至仏山・尾瀬ヶ原 鳩待峠ルート
尾瀬・至仏山・悪沢岳・笠ヶ岳
(群馬, 新潟, 福島)
2023.11.04(土)
日帰り
いつも福島の御池から歩く尾瀬。たまには、群馬から入山して、御池からは遠すぎる至仏山を登ることとし、冬季閉鎖直前に滑り込みでやって来ました。
最近は気温が高めなものの、標高の高い場所では朝晩はかなり冷え込みます。今日も沢山着込んで尾瀬第一駐車場にて夜を明かし、始発のバスで鳩待峠に向かいます。先週末で各所の小屋の営業も終わったらしく、閑散とした雰囲気の中出発します。鳩待峠からは、まずは降りで山の鼻に向かうことになりますが、木道は特に濡れているようにも見えなかったので、走って進みます。ところが、沢に近いところでは霜が下りているようで、見た目は乾いている木道で足を滑らせ、何度も転びそうになります。仕方がないので、ゆっくりと慎重に進んでいきます。
小屋が閉じた山の鼻はとても静かで、ここが尾瀬であることを忘れてしまいそうです。わずかな重装備の登山者と挨拶を交わすのみで、早速無人の尾瀬ヶ原に向かうこととします。木道を歩き始めると目の前には、冷たく締まった朝の空気に包まれ白く霜の下りた大湿原が、巨大な燧ヶ岳まで続いています。尾瀬ヶ原は9月にも来たばかりですが、静謐な朝誰もいない中では、全く様相が異なります。仙境、聖域、などと言い表す表現は数多ありますが、人間が存在することすら畏れ多いような、神聖な空間がそこにはありました。この尾瀬ヶ原を、ほぼ独り占めしながら歩くのです。側から見たら気味悪いであろう笑みを浮かべ、ひたすら感嘆をつぶやく独り言を繰り返していても、仕方がないのです。紅葉は終わり気味ですが、誰もいない尾瀬ヶ原は、方向性が全く異なる神秘的な風景となっていました。前回と軌跡を繋げたかったので、とりあえず竜宮まで歩き引き返します。この頃になると、人も増えてきて霜も朝露も乾き、いつもの尾瀬の雰囲気が戻ってきます。目の前の至仏山へ気持ちを切り替えて、山の鼻に向かいます。
至仏山は、その登山道が蛇紋岩の岩場と木道、あとちょっとの泥濘という、悪意しか感じない要素で構成されます。つまり、滑るのです。日が少し高くなり、足元は乾いてきているものの、気を抜くと足があらぬ方向へ飛ばされます。転ぶことだけは避けつつ、登り返しのない急登を黙々と進みます。振り返ると、先程歩いた尾瀬ヶ原と燧ヶ岳の眺めが広がります。文句なしの絶景です。慎重に辿り着いた山頂からは、見渡す限りに名山が犇くとんでもない絶景が広がっていました。燧ヶ岳、会津駒ヶ岳、越後三山、平ヶ岳、谷川岳、巻機山、苗場山、男体山、日光白根山、皇海山、赤城山、上州武尊、これまで登った思い出を浮かべながら、山座同定に勤しみます。これだけ色々な山域を眺められる頂は、滅多にないのではないでしょうか。
後ろ髪を引かれる中下山に取り掛かりますが、蛇紋岩の悪意は降りにこそより発揮されます。普段より心持ち1.5倍くらい時間をかけて、絶対に転ばないよう慎重な体重移動で進みます。やはり、蛇紋岩の山は神経をすり減らされます。とはいえ、小至仏に向かう稜線は、両面が切り立ち大きな岩が立ち並ぶ、迫力十分なトレイルです。最近行った中でも、群を抜いた眺めだと感じます。蛇紋岩でなければ、何度も登りたくなる山です。
自宅から五時間圏内の百名山は、これで最後です。あとは、最短で六時間超えの山が残り39座。完遂まで数は減ってきましたが、まだまだ折り返し地点も遠い気がします。あと何年かかることやら。