命の炎を燃やせ-29 残雪期槍ヶ岳
槍ヶ岳・穂高岳・上高地
(長野, 岐阜, 富山)
2026年05月09日(土)〜11日(月)
3日間
昨年春に涸沢にバカンスしに行ったが、帰りに横尾で高校時代の同級生に出会った。ガイドさんと槍ヶ岳に登った帰りだった。穂高を眺めるだけで帰ってきた私は、来年は残雪期の槍ヶ岳に登ろうと目標にしてきた。彼と同じく、槍沢ロッジと槍ヶ岳山荘の2泊で確実に登れるスケジュールにした。天気予報を何度もみて、当初から日程を1日ずらした。入山日は朝方に荒れるかもしれないが、核心の2日目、下山の3日目は大丈夫なはず。
22時半過ぎに自宅を出発して、2時半にあかんだな駐車場に到着した。もう1時間早めに出たほうが良かったな。到着したら、雨が本格的に降ってきた。そのうち、大きな音を立てた。あられか?朝になっても雨はなかなか止まない。今日は槍沢ロッジまでなので出発はゆっくりで良い。雨が小雨になってきたのでバスターミナルに向かう。7:20のバス。ヘルメット付きの大きなザックは私だけであった。
上高地食堂で朝食を食べて、雨が止むのを待つ。食堂は満員であったが、十数分待って座ることができた。和定食にしたが写真と違い、魚も野菜も小ぶりだった。でも、味は良かった。食事の途中に外を見ると雪に変わったりしたが、やがて雨も止んだ。狙い通り。歩き出すと青空も見えてきた。雨上がりの朝のためか、河童橋の観光客はまだ、少なめ。
小梨平、明神、徳沢と進めるうちにどんどん晴れてくる。ちょっと早すぎないか。3日目まで持つか?周囲のニリンソウに癒されながら快調に進んで、横尾到着。観光客はおらず、登山者もまばらだが、ほとんどが欧米系の大柄な方たち。なんか、別世界。
ここから槍沢へ。早々にロッジに着いて今日の行動は終了。結構寒かったが、お風呂に入って暖かくなった。ありがたい。宿泊は6名で、ご夫婦は自炊されたので、夕食は4名のみであった。GW明けとはいえ、こんなに少ないのか。同室の若者によると、ロッジの5分ほど手前の揚水ポンプあたりで猿より一回り大きな子グマがいたそう。ということは親グマが近くにいるのか?明日は明るくなってから出ることにしよう。
2日目。若者たちが4時ぐらいに出たので、それにつられて、予定より早めに出発。でも、ヘッデンはほとんど不要だった。ババ平の手前から雪が出てきて、テン場の上から谷に降りて雪上の登りとなるがその上部は雪切れして通行できないので、夏道に戻り、雪のないルート、雪切りされたデブリ渡りもあり、その先で谷に戻り、ここから本格的に雪上登りとなる。暫く登ったところでアイゼン装着、ストックのままで登っていく。先に出発した同宿したボーダーのおじさん、若者2名の姿が雪上に見える。登っていくと若者2人が分かれ、二人目は動いてないように見える。どんどん近づいていくと、一人が降りてきた。調子が良くなくて槍沢ロッジに戻るとのこと。モレーンのあたりまでいってみてはと勧めたが、雪山には十分には慣れてなくて、槍も初めてとのこと。様子を見ると確かに慣れてない。無理は禁物なのでそれ以上は勧めなかった。
モレーンの手前は傾斜が増すが直登。積雪期ならではですよね。そこから、いったん傾斜は緩むが徐々に増してくる。右に殺生ヒュッテが見えると、そちらの方向から時折、ザーッと音がする。ボードかスキーで滑られているのかと思ったら、ヒュッテの屋根から雪が流れ落ちる音だった。太陽の日を浴びて融け落ちているようであった。このあたりは風がなく、後ろから太陽が照り付けるので暑い。ドライレイヤーの上に夏用の長袖一枚でも暑くて汗が落ちる。
天候が悪ければ冬に戻るのに、今日は真夏のようだ。春山の難しいところだな。目の前に見える槍が近づき、槍ヶ岳山荘も見えてくるがここからが長いのはよく知っている。急ぐとダメージが来るので、抑え気味に登り、肩に着いた。予定より十分早かった。気になる槍の穂先。登山者が登っているのでよく観察する。中間付近に雪面が見えている。あの辺が核心だな。降りてこられるのを見るとかなり時間をかけておられる。かなり難しそうだ。20Lのサブザックに補助ロープとカラビナを入れ、スリングで簡易チェストハーネスを装着してPASをセット。使わなくて済めばよいが、安全第一。
最初は岩を登り、ハシゴや鎖を使って高度を上げていく。白ペンキの丸印、矢印は見えるが、雪に隠れているのもあるだろう。やがて、鎖のない雪面に出た。鎖は雪の下らしい。アイゼンの前爪を刺し入れ、ピックを雪面に打つが、雪が深くないので深くは刺さらない。もっと雪があればピックを十分に差し込んで、ステップを作って登れるが、ここのステップはわずかで使いにくい。太陽の日差しで溶けてしまって、それが固まっている部分もある。なかなか厄介である。ハシゴなどにセフルビレイを取って、振り返って帰路を考える。これは難しいぞ。補助ロープやギアを持参しているので自分の技量でも何とか降りられるだろう。適度な緊張感はあるが、装備のおかげで冷静にいられる。
