06:19
6.1 km
1048 m
山岳遭難(五竜岳)
鹿島槍ヶ岳・五竜岳(五龍岳)・唐松岳 (長野, 富山)
2023.12.30(土) 日帰り
2023-2024 年末年始に五竜岳を目指した際、低体温症になりヘリで救助されました。また、五竜山荘を破り、一時的に避難させて頂きました。 失われたはずの命、せっかく救っていただいたので、少しでも世の為になるように全て公開する事に決めました。 皆様の安全登山に少しでも貢献できれば幸いです。 この度は、関係者の方々に大変ご迷惑をおかけしました。誠に申し訳ございませんでした。そしてありがとうございました。 ----------------------------------------------- 12/30〜1/2の計画で五竜岳を目指しました。 登山計画と予報天気は以下の通りです。 12/30 晴れ 五竜山荘横でイグルー泊 12/31 雪のち吹雪 停滞 1/1 吹雪のち晴れ 午後に五竜岳アタック 1/2 晴れ 下山 悪天候予報にも関わらず稜線上で泊まる事を選んだ理由は、経験値を積みたかったからです。 今年の2月から南アルプス南北縦走を予定していたため、稜線上で複数日停滞経験しておきたかったので、今回の登山計画に至りました。 30日は快晴で、予定通り五竜山荘に到着しました。 イグルー泊を予定していたため、山荘から五竜岳方面に10mほど進んだ東側斜面(雪が多い吹き溜まり)を幕営地にしました。 しかし、雪質がイグルーに適していないと判断し(屋根に使える締まった雪の層が見つけられなかった)、穴を掘って壁を作りツェルト泊に切り替えました。 30日は何事もなく過ごしたのですが、31日の昼頃から雪が強まり、ツェルトが左右から雪で潰されて除雪をせざるを得なくなりました。 除雪した時間はおおよそ以下の通りです。 930-1030 1600-1630 1900-1930 2100-2130 2300-030 23時からの除雪では、雪の勢いが増し、除雪のスピードと雪が積もるスピードが同じになりました。このままでは危険と判断し、近くに雪洞を掘り避難しました。 【持ち物: シュラフ、シュラフカバー、テントマット、テントシューズ、スコップ、水筒、ウイダーみたいなゼリー、モバイルバッテリー、スマホ】 簡易的な雪洞でしたが、何とか横になる事ができました。ただし、このまま寝れば雪に埋まって死んでしまうのでは…という恐怖から、YouTubeなどをみながら何とか起きていました。 翌1日7時頃、雨雲レーダーをみてもう雪が落ち着いたと思い、雪に埋まった雪洞から何とか外に脱出しました。 しかし外は大荒れで、20m/s(立っていられない)ほどの強風と雪でした。外の雪を雪洞内に掻き込む感じで脱出したので、今までいた雪洞に戻ることはできませんでした。もう一度雪洞を掘り直す気力もなかったため、スコップと寝具類、水筒、スマホだけを持って、小屋横に簡易雪洞を掘って天候が落ち着くまでやり過ごそうとしました。この雪洞は座れる程度のサイズでした。 【持ち物: 濡れたシュラフ、シュラフカバー、テントマット、テントシューズ、スコップ、水筒、スマホ】 しかし、前日からの除雪などで衣服が濡れており、震えや感覚麻痺の症状が出てきてこのままでは危険と判断し、1日午前8時半に119番通報しました。 悪天候のため今日中に救助できないかもしれないので、埋まったツェルトを掘り出して自力下山するように勧められました。水筒に残っていたお湯を飲んで気持ちを高めて何度か掘り出しに向かいましたが、一日の積雪が50cm(吹き溜まりでは1m)を超えていたため、ツェルトや雪洞の跡形もなく、発見できませんでした。 さらに、震えが無くなり意識が遠のいたり身体がうまく動かせない感覚があったため、このまま死ぬのかな…とぼんやり考えてました。ここで最後の望みをかけて、小屋破りするしかないと判断しました。 偶然、養生が取れている部分があったため、そこをきっかけに窓を割り、小屋内に入る事ができました。 少しだけ生きる力が湧いてきたので、何とかストーブを付けて暖まり、越冬の水とカップ麺をいただき暖を取りました。 