いつの間にそんなトレースついたん?剱岳、登頂‼️

2021.11.21(日) 日帰り

チェックポイント

DAY 1
合計時間
13 時間 22
休憩時間
1 時間 54
距離
14.5 km
のぼり / くだり
2364 / 2350 m
3 19
2 46
2 23

活動詳細

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悔しくて悔しくてたまらなかった。自分の実力では当然の結果なのに。先週、早月劔を2550メートル付近で撤退した。あらゆる面で詰めが甘かった。緻密な戦略を立てて臨まないとこの時期の劔岳は自分のレベルでは無理だ。ますます劔岳が頭から離れなくなった。 まずは、11月末の伊折ゲートクローズがある。「まじで、2週連続馬場島まで行くか?」。前回のレコの終わりにそう書いてはみたものの、前回の帰り道、本当に寝そうで危なかった。意味不明な奇声をあげながらなんとか寝ずに耐えた。やはり、ジムニーは無理や。今回は安定のマイカーにしよう。そもそも、最近ずっーと続く激務からの疲労を睡眠でしっかり回復させるには、昼に前入りして焚き火してる場合じゃなかった。しっかり金曜の夜に睡眠を確保し、遅めに前入りして、ステラリッジをサクッと設営しよう。 次に天気予報、特に降雪状況をもっと見なアカン。どか雪降った直後に行ったら無理に決まってる。そういう目で、富山県警山岳救助隊のデイリーツイッターを見ると、火曜日以降は全く降雪がない。かつ、「来週には天気が大荒れになる」とやまてんから大荒れ情報メールが来ていた。この土日が伊折締切前ラストチャンスのようだ。 最後にいつものリチュラルで、モンベルの兄ちゃんに電話した。「この間の日曜日、早月劔岳を2600M手前で撤退したんですが、その辺りの急斜面にすごい恐怖したんですが…」と言うと、「あそこは私も怖いです。本当はダブルアックスあった方がいいんですが、そこだけのために持っていくのも重くて大変なので、一本で乗り切るしかないです」。なるほど。「じゃあ、僕が感じた恐怖は普通だったんですね?」「はい、私も四つん這いになって降ります」「あと、時間も全く足りませんでした。早月小屋まで5時間もかかっちゃいました」と言うと、「あそこはそれくらいかかるのが普通ですよ。やはり、日帰りよりも早月小屋でテン泊した方がいいです」。そうか、俺が極めてチンタラなわけではないのか…。じゃあもっと早めにスタートするのみだ。 土曜日の朝、7時半過ぎに起きた。たっぷり7時間寝たことになる。最近の中ではかなりの長時間睡眠だ。まだしっかり準備が終わっていなかったので、急いでパッキングし9時前に自宅を出た。夕方4時には馬場島荘駐車場に着くのか? 今日は安定のマイカーなので、半自動運転を使える。ジムニーもミッションなのにクルーズコントロールが付いているが、前の車が減速してもそのままのスピードで突っ込んで行くので気が抜けない。その点、今日はほぼ頭の中を空っぽにして運転できる。以前、この運転の時間の無駄をなんとかできないかと、オーディオブックをサブスクしてみたが、よほど内容が面白くない限り、全くオーディオに集中できなかった。早く完全自動運転の時代が来てほしいものだ。 110キロほど出しても1500回転ほどしかいかない静寂運転で、比較的ストレスなく滑川ICを降りた。ガソリンはまだ半分ほど残っていたが、帰りのSAで入れるのは避けたい。(先週レギュラーですら180円超だったから、ハイオクだといくらになるか想像したくもない。)それで、ICを降りてからまずはガソリンスタンドを探した。カーナビのアイコンを見ながら馬場島の方へ走ると、途中にエネオスがあったのでそこに入った。ハイオクは161円と自宅の近くで入れたのと同じ値段だ。