霧と雨が紡ぐ、神秘の五家荘縦走記 — 烏帽子岳・五勇山・国見岳・小国見岳・白鳥山へ
国見岳・烏帽子岳
(宮崎, 熊本)
2025.07.12(土)
2 DAYS
熊本県と宮崎県の県境、九州山地の奥深くにある秘境・五家荘。平家落人伝説が今も息づくこの地は、深い山々に守られるようにして佇み、訪れる者に古の日本の姿を垣間見せてくれます。今回はその五家荘の核心部、烏帽子岳・五勇山・国見岳・小国見岳・白鳥山を、1泊2日で縦走してきました。
天気は、終始雨。そして霧、風。
視界には恵まれず、五つの山の頂から見えるはずの絶景には、一度として出会うことができませんでした。けれど、それでもなお、霧の帳の中に浮かび上がる森の影や静けさには、言葉にできない美しさと力が宿っていました。
【1日目:峰越から四峰を巡る】
雨に濡れた舗装路を車で走り抜け、「峰越(新椎葉越)駐車場」に到着。そこから先は崩壊のため通行止めとなっており、まさに“山の懐”へと足を踏み入れる覚悟を決める場所です。
「日本山岳遺産」に認定されたこの地域は、五木村・椎葉村の文化や自然の保全に尽力してきた証。登山口には「九州中央山地国定公園」の看板があり、この地の自然が国に認められた価値を持つことを物語っています。
■ 烏帽子岳:霧に包まれた静寂の頂
登山口から烏帽子岳を目指して歩みを進めると、雨の音が苔むした大地にやさしく吸い込まれていきます。地籍調査の旗がはためく道を過ぎ、ふと見上げれば、まるでゴールデンレトリバーの横顔に見える不思議な木に出会いました。自然がつくる“幻視”に、雨の疲れが和らぎます。
やがて岩場や木のトンネルを抜け、低い枝をくぐりながら進んでいくと、一匹のカタツムリが小さな茎を食べていました。こうした些細な出会いが、過酷な道中の中で心をほっとさせてくれるのです。
途中、鹿と目が合い、互いに静かに時間を分かち合ったのち、ついに烏帽子岳の山頂へ。…しかし、ここでも視界は真っ白。幻想の世界にたたずむような、静寂の頂でした。
■ 五勇山:名もなき展望岩とシャクナゲのトンネル
次に目指すのは五勇山。途中、風雨と霧が顔を打ちつける展望岩へ立ち寄りましたが、もちろん景色は白の中。それでも、ねじれた木々や、密集するシャクナゲのトンネルに出会い、まるで植物の迷宮を歩いているかのようでした。
シャクナゲが咲く季節には、ここはきっと“花の回廊”になることでしょう。
その幻想を想像しながら、分岐を越えて五勇山の山頂へ。ここでもまた、視界ゼロ。
けれど、見えない景色の代わりに、森の呼吸が聞こえてきます。
■ 国見岳・小国見岳:倒木を越えて、鹿に見送られ
五勇山からは国見岳へ。倒木の多い登山道は、体力と注意力を削ります。ふとした拍子にクワガタのメスを見つけたとき、なんだか子どもの頃の冒険心が蘇るような気がしました。
道幅30cmの細道、花畑を抜け、ようやく国見岳山頂に到着。雨風に打たれながらも、心は静か。次なる小国見岳では、再び鹿がそっと見送ってくれました。
…しかし、分岐を見失い、誤って烏帽子岳方面へ戻ってしまうというハプニングも。
YAMAPの地図がなければ、遭難の危険さえあったと背筋が冷えました。
【2日目:白鳥山へ、そして下山】
翌朝も、昨日と同じく霧と雨が迎えてくれます。
白鳥山へ向かう登山道では、四角い岩の上に生える木に出会いました。
根はどこに?岩の奥深くに命をつなぐ姿は、自然のたくましさそのものです。途中、古びた住居跡が現れ、かつてこの山域で暮らした人々の痕跡に胸が熱くなります。
そして、ついに白鳥山の山頂へ。
雨は変わらず降り続け、スマートフォンのカメラには雨の激しさが写りませんでした。
それでも、確かに自分の足で、五つの山を繋ぎ歩いた証が胸に刻まれています。
■ 霧の中の静かな達成感
「絶景」や「晴天」には出会えなかった登山。
しかし、木々のざわめきや動物との出会い、岩と雨が作り出す幻想的な世界は、どれも五家荘という山域の奥深さを物語っていました。
雨の日だからこそ味わえた、森の密やかな息づかい。
景色が見えなくても、確かに山の「声」を感じることができた縦走でした。
登山メモ:五家荘縦走(1泊2日)
登頂順:烏帽子岳 → 五勇山 → 国見岳→ 小国見岳 → 白鳥山
天候:終始 雨・風・霧
注意点:道標は見落としやすい、YAMAP等のGPS地図必携
季節:春~初夏はシャクナゲが美しい
心の準備:絶景は見えなくとも、自然の息吹は常にあることを忘れずに