北海道の百名山完遂を終え、次は何処へ行こうかと考えた。 自由の効く残り時間はあと二週間ほど。残り時間と天候を鑑み、今しか出来ない事と後ででも出来そうなことを割り出し優先順位をつけた。 時間と天候の条件が一致しないと出来ない事はなんだろうと考えた結果、塩見岳及び百高山の中でも取り分け行きにくい位置にある安倍荒倉岳を登頂しようと思い計画を立てた。 蝙蝠岳も相当行きにくい場所にあるが今回の計画では近くを通るから、行けそうなら行こうと考えた。 どの登山口からアクセスするのが一番効率的か色々計画を練った結果、一番メジャーな鳥倉登山口が良いだろうと思いここから始めることにした。 当初の計画は… 一日目は三伏小屋にテントを張り、小河内岳まで行ってからピストンで戻る。 二日目は塩見岳を登頂しそのまま安倍新倉岳も登頂。その先の熊の平で宿泊。 三日目は熊の平からピストンで来た道を戻り、蝙蝠岳をピストンし、三伏小屋まで戻る。 四日目はテントを撤収し駐車場まで帰るだけ。 しかし四日目の天候は下り坂との予報だった。帰るだけだからそこまで気にしなくてもいいけど、テントも濡れるとあとが面倒だし、もし時間と体力に余裕があれば三日目に下山することも視野に入れて山行に入った。 当日は三日とも天気は最高で最高の条件だったこともあり、予定を変更。変更点は、三日目の蝙蝠ピストンを二日目に行い、三日目に時間の余裕を作りその日のうちに下山することにした。 蝙蝠ピストンを組み込んだおかげで二日目は体力的にとんでもなくハードな日になり、後半は体力はゼロに限りなく近く、根性だけで歩き続けてなんとかギリギリ小屋にたどり着いた、という有様だった。 テントは一泊目のテント場に張りっぱなしとはいえ、シュラフや食料を担ぐと十分に重く、私の体力を確実に削り取っていった。 朝晩はとても寒く氷点下を下回っていたはずだけど、よく寝良く食べたからか体調はすこぶる良かった。決して無理をせず意識して飛ばさないよう歩くように努めた。 幸いにも計画通りことは進み、明るいうちに下山することができた。 うまくいった要因は、天候に恵まれたこと、こまめに休憩しながら歩いたこと、時間に余裕を持ったこと、十分な防寒対策と飲料、食料を持参したことだと思う。 そして全ての工程で景色はずっと素晴らしく、ずっと感動しっぱなしであった。体力的に厳しい稜線歩きもこんな景色の中に溶け込めるからこそ精神的に支えられて乗り越えられたんだと思う。 人が住むには山は難しい。でも、人の心は自然にあるような気がする。山には人の心を煩わせるものが何もない。本当の自由、本当の幸せというものを体で気づくことができたような、そんな気がした。
鳥倉駐車場の手前にある夕立神パノラマ駐車場からの風景。雲海広がる中央アルプスの絶景。 キレイなトイレあり。
鳥倉第一駐車場からはゲートがあり徒歩。登山届を提出し、いざ山頂へ向かう。 駐車場は6割程度といったところ。第二第三は車なし。トイレ、水場あり。
林道を歩く。露出した岩盤と紅葉が美しい。
しばらく歩くと登山口に到着。道は赤い方へ伸びているのでそのまま行くと行き止まり。 正しくは青い方。 トイレあり。
赤い方へ行くと駐車場があり行き止まり。 ただ、登山道のような道があるのでもしかしたら行けるかも、とも思ったけど、もちろん引き返した。
正しい登山口にはこのような看板がある。 塩見岳周辺の山の成り立ちを簡単に紹介されている。元々は海の底だったようだ。
ぐんぐんと登っていく。道に迷ったり怪我しそうになる怪しい所はなかった。
登山道には三伏小屋までの距離が分かるように看板あり。
チョロチョロと清水あり。
小屋まであと1時間くらいなので必ず汲んでいきたい。
随時整備されている。本当にありがたい。
あともうちょっと!
