【伯耆大山 遭難事例報告②】 鳥取県の大山山域山岳医療部会隊長の長谷川賢也さんが遭難事故案件に対応しました。長谷川さん、および管轄の琴浦大山警察署に本文と画像、動画の内容を確認いただき、掲載の許可を得ましたので、ここにシェアいたします。 遭難事例報告①:https://yamap.com/promotions/26739 ニュース記事:https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/527821 [凍傷について] 今回、凍傷処置に対して急速解凍を行いました。凍傷とは、「寒冷環境に晒されることにより組織が凍結することで生じる局所障害」とされ、手足の先端、耳、鼻、頬など、血流が届きにくい場所ほど起こりやすいです。また、一度凍傷を負うと、治癒後にも再び負いやすいという特徴があります。すなわち、凍傷は「予防に勝る治療法なし」です。 1.予防の要素 1)風を当てない:装備品を活用して寒冷環境を避ける 2)締め付けすぎない:靴紐、靴下など 3)禁煙:喫煙は血管を収縮させ、血流を滞らせる 4)カロリー摂取:体内のエネルギー、熱の源を増やす 5)運動:筋肉を動かして熱の量を増やす 2.凍傷と思われるときの初期対応 1)低体温からの隔離に加えて、靴下、手袋を外し、乾いたものに取り換え 2)同行者の腋窩(脇の下)または鼠径部で10分加温 3)これで感覚が戻れば行動継続、戻らなければ医療機関へ搬送または急速解凍 3.急速解凍の実施要件 1)中度以上の低体温症がある場合は開始しない 2)充分な資材があること 3)再凍結の危険性がないこと(再凍結は予後を著しく不良にする) 4)初療機関への到着まで2時間以上かかること。 今回の案件では、上記実施要件を満たしていました。数時間以内に医療機関へ行ける場合は、やらないと思いますので、レアケースと言えます。 4.低体温症の4つの基本 https://yamap.com/promotions/25584 1)「隔離」:低温環境の外気、地面や雪などの冷気から隔離=頂上避難小屋への収容 2)「保温」:隔離環境の層を人工的に作って保温=マット、シュラフ、ツェルトなどで要救助者を包む 3)「カロリー摂取」:カロリーを摂取し熱を産生させるエネルギーを得る=高カロリーの食べ物や暖かく甘い飲み物を摂取 4)「加温」:体を温める=プラティパスなどへお湯を入れて湯たんぽを作り、体を外から加温 1)、2)、4)を組み合わせたものを「低体温ラッピング」といい、日本初の国際山岳医である大城和恵さんと北海道警察の山岳救助隊とが協力して確立した技術です。 https://sangakui.jp/medical-info/cata05/medical-info-345.html これらを踏まえて、私たち山岳医療従事者の提言としては 1)単独の場合は特に行動に注意 2)登山届、GPSを携帯し、自分で通報ができる場合は現在地(座標)を伝えることができるように 3)特に冬季は、ツェルト、火器、スコップなどを持ち、使えるように(そこで救助が来るまで待てるように)事前に練習 4)同行者の立場(バイスタンダー)としては、低体温、凍傷の初期対応を重ねて確認 などを挙げたいと思います。 今回は、2月12日(事故発生の翌々日)朝までは要救助者の生命が維持できないだろうというギリギリの判断でした。こういうシビアな救助の場合、自分たちの安全をどう考えるかも課題となりました。 山岳医療救助機構 低体温症 2017 by 大城和恵 https://sangakui.jp/medical-info/cata01/medical-info-317.html