昂ぶる千の刃
甲武信ヶ岳
(山梨, 長野, 埼玉)
2026年04月11日(土)
日帰り
※今回は、こうさん、shuさんとのコラボ企画となります。
4月も半ばを迎え、桜はあっという間に花びらが散って葉っぱが見えるようになった。
気がつけば夏日が騒がれて、春というより初夏というような装いである。
そろそろ高いお山に挑んで行きたいこの頃……。
そんな中、セルレギオスより遊びに行きたいと強請ってきた。
そこで今回は、前から課題にしていたとあるお山へ行ってみる事にした。
国道140号彩甲斐街道。
埼玉県秩父市から雁坂峠を越える際、長いトンネルを潜る。
山梨県山梨市に入って料金所を通り抜けた途端、いつもとあるお山が目に入って来る。
半螺旋状の橋を車で走らせると、突如として北側に不気味な形をしたお山が目の前に飛び込んでくる。
初めて見た時は“そういう形のお山があるんだなぁ〜”程度の認識だったが、そんなお山へ登る契機になったのは、一昨年の夏。
甲斐駒ヶ岳の隣に聳え立つ鋸岳の攻略時。
鋸岳は言わずもがな一般登山道山梨県最難関に指定されている恐ろしいお山なのだが、そんな鋸岳を含めて、山梨百名山に四天王と称される4座の厳しいお山がある事を知った。
その翌年、ネロミェールの思いつきで笊ヶ岳を攻略した。
渓谷沿いの壊れた道に始まり、渡渉と凄まじい急登に苦しめられた......。
本日挑むそのお山は、そんな山梨百名山の四天王に数えられているという。
その名も、「鶏冠山」。
この前行った木賊山より南側の稜線上に聳え立つ峻険な岩稜帯で構成されたお山で、西沢渓谷から望むその威容は、まさににわとりのとさかを思わせる。
今回そんな鶏冠山へ、セルレギオス、クシャルダオラと共に挑むこととなった。
降り着いたのは、西沢渓谷市営駐車場。
早速登り始める......。
西沢渓谷そのものは一度来ているため概ねわかっているが、鶏冠山はその遊歩道から外れた東沢の中にある。
駐車場より坂を登り、ゲートを横切りしばらく林道を歩く。
橋の欄干からは幾つか滝を望み、春とはいえどこかせせらぎを感じられる。
西沢渓谷の中へ突入すると、程なくして徳ちゃん新道の入口が見えてきた。
甲武信ヶ岳の攻略でお世話になったが、本日はそのまま素通り。
さらに歩き進めると、二俣吊橋が出てきた。
吊り橋を渡っていると、突如としてこれから挑む鶏冠山が姿をあらわした。
鋸歯状の稜線を連ねる悍ましい姿は、まるで自分たちを拒むようにそそり立っていた。
二俣吊橋を渡り切り、僅かに登り返すと鶏冠山の登山口が出てきた。
これより鶏冠山へ取り付く......。
出だしは林道に沢沿いの河原と、比較的歩きやすいが、このあとなぜ鶏冠山が山梨百名山四天王に入っているのか一同は悉く思い知らされる事になる。
鶏冠山登山口から、少しだけ樹林帯を経て河原沿いを歩く。
東沢の河原をしばらく歩いていくと、いきなり目の前に恐ろしいものが見えた。
最初の難所“鶏冠谷出合”である。
見た目はただの沢である。
しかし、その沢の向こうに鶏冠山へ続く道が延びているが橋がそもそもない。
飛石で渡れそうなところはないか探してみるが、そんな場所は皆無。
つまり、裸足でそのまま足を突っ込んで渡るほかない。
靴と靴下を脱ぎ、それらを持って沢に突入する。
浅く大きな石が露出しているところを辿って渡るが、足を入れた瞬間突き刺すような途轍もない冷たさを感じた。
雪解け水なのかわからないが、冷たいというより痛い……。
おまけに川底の石ころは足裏マッサージの如くぶすぶすめり込み、平たい石はぬるぬるで滑るというもはや歩かせる気のない沢だった。
水流もそれなりにあり、少しでも体制を崩すとそのまま転びかねないため、全く油断できない。
この時点で早速、山梨百名山四天王の洗礼を浴びせられた。
痛みに耐えながら水中を歩き続け、なんとか鶏冠谷出合の沢を渡り切った。