到着。なかなかカッコいい看板。日本一高い峠とのこと。
小屋は表記通り閉鎖中だけど、テン場は利用可。
塩見岳西側の景色がチラリ。テントを張り終えたら…
今日は小河内岳まで行って再び三伏小屋まで戻る工程。やっぱり荷物が軽いのは最高。心も体もルンルン気分になるようだ。
開けた平に出て、水場と小河内岳の分岐。表記通り水場は撤去済みで利用不可。
初めて見る塩見岳はとてつもなく迫力がありカッコよかった。本日は快晴で、はっきりくっきり。
秋の装いを始めたばかりの高原的風景。
稜線は切れたところあり。
美しい稜線。黄色と緑の組み合わせは最高の一言。
大変だけど、こんな素敵な風景の中に溶け込めるのは幸福以外何ものでもないと思う。
奥に見えるネコミミみたいな山はなんだっけ。
テントみたいにポコンと突き出た烏帽子岳。きれいな形をしている。 よく見ると飛んでる鳥みたいな形のハゲがある。
そこから小河内岳へ続く稜線。
稜線からの風景も素晴らしい。
振り返っての三伏小屋方面。
烏帽子岳山頂。全く想像していなかった素晴らしい光景がここに。
塩見岳が間近に聳える。
迫力の農鳥岳。
間ノ岳、北岳、農鳥岳がはっきり見える。
塩見岳と切れ落ちるV字谷が眼前に迫る!
南アルプスの核深部にある蝙蝠岳。
振り返ると崩れた山肌の反対側に三伏小屋が見える。
いつまでもここにいたくなる。それほど素晴らしいところだ。
ソフトバンクの電波も届きます。
前小河内岳と小河内岳。
小河内岳と避難小屋も見える。まるでミニチュアの模型のようだ。
切れ落ちるV字谷が迫力!
振り返っての烏帽子岳と稜線。反対側から見ると雰囲気が違う。
まさに山岳地帯という雰囲気の小河内岳稜線。
小河内岳は、右に撫でつけたような山頂の形が面白い。
山頂手前にある分岐を小河内避難小屋方面へ向かうと…
すぐそこに避難小屋はある。この時期はすでに休業であり、トイレは不可だが小屋の2階は開放されていた。
避難小屋から先の行き止まりからの雄大な風景。 農鳥岳から南下する稜線を眺める。
荒川岳方面のギザギザの稜線がシブい。
振り返って小河内岳と避難小屋の風景。なだらかで優しい雰囲気がいい。
付近には雷鳥が。
小河内岳山頂。
ここも360°の大展望。
避難小屋と白河内、黒河内方面の山岳風景。
農鳥岳が目の前に。
塩見岳、蝙蝠岳も良く見える。
塩見、間、千丈方面の風景。 崩壊跡が荒々しい。
振り返って歩いてきた尾根。 アルプスならではの美しさ。
蝙蝠岳。大変だけど、明日か明後日登る予定。 南アルプスの中腹にあってなかなか行くことが出来ないから、このチャンスを逃したらもしかしたら一生悔やむかもしれない。
天気も最高、景色もはっきりくっきり見え、何枚も同じような写真を撮ってしまう。 少し休憩したら小屋までピストンで戻ろう。
秋模様の塩見岳。その奥の山から黒い煙が噴出している。 小屋で何かを燃やしているのだろうか。山火事でなければいいけど。
塩見岳の大崩壊地を正面から見れる。大迫力!