一日小屋内で過ごさせてもらって、翌日に小屋を掃除したのち、ツェルトを掘り出して自力下山しようと思っていましたが、急遽ヘリが飛ぶ事となり慌てて準備をしてヘリで下山しました。 ヘリで下山後は大町市の病院に搬送され、低体温症の症状が残ってはいましたが(体温34℃)、小屋で暖まらせて頂いていたおかげで、次第に症状は回復し経過観察で1晩入院するだけですみました。 以上が今回の経緯です。 『いた場所、時間』 〜31日23時 ツェルト 23時〜1日7時 雪洞 7時〜14時 小屋横の簡易雪洞 14時〜15時半 五竜山荘 15時半頃 ヘリ搬送 『反省点』 ・登山計画 稜線上の停滞経験をするには、何かあった場合に避難できる冬季小屋がある場所で行うべきだった。 今回の場合は、五竜山荘まで上がらずに大遠見か西遠見で停滞するか、1日に入山して遠見尾根上で幕営し2日にアタックするのが適切だった。 ・幕営場所 イグルーを作るつもりで雪の多い吹き溜まりを選んだが、ツェルト泊にするなら小屋横の風を防げる場所に変えるべきだった。 今回のような諸吹き溜まりではイグルーを作ったとしてもかなり埋没すると思うので、場所を考えないといけない。 ・持ち物 ツェルトから雪洞に避難した時、食料やダウンなど持っていけるものは持っていくべきだった。 雪洞から小屋横の簡易雪洞に避難した時にモバイルバッテリーを置いていってしまった。今回、最終的にスマホの充電が切れてしまったので、スマホを持っている限りはモバイルバッテリーは手放してはいけない。 ・想像力が欠けていた 吹き溜まりにツェルトを張れば雪に押し潰されることぐらい容易に想像できた。 さらに、雪かきしている時、雪洞に逃げ込んだ時、その時が最悪の事態だと思っていて、それ以上の最悪の事態が想定できていなかった。結果として、対策できたこともできなくなって事態の悪化を招いた。 『良かった点』 ・救助を呼んだタイミング 賛否両論あると思うが、今回はギリギリ余力を残した状態で救助要請した。外部の人からの的確な指示があったおかげで、何とか冷静に状況を把握できていた気がする。励ましの言葉は、「何としてでも帰らなきゃ」と思わせてくれた。多方面に迷惑はかけたが、消防や警察が何とかヘリを飛ばせないか調整していただいたおかげで、その日中に下山して難を逃れられた。 もしも、動けなくなってからの救助要請だと取り返しがつかなかったかもしれないので、結果論になるが、今回のタイミングは良かったと思う。 ・シュラフを極力濡らさなかったこと 雪かきした後はハードシェルを端で脱いだり、シュラフカバーで完全に防御したりして、シュラフを濡らさないようにした。雪洞から出る時に雪が入って濡れてしまったが、それまでは保温性能が保たれており体力の温存に繋がったと思う。逆に、簡易雪洞ではシュラフが濡れてしまっていたので、シュラフの性能が発揮できていなかった。 ・運 ヘリが飛んだこと、小屋の養生が偶然外れていたことなど、度重なる偶然がなければ恐らく死んでいた。 最後に 事故から5日経ちましたが、今だに夜はあまり眠れません。また、思い出しただけでも恐怖が蘇り、耐え難い気持ちになります。このようなことは皆さんには決して経験して欲しくないので、拙い文章ではありましたが、何か少しでも活かしてもらえれば幸いです。 厚かましいお願いにはなりますが、「雪山は怖いから行かない」「雪山は危ないから行くな」とはならないでください。確かに雪山は怖いし危ないですが、それ以上に美しく、人生を豊かにしてくれる存在だと思っています。知識があれば誰でも雪山に挑戦できる資格があるので、山岳会やガイドさん、ベテラン登山者から学び、自らブラッシュアップして雪山登山を楽しんでいただきたいです。 長い文章ではございましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。これから雪山はハイシーズンに入りますので、どうかご安全に楽しんでください。 【お願い】 五竜山荘に行く方、少しだけお願いしたいことがあるので、もしよければメッセージください。