しかし問題はここからである……。
沢の次は鶏冠谷の岸登り。
申し訳程度に真っ黒な大綱が張られているが、足掛かりとなる石ころは沢の水で湿っていて今にも滑りそうな怖さがある。
慎重に岸を登っていくと、落ち葉の敷き詰められた葛籠折れの急登が出てきた。
これより鶏冠山へ続く長くきつい登りとなる。
時折石楠花の混じった急登が続き、みるみるうちに足の力が奪われる。
この日は、甲府盆地で夏日に迫る気温が予想されている。
当然この奥秩父も例外ではなく、じりじりと照り付ける木漏れ日が暑く、汗が吹き出してきた。
一応藪漕ぎと突風対策に上着を着ているが、まるで蒸し風呂の中を歩いているようで暑苦しい。
脱ぎたいが、石楠花漕ぎで全身傷だらけになるのだけは避けたい……。
一昨年の栃木百名山四天王“錫ヶ岳”であの石楠花地獄は嫌と言うほど味わってきた。
結局山梨百名山四天王でも、同じ悪夢を味わう事になる。
葛籠折れの急登をしばらく登っていくと、僅かに緩やかな道に出た。
木々の合間からは、この前挑んだ甲武信ヶ岳の徳ちゃん新道が覗かせていた。
急登は登るにつれてさらにきつくなり、時折ざれた真砂の坂も出てきた。
厳しい急登に苦しめられて1時間ほどすると、杖置場と呼ばれる場所に出た。
さっきまできつかった急登がさらに苛烈になり、軽い石楠花漕ぎも追加される。
凄まじい傾斜のため脹脛やアキレス腱が容赦なく引き伸ばされ、最近新調した登山靴で踵が摩擦によって靴擦れを起こした。
まめもできて、一歩歩く事に尋常ならざる痛みを放つ……。
応急処置としてテーピングで様子見とする。
少しだけ休んだのちさらに進むと、まるで崖のような急登が出てきた。
と言うより崖そのもの。
申し訳程度にロープが垂らされているが、寧ろここは思い切って木の根や木の枝を使って攀じ登った方が早かった。
杖置場からさらに登っていくと、大岩と呼ばれる中継地点に着いた。
これより鶏冠山で一番緩やかな道を歩く。
とはいえほとんど小刻みな登り下りとなり、南側はほぼ切れ落ちていて非常に危険。
落ち葉に道が隠れていて、脆い石ころや土だった場合丸ごと崩れる。
細い水平トラバースも、日本百名山ならロープや鎖が施されるが、この鶏冠山には全くない。
どうしても登れない場所に限り敷設される仕様のようだ……。
大岩の危ないトラバースをなんとか越えると、鶏冠山の稜線上へ続く最後の急登が出てきた。
通称“断頭岩のがれ場”と呼ばれ、脆い岩屑の急坂だった。
ピンクテープを頼りに登っていくが、見た目的に安定してそうな石ころも足を置くだけですぐ転がり出してしまう。
出来るだけ木の根や土のある坂から登っていくが、そんな土も脆くあまり信用できない。
断頭岩のがれ場を登っていき、登り始めてから3時間ほど経った頃、第1岩峰のコルに着いた。
第1岩峰のコルは、チンネと第1岩峰本体に挟まれた鞍部にあたり、ここから事実上の鶏冠の上を歩く。
チンネを背にして樹林帯を登っていくが、こちらもまたかなりの急登……。
ピンクテープもさっきより少なめなのか、獣道に入り易く非常に迷う。
僅かに見える踏み跡などを頼りに、概ね稜線上を外れないように登っていくと、目の前に大きな岩壁が見えてきた。
岩陰に矢印が描かれていて、それに従って歩いていくと、急なロープ場が出てきた。
岩が湿っていてとても安全とはいえない。
滑らないように慎重に足を置き、ゆっくり攀じ登っていくと一気に開けてきた。
その場所は、第1岩峰の取り付きだった。
南側に出っ張ったテラスからは、西滑頭を隔てて富士山の山頂部が見えた。
眼下には国道140号鶏冠山大橋が見え、開放感抜群だった。
そしてこのテラスから先は、いよいよ鶏冠山の本当の恐怖が待っていた……。
目の前には垂直にそそり立つ岩の塔が見えた。
そこには銀色に輝く鎖が垂れ下がっていて、その高さはざっくり10mを余裕で越える。
これより鶏冠山の岩稜帯を渡っていく。