10月の南アルプスは、場所によってはまるで旧い映画の世界観のようなクラシックな雰囲気。
壮秋の草花も小さくも美しい。
白く美しい肌に暖かみのある紅葉が本当に綺麗だ。
緩急激しい山肌は何度見ても美しい。 また、紅葉も最高だ。
三伏小屋分岐をはじめ点在する案内板。 南アルプスの位置関係が一目で分かる。
テン場からの本谷山(多分)。 場所によって紅葉だったり濃緑だったりして変化に富んで豊かな風景だ。
塩見岳の頭も見える。ここから見ると宮殿の頭みたいにちょこんと突き出たトンガリがよく見える。子供の帽子みたいでとても可愛らしい。
夕食は定番のパスタ。 早ゆでパスタに市販のソースをかけただけだけど、やっぱり旨い。 今回は軽さとごみ削減、食器汚れ低減のため、ふりかけタイプのソースを使用してみた。 しかし、全然美味しくなさそうな写真だなぁ。
二日目は午前3時30分に出発。塩見岳を経て蝙蝠岳をピストンし、熊の平まで出張予定。本日は私的登山上最も厳しい一日になりそうなので気合い入れて行く。 しかし、テントを置いてきたとはいえそれでも重い。念の為食料を多めに持ってきたのと、寒さ対策でシュラフを二つ持ってきたためだ。多分17〜18kGはあると思う。 三伏山からは夜景が見える。こんな夜中まで活動してるなんて(自分もだけど)
塩見岳手前の尾根で朝を迎えた。 南アルプスを望む。仙丈ヶ岳や甲斐駒ヶ岳の絶景。
朝焼けの仙丈ヶ岳と甲斐駒ヶ岳。なんて荘厳で美しいのだろうか…
木曽駒ヶ岳方面の風景。
塩見小屋に到着。この時期のこの辺では貴重なトイレタイム。人生初の携帯トイレ使用。己のプライドを捨てる最高のチャンスだ。 (携帯トイレは捨てられる) 水も少ないので1リットル購入。高いけど、あるだけありがたい。ここからずっと水場はないのだから。
塩見小屋から見る塩見岳山頂と登山道。 百名山が目の前に聳える最高のロケーション。 見る角度によって表情が変わるから、山は本当に面白い。
朝日に照らされて光と影でコントラストが強くなっている。とても美しい。
繊細で美しい霜。こうゆうのを発見すると、やっぱり寒いんだなぁと俯瞰して感じることができる。
振り返って塩見小屋方面の稜線美。
塩見岳山頂は岩の大屋根といった感じで、かなりカッコよく、そして手強そうだ。
ドンと盛り上がった山頂。日本アルプスの厳しさを感じる一面だ。
足場の悪い岩尾根を少しずつ登ると…
なかなか厳しい岩登りが始まる。かなりシリアスな箇所もあるので、印をあてにしつつ一挙手一投足に全神経を集中させて山頂を目指す。 特にクサリ場は注意すべき箇所だ。
ここは西峰。奥に見えているのが最高峰の東峰。 とはいえここも素晴らしい景色と開放感だ。
ついに塩見岳山頂に到着。 富士山、仙丈、甲斐駒、荒沢などの大パノラマ。 15分ほど景色を楽しみつつ他のハイカーとお話ししたのち先へ向かう。
振り返っての西峰。
塩見から間ノ岳や仙丈ヶ岳へ続く長い長い尾根。通称千塩尾根。右に伸びている尾根は蝙蝠岳を経て二軒小屋や転付峠へ下る蝙蝠尾根。 ほとんどの人は塩見岳からピストンで戻るから、ここから先へ向かう人は本当に少ない。
見た目は超危険な崩壊尾根。 天候良好ならゆっくり歩けば特に問題はなかったが、悪天候時は特に注意すべき箇所。
蝙蝠尾根と千塩尾根の分岐。ここにザックをデポし蝙蝠岳へと一人歩いていく。 持っていくものは貴重品とストック、必要最低限の水と行動食だけ。 重荷を降ろして身軽になった。
なだらかでとても綺麗な稜線が続く蝙蝠尾根。振り返って考えてみると、体は疲れているけど、こんな穏やかな天気にこんなところを歩けるなんてきっと幸せなことなんだろう。
蝙蝠岳へ向かう途中で見える千塩尾根の風景。
千塩尾根と仙丈ヶ岳、甲斐駒ヶ岳、間ノ岳、農鳥岳など南アルプスの主峰が丸見え。
反対側の荒川三山とV字谷。山と谷の高低差のある景観。
蝙蝠岳から富士山へ歩いて行けそうに見える稜線。
一部広くなっている部分あり。 いやしかし、蝙蝠岳はとても綺麗な見た目をしているなぁ。
秋の気配を感じながら少しずつ山頂に近づいていく。
もう少し、あと少し…
ついに蝙蝠岳山頂に辿り着いた!