しかも、併設されたセブンイレブン滑川早月店で買い物するとリッター4円引きになるバーコードを貰える。(満タンにした後で気付いた😅) ここから、ナビに従い馬場島荘へ向かう。今回はできるだけ登山以外の負荷を減らすため、馬場島荘で宿泊者以外もご飯が食べられるかどうか確認するため電話した。かなり鳴らしたが誰も出ない。最悪、馬場島荘で食事にありつけないリスクを考慮し、さっき出たばかりのガススタに戻り、併設のセブンイレブンでその日の夕食を買った。 4時頃馬場島荘に着くと、駐車場に止まっている車の台数が先週より随分多い。「これはいい兆候やな。登山者が大分入っとるな」。キャンプ届と登山届を書きに馬場島荘の入口に向かうと、「馬場島荘の営業は11月19日で終了しました」と張り紙がドアにされていた。「あ~❗だから、誰もでぇーへんかったんか…」。コンビニに戻ってよかった。 両届けをポストに入れ早速ステラリッジの設営を開始する。キャンプ場には意外に誰もいない。みんな、もう今日のうちに入山したのかな?車との距離が出来るだけ近くなるように、キャンプ場の入口にある大岩の裏に張っていく。ここは風もないし張り綱はしなくていいだろう。が、もうテント側に自在を付け替えていたのを見て思い出した。「これ、実際にできるか一本だけ張ってみるか」と、ペグにエバンスノッドで紐をくくりつけ、テント側に付けた自在を締める。最初、少し締まりが悪かったが、ペグ側のエバンスノッドを締め上げるときっちり固まった。 前回朝の3時にスタートして全然間に合わなかったので、今回は遅くとも2時、できれば1時にスタートしようと思っていた。ただ、今回はテントを張ってしまったので、僕の手際の悪さだと最低でも1時間半はスタートできるまでかかるだろう。6時間は睡眠をとりたいので、「6時に寝て、12時に起き、1時半スタートだな」と、もう5時前になっていたが、ビールを飲みながら少し侘しいコンビニ弁当を食べる。本当は、ビールをもう一缶飲みたかったが、一缶にとどめておいた。5時半くらいにトイレに行くと、真っ暗な中を下山してきた登山者が通りかかった。「今、山頂から降りて来られたんですか?」とあまりに真っ暗だったので驚いて聞くと(とは言っても単に日の落ちるのが早くなっただけだが)、「はい、そうです」と汗だくになりながら答えてくれる。「登山道どうでした?」と少しでも参考になることを教えて貰おうと聞くと、「1600メートルより上は雪ですね」。前回は1200メートル超えたら雪だったのに…。「小屋より上はどうでしたか?」「まあ、かなり登山者がたくさん入ってますし、トレースもしっかりですね」「ありがとうございます」。やはり、期待できそうだな…。 セットしたガーミンが夜中の12時に振動した。なぜだか、ほぼ寝れなかった。起きる直前だけ夢を見たので寝ていたのか。昨日の夜の10時くらいに熊鈴を鳴らせて入山するパーティーがいたが、どんなプランなんだろう…?劔岳頂上で御来光のパターンなんだろうか?だとしたら、よく危険箇所ヘッデンで行けるな…。今回、早出するのに唯一感じていた不安は、もしかなりいいペースで早月小屋まで行けてしまった場合、もしかしたら危険な箇所もヘッデンになるかも知れないことだった。ジェットボイルで湯を沸かし、インスタントカフェラテを作った。やはり、カチカチいわせるも火はつかなかった。サンドイッチを食べ、早々に外に出て撤収を始める。自分なりにてきぱきと片付けていくも、入山の準備が整ったのはもうすぐ1時半になろうとする頃だった。 「試練と憧れ」の先にある登山道入口に向かう。今回は験を担いで「試練と憧れ」は写真におさめず、登頂後に撮るイメージを脳裏に焼き付けた。登山道入口でガーミンを見るとピッタリ1時半になっていた。「えー感じや。プラン通りやな。」