また山に、その一言が欲しくて 〜愛知県最高峰攻略戦〜
茶臼山・萩太郎山
(愛知, 長野)
2026年05月30日(土)
日帰り
駐車場1000円 リフト600円
観光でオッケー トイレ有り
愛知県最高峰 2座ゲット
ここから長文山情報無し スルーして笑
愛知県最高峰。
未踏。
つまり――まだ攻略していないダンジョンである。
前回挑戦した時は天候不良。
あと少しで入山という所で撤退を余儀なくされた。
あの時の空は黒かった。
風も強かった。
山は逃げない。
そう自分に言い聞かせながら引き返したが、悔しかったのは間違いない。笑
そして――
機は熟した。
晴れ。
快晴。
しかも台風接近前。
山の神様が
「今なら良いぞ」
と言っている気がする。
行こう。
愛知県最高峰へ。
同行するのは娘。
今回で父娘登山も4回目だ。
そろそろ体力も付いてきた。
そして同時に、
「山?別に行かなくても良くない?」
という飽きが来る可能性もある。
ここが勝負所だ。
父としては何としても
《山大好き計画》
を成功させたい。
失敗は許されない。
装備確認。
前日に娘へ伝える。
「明日はスニーカーで観光地歩く感じで大丈夫だぞ」
標高差?
距離?
そんな物は伏せておく。
余計な情報は不要だ。
サコッシュ。
タオル。
現金。
日焼け止め。
今回の装備はそれで十分。
当日。
車で約1時間20分。
車内では補給も忘れない。
前回の笠松山。
シャリバテ事件。
あれは危なかった。
父は学習する生き物である。
「なんか食べときな〜」
「うん」
よし。
今回は大丈夫そうだ。
そして到着。
ベースキャンプ。
そこには冒険者達が集結していた。
売店。
出店。
キッチンカー。
活気。
賑わい。
まるで祭りの前線基地だ。
しかし我々の目的は違う。
目指すはただ一つ。
《愛知県最高峰の頂》
寄り道している場合ではない。
真っ直ぐチケット売り場へ向かう。
周囲を見る。
多くの人が往復券を買っている。
だが我々は違う。
片道券。
帰りは自らの脚で下る。
それが今回の作戦だ。
娘は特に気にしていない。
だが父は少しニヤリとする。
こういうの好きなんだよな笑
標高は既に高い。
半袖だと少し肌寒い。
だが安心して欲しい。
十数分後には
「あっちぃ……」
になる事を父は知っている。
空を見る。
青い。
雲も少ない。
最高だ。
前回は届かなかった場所。
撤退したあの日の続き。
愛知県最高峰攻略戦――
いよいよ開幕である。⛰️✨
リフト乗り場。
ここから一気に標高を稼ぐ。
普段なら自分の足で登る所だが、今回は特別だ。
その時、娘が言った。
「パパ最初に行ってね」
「ん?」
一瞬、頭の中に不安がよぎる。
まさか別々のリフトなのか?
それは少し寂しい。
「別々って事?」
「違うよ。奥側って事」
――ホッ。
思わず胸を撫で下ろした。
危ない危ない。
父親、思った以上に重症である。
二人並んで腰を下ろす。
ゆっくりとリフトが動き出した。
地面が離れていく。
木々が近づく。
風が頬を撫でる。
そして標高がどんどん上がっていく。
「おぉ〜」
娘も景色を見ている。
父も見ている。
だが見ている物は少し違う。
娘は景色。
父は娘の楽しそうな顔である。
うわはははは!
リア充だろぉ!
見たか世の中!
娘と二人でリフトだぞ!
これはもうデートと言っても過言ではない!
いや、過言か。
過言だった。
訴えられる。
だが心の中では完全にイベント発生である。
しかも天気は最高。
景色も最高。
風も気持ち良い。
リフトは静かに空へ向かって進んでいく。
……。
ふと冷静になる。
いや待て。
リフトでピークを獲りに行くってどうなんだ?
登山者として。
冒険者として。
「歩いた方が早いんじゃね?」
ボソッと呟く。
娘が笑う。
うん。
クールだ。
たぶん。
いや全然クールじゃないな笑
このままずっと揺られているのも悪くない。
風を感じながら、
景色を眺めながら、
何も考えず空中散歩。
そんな時間も好きだ。
だが――
リフトは容赦なく終点へ到着した。
「着いた〜」
萩太郎山(1,358m)。
リフトを降りればすぐ山頂だ。
展望台あり。
キッチンカーあり。
ベンチあり。
観光客いっぱい。
なんなら恋人達もいっぱい。
平和である。
ここで一座ゲット。
……。
う〜ん。
歩きたい!
冒険者の血が騒ぐ。
だが今日は違う。
今日は娘との山行だ。
いや、
山行と言って良いのか怪しいレベルだが笑
観光山。
それで良いじゃないか。
娘とデートなんだから。
気持ちを切り替える。
というか昨夜から既に登山モードではなかった。
車で来て。
リフト乗って。
景色見て。
完全に観光である。
すると娘が言った。
「牛串食べよう」
「じゃあパパ牛タン串な」
「半分こずつね〜」
よしきた。
即承諾。
食べ物イベントは重要だ。
「あっ、あそこのベンチ空いた〜」
二人で向かった先には立派な看板。
Sky Garden ― 空中庭園 ―
なんだそのカッコいい名前は。
RPG終盤のダンジョンみたいじゃないか。
えっ。
クエストクリア?
まだ何もしてないぞ?
南アルプスを眺めながら並んで座る。
牛串を頬張る。
風が気持ち良い。
景色も良い。
娘も楽しそう。
……。
いや。
これもう十分じゃないか?
むしろ帰りもリフトで良いんじゃね?