もちろん文句なしの大パノラマ!
どこにいても目立つ富士山だけど、ここからは周囲の山並みに溶け込ん見え、馴染んでいるように感じた。
ここからも仙丈、ノコギリ、間ノ、農鳥の厳しい山岳風景を堪能。
荒川も目の前に。 見る場所でその山の見た目が全然違う。だから色々な山に行きたくなる。
昨日歩いた烏帽子岳、小河内岳の尾根。
振り返っての塩見岳。他から見る塩見の姿とはまた一味違う。
荒川三山に向かって切れ落ちていくV字谷も美しい。クマや雷鳥が散策しているような風景が目に浮かぶ。
奥に見える高い山はなんだったかな?
30分ほど休んでから来た道を戻る。
見た目よりアップダウンはあるけれど、見た目通りの気持ちいい稜線歩きだから気持ちはずっと爽快だ。
ほぼ丸腰で歩く。これほどの開放感はない。 死ぬ時は全てをこの世に置いていき、何も持たずに裸であの世へ行く。それってこんな気持ちなのかな。
なんて美しい道なんだろう…
雄大な千塩尾根とV字谷。
滑走路のような広尾根。こんな道ならピストンで戻るのも新鮮な気持ちで楽しめる。
もう閉山だけれど、今日みたいな日は富士山も登山日和ではないだろうか。それほど本日の天気は素晴らしい。
ザレた山肌と紅葉は何度見ても美しい。
美しい尾根だから、登りも精神的には楽だ。
ブルーベリーみたいな味がまだなっている。ライチョウやクマが食べるのか。空な山に幾粒の潤いを与えてくれるかのようだ。
分岐まではまだまだ尾根歩きをたっぷり堪能する必要がある。
来る時は気づかない魅力を発見できるのもアルプス稜線歩きの楽しみの一つであることを発見。
トゲトゲがカッコいい尾根。
振り返っての蝙蝠岳方面尾根。表情が全く異なる。
滑り落ちたらアリジゴクの餌食になりそうなザレ谷。
登り降りを繰り返すハードな尾根道。
はっきり言って全ての風景が素晴らしすぎるので、表現の語彙力がもう尽きている。おんなじことばっか言ってる気がする。
一際目立つ間ノ岳、チロルチョコのような甲斐駒ヶ岳、南アルプスの女王と呼ばれる仙丈ヶ岳。 手前には千塩尾根。北荒川岳の大崩壊地が目立つ。
北荒川岳の大崩壊地。
一部岩場を登り降りする場所あり。
ヤセ尾根を行く。
基本的に巻道だけど、一部尾根上部をクリアするところがある。そこは特に注意。
元気いっぱいの緑に私も元気を貰えた気がする。
蝙蝠尾根から千塩尾根分岐に戻るほんの少し手前の岩。 煉瓦積みのようで、自然に出来たとは思えないもの。
分岐まで戻り、ここから熊の平を目指して行く。 分岐から蝙蝠ピストンは休憩含まずで3時間30分〜4時間かかる。いくら軽装とはいえ、高い標高の山をそれなりの時間歩くから疲れはそれなりに感じる。 ここからは荷物を背負っての後半戦。根性で乗り切るしかない。
しかし、山はそんなの関係ない。冷静な判断が必要だが、それができる人は少ないのではないだろうか。
バカみたいに長い尾根だからバカ尾根とも呼ばれる千塩尾根。だから私もバカみたいに歩くのみ。
グッと落ちていく豊かなV字谷。
大崩壊地を眼前に。なかなかの迫力。自然の無常さを感じる。 この崩壊地をトラバースしていくが、そこのルートはヌルッとしていて滑った後があった。 気を付けていたが、私も滑った。
そんな風景とは一変して穏やかな雰囲気の道に出た。 巻くようにして進む。 この先が北荒川岳山頂で、一日目に三伏小屋で先にテントを張っていた登山者に出会った。この人はとんでもない人だったことが後に判明する。