さすがに先週来たばかりなので、登山道もかなり覚えている。「2回目に登ると前回より楽に感じる」という教えを最大限に活かす2週連続早月尾根。松尾平の道標まで25分で来れた。前回はゆっくりを心がけて失敗したので、今回は200メートル毎にどれくらいのタイムで来れているか確認し、ペースに遅れが出ていないかを気にしながら登っていく。前回は早月小屋まで5時間もかかったが、今回は遅くとも4時間半以内で着いておきたい。 前回は1400メートルの道標辺りでチェーンスパイクを付けたが、今回は昨日の登山者が言っていた1600メートルを超えても、あまり雪は出てこない。そのまま坪足で1800メートル手前まで行き、コンスタントに雪道になってきた所でチェンスパを装着した。やはり、安心感が増す分だけ精神力の節約になる。「先週より大分雪少ないなぁ」。2000メートルを越えて、前回左足が池ノ谷側に流れ恐怖したトラバースもトレースが深い溝になっていて恐怖感なくサクサク歩ける。氷った池が2つ並んでいるところを抜け、あれっと思うほど早く早月小屋を見下ろす小高い丘にたどり着いた。まだ、日の出前だが相変わらず景色がいい。今日は誰もここに幕営していなかった。写真を何枚か撮り、小屋の前まで下りていくと、4時間で来れたら御の字だと思っていたのに、まだ5時にもなっていなかった。 今日の早月小屋には活気があった。大きめのテントがぱっと見ただけで2張あり、テント内にはヘッデンの明かりが灯り、山頂アタックの準備中らしきあわただしさが伝わってきた。前回平らに整地されていた場所はもうきれいな平らではなかったが、そこまで歩きザックをおろした。やはり早月尾根だからか、なかなか単独の登山者はいなかった。また、完全一人だと大丈夫なのに周りがパーティーだと感じる場違い感を味わいながら、厳冬期セットに衣替えしていく。さすがに先週やったばかりなので、すんなり準備が整い、行きに買ったクリームパンを2個ほどつまむ。時間は5時半にもなっていなかったので、初めてヘルメットヘッデンスタートになる。数人のパーティーがアイゼンを装着していた小屋の左を通って登山道を進んでいった。 小屋から先も、すぐには危険地帯はない。黙々と登るだけだ。2400メートル辺りから、稜線に出て岩岩してくる。前回のラッセル組のお兄ちゃんが撤退中にすれ違った2450メートル辺りも過ぎる。問題の2550メートルが迫って来ていた。前回も登ること自体それほど問題ではなかったのだが、下りでミスすると多分止まらない。前回全集中で痺れながら、後ろ向きフロントポインティングをやったおかげで、多少対処できるようになっているはずだ。遂にその場所に到達した。「う~ん、多少やな感じやな」と、やはり前回より格段にトレースがはっきりしている。まあ、確かに下りるときは要注意だな。雪の下にロープが埋まっているのがうっすら見えた。 ここを乗り切り、また開けた場所に出た。今日は風はそこそこあるが視界は良好だ。視界が悪いと一気にネガティブな気持ちになるが今日はその心配は今のところなさそうだった。ここから、2614のピークを越えていくのも中々の距離がある。結構長い時間この2600メートルに停滞する。この停滞を抜けて、急でたっぷりと雪が付いた斜面を登っているとき、前方から男性と女性の二人のパーティーが下りてきた。男性の顔をよく見ると、多分先週2000メートル付近で励ましていただいたいい感じの山屋の方だ!ここから上部の状況を聞くと、「今日は全然大丈夫すよ。シシ頭の鎖もちゃんと出てるし」とすごいまたポジティブな気持ちにさせてくれる。「分岐直下のルンゼはどうですか?」と聞くと、「余裕ですよ、階段になってるから」「よっしゃー!」と小さくガッツポーズ。後ろにいた女性も「今日は行ける❗」とすごいテンションをあげてくれる。