目の前の鎖場は手掛かりがそこそこあり登りやすいが、一部取れそうな岩がありやはり油断できない。
とは言っても、鎖自体も支点が錆びた杭や針金で固定されていることもあって、信用できない。
鶏冠山において、鎖場は出来るだけ力を入れない方が無難だろうか。
岩の塔をなんとか攀じ登ると、第1岩峰に着いた。
そこからは、これから挑む鶏冠山の厳しい岩稜帯が一望でき、やや強い風も相まって強烈な高度感を煽られる。
鶏冠山の岩稜帯はほとんど痩せ尾根で、両側は非常に深く切れ落ちている。
歩く分にはそこまで問題はないものの、眼下が丸見えな分恐怖が増す。
大きな岩を跨いだり乗り越えながら進むと、いったん下る。
まるで小鹿野二子山のような雰囲気が漂う。
少しだけ下って石楠花の尾根を進むと、間髪入れずに次の鎖場が出て来た。
これこそ第2岩峰で、さっきよりさらに厳しい鎖場を攀じ登る。
取り付きは正面と右側方で選べるが、どちらも足掛かりが乏しく楽ではない。
ここはおとなしく、鎖の垂れている右側方から攀じ登る事にした。
岩の隙間に無理やり足を捩じ込み、鎖にぶら下がらず岩の突起に手をかけて攀じ登る。
鎖場上部は岩が寝ているものの一枚岩のように突起が少ないため、靴の摩擦で突破する。
鎖場をなんとか越えると、第2岩峰に着いた。
しかし、まだまだ厳しい岩稜はずっと続く。
石楠花の尾根をまた下りていき、今度は反り返った岩の鎖場が出て来た。
一応木で簡易的な足場が設けられているが、蹴上が非常に高くかなりきつい。
ゆっくり岩を掴みつつ鎖場を登っていくと、第2岩峰の北側のピナクルの上に出た。
ここからは鶏冠山の山頂が見え、よく見るとその手前に大きな岩壁が見える。
このあと、この岩壁が牙を剥くことなどまだ自分は知る由もなかった……。
第2岩峰を後にして、一旦森の中へ向かって大きく下る。
木の根だらけで、そこそこ滑り易くなかなか足が進まない。
樹林帯をしばらく歩いていると、少し登り返したところで目の前にさっき遠くから見えた大きな岩壁が見えて来た。
これこそ、鶏冠山が山梨百名山四天王の1座に数えられている理由に他ならない。
極めて危険な難所『鶏冠山第3岩峰』である。
第1岩峰、第2岩峰にはしっかり鎖が掛けられていたが、この第3岩峰には鎖がない。
つまり、この鎖のない岩壁を登攀しなければならない。
一応ご丁寧に第3岩峰迂回路が用意されているが、鶏冠山の代名詞といえばまさにこれ。
水分補給含め休憩を挟み、心の準備をしたのち意を決してフリーソロで登攀を試みる……。
因みに第3岩峰の登攀手順は以下の通りである。
(登り方に個人差がある為あくまで自分の場合)
①左側の岩の突起物に手を掛けて、向こう側の踊り場へ移動する。
②細い岩棚を斜め右上へ攀じ登り、松の木のテラスへ行く。
③松の木のテラスから岩壁の突起と突き出した岩の塊に足を乗せ上方へ登り、岩壁の小さな出っ張りを頼りに命綱の残置物があるテラスへ絶壁を攀じ登る。
④細く蹴上の高い岩の割れ目を、出来るだけ奥の高い岩の突起に手を掛けて強引に身体を持ち上げる。
⑤極細の岩稜帯を渡り、樹林帯の軽い藪漕ぎを抜ける。
最初の踊り場まではまだぎりぎり引き返せるものの、岩棚を登り松の木のテラスに行った瞬間確実に引き返せなくなる。
松の木のテラスから命綱の残置物があるテラスまでの絶壁が、一番手掛かりと足掛かりが小さく、特に垂直方向への登攀が占めるため非常に強い高度感を煽られる。
絶壁の途中で下を覗こうものなら、恐怖のあまり一瞬で身体が固まり動けなくなるのも頷ける。
残置物があるテラスまで登ってくると、ほとんど普通の岩稜帯となる。
とはいえ、その手前に岩の割れ目を通る必要があり、非常に蹴上が高い為奥の岩に手を掛けて無理やり身体を引っ張り上げる必要がある。
これ以降は細い岩稜帯を歩いていくが、ここも油断していると谷底へ放り出されかねない為油断は出来ない。