スワンボート乗りたいって言ってたし。
ソフトクリームもあるし。
観光だけで一日終わりそうだ。
だが――
父には使命がある。
《山大好き計画》
である。
ここで発動しなければならない。
牛串を食べ終え、
立ち上がる。
そして何でもない事のように言った。
「さあ、茶臼山行こう〜」
「愛知県の最高峰なんだって〜」
まるで近所の公園に行くような口調で。
もちろん心の中では、
『頼む!そのまま山を好きになってくれ!』
と全力で祈っていたのだった。⛰️✨
空中庭園を後にする。
名残惜しくないと言えば嘘になる。
牛串は美味かった。
景色も最高だった。
風も気持ち良かった。
正直、あそこで昼寝して帰っても満足できるレベルである。
だが父には使命がある。
《山大好き計画》
そのクエストはまだ終わっていない。
萩太郎山から先は、しばらく雪の無いゲレンデを下っていく。
目の前に広がるのは草原。
どこまでも続く緑。
風に揺れる草。
青い空。
白い雲。
草原――。
その言葉だけで色々な物語が頭に浮かぶ。
アニメ。
映画。
ゲーム。
冒険の始まりの村を出た主人公。
仲間との旅立ち。
大切な人との別れ。
そんな名シーン達。
そして今、その景色が目の前にある。
しかも。
数メートル先では娘が髪をなびかせながら両手を広げている。
風を受けて。
楽しそうに。
はしゃぎながら。
……。
最高じゃないか。
思わず顔が緩む。
いや、緩みっぱなしだ。
第二駐車場までの道はひたすら下り。
そこから茶臼山へ向かう西登山ルートへ入る。
すると景色が変わった。
観光客はほとんどいない。
いるのは登山目的の人ばかり。
草原。
少しの樹林帯。
整備された登山道。
まるで
「ここから先は冒険者エリアです」
と言われているみたいだった。
草原を登り切った所で木陰を見つける。
二人並んで休憩。
「暑いな〜」
「風が気持ち良いな〜」
娘も嫌そうな顔はしていない。
疲れてはいる。
でも楽しそうだ。
うん。
良いじゃん。
そんな時だった。
近くで休んでいたライダーさんが声を掛けてきた。
「その格好でこの先行くのか?」
「大変だぞ!」
「前回来た時、酷い目にあったんだ。」
「だから俺はここまでなんだ。」
…………。
確かに。
改めて見てみる。
娘。
スニーカー。
GUファッション。
サコッシュ。
タオル。
どう見ても観光客。
登山感ゼロ。
山頂よりソフトクリームが似合う。
そして父も似たようなものだ。
ライダーさんは本気で心配してくれている。
それは分かる。
分かるのだが――
脳内では別の自分が現れていた。
誰に言ってんだよ笑
毎日のように山登ってるんだぞ。
こっちは虚空蔵山だけで百数十回。
風越も笠松も高鳥屋も。
大体どこかの山にいる。
もはや山に行かない方が不健康まである。
しかも今日はただの登山じゃない。
父には重大な任務がある。
《山大好き計画》
発動中なのだ。
頼むから余計なフラグを立てないでくれ笑
とはいえ口には出さない。
大人だから。
社会人だから。
父だから。
「そうなんですか😃」
「ありがとうございます♪」
「気をつけて行ってきますね。」
満点の笑顔。
完璧な対応。
だがその裏では――
こっちは娘山好き計画の真っ最中なんだ。
邪魔しないでくれよ笑
と、しっかり思っていたのであった。
「じゃあ行こうか。」
「うん!」
――父、勝利である。
ライダーさんの不吉な予言も。
娘の飽き問題も。
とりあえず今は乗り越えた。
《山大好き計画》
順調に進行中である。
登山道は砂利が敷かれ、
ところどころ階段も整備されている。
歩きやすい。
娘も普通に歩いている。
会話しながら。
景色を見ながら。
たまに立ち止まりながら。
そして――
難なくピーク到達。
茶臼山。
愛知県最高峰。
本日二座目ゲットである。
山頂には展望台もあった。
景色を眺める。
風を感じる。
達成感もある。
だが。
正直に言おう。
今回はピークハントが主役ではない。
娘と来たこと。
一緒に歩いたこと。
それが何より大きい。
目的は達成した。
なら次のクエストだ。
「さぁ下山してキッチンカー巡りしようぜ。」
娘が笑う。
父も笑う。
こうして愛知県最高峰攻略戦は、あっさり終了した。
そしてサクッと下山。
再びベースキャンプへ帰還する。
すると――
人が増えていた。
来た時以上の賑わい。
さすが休日だ。
家族連れ。
カップル。
犬を連れた人。
友達同士。
みんな楽しそうだ。
みんな笑顔だ。
いつも自分がいる山とは少し違う世界。
静寂を愛し、
孤独を愛し、
熊の気配に怯えながら独り言を連発する山男の姿はない。
代わりにあるのは、
楽しそうな笑い声と、
美味しそうな匂いと、
穏やかな休日の時間だった。
「あれ食べよう。」
「これ飲みたい。」
「それ少しちょうだい。」
そんな会話をしながら歩く。
気になる店を覗き。
気になる物を食べ。
少し交換して。
また笑う。
そして最後は――
ソフトクリーム。
やっぱりこれだ。
山頂の達成感も良い。
稜線も良い。
絶景も良い。
だけど。
娘と並んで食べるソフトクリームも、なかなか悪くない。
いや、
むしろ最高かもしれない。
青空の下。
楽しそうにソフトクリームを食べる娘を見ながら思う。
愛知県最高峰。
無事攻略。
そして――
《山大好き計画》
今回も大成功である。🍦⛰️✨