白馬岳主稜+旭岳
白馬岳・小蓮華山
(長野, 富山)
2026年03月28日(土)〜29日(日)
2日間
この冬の挑戦として五竜岳、火打山に続き、憧れの白馬岳主稜に挑みます。
【計画について】
自分がこれまで経験した雪山の中では最も過酷だろうし、条件が噛み合わないとまず登れないことが予想されます。
ヤマレコでは活動分類をアルパインクライミングとしている記録も少なくないし、装備も気になります。
登山用品店でピッケルについて尋ねてみると、クライミング用のアイスアックスではなく一般登山用のピッケルでよくて、しかも1本でも行けるという話です。
さすがに1本で登れる自信はありませんが、普段使っている縦走用で臨んでみることにします。
そして道の状況でいえば、気温上昇で雪が緩んだら無理な気がします。
途中で引き返すのも地獄なのが目に見えているし、雪が硬く締っていることが絶対条件です。
視界が欲しいものの、明るくなってからの歩き出しでは遅いです。
さらに、最近の記録を見ると白馬尻から山頂までは6時間台で到達している人が多いようですが、これはあくまで主稜に挑むような人たちの話です。
自分の足なら8時間くらいはかかると見込んでおいた方がよさそうです。
こうして白馬尻を遅くとも深夜2時までには出発する計画としました。
【実際の行程について】
<1日目>
夕方までに白馬尻でテントを張れればよいので1日目は余裕があります。
白馬からタクシーまたは松本や長野から運転でもよいのですが、調べたところ白馬駅から二股ゲートまでは5km弱なので徒歩で行けそうです。
早朝に松本駅を出発して白馬駅へ向かい、買い出しと腹ごしらえをしてから二股ゲートを目指します。
この辺りには何度か来ているものの、八方周辺と白馬駅の位置関係はわかっていなかったし、これはこれで新鮮です。
二股ゲートに着いてみると、既に30台弱の車があります。
全員が全員主稜を目指すわけではないにしても、それなりの人数はいるだろうし、もし急斜面で渋滞に嵌ったら怖いなと心配になります。
すれ違う人に尋ねてみると、白馬岳ではなく小日向山という方もいるようです。
スキーで降りてくる人も見られたし、さすがに板を担いで主稜を登る人はそんなにいない気がします。
重い荷物で時間がかかり、白馬尻に着いたのは15時前です。
ちょうど幕営後のスペースが空いていたので、そこを借りることにします。
夜にちょっと雪なのか霰なのか降ったようで、少しだけテントの外が白くなっていました。
<2日目>
熟睡とはいえないまでも、わりと寝られた方です。
起きる時間になっても眠く、朝食にして準備を整え、出発できたのは2時頃です。
雪道だし月明かりで明るいのかと思いきや、雲が多くしっかり暗いです。
トレースはしっかり残っていて、基本はこれに従って進んで行きます。
小ピークへの急峻な登りではトラバースするトレースもあり、直登すべきか判断がわかれます。
序盤に近い標高1800mくらいで直登を中断してトラバースに切り替えたのですが、このときシュルンド近くを通ってしまい、ここで精神を削られました。
戻るならしっかり分岐まで戻るべきだったと思います。
続く小ピークでは直登を選択し、灌木を使って登り切りましたが、こちらもそれなりに緊張しました。
以降は分岐も無く、トレースを追っていくだけです。
雪が緩んでしまうのを恐れて早めの出発としたわけですが、見通しが効きにくいのも精神衛生上よくはなく、早く明るくなってくれることを祈る自分もいました。
標高2300mくらいで明るくなり始めました。
見上げると山頂は雲が薄い一方で、杓子岳方面は雲がかかっています。
信州の市街地方面は層雲で、上空だけが青空です。
アプリを確認してみると、ここまでで標高500m/2時間くらいのペースです。
無理のない速さで進んできましたが、想定よりは順調に進めているようです。
(それでも案の定、4名の方に追い抜かされました。)
ほとんどの区間は痩せ尾根か急斜面、もしくはトラバースですが、先を行く皆さんのトレースのおかげで進路ははっきりしています。
細かい部分を切り取れば、だいたい別の山で1回は経験したことのあるような道が多いです。
そしていよいよ核心部、60度以上ともいわれる雪壁の下に辿り着きます。
下から見上げると確かに垂直ではないし、落ち着いて挑めば問題無さそうに思えます。
ところが、いざ登り始めてみるとなかなか手強いです。
聞いていた通り確かに雪は硬く締ってはいません。氷に近く刺さらない箇所もあれば、緩んでしまって心許ないザラメもあります。