岩稜帯をなんとか越えると、あとはひたすら樹林帯の急登である。
石楠花が混じっていてかなり痛い……。
樹林帯の急登を登り切ると、程なくして第3岩峰に着いた。
付け根から迂回路を使って登った場合、分岐点から一旦南側へ痩せ尾根を登らないと第3岩峰へは行くことができない。
よそ見していると一瞬で通り過ぎてしまう為、要注意である。
第3岩峰の山頂部は小さなざれた広場になっていて、かつて此処が山梨百名山における鶏冠山の山頂になっていた。
今は第3岩峰として、鶏冠山とは別に山頂が用意されている。
第3岩峰を後にして、鶏冠山の最高地点へ進む。
さっきまでに比べたら緩やかな樹林帯の登りだが、ほとんど石楠花に覆われていて歩く毎に容赦なく引っ掻かれる。
だらだら登っていくと、僅かながらに奥秩父山塊の主稜線が見えてきた。
かつて行った特ちゃん新道が見え、感慨深い。
そこから歩き続け、登り始めてから4時間ほど経った頃遂に鶏冠山の山頂にたどり着いた。
山頂からは、圧巻の絶景が広がっていた……。
南には富士山と大菩薩嶺が見え、東には雁坂嶺や飛龍山などを望む。
北には木賊山と甲武信ヶ岳を望み、西には国師ヶ岳や金峰山などが見えた。
おやつなど少しだけ休んだのち、今度は帰路へ向かう。
鶏冠山は登りはもちろんのこと、下りも非常にきつく危険である。
石楠花だらけの激下りを経て、第3岩峰へ戻る。
木の根の道は滑り易く、転んだらどんどん身体に無数の傷が刻まれる。
鞍部まで下りて行き、そこから少しだけ登り返して第3岩峰へ向かう。
第3岩峰の岩壁は、下りの場合懸垂下降が無ければどう足掻いても通過できない。
したがって丸腰で行くなら強制的に迂回路を使用することになるが、この迂回路もお世辞にも安全とは言えない道だった。
ロープが垂らされた激下りに始まり、ざれた崖沿いのトラバースの通過、そして濡れた木の根の崖登りと命懸けの道が続く。
なんとか第3岩峰の付け根まで戻って来たが、此処からの下りも当然油断出来ない。
登りで使ったあの厳しい鎖場だらけの岩稜帯を、下りでもそっくりそのまま下りなければならない。
木の根の激下りを経て第3岩峰を後にして、第2岩峰へ向かって樹林帯を登り返す。
木の根の急登をなんとか登り切ると、第2岩峰が出て来た。
疲れて岩稜帯の通過が杜撰になりがちだが、鶏冠山の第2岩峰は一部剥がれ易い岩がある為より一層気を引き締めて通り抜けなければならない。
岩稜帯を渡り、垂直の鎖場を下りていく。
反り返った岩場のため下が見えづらく、補助的に置いてある木の足場まで足を伸ばすのが非常にきつい。
なんとか足を伸ばして着地するものの、鎖に体重をかけると振り回されるためかなり怖い。
なんとか下りてくるが、第2岩峰にはもう一つ鎖場の下降が控えている。
大きな岩を何度も乗り越えて細い岩稜帯を渡り、もう一つの鎖場の上まで歩く。
第2岩峰の上から振り返ると、迫力ある第3岩峰の岩壁と鶏冠山と重厚感ある山頂部が一望出来た。
第2岩峰からの鎖場の下りもかなり厄介で、上部はすんなり下りられるものの、下の方は亀裂に足を捩じ込まなければならない都合上非常に手間がかかる。
鎖の末端はロープで誤魔化されていて、支点が上の1点のみでしか固定されていないため、下手にぶら下がると容赦無く振り回される。
鎖はあくまで補助程度に握り、基本はやはり岩に手を掛けて慎重に下りていくしかない。
ゆっくり下りて行き程なくして、第2岩峰の鎖場を抜けることができた。
しかしまだまだ難所は続く……。
目の前の岩を登って行き、第1岩峰の上まで行くが、この先ももちろん鎖場が控えている。
富士山が見える展望台へ続く、あの長い垂直の鎖場である。
手の届く丁度いいところに脆い岩があり、掴みたいが剥がれかねないので掴めない。
だからと言って、鎖そのものに体重を預ける事も出来ない。
僅かに出た岩場に手を掛けながら下りて行き、なんとか第1岩峰の鎖場を抜けることができた。
