冬季奥穂高岳・涸沢岳西尾根❄
槍ヶ岳・穂高岳・上高地
(長野, 岐阜, 富山)
2025.03.09(日)
2 DAYS
今季一番の目標だった、涸沢岳西尾根からの冬季奥穂高岳登頂。
中々ない二日間落ち着いた予報の三月上旬。
穂高はまだまだ冬、決行の時は来た。
日帰りで登る強者もいるが、0時出発とか出来ればしたくない。
てことで、テント泊での一泊二日で計画。
初日は難所が出てくる手前の樹林、2360m付近のテント適地まで樹林を登るだけなので、もう明るい6時20分ごろに新穂高からスタート。
最初は、約2時間の林道歩き。
荷物が重いが、トレースしっかり、踏み抜きもなく、問題なく白出沢に到着。
登山道に入ってしばらくしたトウヒの大木のところから、西尾根に取りつく。
西尾根に入ってからも予想以上にしっかりしたトレースがあり、雪も締まっていたので、少しでも荷物を軽くするため、取りつき付近でわかんとストックをデポ。
アイゼンも装着し、大分荷物が軽くなった。
そこまでの難所はないが、初日も十分急登が多く、デポ作戦は正解。
11時半には、テン泊予定地に到着した。
予定より早いが、樹林を抜けると難所続きなので、ここでステイ。
一張あったテントの住人は、アタック中らしく不在だった。
手分けをして整地、テント設営を済ませ、雪を溶かして二日分の必要な水を作ったら、さっそくカンパイ。
昼間から山で飲む酒、そして山ともさんが作ってくれたごま豆乳鍋は、美味い。
すっかりまったりしていた15時ごろ、次々下山者が降りてこられた。
皆さん、口々に雪面がクラストしてガチガチでヤバイと。
この日10名がアタックされたが、奥穂に届いたのは日帰り強者のお一人だけとのこと。
+して西穂からジャンダルムを越えてきたという猛者が一人いた。
それを聞き、登れるかなと少し不安になったが、無理そうなら撤退、安全第一で行こうと言いあって眠りについた。
二日目、出来れば雪が多少柔らかくなる時間まで待ちたいが、奥穂まで行くならゆっくり出来ず、4時半スタート。
いきなり急登だが、樹林はしっかりトレースがあり暗くても大丈夫。
樹林を抜けると、雪岩氷mixの雪壁の連続。
蒲田富士手前の細いロープは一部しか出ていなかったが、この辺りはアイゼン・ピッケルもしっかり刺さった。
一旦稜線に出た頃、少し明るくなってきた。
後ろを向けば笠に白山、向かう先には涸沢岳、その右手にはジャンダルム。
次々に浮かび上がってくる山々は、険しくも美しい。
雪庇地帯はトレースもあり、さほど緊張せず通過。
F沢のコルへクライムダウンも、程よく締まった雪で問題なし。
そして、いよいよ前半の難所、涸沢岳手前のそそり立つ急斜面。
ここは本来左の岩稜を登るかルンゼを登るかの2択だが、この日は昨日の下山者の情報通り岩稜はクリスタルのような氷壁になっていてとても登れず、ルンゼ一択。
この状況なら、雪崩の心配は少ないだろう。
風か夜多少雪が降ったせいか、ルンゼから先は、ほぼトレースは消えていた。
幸い近づいてみれば遠くから見たほど急ではなく、下の方は比較的固くなくて登りやすかった。
しかし、とにかく長い。
多少安定したところで、四つん這いで休みながら登っていく。
登るにつれ雪面は硬くなってきて、上の方はガチガチでアイゼンの前爪しか刺さらない。
パワー不足か、ピッケルが跳ね返され、刺さりやすそうなとこに何度か打ち込んでやっと刺さるとこも多い。
落ちたら一瞬で白出沢まで戻れるかもしれない。
アイゼンの前爪は大体入ったので、緊張しつつも比較的落ち着いていけたが、もう少し固かったらヤバかったと思う。
ルンゼを上がりきった時には、周囲はすっかり明るくなっていた。
それどころじゃなかったので日の出を見逃してしまい、北穂の右にはいつの間にか昇っていた太陽。
眼下に蒲田富士、後ろには乗鞍~白山、左には笠~黒部源流の山々。
槍から南岳、大キレット、北穂と続く白く険しい稜線。
右を見ると、馬の背~ロバ耳~ジャン。
はああ~、美しい!
