塩見岳・残雪期

2024.05.03(金) 日帰り

チェックポイント

DAY 1
合計時間
12 時間 52
休憩時間
1 時間 11
距離
24.5 km
のぼり / くだり
2317 / 2321 m
29
2 11
6
42
1 31
46
31
1 16
38
4
1 36
28

活動詳細

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手が届きそうで届かない遠い存在だった、塩見岳 残雪期の長大な歩みは想像以上に過酷であったが、念願叶い登頂を成し遂げることができた その労もいまとなっては輝かしい記憶となり、どこまでも続く美しい尾根や南ア南部の名峰を眺めまだまだこの山域の魅力は尽きないことを実感した 南アの『へそ』とも形容される塩見岳、山頂はまさに楽園と呼ぶにふさわしい場所 そんなイメージを抱きながら過ごしたひとときと歩みは決して忘れないだろう 今年のGWはどうも運気が芳しくない…。 身辺の出来事で山歩きへなかなか向かえる状況を迎えることができず、ジレンマを感じていた。 飲み歩いて酔っぱらいお気に入りのノースフェイス・キャップを帰り道に紛失、翌日はおまけにひどい二日酔い、家族からは大ブーイング。 ようやく身辺を落ち着かせ天候のバランスも噛み合い、山行計画をギリギリまで悩み自戒の意を込めて厳しい塩見岳に絞り込んだ。 白峰南嶺周回と笊ヶ岳も塩見岳以上にハードなルート、今後また機会を伺おう。 塩見岳の登山口である鳥倉まで自宅からは片道およそ260km、山行前日は昼から移動時間に充てる。 途中、長野県富士見町の蔦木宿で温泉に入る際に翌日のアンダーウェアを着替に準備していると、登山に必要なウェア類を一式収納しておいた袋をザックに入れ忘れたことに気がつき大混乱。 このままでは登山自体できないかも?と不安にかき立てられるが、余分に分散して持参したウェア類で何とかなりそうな目処をつける、やはりまだ運気が芳しくない印象が拭えない。 登山口最寄りの鳥倉Pに到着したのはしたのは21:30過ぎ、EV充電も数回行ったこともあり自宅から実に10時間を要した。 Pはそれほど埋まっておらず、残雪期はオンシーズンほど殺到しないのだなと実感した。 明朝はAM3:00 起床、4:00山行開始のため、酒は飲まずにすぐ睡眠へ、涼しいのでダウンを着てシュラフにくるまる。 朝寝坊せずに済んだ、朝食と山行の準備を黙々と進める。 事前に、こっとんさんのレポを参考にさせていただき林道やルート展開、コンディションを把握することができたのは非常に大きかった、ありがたい。 ロングルートにつき荷物は軽量化を図るため、バーナーや調理道具、食材は積まずにパンとコーヒー、行動食で凌ぐことにした。 軽アイゼンと10本爪アイゼンの両方装備、ピッケルは持参せずストック1本とした。 まだ暗いなか山行開始、ヘッデンの電池が消耗していたためか灯りが弱い、まだ運気が…。 鳥倉登山口までは無心で進む、1年半前の晩秋に歩んだ記憶が甦る、実に綺麗な紅葉だったなぁ。 登山口に着く頃にはもう辺りは明るくなり新緑の世界が拡がっていた、天候も申し分なさそうだ。 この日はPから先は電波が通じず、登山届をYAMAPで提出し忘れ、反省材料だ。 まずは日本でいちばん標高の高い峠と呼ばれる三伏峠を目指す、ルートには10段階の進度を示す標識が設置されている。 樹林帯をしばらく進む、深い新緑のフィーリングが実に心地いい、この感覚を待ち望んでいた。 さらに進んでいくと樹々の合間から視界が開け雲海越しに周囲の山々を望むことができた、南アが醸し出す自然美に感動しつつこの先の期待がさらに高まる。 