此処からは、ロープ場を経て樹林帯の中を一気に下りていく。
湿ったざれ場を下降して、木の根と土が密集した深い樹林帯の中を下りる。
流石に一同に疲れが出てきて、下りの道で転んだりするようになった。
激下りを抜けて第1岩峰のコルまで来たが、この先の下りもこれまた厳しい。
目の前に広がるのは、問題の断頭岩のがれ場。
登りよりも下の方がより怖さが増す。
石ころがかなり脆く、足を置くだけで岩雪崩になって恐ろしい時間となる。
一応断頭岩のがれ場は第3岩峰よろしく巻道があり、がれ場を通らないでロープ場を下降できるようになっている。
とはいえそんなロープ場も木の根の激下りになっていて、かなり怖い。
断頭岩のがれ場をなんとか越えると、今度は大岩の連続するトラバース。
濡れた岩のロープ場や、細い落ち葉の回廊、極細の岩棚の横歩きなど、片側が崖になっていて一切気が抜けない。
登りではそこまで気にせずに登って来たが、下りの場合足下が不安定になって転ぶだけでも大怪我に繋がりかねない。
ロープ場の登り返しをなんとか越えると、程なくして大岩の取り付きまで戻って来た。
ここからの下りも非常に危険で、ほぼ垂直の木の根の下りが続き、一歩一歩緊張する。
垂直のロープ場をなんとか通過すると、石楠花だらけの激下りに突入した。
登りでは踵側に負担がかかって靴擦れが痛かったが、下りでは概ねつま先側に負担がかかるため幾分か痛みに苛まれず下りられる。
しかし激下りはざれ場が多く、適当に下りると尻餅をつきまくるのが見えていた。
木に掴まりながら速度を抑えつつ、足を取られない程度に駆け下りていく。
下りていくにしたがって、少しずつ谷底から沢の音が聞こえてきた。
ざれた激下りに苦しめられていると、僅かながら緩やかになってきた。
少しだけ石楠花漕ぎを越えて落ち葉の激下りを通過すると、鶏冠谷が見えてきた。
まさしく下から聞こえてきた沢である。
激下りを下り切り、鶏冠谷の沢歩きへ入る。
少し湿った岩を、ロープを伝って下降していく。
目の前を勢いよく流れる水が、涼しげでもあり恐ろしさも感じる。
沢歩きを越えると、いよいよあの難所が出てきた。
復路の“鶏冠谷出合”のお出まし……。
靴と靴下を脱いで、突き刺すような冷たい水に足を突っ込む。
身体が持っていかれるような水流に、足つぼマッサージのような細かな砂利とぬるぬるの岩との闘い。
一歩歩く毎に凄まじい冷たさで足に痛みが走る。
ふらふらになりながら足を動かしていき、なんとか対岸まで渡り切った。
下りで熱がこもった後だから冷たい水は気持ちいいだろうという甘い考えで気軽に沢に足を突っ込んだが、そんな考えをたった一瞬で打ち砕いてきた。
渡り切って暫くは、冷たさで足がまともに動かなかった。
足が少しだけ温まった頃、靴下と靴を履いて東沢の河原を歩いていく。
二俣吊橋を渡るため、一旦樹林帯へ登っていき鶏冠山登山口を通過する。
僅かな登り返しが、容赦無く足を縺れさせる。
対して登っていないはずなのに、明らかに数値以上にきついこのお山……。
二俣吊橋の欄干より改めて鶏冠山を見上げる。
大きな渓谷の真っ只中に、圧倒的な存在感で聳り立つ姿はやはり山梨百名山四天王に恥じないものがあった。
あとは西沢渓谷の中を暫く歩き、林道を辿って国道140号の真下を潜る。
日も少しだけ傾いていて、空が僅かに黄色くなった中駐車場へ向かって下りる。
林道をだらだら歩いていき、登り始めてから8時間ほど経とうとした頃ようやく西沢渓谷市営駐車場まで下りてくることができた。
これにて、鋸岳、笊ヶ岳に続き山梨百名山四天王3座目の攻略となる。
残るは、いよいよ笹山だけとなった。
目標としている山梨百名山の四天王完全制覇まで、残り1座である。
このあと温泉とお食事を済ませ、足早に帰宅の路へつく……。
晩春の鶏冠山にて、岩と命の対話をしたセルレギオスとクシャルダオラであった。