実際のところ、僕にとってはここから、あまりはイージーだらけではなかったが、とりあえず元気を貰えた。 また、しばらく行くと、2700~2800メートルの辺りで、見かけたスタイルの単独者が下りてきた。両手を上げ、「おー!まさか先週の❗」と言うと、向こうも「あー‼️」とお互い先週の撤退が悔しくて仕方がなかった口のようだ。既に山頂から下りてきているようなので、「何時に出たんですか?馬場島?」と聞くと、「12時です❗」。やられた、上には上がおるわ😅。「僕も1時半に出ました。でも、今日は前回とうってかわって、余裕ですよね!」と言うと、「ホント、全然違いますね☺。ここからも、まあ、危険なところ多いですが、トレースはしっかりあります」「そういえば、どこから来てるんですか?」と聞くと、「黒部市です」。羨ましい…。 ここから、彼が言っていたように、一ヵ所ちょっと緊張する下りが出てきた。フカフカの雪を膝下ぐらいのラッセル気味に急角度でおりていかないといけない。向こう側にいる人に、「ここであってるんですか⁉️」と聞くと、「あってますよ❗こっちまで来れば鎖ありますよ」と、言ってもらう。恐る恐るできているトレースのさらに山側の雪をアイゼンで踏み崩しながら下っていった。向こう岸にたどり着くと安堵のため息。「これ、トレースなかったら、こういう風に向こう側に渡るって絶対わからんな…」。そして、出てきた鎖を辿って行くと、「あ…、これが有名なシシ頭の鎖場か…」。鎖の先に、一本の鉄の足掛けがある。その足掛けの下は奈落の底まで落ちている。「ここは、みんな見かけより怖くないって言ってたよな」と、鉄の棒に両足で乗っかる。「うん⁉️これ、アカンバランスやな」。今にも落ちそうになる。鎖を掴みながら、一歩も動けない。「そんなにイージーちゃうやん…」。このままでは、本当に落ちてしまいそうだったので、一旦、鉄の棒から足を離し元に戻る。「う~ん、どうすんねん、これ…」。もう一度気を取り直し、両足ではなく、片足を鉄の棒に掛け、そのまま半身になって手を向こう側の鎖に伸ばし何とか乗り越えた。「早月尾根って、高所恐怖症の人には絶対無理だな…」。大キレットでも、ウマノセでもあんまり恐怖を感じなかったが、この尾根は恐怖を感じまくっている。 この、シシ頭の難所を越えると、いつの間にやら、問題の最後のルンゼにアタックしているようだった。確かに階段状にはなっているが、僕にはそれほど余裕ではなかった。しっかりとしたフロントポインティングを意識しながら登っていく。しかも結構長い。最後だと思って特に慎重に登っていく。最後に、岩にかけられた切れかけのロープを恐る恐る掴みながら、ルンゼを登りきった。すると、そこには白銀の絶景が広がっていた。その山並みを見つめ、込み上げてくる感情を抑えることができなかった。目頭が熱くなり、息が乱れた。この一瞬のために10何時間も登っているんだろうか。前に分岐の道標の柱を見ながらビクトリーロードを歩く。雪が少ないせいで、祠がその姿をしっかりと見せてくれている。前から山頂を後にしようとしている二人パーティーの一人が、「山頂独り占めですよ、楽しんでください!」と声をかけてくれた。祠の目の前に立った。「俺にもできた‼️」。誰もいない山頂で360度の大絶景を見つめる。こんなにピークに立ったときに気持ちが高ぶったことは今までなかったかもしれない。 じっくり楽しんだ後、「さぁー、そろそろ行くかな。これからがある意味本番だ」と、気持ちを引き締める。時間には余裕があったので、危険な下りは好きなだけ時間をかけるつもりだった。最後まで無傷で下りてこその登頂だ。 先週とは全く違った、晴れやかな気持ちで危険な下りを慎重に進んで行った。

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