この遡行記録は私がセンパイを騙しそそのかし海ノ溝谷(ウミノミゾタニ)にツッコんでみたお話です。 海ノ溝谷がある場所は岐阜県。 奥美濃の長良川水系板取川の支流にある川浦谷川(かおれたにがわ)に流れ込む谷。 某サワグルイでは中部ゴルジャーの聖地などと評されていた。 沢登りをしていて海ノ溝谷を知らない人はモグリの沢ヤだと言っても過言ではない数多のゴルジャーを魅了する超メジャーゴルジュ。 この谷、まず地形図がヤバい。蛇行する谷の両岸に岩崖の記号が連なり折り重なる圧倒的なゴルジュ地形。眺めているだけでゾクゾクが止まらない。地形図だけで酒が飲める。 そして過去のゴルジャー達の遡行記録や写真を見ると武者震いと冷や汗と吐き気が止まらない。撤退の記録もわんさかでてくる。 まるで怪物の内蔵に飲み込まれたような異空間。 迫りくる紺碧の水塊水流。ホワイトウォーターの巣窟。逃げ場のない艶めかしくテカる側壁。外界と断絶された非日常の谷底。こんなところに足を踏み入れて生きて還れるのだろうか。 おっかな美しい。 ゴルジュストロングスタイルの沢ヤに憧れるゆるふわハイカーの私としてはいつか訪れてみたい夢のようなゴルジューランド。 無論、沢登りビギナーの私に突破できるイメージは皆無で夢のまた夢と思っていたのだが千載一遇のチャンスが巡ってきてしまった。 ・九州遠征の予定が台風の影響で転進となり前々からはーちゃんパイセンと私が行きたいと言っていた川浦渓谷に行くことになった。 ・関市板取のアメダスを見ると2週間でわずか55mm程度しか降水量が無く、水量が少ない可能性が高かった。(沢登りは水量で難易度が全然変わる) ・今シーズン、某クラブの遡行でモノホンの沢ヤに出会い沢ヤの世界に片足をツッコんだ事で感覚がバグった。 ・甲川の遡行のリードができ自信過剰になっていた。 無論、はーちゃんパイセンも海ノ溝の存在は知っている。 ただ、私がストレートに「海ノ溝に行きましょう!」と言っても却下されるか受け流されるのがオチ。 ただ、せっかく川浦谷本流を遡行するなら途中通過する海ノ溝谷の入口の先をちょっと覗いてみたくなるのは沢登り愛好家の性。 そこでウミノミゾウミノミゾウミノミゾと連絡をとる度に呟いていたら、はーちゃんパイセンから「海ノ溝谷を偵察って計画書にいれてみない?」と待望の一言が返ってきた。 「入れます!」と即答し計画書を作成した。 察しの良い方ならお気づきだろう。 私は偵察で終わらせる気なんて更々ない。 一度取り付いてしまえばこっちのもの。 その景観に惹き込まれ更に一歩先を覗き見たくなることは想像に容易い。 あとは私が率先してトップで突っ込み沢登りに対する情熱と愛と毎晩酒を浴びて作り上げた肉体を全力で海ノ溝谷にぶつけるのみ。 後輩の私が突破してしまえばセンパイもノッテくるはず。 渇水で難易度が下がっているならワンチャン全遡行を狙ってみたい。 私の気持ちは出発前に固まっていた。 いざゴルジャーの聖地、海ノ溝谷へ
これが海ノ溝谷の地形図 エロい
20時岡山発、1時半岐阜着。 興奮を鎮めて寝るために睡眠導入剤のビールを摂取。
朝だよ!駐車場近くの橋の上から見る川浦谷本流の70mゴルジュ。 もちろんここに行くつもりはない。
駐車場
川浦谷本流を遡行すると思っているはーちゃんパイセン。 70mゴルジュを上から見て不安のため息が止まらないアッキーパイセン。 先にあやまっときます。すみません。 70mゴルジュよりヤバイところに行く気マンマンなんです(テヘペロ)
海ノ溝に行くだけなら橋のあたりから懸垂で海ノ溝谷の出合の手前に入渓すれば良いが、あくまで川浦本流の遡行を装っているので板取キャンプ場あたりから入渓。
もちろん必要になりそうなギアはこっそりザックに入れてきた。
悪だくみおじさん。
いきなり泳ぎ。アブの集団と戯れながら泳ぐ。
長い本流をひたすら泳ぐ。 プールで泳ぐのとはわけが違う。ヘツリも織り交ぜ体力消耗を抑えながら。
すると見えてきました。奥の中央に見える小滝から切れ込む谷が海ノ溝谷の出合。
ドキがムネムネ!!