4合目あたりから高山植物がお目見え、バイカオウレンだろうか可憐に群生していた。 木製の梯子や階段も現れ始め、古道らしい雰囲気が漂う。 6合目以降から山道には積雪や凍結が現れ始める、しばらくは様子を伺い状況次第でアイゼン装着できるよう備える。 水場は水量豊富、冷たくて美味しい。 切れ落ちた箇所も割と多く、雪で足を滑らせたら大事になる可能性もあり慎重に足を運ぶ。 ロングルートなので体力温存をいつも以上に意識、足の運び方や重心の移動にも気を遣った。 以前にはなかったと思われる真新しい鉄製の梯子や階段もいくつか設置されていた。 8合目あたりでソロ女性先行者と遭遇、挨拶を交わし周囲の山々を共有し合う、南ア北部の主峰や北ア方面まで見渡せる状況にお互い心が高揚したことだろう。 さらに進むと、今日目指す塩見岳の姿が目に飛び込んできた。 漆黒の鉄兜、何と凛々しい姿、まだまだ先は長いことを痛感。 9合目あたりの名物の小屋まで200歩の標識に安堵、ようやく三伏峠に到着。 テン場でひと休み、数張みられたが地面はまだ雪で覆われていた。 ここまで約3時間、ほぼ予定通り、だがここから先が長く険しくなるため気を引き締める。 雪の量も多く、軽アイゼンを装着。 三伏山までの歩みは樹林帯を抜け極上の稜線歩きへ、山頂からは素晴らしい四方の眺めを堪能。 烏帽子、小河内、荒川、赤石方面が特に素晴らしい。 先行者も後から到着、登山口から3時間でこの眺めとは凄いものだ。 しかし、塩見岳はまだまだ遠い、今日はやり切るぞと気合を入れる。 本谷山までは稜線と樹林帯のミックス、眺望も優れ飽きのこない展開、体の動きも悪くない。 本谷山から先はいったん降り、樹林帯中心となり辛抱が必要となる。 ここまで数回のアップダウンがあったので、下山時は登り返しを余儀なくされることに危惧。 塩見新道分岐まではきつい登りが続く。 その先しばらくすすむといよいよ森林限界を超え一気に視界が開ける、急な勾配の雪道を慎重に攻略する。 言うまでもないが、ここまでに費やした疲労を和らげてくれるような壮大な四方の光景はまさに登山の醍醐味だ。 雪道をさらに進むと塩見岳が目の前に迫ってくる、そして塩見小屋に到達。 小屋の周辺の積雪量の多さに驚く、GWは営業され満室のようだ。 パンとコーヒーで一旦休憩、最高のロケーションだ、ここに泊まってみたいな。 水ボトル1.5ℓをデポし山頂を目指す。 小屋から先は際立った積雪や凍結はなく、軽アイゼンはここで外して進むことに。 山頂まではCT55分、容易ではなさそうだ。 いよいよ核心部へのドキドキを胸に秘め、開放感ある急な稜線ルートを進んでいく。 山道には雪はないが谷間や山肌にはまだ残りゼブラの姿が美しい、雷鳥はいないかなと探るもその気配はない。 天狗岩を巻いて岩場を乗り越えるといよいよ本峰へ、ここから先は急峻なガレ場や岩場が続く。 周囲には誰もおらず自分だけ塩見岳と対峙できるまたとない瞬間、変わった赤っぽい岩質が珍しかった。 落石させないよう、ペンキ印やクサリを頼りに無心で登っていく、かなりの高度感だ。 絶景を横目にどんどん険しさが増す岩場を乗り越えると西峰へ続く道筋へ。 よくここまで歩んできたなと感じながら、山頂へのビクトリーロードをじっくりと歩む。 西峰に到達、ここまで到達できなければ目に映らない富士山が出迎えてくれた。 深田久弥が絶賛していた塩見岳から眺める富士山の素晴らしさ、自分も同じ感覚かな。 北側を眺めればいままで歩んできた主峰がずらり、仙塩尾根と蝙蝠岳につながる稜線が極めて美しく映る。 