櫛ヶ峯(上岳)・駒ヶ峯・乗鞍岳(青森)
2026年10月18日 (日)日帰り
寒露の末候「きりぎりすとにあり」。
コオロギや 秋の虫の音聞く間なく
世知辛い世の 時はかけゆく
今回は近場といえば近場の「南八甲田・櫛ヶ峯」へ。
2024年8月「幻の県道」の記録
https://yamap.com/activities/34008743
【南八甲田火山群】
八甲田山は複数の成層火山や溶岩ドームなどからなる火山群で、北八甲田と南八甲田に大別される。
南八甲田火山群は、約110万年前から30万年前にかけて活動した「先カルデラ」の火山群。玄武岩、安山岩、デイサイトなどの溶岩や火砕岩が重なり、現在の山々を形づくってきた。
山名と火山体は必ずしも一対一ではない。ひとつの山に異なる時代の噴出物が重なることもあれば、複数のピークがひとつの火山体を形づくることもある。
櫛ヶ峯、乗鞍岳、赤倉岳、猿倉岳、横岳、下岳、南沢岳──。
山頂をひとつずつ巡るだけでは見えてこない、火山群としてのつながり。その地形に刻まれた時間を、地質図と足元の大地を照らし合わせながら辿ってみたい。
4:05、星空。気温7℃。自宅発。
谷地温泉周辺ではブナの紅葉が始まっていた。
5:35、気温1℃。猿倉温泉(休業中)に到着。土砂の流入で駐車場が使えず、温泉前に駐車した。
6:00、日の出が辺りをオレンジ色に染め始めた頃、観光道路(旧県道)跡へ。
ここからは、地質図に描かれた大地の歴史と、約90年前に人が刻んだ道の記憶が交錯する。
地質図では(Hs2・Th・Tk)の地熱変質帯と重なる区間がある。その下には(Hs1)南八甲田第1ステージ溶岩・火砕岩、さらに古い新第三紀の地層が眠っているのだろう。
赤倉岳登山口までは、静かなブナの森を歩きながら土木遺構を観察する。
石垣、側溝、モルタル片、道幅、切土。当時、救農土木に携わった人々は、どんな思いでこの道を造ったのだろう。いまは森に包まれつつある遺構が、往時を静かに伝えている。
6:50、赤倉岳登山口。
矢櫃萢(やびつやち)手前の笹地帯は刈り払いされ、「への字」に見える猿倉岳を眺めることができた。
7:15、矢櫃萢。赤倉岳、矢櫃山、猿倉岳に囲まれた高層湿原だ。
青空のもと、キンコウカのドライフラワーが広がり、足元には初氷。
7:30、霜の降りた矢櫃橋へ。古い橋台には丸石を用いた石積みが残り、「谷積み」工法だろうか。
標高点1250m(矢櫃山)へと南進する。
南には乗鞍岳、東には三本木原台地と太平洋。中腹のヘアピンカーブでは、猿倉岳や高田大岳など北八甲田の山々が、ドンと眼前に現れる──。
幻のスカイラインを想像しながら歩いた。
8:10、松次郎清水。オオシラビソやダケカンバに囲まれ、石畳のような路面が残る。水を一杯いただき、再び歩き出す。
5分ほどで一の沢。橋台と護岸が残り、乗鞍岳への小径が続く。湧き水の多い区間では道跡も薄くなり、水溜まりにはヤシマットが敷かれている。当時のものと思われるヒューム管も見受けられた。
洗掘の笹のトンネルも刈り払いされて歩きやすかった。
8:45、地獄峠。南の黄瀬沼方面へ笹のトンネルをくぐると、箱庭のような池塘が現れ、空と雲の筋を映し出していた。
足元の小石にも変化が現れ始める。
第2ステージ(Hs2)、地熱変質帯、(Hsb・Hs1)が重なる区間。赤茶けた変質岩や小さな軽石のような石が見られた。
9:00、黄瀬川の源頭を越え、駒ヶ峯の野営地に到着。
南側には雲海が広がり、早池峰山、岩手山、八幡平、秋田焼山、森吉山が頭を覗かせていた。
地質図では(Hsb)駒ヶ峯火砕岩と(Hs1)駒ヶ峯溶岩が重なる場所で、ここも地熱変質帯にあたる。大きな岩塊や露頭に触れると、溶脱孔のある安山岩らしい岩石が見られた。
9:35、櫛ヶ峯登山口。
幻の観光道路(旧県道)は南南西へとオオシラビソの間を抜けていく。登山道は西へと進む。
高層湿原手前の開けた場所(Th)には、赤茶けた土と火砕岩が広がり、シラタマノキの白い実が目を引く。
草紅葉の高層湿原。木道の先には、穏やかな山容を縁取る草紅葉と、笹の緑に櫛の歯のような筋が入る櫛ヶ峯が佇んでいる。
風が渡る。
湿原を抜けると、田堰沢の源流が斜面を切り込む。(Hs1)第1ステージと(Th)が接する場所だ。異なる時代の地質が交わる境界なのだろうか。わずか4、5mほどの落差にも、長い時間をかけて刻まれた地形の変化を思う。
赤茶色の粘土質の地層を観察し、洗掘された斜面の鎖場を越えると、(Hs2)第2ステージへ。
オオシラビソと笹の小径を抜け、木道の斜面を登り切ると、草紅葉の急勾配となった。ハイマツやタカネナナカマド、オンコ、オオシラビソなどの高山低木と笹原から、北八甲田や南側の山々が見え始める。
何度も足を止めながら登り、10:45、南八甲田の主峰「櫛ヶ峯」に登頂。
二等三角点と山名標柱が建ち、360度の大展望が広がる。
湯を沸かし、カップ麺とコーヒー。カルデラ形成後に活動した北八甲田の山々を見つめる。
足元の小石を割ってみる。斑状安山岩や赤紫色の砕けやすいスコリアを手に取り、再び景色を眺めた。
数年前、この山頂で着替えていた時のこと。西の空から羽音を響かせ、ロケットのように私をかすめて飛んだハリオアマツバメを思い出した。
不思議な出来事だった──。
みちのくの秋の晴れ間の 櫛ヶ峯
こころ残して嶺を降りゆく
【火山と幻の観光道路】
人が山に刻んだ道。その足元には、さらに長い時間をかけて大地が刻んだ地形がある。
人の手によって造られた道は、少しずつ自然の手によって還っていく。
秋の陽の傾き。ブナの落ち葉──。
このごろの 火山巡りのおもしろさ
残りわずかな 秋の晴れ間に
【参考資料】
・産業技術総合研究所 地質調査総合センター
宝田晋治・村岡洋文(2004)
『八甲田山地域の地質』
地域地質研究報告(5万分の1地質図幅)
https://www.gsj.jp/Map/JP/docs/5man_doc/05/05_030.htm
※地質については、産総研地質調査総合センター刊行の『八甲田山地域の地質』を主資料とした。