十勝岳(撤退) -2022-12-22

2022.12.22(木) 日帰り

チェックポイント

DAY 1
合計時間
4 時間 25
休憩時間
1 時間 20
距離
4.7 km
のぼり / くだり
414 / 414 m
1 12
1 43

活動詳細

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毎年登っている十勝岳、ここ3年は冬の時期に登っている。 今年も冬山の一つの目標にと休みと天気のタイミングを伺っていた。 22日、山行の時間帯でのwindyでの風速は5m、最大で15m。SCWでも昼頃までの天気は晴れ間あり。マウンテンフォーキャストでも風の数値は何となく一緒、天気も雪予報ではなかった。 12月に入ってからほとんど雪予報でなかなか無い晴れ間かなと思ってしまった。 午前中をメインに朝イチワンチャン勝負ならいける、そう思っての決行とした。 6時に望岳台到着。気温−10℃だが今日は最高気温はいつもより少し上がる予報。 車を止めた同タイミングでもう一台車がやってきた。 朝イチで狙うのは、今日の天気や十勝岳の難易度を分かっている強者だと思った。 準備しつつ、外に出た時に挨拶を交わした。外国の方3人組「1人ですか? 凄いですね」 私「それほどでもないです、たはは」 みたいな会話をして、先に出発した。 無風で晴れ間が広がりつつあった。予報通りだ。 トレースありのモフモフの雪の上をスノーシューで進んでいく。 雪の感触が気持ち良い、空気もスンとして気持ち良い。 順調に登り、やがて第一急登に差し掛かる。 この辺りから上部から吹き下ろしてくる強風を受けつつあった。 たまたまかな? 避難小屋まで登れば流れは変わるだろう、と安易に考え登っていく。 風は止まない、というかだいぶ強い。 雪を巻き上げながら吹いてくるので顔にかかる雪が冷たかった。 バラクラバはしていたが、避難小屋についてからゴーグルをしようと思った。 この辺りからすでに誤ちの始まりだったのかもしれない。 やがてトレースは消える。 膝下程のラッセルがスタートとなる。 この程度のモフモフ、あるある、問題はない。 と思いつつも、風が気になっていた。 避難小屋に辿り着くが、吹き下ろす風は止まない。 避難小屋から上に行けば変わるだろう、まだ謎の考えがあった。 避難小屋に辿り着く前に、後続の3人組の姿は見えていた。 20分くらい遅れてのスタートかと思ったが、視界にはいるくらい追いついていたということは、やはり脚力はかなりのものだったのだろうか。 避難小屋で装備換装している内にまた再会するだろう、と思い、避難小屋に入った。 ここまでかかった時間は1時間くらい、雪の中ならまあまあいつも通りだろうかな。 叩きつける風が避難小屋に響き渡る。 いつもの私の十勝岳攻略法としてはここでアイゼンにチェンジすることだった。 この先も身を隠すような場所はない、ピークのラスト急登が1番キツい、スノーシューで仮に登れたとしてもカリカリの斜面の下りはかなり危険であろう、と。 この先は大抵は爆風で雪は飛ばされてるはずだし、アイゼンがしっかり効いてくれるはず。 こうして避難小屋を出たが、どうにもおかしい... 雪が深すぎる。。吹き溜まりが相当なものなのか、腰下くらいまでハマってしまった。 雪の中を泳いでいるだけ、避難小屋から100m進めたかどうかも分からない。 吹き下ろす風は全く止まない、、 というか、進んで振り返るとトレースも消えている。。 ゴーグルを後から装着したが、結露が始まっていた。今シーズンの使用が今日が初めて、結露対策を怠ったな。 この先、この先第二急登を越えたとしても、、こんなんじゃ間に合わないし、体力脚力も足りなくなると思う。。向かい風では無理だ、いや、自分自身の体力脚力では無理だ、自分は誰よりも遅く、誰よりも初心者。 悔しいけど無理、無理なものは無理。 吹き下ろす風に立ち尽くしたまま、暫し考えた後、撤退を決断した。 風は強いが、この急登を下りれば落ち着く。 ゴールを見下ろしながら、いつもと同じように下りれば良いだけ。 そうだったはず、しかしいくら下りても状況は変わらない。 それどころか、気づけばホワイトアウト状態となっていた。 