白馬岳主稜
白馬岳・小蓮華山
(長野, 富山)
2026年04月03日(金)〜04日(土)
2日間
2年前に当時所属していた山岳会の後輩と白馬岳主稜を登る計画を立てたのだが、天候が良くなさそうということで、そのときは爺ヶ岳南尾根に転身したまま、白馬は宿題となっていた。(https://yamap.com/activities/23617526)
午年ということもあり、行くならば今年しかあるまいということで、相棒ちゃん含め爺ヶ岳のときと同じメンバー4人でリベンジとなった。が、アルパイン入門ルートという謳い文句はどこへやら、の過酷な登山となったのだった。
〜以下、長い記録〜
初日、猿倉までのゲートはまだ閉まっているので、二股から5.6キロは徒歩。7時前に二股を出発。盛岡からの移動の疲れもあってだるかった。そもそもこの冬は、ほぼ山に入っておらず、アイスと開拓とクライミングと、あと何をしていたのか…。完全に体が鈍っていた。重い荷物も久しぶりで、テント泊の装備がやけに重い。
とはいえ、猿倉までほぼロードで歩きやすかった。猿倉からもショートカットのミスはあったものの、ほぼ道なりで昼頃には白馬尻に着いた。この日は暑いくらいの天気で素晴らしい景色だった。テン場を整地し、風除けを作り、雪でテーブル、イス、トイレまで作っても、まだ時間を持て余した。昼を食べて、きつつきはテントで睡眠。翌日は夜中に出るため今夜は早めの就寝ということになっていたから、昼寝はしたくなかったが、眠さには勝てない。他のメンバー女子3人は外でおしゃべりをしていたらしい。
起きてもまだ4時過ぎくらい。それでも後輩が夕餉のキムチ鍋のしたくを少しずつしてくれていて、外で乾杯をして食した。流石に冷えてきたところで、テントに入って翌日のお湯を作り、7時過ぎくらいに就寝。昼寝をしたから寝られるか心配だったが、無用の心配だった。速攻で眠りに落ちたらしい。
2日目、深夜1時半頃に起床。眠い。4人用テントは快適だったが、眠り下手の相棒ちゃんはけっこう苦労したらしい。もぞもぞとみんな動き出し、お湯を沸かして朝食のアルファ米とスープを食べる。3時過ぎに出発。そんなに寒くない。この日は荒天の雨予報だったが、午前中は持ちそうなので、なんとか午前中に山頂まで抜けてしまいたいが、この日も身体は重い。昨日のアプローチよりは軽量化してるとはいえ、明らかに運動不足。後輩にロープまで持ってもらう始末で、こんなところに来ちゃ行けないんじゃないかと思う。
それでもなんとか主稜取り付きの急な斜面を1時間程度で登りきり、稜線を歩きはじめる。背後の山が赤く染まり始めていた。主稜は思ったよりくねっており、意外と先がわかりにくい。下部の八峰から五峰あたりまではところどころ薮が出ていて、それらをこなしているときは良いのだが、単純なリッジ歩きや、雪壁の登攀のときに眠気が襲ってくる。そして、なぜかずっと怖い。もちろん、ナイフリッジなんかは以前から怖かったが、いつもとは違う変なストレスを感じていた。体力的な不安から来るものなのか、そのために歩きが安定しないからなのか、平坦な場所に出ても怖いのだ。これには困った。
完全に日が昇ると、天気予報が嘘のように日がさして青空が見えた。が、それはほんのつかの間のことで、しばらくして小雪がちらついてきた。急ぎたいが、雪面が安定せず、地味に沈む雪のせいでペースがあがらなかった。相棒ちゃんからトップを変わるよって言ってもらい交代。しんがりにまわる。前の3人が軽すぎなのか、最後尾なのになおも沈む雪に悪態をつく。そして、相変わらず眠く、油断するとうとうとしてしまう。そうこうしているうちに天候は悪化していく。みぞれ状の雪が強くなり、風も強くなってきた。ナイフリッジではいよいよ怖い。先も見通せない。それでも進むほかなく、相棒ちゃんが着実に進んでくれた。間の若手2人は昨年ヒマラヤに遠征に行った強者なので、さすがに強く安定していた。遅れてるのは、きつつきだけだった。
いよいよ横殴りの雪になり、ばちばちとみぞれが痛いくらいに打ちつけてくる頃、目の前に岩壁が現れた。あとから考えれば、ここが二峰だったが、うっすらとしか見えない壁に、これどこから抜けるんだと戸惑った。