急坂を慎重に下ったところのちょっとした開けた所。間ノ岳の頭がひょっこり。
新蛇抜山谷の真ん中に北荒川が伸びている。きっと中流には集落があり、下流には街があるのだろう。
振り返っての塩見方面。 蝙蝠尾根の急峻なギザギザ。あそこを通ってきたかと思うと感慨深い。
あたりは山、山、山。山三昧。 この辺まで来ると、蝙蝠ピストンが私の体力を削り取っていることが分かる。
間ノ岳や仙丈ヶ岳に向かって少しずつ近づいていく稜線。山のフルコース。
白峰南陵の山壁と、秋の気配の新蛇抜山手前の平。
新蛇抜山へは登山道から少しだけ外れて登る。
新蛇抜山はヤセ尾根なので注意。千塩尾根の先の仙丈ヶ岳。
今年はお仕舞いの支度をする草花。 まるで雪の花。
竜尾の見晴しに向かって。ここからはもう根性だけで体は動いている。
竜尾の見晴らし。ここから熊の平まで約1時間20分。疲労度は88%といったところ。ギリギリなんとか辿り着けるか。
振り返っての千塩尾根、塩見岳、蝙蝠尾根。
農鳥岳の崩壊地を間近にみる。静かな空気の中に微かに轟音が。その近くには…
とんでもない落差の無名の滝が。 日本の滝100選に選ばれていないのが不思議。きっと見逃したか知らなかったかに違いない。
農鳥岳9合目から一気に落ちる超豪快な滝。ここまで歩いてこないと見れない秘境中の秘境の滝。 名前が無さそうだから勝手に命名。 候補1 農鳥の滝 農鳥岳から落ちてるから。 候補2 バカ滝 バカ尾根から見えるから。
尾根のすぐ脇の綺麗な森の中を歩いていく。正直言ってもう体力はほぼゼロ。あとは惰性で歩いているだけ。
ずっと同じ景色が少しずつ大きく近づいている。 いつのまにか安倍荒倉岳は通り過ぎてしまった。あの森の中のどこかにあったらしい。
振り返っての阿部荒倉岳と思われる山頂。何も表記がなかったと思う。
セーブポイントまであと20分。もう一踏ん張り。
15時、ついに熊ノ平に到着。完全に満身創痍で、今までで1、2を争うほど厳しい工程だった。怪我や病気がなくたどり着けただけでも感謝だ。 小屋の営業及びトイレは終了しているが、2階が避難小屋として開放されている。また、テント場も利用可能。 まったりタイム。流石に寒いので着れるものは全て羽織る。特に効いたのはダウンの足カバー。これは本当に暖かい。 カフェオレとブラックを飲みながら、美しい間ノ岳を眺める。 一日中眺めていたはずなのに、それでもいつまでも眺めていられる気がする。 もしかしたらもう二度と来れないかもしれない。いや、来れないだろう。そう思うと、今日の厳しい山行を計画通り遂行出来たことに感謝しかない。
水は豊富なので安心。完全に満タンにしておく。
今日は小屋泊なのでテントなど張る必要が無く気分的にもラクだ。 昨日三伏小屋で泊まっていた人と一緒だった。この人は本当にすごい人で、まだ若いのになんと三百名山全部踏破し、今度は二週目だという。 そんな人が本当にいるなんてびっくりした。 何周もしているからかすごく余裕があるというか俯瞰した感じで、自慢するような感じもなく自分の人生を素直に生きてる感じがして、正にレジェンドだなと思った。 小屋の中は流石に寒く、塩見岳で霜が観測されたように、雨風凌げるだけで外の気温と変わらない。モンベル800の2番と800の5番のダブルで着込みながら食事をとり、そのまま7時には就寝。寒さを感じることなく快適に眠ることが出来た。