南側を眺めれば未知の世界、奥が深くなかなか足が踏み込めない領域だが時間をかけてでも歩んでみたくなる極上の自然美を感じた。 東峰からバディ登山者が歩んで来られ挨拶を交わす、蝙蝠岳を目指して進んでいたが雪のトラバース道にリスクを感じ様子見としたそうだ。 塩見岳の素晴らしさ、南アの奥深さ、お互い今この場にいる喜びというものを会話を通して共感することができた嬉しいひととき。 後で知ることになるが、このバディ登山者らは百名山踏破されているとのこと、どおりで山を堪能する感性が素晴らしいわけだ。 東峰を目指して進む、東峰の方が5mほど高いようだ。 東峰には自分と同じく日帰りの先行者のさこみさんがおられ挨拶を交わす。 しばらくは写真撮影の手が止まらない、天候も安定しスケールの大きい眺望は言葉にならない感動。 富士山もいいが、南アの山々が断然。 山頂でひと休みしながらさこみさんと山談義をさせていただき大変ありがたかった。 自分よりも年代は上と見られる方だが、体力・気力は相当なものだった。 カレーパンとコーヒーで休憩、旨かった。 気持ちのいい風が吹き抜け火照った体をちょうどよく冷ましてくれた、太陽の光も寒さを感じさせない程度に暖めてくれ、こんなに穏やかな3000m峰を味わえる機会はそうないだろう。 日帰りのため下山に残された時間に余裕はない、うしろ髪ひかれる想いを胸に下山することに。 下山時、多くの登山者とすれ違う可能性があり落石には注意を図ったが、結局数人しかすれ違わなかった。 塩見小屋に着く頃には若干雲が漂い始め、また別の表情を魅せてくれた。 塩見小屋でスタッフの方やバディ登山者らとこの山域の素晴らしさをお話しさせていただき、このうえない締めくくりとなった。 小屋に宿泊して蝙蝠岳や仙塩尾根の縦走など夢がまた拡がったこと嬉しく思う。 デポした水ボトルを回収し下山へ、危惧していた通り本谷山と三伏山への登り返しが実に厳しい。 塩見小屋を目指して歩む登山者ともすれ違いする機会が多くなってきた。 三伏山で休憩、あんぱんが登山には妙に馴染む。 三伏小屋にはテントもずらり、今晩は盛況だろう、ここで過ごす夜から朝のひとときも興味深い。 峠から登山口まではなかなか疲労と右膝の痛みからペースが上がらなかった。 あまりのロングルートに終盤は集中力を切らすシーンもあった。 満身創痍の状態でようやく登山口へ到達、明るい時間帯に降りてこられたことに感謝。 あとは林道を歩くだけ、好きな音楽を流しながら歩んでいると今日の激闘からか涙腺が緩む。 やりきった、今の自分にはこれが精一杯。 やはり、山を歩んでいると気持ちがスッキリするし深い自然に癒される。 GW残りの休日はボクシング観戦が楽しみ、そんな思いを抱きながらゴールへ。 約13時間の激闘、久々のロングルートに四苦八苦したがこの歩みは大きな自信となった。 下山後、道の駅・大鹿でラーメン自炊とコーラ補給、最寄には立ち寄り湯がなく松川まで走行し清流苑で汗を流す。 この晩は道の駅・白州で車中泊、翌朝早めに帰路へ。 GW休みに起きたモヤモヤを吹き飛ばしてくれた、会心の山行となった。 田中陽希のグレートトラバースで塩見岳に登頂された際に、『これ以上求めてはいけない』なんて言っていたこと、その気持ちがよくわかった気がした。 間違いなく自分の登山経験史上、最上級の名山だった。 ありがとう、塩見岳。 塩見岳山頂撮影動画 https://youtu.be/7tWJPskwAEw?si=a65iLqZDGRNdz_Fd

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