風除けにもならない程度の岩蔭に入り、ロープを出し、抜け口を探す。左を探りに行ったが、シュルンドが深く、壁にうまく取り付けない。もっと左は下が見えないくらい切れ落ちた雪壁に見えた。たぶん実際はそんなことはなかったのかもしれないが、ホワイトアウトになりかけていて、先が見えなかった。今度は、右を探りにいく。雪が草つきからハイマツにつながっている。にしても、すごい立っていた。でもここなら支点が取れるかともしれないと取り付く。少しずつ雪を掘り起こして、なかの灌木に支点を取っていく。枝がなくなり、凍ったハイマツ帯になると、アックスが効かなくなり、支点も取りにくくなる。先が見えず、これこのまま行って大丈夫なのかという不安が過ぎる。その間、左手から強烈な風が吹きつけ、なかなか上を向けない。それでも上がるが、急にばちばちと顔を打ちつけられたかと思ったら、目が見えなくなった。なんだ?これ…目が見えない。目が凍ったのか? それでも風は容赦ない。バラクラバはすでに凍ってかたくなっていた。サングラスは雪が入り込み見えなくなるので、昇る前に外してしまっていた。このまま登るのはまずいと思って、手探りでクライムダウンをすることにした。支点にしたスリングを手探りでつかみクライムダウン。なんとかスリングも回収しながら少しずつ降りると、風に耐えてビレイをしてくれていた相棒ちゃんが薄っすら見えて、やばい目が死んだと伝える。後で聞いたら、目の周りに氷の塊ができていたとのこと。これはもう撤退じゃないかと伝える。みぞれ状の雪が首元から入り込んでるのか、アンダーは濡れていて、このまま停滞はやばい。雪崩は怖いがルンゼを降りれば大雪渓にぶつかるはずと案を出す。しかし、あとから考えたら、この判断は冷静じゃなかった。遭難という言葉が頭をよぎる。体力のある若手2人はまだ元気そうだったが、登攀に関しては自分か相棒ちゃんがここを抜けなければ現状は打開できない。
今度は相棒ちゃんが、最初きつつきがシュルンドが深くて取り付けなかった岩壁に取り付くという。きつつきはとにかく眼の回復に努める。眼の方は、徐々に回復してきたが、寒さと眠気でふらふらする。どのくらい時間が経ったかわからないが、どうやら相棒ちゃんは登ってるらしい。ビレイをしてくれている後輩に、ロープの反応を聞く。わからない。上からも何も反応がない。笛を吹くが、応答がない。かなり時間がたってから、わずかにロープが張られた感じしたと後輩が言う。よし、登ろう! このまま待っているわけにもいかない。フィックスされていると信じて登り始める。きつつきも最後に登り始めたが、ここがとんでもなく悪かった。こんなところをリードで行ったのかよと信じられないくらいで、おまけに最後の支点はほっそい枝…、そこからのかなり立った雪壁のランナウトはフィックスで登っていても怖かった。上に行くと寒さと不安で泣きそうな相棒ちゃん、どうやらかなり前に登りきったらしいが、呼べと叫べど登ってこないので、相当不安だったとのこと。自分を置いて撤退の協議をしているのではないかという疑念まで首をもたげたという。この風では無理もないが、今後は無線くらい用意すべきなのか…(次があるならの話だが)。
とにかく、相棒ちゃんには悪いことをした。しかし、この魂の登攀を見せられては、もう抜けるしかない。俄然、力がみなぎってきた。あとはもうきつつきがひたすらロープを伸ばし続けた。なんとか、最後の雪庇が見えたところで、よしラストだと登ったら、それがニセ雪庇で先にまだ巨大な壁があっても、へこたれず、最後の文字通りの胸突き八丁の雪壁を登り切り、頂上稜線へ。
稜線はときどき爆風が吹きつけ、まともに立ってられない。それでもすぐに支点を作り、3人にあがってもらった。無事4人で突破したときの安堵感と言ったらなかった。風雪のなかで記念撮影を簡単に済ませ、そうそうに登山道を下山。とにかく標高を下げたかった。大雪渓の雪崩は心配だったが、割合安定していた。ようやく生きた心地がした。
16:30頃に白馬尻に着。ここでもう一泊の予定だったが、先に降りていた若手2人によると、なんとこの日の食料が何者かによって食い荒らされていたとのこと。2人はカラスじゃないかと…。下山途中から相棒ちゃんと今日はこのまま二股まで降りて、この濡れた服をどうにかしたいよね、と話していたので、むしろ覚悟は決まった。あと2時間くらい歩けば、乾いた服と、暖かい風呂にありつけるのだからと、せっせと片付けて下山。テント場には翌日、主稜を狙っている人たちのテントが溢れていた。さぞかし好天に恵まれたのだろうな。
というわけで、本気でやばかった今回の白馬岳主稜、とにかく無事で良かったが、色々ぎりぎりだった。それでも4人で力を合わせて突破できたのだから、みんなよくやったと思う。MVPは間違いなく相棒ちゃんだろうな。強風のホワイトアウトのなかでの、あの核心部は紙一重の登攀だったのではないか。若手2人も、余裕のないきつつきにときどき美味しい餌を与えてくれて、ここぞのところで力をくれた。2人の精神力も見事だったと思う。はー、それにしても疲れた。