先ずは山頂まで登ろう。例の長いハシゴを、アイゼンをひっかけないようにゆっくり登りきって山頂に飛び出した。誰もいない山頂を独り占め。笠ヶ岳から鏡平、双六、三俣蓮華、黒部五郎、鷲羽、水晶・・・名峰が連なる。笠ヶ岳の奥に白山。南には大喰岳、北穂、奥に前穂北尾根、奥に乗鞍。東には雪の少ない常念、大天井、東鎌尾根。ずっと先には南アルプスが見える。360度の絶景だ。一通り楽しんだので、そろそろ降りよう。
長い下り用ハシゴを降りて・・・その先の下りは、岩と雪のミックスで鎖は出てない。スリップしたら終わりだ。冷静に足元を確認しなければ。前爪を差し込んで、岩を持ってクライムダウンする。岩が思いのほか不安定で、ぐらつくので要注意だ。慎重に下りて、アンカーのある所でセルフビレイを取って一休み。このルートも貸し切りなのでゆっくり楽しもう。ここから半分凍った雪面。天国への滑り台になっている。次のハシゴまで、補助ロープを出して安全、かつ快適に下れた。次は・・・ロープを延ばしてみたが、そのあたりに支点になるものがない。また、下りのルートがどこなのかわからない。実際は下を見て左側に下りると鎖があるのだが、この時点ではわからなかったし、ロープはそこまで届かなかった。下を眺めていると右手の下方に登り用のハシゴと登り用の矢印が見える。安全に下降するには、このハシゴを使った方が良さそうだ。多分、誰も登ってこないだろうし、来ても待機してもらえばよいので、ハシゴまでクライムダウンしてハシゴを降り、岩を掴んで降りて、途中から下り用の鎖場を下降し、ようやく降りることができた。長い時間をかけたが降りられてほっとした。
宿泊の手続きをして荷物を置いたら、お昼にマーボーナス丼をいただいた。下から登った疲労感、穂先から降りられた安ど感もあるためか、とってもおいしかった。しばらく外に出て展望を楽しんだり、談話室でゴロゴロしたりしてたが、隣の大喰岳へ登ろうかと考え、準備して外に出てみたが、すでに雪がグズグズで踏み込むと崩れる状態。大喰岳から戻ってくる小屋のスタッフさんの様子を見ていると、大岩を巻いてトラバースするか所で、クライムダウンの体制でかなり慎重に移動されている。雪がゆるんでいるので慎重になっておられるのかな。それを見ていくのを止めた。
今日泊まられたのは、私と同じ、槍沢ロッジから来られたご夫婦、横尾から来られたご夫婦、上高地を7時に出て一気に登ってこられた超健脚のおじさん、昨日から宿泊している台湾から来た若者、でっかい欧米人2名であった。夕食をいただきながら、山談義で盛り上がった。話を聞いていると、この時期に槍に来て穂先まで登ってしまう方たちなのでレベルが高く、なかなかの猛者ばかりだった。台湾からの若者は「むっちゃ怖かった」と話していた。とっても親しみのある若者だった。ほかにフィリピンからの団体が来るはずだが、ローカット靴の方もいるみたいなので、下のロッジで登ってこないように説得するようにしていると、スタッフさんが話しておられた。実際、食事を終えて日没を撮影しに外に出たころにようやく、6名のフィリピン人が登ってきた。登ってきて喜んでいるのはわかるけど、やっぱりこの時刻にしか登れないのは計画ミス、無謀だと思う。
夕方は冷え込んだが風は弱く、アーベントロートを楽しんだらストーブで暖かい談話室で温まった。昨日と違って、夜はよく眠れた。翌朝も快晴。富士山も見えている。太陽は穂先の奥から登るみたいだけど、それなりにモルゲンロートも楽しめた。氷結しているであろう雪面を敬遠して、誰も穂先には登らなかった。朝食をいただいていると、朝食を食べずにご夫婦が降り始めたのが見えた。雪面が氷結しているのだろう。体を開き気味にして、一歩一歩踏みしめてか確実に下降されている。支度をして、そろそろ降りよう。欧米人、もう一組の御夫婦の後に降り始めた。太陽が正面から照っており、またしても無風状態なので非常に暑い。特に急ぐ必要はないので、ゆっくり降りる。傾斜が少し緩んだら、トレースを外して尻セードして降りた。登ってくる方も2,3名程度。GW明けの平日は閑散としていた。
あとは新緑ときれいな水の流れ、満開のニリンソウを満喫して上高地に14時に到着した。河童橋付近は人が一杯。特に外国人が多かった。登山者は完全にアウェイ状態。いつものことだけど。
氷結した槍の穂先はこれまでになく難度が高かった。奥穂の雪壁以上であった。再び、この頂を踏みに来られるだろうか。検査が近づいている。再発したら今度は厳しいかもしれない。こればかりはどうしようもない。また、登りに来られますように、八百万の神に祈るしかない。