初夏の陽気、静逸な奥武蔵を歩く
武甲山・伊豆ヶ岳・小持山
(埼玉, 東京)
2026年05月17日(日)
日帰り
この縦走路を歩くのは今回で三度目になる。私の好きなルートの一つだ。名郷を起点に歩く奥武蔵の山々は総じて険しく、アップダウンも多い。今回のルートも約10kmで累積標高差は1000mを超え、なかなか歩きごたえがある。
このルートの主峰は武川岳。武甲山と組み合わせて登られることもあれば、山伏峠からの縦走で訪れる人も多いようだ。この日、名郷バス停からこのルートへ向かう登山者は私一人だった。クマの出没するエリアだけに少し心細いが、仕方がない。やや分かりづらい登山口までは舗装路歩きとなる。民家も多いため、クマ鈴はしまって静かに進んだ。
朝から日差しは強く、汗をかきにくい私でもじんわりと汗ばむ。今年は気温の上昇がとても早かった。いわゆる“寒の戻り”が3月も4月もほとんどなく、季節は前のめりに進んでいった。このまま気温上昇が続けば、夏はどうなってしまうのだろう。スーパーエルニーニョの影響だという。
登山口から先は、まず植林の森が広がる。圧倒的な杉林に包まれた道だ。杉林は薄暗く、下草も少ないため虫が少なく、地面には杉の落ち葉が積もるばかり。季節感に乏しいことから敬遠されがちだが、歩きやすさという点では悪くない。そして、この植林主体の森は前武川岳まで続いていく。
歩いていると、次第に石灰石が目立つようになる。近くに採掘場があるため、途中には迂回路も設けられていた。このトラバース道が少々厄介で、木々が張り出している箇所もあり歩きにくい。そこを抜けると、迂回路から一気に登り返し、やがて金網のそばへ出る。周囲には石灰石がゴロゴロ転がり、網の向こうには石灰採石場が広がっていた。吾野や武甲山のように今も稼働しているのかは分からないが、その人工的な風景には独特の迫力がある。
基本的には植林帯が続くが、東側には自然林も広がっており、新緑が美しい生き生きとした登山道になっている。面白いことに、東からたっぷり光が差し込むおかげで、西側の植林帯にも緑が多い。植物にとって光はやはり大切なのだと実感する。
明るい尾根道を進み、登山道脇に鹿よけネットのようなものが現れれば、前武川岳は近い。ネット沿いの急登を登り切ると山頂だ。自然林が広がり、一気に空気が明るくなる。杉林の陰鬱な雰囲気から一転して爽快な登山道となり、そのまま武川岳へと続いていく。武川岳までは700mほどなので、行動食を口にして再び歩き出した。
武川岳では三人組の登山者と出会った。ベンチもあり、ゆっくり休憩するにはちょうど良い山頂だと思う。
忘れていたのだが、武川岳から先が意外と大変だった。下りにはザレ場や岩場が多く、かなり気を遣う。それも一箇所ではなく、何度も現れるため気が抜けない。特に焼山直下は少し怖い。滑れば怪我では済まないだろう。
ただ、ちょうどツツジの季節に当たったらしく、ところどころに咲く赤い花が今回の縦走に彩りを添えてくれた。そして歩くほどに迫ってくる武甲山の迫力には圧倒される。その存在感は焼山で頂点に達する。高解像度のカメラで撮影すると、削られた山肌の段差や巨大さがより際立つ。正面から見ると気づきにくいが、同じ目線の高さに立つと、山頂部が意外なほど平坦で、採掘場を走る車まで見えてくる。
痛々しい姿とも言える武甲山だが、「ここまでよく削ったものだ」と妙な感心もしてしまう。まさに身を粉にして働く山の象徴だ。
二子山へ向かう道はアップダウンが続き、山頂直下は急登となる。最後の踏ん張りどころだ。だが、登り切った先にはご褒美が待っている。山頂から右手へ少し進むと岩場があり、そこから歩いてきた縦走路を一望できる。伊豆ヶ岳の姿も見え、ここでもまた武甲山の迫力に圧倒されることだろう。
気温の上昇が早かったおかげで、木々はパッチワークのような美しいグラデーションを描いていた。おそらく、これが最後のチャンスだったのだと思う。展望に見惚れつつも、足元には十分注意したい。
続いて雌岳へ向かう。こちらは特別な展望もなく、ひたすら樹林帯の道だ。長居せず、そのまま下山に入る。
二子山は登りも下りも急勾配のルートが多いため、最後まで気を抜けない。岳ノ沢ルートには序盤にお助けロープが設置されている。この日は路面が乾いていたので問題なかったが、濡れていたらかなり滑りやすかっただろう。
沢沿いの道を無事に下り、芦ヶ久保駅でゴールとなった。
記憶がかなり曖昧になっていたので、「こんなに危ないルートだったっけ?」と思いながら歩いていた。しかし、総距離10km、累積標高差1000m程度と、程よく充実感のある縦走路だと思う。
次は芦ヶ久保駅から山伏峠を経由し、伊豆ヶ岳を越えて正丸駅まで歩いてみたい。