塔ノ岳・鍋割山(雨)
塔ノ岳・丹沢山・蛭ヶ岳
(神奈川, 山梨)
2025.10.04(土)
日帰り
山に行きたいが天気がよろしくない。しかし天気がよろしくないからといって山に行けないわけではない。原理的には可能である。
色々な山域を検討したが、結局フライング気味だが顔馴染みの丹沢、それも塔ノ岳を選んだ。これにはワケがある。
これだけ丹沢に通っているのに、塔ノ岳と鍋割山の間の縦走をしたことがないのである。鍋割山陵を歩き通したことがない。多くの場合、そのままバリエーションルートに入って箒杉沢に降りるとか、あるいは逆に上がってくるばかりである。全体を通して歩いたことがないのである。
そういうわけで、鍋割山陵を歩き通すのを目的に、今日は久々の塔ノ岳へ向かった。
休日の大倉へ向かう渋沢駅発のバスは大混雑......していると思ったらすんなり座れてしまった。天気の悪さから、登山者が今日は家に引き篭もることにしたのかもしれない。見慣れた風景が窓越しに飛んでいく。大倉に到着だ。
すぐに出発。思ったよりも気温が高い。上を半袖にしてきて正解だった。このところ涼しいので長袖を考えていたが、湿度のせいか全く寒さを感じない。
ぶあつい雲がかかっているせいで一層薄暗くなった植林帯を登っていく。なんだか雨の気配......。葉っぱの隙間から雨がこぼれ落ちてくる。予報では昼前くらいに雨が降るという話だったが、だいぶ早い。撤退が頭をよぎるも、通り雨かもしれない。通り雨に反応していたら山など登れない。下の方は紅葉など始まってもおらず、木が雨を防いでくれるので登山続行。
紅葉の気配でも感じられるとかと思ったが、流石に下の方は気配すらない。登山者も塔ノ岳にしては非常に少ない。
途中の岩っぽいところで変な形の花を見つけた。ホトトギスというらしい。気に入った。
木々の隙間から見えるはずの三ノ塔は雲の中にあり、塔ノ岳に登っても何も見えないのだろうなあ、というのが分かる。雨は降ったり止んだりを繰り返していて、金冷やしのあたりで本格的に強くなった。ザックカバーを取り付け、レインジャケットを着込む。少し暑いが、雨で冷えると戻らないので我慢することにした。
雨足は強く、山頂は明らかにガスの中だ。塔ノ岳の山頂まで行く必要はなかったが、せっかくなので、という理由で足を伸ばすと案の定、何も見えない白く霞んだ世界が広がっていた。いつもは大量にいる登山者が一人もいない。尊仏山荘もひっそりとしていた。新しくなったベンチや木製の段差などの足元が見えるだけで、他には何も見えない。
山頂は雨を遮るものがないので早々に撤退。今度こそ鍋割山陵に入って行く。
予想通り、ブナの木が生い茂る緩やかな稜線で心が癒された。雨が降っていても気にならない。むしろ人が少なく、すれ違いのストレスはないし、いいタイミングで訪問できたと感じた。この時期にしては涼しいのもいいところだ。
大きなブナが生える様子は丹沢三峰のあたりに似ている。ただし、あちらほど登り返しがエグくないので歩きやすさは鍋割山陵が圧倒的によい。
小丸北尾根に入る場所、マルガヤ尾根から出てくるところなど懐かしい場所を通り過ぎる。いや、攻略する順番がおかしいのだが......。
気づけば鍋割山の山頂に着いていた。たくさんの登山者が鍋焼きうどん(2000円!)を待っていた。いい匂いがするし、今日は登山者が少ないから食べられたかもしれないが、先に進もう。気づけば雨が止んで下界が見えるくらいにガスが上がっていたので、レインジャケットをしまう。目指すは寄である。
後沢乗越までの道は弁当沢ノ頭から抜け出し、日没後の真っ暗な状態でしか歩いたことがなかったので新鮮に感じた。概ね整備が行き届いていて歩きやすい。
そこから先が未踏ゾーンである。栗ノ木洞への登り返しはかなりキツく、弛んでいた身体が悲鳴をあげた。歩く人が多いのか少ないのか分からない踏み跡の量だ。
一度登ってしまうと緩やかに植林帯を進む。雨に濡れた下草でズボンをずぶ濡れにして櫟山に到着。ピークらしいピークはない。
いくつかの林道と交錯しながら緩やかに標高を落とし、道の上に蜘蛛の巣に頭を突っ込むなどのトラブルに見舞われながら寄の茶畑の上に出た。
茶畑が川まで続く、素晴らしい風景である。実に美しいのだが、寄はヒルの巣窟として知られている。足を止めるわけにはいかない。畑の横を抜け、コンクリートで舗装された道を半ば走るようにして、バスにギリギリ間に合った。
久々の丹沢、そして雨、結構なスピードで歩いた。結局ヒルは見かけないまま下山。新松田までバスに揺られ、電車に乗り込んで帰宅した。
山に行きたい、という一念で雨にも関わらず縦走してしまった。
わざわざ天気が悪い日に出かけることもないだろう、というのは一理あるが、雨の日は雨の日で人が少なく涼しい、予定外の雨が降ってきたときの訓練になる、という利点があることも分かった。ただし、景色は期待ができない。
今日のメインだった鍋割山陵は眺望が売りの稜線ではない。だから静かな稜線を歩き通すことができて、そして鈍った身体に活力が戻って、今は非常にいい気分である。