ヶ岳の間には鋭いキレットがあり、西側の谷へと落ち込む断崖になっている。鋭い岩峰を持つ大日山を古くは稲村ヶ岳と呼び、こちらが本峰である。北側から見るその山容が、刈り取った後の稲を積み上げた稲叢(いなむら)に似ていたことが山名の由来である。大日山の標高は1,689m。山頂に大日如来を祀る祠があり、地元の村が干害に悩まされると、村人は雨乞いを行うために岸壁をよじ登り祈祷を行ったという。女性修験者のための行場として女人大峯(にょにんおおみね)の別名でも知られる。山頂付近はハシゴや鎖場、ロープが設置されている。
南にある稲村ヶ岳は標高1,726.1m。三等三角点が置かれ、奈良県が1968年に整備した鉄骨製展望台がある。稲村ヶ岳を含む大峰山脈の年間降水量は約3500mmであり、夏は多雨、冬は積雪が多く、冬期は山頂付近で樹氷が見られる。稲村ヶ岳近辺の地層は砂岩やチャートを主体とする礫岩層からなり、これを稲村ヶ岳礫岩層という。
稲村ヶ岳を源流とする河川はいずれも新宮川水系であり、北に山上川、東に川迫川(こうせがわ)が流れる。東の神童子谷(じんどうじたに)や南西のモジキ谷を流れる川迫川の渓流は沢登りの名所となっている。