しかし、稜線に上がってからも気は抜けない。
涸沢岳へは急なトラバースが続く。
ルンゼ上部よりはましだがここも硬い雪面で、前向いて歩くよりカニ歩き四輪トラバースの方が多い位。
幾つかの偽ピークを越え、涸沢岳に到着したのは出発から約3時間経過した7時半だった。
固い雪面には苦労したが、ノーラッセルだったこともあり十分奥穂を狙える時間。
北穂から槍へ続く稜線や、向かう先に聳える前穂や奥穂、ジャンダルム。
素晴らしい眺望を満喫した後、穂高岳山荘へ向かって降りていく。
涸沢から山荘までも固めの急斜面で、クライムダウンやカニ歩きトラバースが必要なところも。
涸沢岳から下り始めると、ヘリが飛んできて山荘の下の斜面近くをホバリングしていた。
そのモーター音を聞きながら、滑落があったのだと察した。
やはり、冬の穂高は甘い所ではない。
大部分が雪の下になっている穂高岳山荘まで降り、奥穂へ続く雪壁を見上げる。
今まで以上の険しい急斜面で、途中に二ヵ所あるハシゴの下の方は氷で覆われていた。
いよいよだというわくわくと緊張が入り混じった気持ちで、登り始める。
ハシゴの氷は、ピッケルで叩き割った。
岩稜帯を抜け右の雪壁に取りつくが、ここもクラストした固い斜面で、その斜度はルンゼを上回る。
今回一番の私的核心は、この山荘から稜線に上がるまでの区間。
相変わらず背後には素晴らしい景色が広がるが、ワンミスで終わり。
ピッケルが刺さらなくても焦らず、刺さるところに打ち込み直して確実に三点確保を心がける。
アイゼンの前爪は、ほぼ刺さったのでよかった。
必死に登って、一旦斜度が緩くなると右にジャンダルムに続く稜線が見えてくる。
再び急になった斜面を超え、二つのオブジェが見えた、、、山頂の祠と山座同定盤だ。
とうとう、冬の奥穂高岳山頂にたどり着いた。
山頂の祠は、凍り付いて巨大なスノーモンスターと化していた。
その姿を目にして、一拍おいて喜びが込み上げる。
いやった~、冬の奥穂に登頂出来た~!!
目の前に広がるのは、数年前には見ることを想像もしていなかった神々しいまでに美しい白き世界。
雪を纏ったジャンダルム。
その右には、白山〜笠〜抜戸〜黒五〜双六〜薬師〜剱立山〜槍〜後立山。
燕〜常念、奥には頸城三山や高妻山。
前穂に続く吊尾根、その先に明神。
八ヶ岳と南アルプス、富士山も見える。
中央ア〜霞沢〜御嶽〜乗鞍〜焼岳〜ジャンで一周。
これを絶景と言わずに、なんというのか。
本当に、泣きそうになるほどこの世界は美しい、そう思った。
ずっといたいが、帰りも長いので渋々下山開始。
登りでの難所は、下りはそれ以上の難所。
山荘へ下る雪壁を今回一緊張しながらも着実に下り、山荘に戻った時にはほっとした。
涸沢岳に登り返すと、そこまでで折り返したらしい人たちの姿が見えた。
この日はスタートからここまで何度も往復するレスキューヘリ以外は誰にも会わなかったが、この後はぽろぽろ他の人たちにお会いする。
皆さん涸沢までにされたようで、この日奥穂まで行ったのは私たちだけのようだった。
行きはそれなりに急だと思ったルンゼも、奥穂まで行った後だと傾斜は緩く感じ、雪も朝より柔らかくなっていて問題なく終了。
雪庇地帯では踏み抜きかけ跡を見て、結構トレースが危ない所を通っていたことに気が付いてひやりとする。
この後登られる方は、要注意。
13時前にはテン場に戻り、撤収して14時前に白出沢に向かい始めた。
荷物も重くなって疲れが出て、テン場からの下りはペースダウンし、休み休み。
デポしたわかんとストックを回収し白出沢まで戻り、これでもう遭難はないとほっとするが、帰りの林道歩きはいつも長く感じる。
それでも、なんとか明るいうちに新穂高まで無事帰還出来た。
今回爪先立状態が長かったので、今までにないふくらはぎの筋肉痛に翌日から三日ほど苦しみ、階段下りでは生まれたての小鹿状態でした、、、。
涸沢岳西尾根から冬季奥穂高岳へ。
三月でもまだ穂高の山々は雪と氷の世界で、クラストした固い雪面にピッケルが中々刺さらず苦労しました。
それでも、天気に恵まれ、落ち着いて難所を一つ一つ越え、冬の奥穂高岳にたどり着くことが出来ました。
雪を纏った穂高の山々、縦横に走るまっしろな稜線。
苦労を遥かに上回る、限りなく美しい世界が、そこには待っていました。
本当に、山って素晴らしい!改めてそう思った二日間。
この最高の山行を共にしてくれた、山ともさんに感謝です、ありがとう!