三日目は最終日。本日の予定は遅くとも午後1時までには三伏小屋に張りっぱなしのテントを撤収し、夕方までには鳥倉登山口に戻る計画だ。 そのため4時半に熊ノ平を出発。レジェンドな人は次の日は間ノ岳と北岳をピストンするとのことで早く出発して行った。 次の日は荒天とのことで、お互い今日の予定を無事に終えられるといいですね。 熊ノ平小屋から安倍荒倉岳までは急登を登り返し。もちろん来た道を戻るので、そこからは登ったり降りたりの繰り返しだ。 写真は昨日見た北荒川のV字谷。
北荒川岳まで戻ってきた。塩見岳を含む急峻な山岳風景が最高。
木曽駒ヶ岳の中央アルプスがよく見える。
北荒川岳から塩見岳に向かう千塩尾根。ザレた稜線は昨日滑ったが、乾いたからか今日は滑ることはなかった。
ヤセ尾根は歩かず、左に巻いて行く。 朝だからか、塩見と蝙蝠尾根が昨日よりくっきりと見える。本当に天気に恵まれて感謝だ。
ヤセ尾根を回避する巻道。旧テント場を経由して行く。
何度見ても美しい蝙蝠尾根。
塩見岳から塩見小屋方面へ伸びる仙塩尾根。
昨日は満身創痍で歩いていたキレイな尾根歩きも今日で終わりかと思うと名残惜しい。人間というやつは本当にココロがコロコロ変わる。
荒涼とした、少し火山帯のような雰囲気もある尾根。
蝙蝠尾根の分岐まで戻ってきた。ここからがこの工程でも殊更にキツイ登りが待っている。
幽玄で神がかったシルエットを見せてくれる富士山。
毎日感動している。心が感動で満たされ続けると、心の容量が増えるような気がする。なんかそんな気がする。 自分でも気づかないうちに。
分岐から塩見岳までの急登がとんでもなくキツイ。 荷物の重さが足腰にずしっとのしかかる…
何度も何度も息を整えながら、本当に少しずつ登って行く。心臓破りどころか肺までぶっつぁばけるのではないかと思うほど。
びょいぃんと伸びた飛行機雲。 天空への道のようだ。
地平線の彼方まで見渡せる天上界の風景。
振り返っての間ノ岳方面の仙塩尾根。昨日散々見たはずなのに、いつ見ても美しい。 もう少しで塩見岳だ。頑張れ頑張れ
やっと塩見岳まで戻って来た。昨日よりもなんだかキレイな景色に見える。気のせいだろうけど。
東峰は狭いので西峰で景色を堪能。
特にお気に入りの一枚。 塩見岳に立つハイカーと山並みに浮かぶ富士山。 ハイカーは自分の脚で山頂に独り立ち、富士山は日本に独り立つ。
今年は何度富士山を観たことか。多分後にも先にもこんなに観ることはないだろう。 それでも飽きることなく毎回素晴らしいと思う。素晴らしいと思う気持ちがここ数日当たり前になりつつある。感動が常にある。 糞尿が土に触れるとやがて分解され、土に還り山の一部となるように、私の汚れた心も浄化され自然の一部となるような気がする。 そんな澄み切った心が日常でもずっと続くといい。続くだろう。心に大切なものが浸透しきった、そんな気がするから。
塩見岳の岩場を慎重に下りきり、仕切り直したところ。
塩見小屋を過ぎて三伏小屋へどんどん進む。
本谷山手前の稜線からも山々が近くに見えてキレイ。
アルプスの高い屋根に囲まれた南信州。
岩覗き。せっかくなのでのぞいていこう。
覗くと下は断崖絶壁、V字谷。
柵など無いので転落注意。 怖いので速攻退散!