気づけばトレースも消えていた。 この時点から、風の侵攻がそのまま麓まで進んでいたようだった。 後ろから吹き付ける風に身体が煽られる。 膝下から、ところによっては膝上のラッセルとなっていた。全て吹き溜まっているような状態だったのだろうか。 青空は見えていたが、視界の8割は真っ白だった。 これは...もはや平衡感覚はなく、方向も怪しかった。 進んではスマホで位置情報を確認するが、その行為すらもままならない。 外気に晒すと巻き上げる雪ですぐに画面は水浸しとなる。 奇跡的にも本線の左側を平行に下り進めていた。 風の吹き下ろす方向に逆らわず、風向きのままに下りればそこまでズレは生じないはず。これも賭けだった。 ラッセル状態であまりにルートからズレるとその分だけ体力脚力を消耗する。 ホワイトアウト状態で初めて絶望に変わりつつあった。 吹き付ける風が停滞することも許されない。 ラッセル状態で転倒すると、立ち上がるにも力を使う。 その内に脚力も消耗していく。段々と足が上がらなくなる。 客観的には分かるはずなのに、そんなことばかり考え、焦りだけが先行していった。 歩みを止めたら、その時心は折れるだろう。 前だけが気になっていると、足元がお留守になる。というか、足元すら見えない。 下りが急になっているところがあって、思いっきり滑り落ちてしまった。。が数メートルで止まった。 この辺りは急な崖はなかったはず、危なかった。。 位置情報だけはある程度の回数で確認していった。タッチペンが役に立った。 駐車場まで残り200mくらいの距離だが、やや左側にズレており、最後に修正しないといけなかった。 駐車場は見えない。 ここまで下りてきてもホワイトアウト、風は止まない。本当に合っているのだろうか。 最後の方向修正がとんでもなくキツかった。 とにかく雪が深く、スノーシューで一歩踏み出すとズブズブズブズブと、膝上まで埋まる、、そこからのその先の一歩がキツ過ぎた。 今まで少しでもランニングで体力維持しといて良かったと思った。 冬は大抵ダラダラし始めるから、夏に貯筋したものはほとんどなくなる。 一歩、また一歩が絶望だった。でも歩みを止めたら絶対に心が折れる。 動き続けているから寒さはほとんど感じないけど、確実に一気にもっていかれる。 上着はハードシェルなので保温は出来ない。 残り100m、かろうじて駐車場とシェルターが見えた。 このまま真っ直ぐに...たった100mなのに、されど100mなのにそこでの死すら感じていた。 もがきながらあがきながら、左側から駐車場のポールが見えた時... 初めて安堵した。 帰ってこれたんだ、、自分の車まで戻ってきてザックを下ろすとピッケルが無くなっていた。 ゴーグルは下部のスポンジがちぎれており、流れ込む冷気と体温のギャップから氷の塊が出来ていた。 自分が生きていたこと、それだけしか感じれなかった。 隣にとまっている外国の方のレンタカーはそのままあった。 何故だろうか、、この強風の中、先に撤退しなかったのだろうか? それとも美瑛岳方面に向かったのか? それとも、早い段階で撤退して駐車場付近で雪遊びとかしているのだろうか? 自分よりも強いと思ったから、これ以上心配してもキリが無いし、その心配は強者に対してどうなのか? 勝手な思いなのでは? でとこの状況下、遭難? シェルターの監視員の方に報告する? いや、勝手な詮索は、、、ごめんなさい。 そのまま望岳台を後にし、白金温泉で暖をとった。 何を考えていたのか 生きていたこと? 雑な山行をしたことの反省? どこで撤退の判断をすべきだったのか? 何のために来たのか? グルグルと巡る気持ちでは整理など出来なかった。そのまま帰路へと、、 帰ってから知った。 遭難事故が起きていたことを。 結局何も出来なかった自分の悔しさ、辛さ、悲しさだけが残った。

活動の装備

  • エムエスアール(MSR)
    ライトニングアッセント
  • マムート(MAMMUT)
    雪山用ハードシェル
  • ペツル(PETZL)
    アイゼン

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