海ノ溝出合 アハァーンうふぅ~ん(漏れる吐息) 入口でこれすか!両岸がキレッキレに切れ込んで蛇行していて奥が見えない。 たまんねえ〜
入口の滝は左岸からヘツって突破 噂には聞いていたがヌメヌメ。超ヌメヌメ。
水量が少ないとはいえ水流は太く強い。そしてヌメヌメ。取り付くのも簡単とは言えない。 アッキーパイセンをアシスト。 もちろん2人とも偵察のつもりなので和やかなムード。
エロい
エロすぎる
ヘツリ
ヘツリ 最後はヌメリに耐えステミングで乗り越える
前衛の門番2m滝
偵察のつもりのはーちゃんパイセンが意気揚々おトップで突入。この異様な雰囲気に沢ヤの魂が震えてきた模様。そうこなくっちゃ。
増水時は近づくことすら難しいらしい
水流の下に頭を抱える突っ込み水圧に耐えながら上へ抜ける
お見事
私もロープ無しで突破成功
この水流の下から
こんにちは
次
どっから登ったか忘れた
振り返る 素晴らしい廊下とコンタクトを直すアッキーパイセンの構図
腹巻きスタイル
次
海のような碧
偵察のつもりなのにどんどん進むので呆れ顔
見切れているが右岸が拓けていて登れる
登ったとこから振り返る
こんな平凡な歩きパートさえ美しい
憧れの海ノ溝に自分が内服されている喜びが溢れでてとまんない
アドレナリンどばどば 奇声を発しながら遡行
仲良くツッパリスタイル
うーんマンダム
滝 もちろん滝行した
浅そうに見えて
深い
泳ぎの連続
たしか普通に登った
そして中ボス 深い釜に架かる滝。 これは無理だろムードが二人から漂うがガン無視して突入。 泳いで滝の右壁に取り付きマイクロカムをリスに突っ込んでA0で離陸。側壁に右手足、流心を手探りしてホールドとスタンスを見つけ左半身は流心に突っ込んで水圧に耐えながら直上。 水量が多いと落ち葉のようにふっ飛ばされ私には無理だろう。今日はツイてる。
この先のCSが見たいと駄々をこねる私が行くもんだから付き合ってくれるはーちゃんセンパイ。実はかなり楽しんでくれている。
そしてこの滝で右手にゴムで結んでいたスカイフックが消息不明に。 見つけた方、良かったら使ってやってください。 スカイフックの良い携行方法ないかな。
カム&岩に巻き付けフィックス
CS手前の滝 これが中々に大変だった
泳いで取り付く。 水中の足はヌメヌメで安定しない。手は片手でカチを保持。水流が容赦なく襲ってくるので滝下に留まるだけでも体力ゲージがガンガン減っていく。 左の凹角を攻めるが1人では難儀するのではーちゃんPにも取り付いてもらいショルダー。ほぼ登りきったところでヌメリに絶えれずスリップして落ちる。 はーちゃんPと交代し同じ戦法でトライ。一撃でキメてくれた。めちゃくちゃ頼りになる。 2人ともヘロヘロ。右の水線の方が良かったのか?
そして遂にたどり着いたCS 奥に滝があるので見た目とは裏腹に集束した強い水流が押し寄せている。
岩崖が両岸から迫る狭小空間。自分たちの声がエコーのように反響する。 このCSは高巻きも出来るらしいがここまできてこの水量でやらなきゃ男がすたる。パーティーから偵察ムードは既に消えていた。 対戦よろしくお願いします。
右壁をヘツリ最後は壁を蹴って泳ぎCSしたに潜り込む。3トライするも離陸に失敗。 見かねたはーちゃんPがウズウズしている様子なのでロープで引き寄せトライ。 これまたイチゲキ。パイセンかっこいい。
そこからCSの隙間にハンマー引っ掛け身体を上げる。そのままでは上に抜けれないので流木にスリングアブミをかけてハンドプッシュで足場を作りCS上に乗り上げた。
ザックとアッキーパイセンはジャミングプーリーでぶっこぬいて引き上げ。 CS上から奥にある滝を見る。ここからが更に難関で滝の落ち口上へトラバースするのがセオリーらしいが絶悪ヌメヌメ。 落ちればCSの下に巻き込まれてアウト。
右壁直上ラインに絞りまずはハンマー投げを試したが引っ掛かりそうな隙間は無さそう。 無情にも落ちてきたハンマーがCS下まで落下して引っかかるw CSから懸垂して回収。沢ヤの魂、ゴルジュハンマーを失うところだった。
ハンマーは諦め右壁直上。一歩目が悪いのでショルダースタート。スタンスはしっかりしているものがあるがヌメヌメの外傾なので慎重に登る。
浅打ちハーケンに直接スリングタイオフとドカ落ちしたら岩が剥がれそうなリスにハーケンをねじ込み支点を作る。 後から気づいたが少し離れた場所に残置ハーケンのの支点があった。
静荷重ぐらいなら抜けないけどそっと登ってねと心のなかで呟く
水量が少なかったので難易度的には甘くなっているとは思うが一箇所も巻くことなく突破できた事が良かった。 ゴルジュストロングスタイルの片鱗に触れた気がする。たぶん。 猛烈な安堵感と達成感に包まれる。
CS奥の滝の落ち口
振り返る。CS上に後続のパーティー。人数多いのに速かった。 お待たせしてしまいすみません。
ゴルジュ出口に日が差し込んでいる。
滝
朝は雨がパラついていたがいつの間にか晴れた様子
あとはエンジョイ沢登り
とはいえここでも十二分に素晴らしいゴルジュ地形
側壁が低くなり陽の光が差し込む美しい渓谷を存分に満喫
林道が1番近くなったあたりで適当に脱渓
快適下山に見えるが
アブの大群襲来 ウェットを脱いで肌着になってしまった私は容赦なく噛まれまくる。
林道脇の滝でクールダウン
あの滝壺に私のスカイフックちゃんが 海ノ溝、最高のゴルジュでした。 過去イチ楽しかったゴルジュ突破でした。今も興奮とアブの痒みが冷めやらない。
ヒル