三伏小屋手前の三伏山まで戻ってきた。昨日は夜景だったのではっきりと景色は観れなかったけど、思った以上に良い景色で良い発見だ。
左の烏帽子岳が絨毯を敷き詰めたようで美しい。 右の山道は三伏峠へ向かう道。
振り返っての塩見岳と蝙蝠岳。
もしかしたらもう二度と来ることはないかもしれない。そう思うとなんとなく愛しい気がしてくる。あんなにキツくて、登った時はもう二度と登りたくないと思うのに、本当にココロというものは。
木曽駒と南信州。
紅葉に彩られた三伏峠にある三伏小屋。
小屋が見えると気が楽になる。でも、最後まで気を抜かずに頑張ろう。 小屋に到着し、テントを分解し、乾かしている間に適当に食事を済ます。 他に宿泊者がいて、そのうちの一人とお話しする。みんな自然がいいんだなぁ。その共通点だけで十分だ。
念入りに泥や汚れを落とし、テントを撤収し、しっかりと整理整頓しながらザックに詰める。 ずっしりとしたザックの重みは多分20kg近くあると思うけど、なんとなくこの重さも懐かしく愛すべきものにも思える。 仙丈ヶ岳も見納めだ。また会う日まで。さようなら。お元気で…!
十分に味わい、帰る分の水を汲んでから降ってゆく。
登山口に出る少し手前の分岐。そこで思い出した。初日の登山口をスルーして道間違いしたこと。そしてそこから登山道らしき道が伸びていたこと。もしかしたらそこに通じるのでは?と思い行ってみることにした。 右が正規ルートで、左がそっち方面に行けそうな道。
尾根から外れ、道は左に降りて行く。
踏み跡は下へ下へと落ちて行く。
するとやっぱり駐車場みたいなところに出た。間違いなく道は続いていた。 正規ルートの方が早いと思うのでこちらの道を辿る意味はあまりないと思うけど。
数分歩くと登山口に到着。岩壁と緑が美しい。
夕立神展望台にも緑色岩があるらしいので帰りに寄ってみよう。
林道から見えるキレイな形の山。多分豊口山。 山腹には駐車場が見える。 近くに見えるけど、迂回するような道なので見た目より意外と時間がかかる。
林道の紅葉も本当にきれい。昔は車両でこの辺まで来て満足していたけど、今は歩いて日本の最深部まで入り込んでいる。
少しずつ駐車場に近づいて行く。
ゲートの少し手前で猿がゆっくりゆっくり歩いていた。熊も怖いが、猿も同じくらい怖い。死ぬ可能性は低いと思うけど、一応襲ってくることも考えてストックを取り出しておく。
15時ぴったりにゲートに到着。駐車場はそこそこの混み具合。
車で少し戻ったところにある緑色岩。玄武岩質の溶岩が海底で湧き出し、それが海水に触れると水を含んだ鉱物ができる。するとこんな緑色の岩ができるとのこと。
これと同じものが塩見岳にもあった。説明にもあったけど、大昔は塩見岳が海の底にあった証拠。 塩見岳は3052m。ということは最低でもそれ以下の標高の山は全て海の下だったということだ。
帰りながらコーヒーを飲む。疲れが一気に吹っ飛び、心は開放される。 この後温泉に入り、きれいになった体と心で晩酌をしながら明日の計画を立てる。 完全に能動的な生き方をすると、本当に一片の悔いも残らないことに気がつく。全部自分の責任でやっていることだから、自分に向き合って生きているから。仮に失敗しても誰かのせいにもできないし、しようとも思わない。 誰かのことを煩ったり、逆に煩わされたりせずに生きるってこんなに気持ちいい生き方なんだな。幸せとは、全く煩いがない状態の心であることってブッダは説いている。 悟りを開くにはまだまだ険しい道のりが続くと思うけど、真理を体感したような気がした、なんかとても大切な宝物を見つけたようなそんな気がする旅であった。 私に関係するもの関係のないもの全ての物事に感謝です。ありがとう。