そして斜度も見た目以上のように感じます。ゆっくり確実に進むしかありません。
ここを登っていくと雪庇を前にして上へ突き進むトレースと、これを避けるように右側(小蓮華山側)に進んで行くトレースがありました。
ここに来てどちらへ進むか迷いました。
下から見た様子だと難易度が低そうなのは右側で、より安全に登るならこちらがよさそうです。
一方で、白馬岳主稜の雪庇越えとはどんなものなのか、これを経験せずに登頂したとして後悔は無いかと自問する自分もいました。(進むにしても自分で切り開いた道ではないのですが。)
選択したのは正面の雪庇を目指すルートです。
実は本当の核心部はここからでした。
チムニーと表現してよいのか、雪庇をくり抜いたようなところを這い上がるのですが、斜度は更に増しているようです。
そしてそのまま山頂へ到達するのではなく、今度は左側へ水平にトラバースです。
道は細く、靴は片足しか置けません。片方は崖、片方は壁です。
カニのヨコバイに近い構図で前爪とピックを指しながら移動すると、トレースは上方向に上がって行きます。
ここの斜度が最も強く、先ほどの60度以上といわれる斜面の比ではなく、文字通りの壁のようです。
ピックと前爪がずり落ちたりしたら終わりですが、もう信じるしかありません。
(この文章を書いている今でさえ、手に脂汗が滲み出ます。)
幸いこの区間は短く、程なくして山頂へ這い上がります。
すぐ近くに方位盤と標柱が見え、無事に山頂に到達できたことを実感しました。
達成感というより恐怖からの開放感の方が強く、いつになく感慨深い登頂です。
目標達成というより、ちゃんと生きている喜びと言った方が正しいでしょう。
<登頂後>
登頂後、よく見る主稜の構図を撮りに行ってみると斜度は確かに60度くらいです。
そして角度のせいか、自分が登った地点はおそらく見えません。
これまで見た目は激しいけれども登ってみたら案外あっさり進めてしまったという経験は何度かありますが、今回は真逆です。
想定よりも早い時間に登頂できたので、ついでに旭岳にも行ってみます。
黒部側の斜面は穏やかなように見えます。非対称山稜ということを今回ほど強く感じることもありません。
無事に旭岳に行って帰ってきて、大雪渓を下ります。
雪は緩んで歩きにくいものの、主稜と比べてしまえば斜度も低いです。
雪崩跡や実際に発生している最中の小規模雪崩はあるものの、クラックも無いしほとんど危険は無いように見えてしまいます。完全に感覚が麻痺しています。
順調に白馬尻に着いてテントを畳み、あとは白馬駅まで歩いて帰るだけです。
全ての荷物を背負うとやはり重く、長い道のりがきついです。
主稜登頂は間違いなく忘れられない体験に違いないのですが、舗装路を歩く頃にはいつもの山旅と同じ帰り道になっていました。
【感想】
自分の雪山登山の集大成です。
これまでの経験をフル動員して、かつ天候や雪の状態、運などに恵まれてようやく登頂することができました。
少しでも歯車が狂っていたら無理だったと思います。
特に最後の雪庇越えは痺れるとかいう余裕もありませんでした。
これまで体調や天候、装備、ルートミスなど明らかな自分の失敗で苦しんだことはありましたが、順当にここまで危険を感じたのは初めてです。
(立山近くの奥大日岳→大日岳も大変でしたが、ここまでではありませんでした。)
これまでにない達成感なのは間違いないのですが、同時にここまで身を危険にさらしてまで挑むことなのかとも思ってしまいました。
トレースが無い中で道を切り開いた先行者の皆さんには、感謝と尊敬の念でいっぱいです。
自分の山登りでこれを越えるレベルはちょっと今のところ考えられません。
【メモ】
・ピッケル1本で行ける気がしない。
・ピッケル1本でも登れる人にこそ挑戦が許されるルートということなら、自分はその水準には達していない。
・最後の登り近くで前爪やピックの刺さりにくさは感じたが、幸いずり落ちることは無かった。
・縦走用のピッケルだったので場所によってはシャフトを刺すことができ、安心感には繋がった。
・雪の状態を考えると、早い時間に出発できたのは正解だった。
・道の状態を振り返ると好条件に恵まれたのだと思う。先行される皆さんのトレースのおかげもあってラッセルは無く、ルートファインディングもほぼ無かった。
※YAMAP上の表示では白馬岳登頂時刻が7:22となっていますが、実際に山頂に這い上がったのは8:05頃です。