愛らしい声が聞こえる

2020.04.08(水) 日帰り

チェックポイント

DAY 1
合計時間
3 時間 50
休憩時間
57
距離
9.2 km
のぼり / くだり
567 / 566 m
10
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3
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1 7
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活動詳細

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 国民に対して、何度目かの内閣総理大臣の呼び掛けがあった。物心ついてから今まで、首相が何度も国民に向けて語りかけるということはなかったはずだ。都市部ではついに非常事態宣言が発出され、私などは歴史の教科書で見た戒厳令を連想していた。  世の中の危機的な喧騒を思いながら、トレイルに出向いた。  平日の昼間、低山の林道じみた道のりのせいもあってか、誰一人歩いている人はいなかった。自然歩道に入る前にスマートフォンで社会全体の苦しいニュースを確かめた私は、厳しい顔つきのまま歩を進めた。道のりの半分は舗装された林道だった。登山らしさには欠ける道を、私は敷き詰められた枯れ葉を踏みながら歩いた。  経済危機は、戦後日本が直面したことのない衝撃を社会にもたらしかねないという。  子どもの頃、私たちを心から楽しませてくれたコメディアンは発病から幾日かで亡くなった。  英国の首相は、身近な人がいつ亡くなってもおかしくはない、と自国民に告げ、自らもICUに搬送されたという。  踏みつけた枯れ葉のパリパリとした音の連続に包まれて歩く私は、けれども、暮らしは続き、また、続けていくことに努めなければならないことを思っていた。  ここ数回の山行に比べれば容易い道のりのはずなのに、私の体はいつになく疲れていた。ざわつく心持ちと疲れた体に辟易して、私は道のりの途中で座り込んだ。普段は滅多に口にしない行動食を口にした。チョコレートの甘味が口の中に拡がって、それから水を一口飲んだ。一息ついた私は、タオルで額の汗を拭った。そうして、この林道を包む賑やかな声に気がついた。  ちゅんちゅん、ぴいぴい、ほうほけきょ。  鳥たちの囀ずりだった。その声は朗らかで愛くるしく、そしていとおしかった。  目を閉じて耳を澄ませば、この森のあちこちで鳥たちが歌っている。  この世界は甘美である。  釈迦は入滅の間際、そう呟いたと言う。  甘美な世界を苦で充たしているのは、人かも知れない。      今般の世界情勢は、私たちの社会が数十年信じてきた価値観そのものを否応なく組み換えることになるかも知れません。  事態が沈静化した後に、その変化が、人々にとって少しでも善いものと転じることを願います。そして、現代文明の先端にあって、新しい地平を切り開くYAMAPが人類に深く広く貢献していることを期待しています。  

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