●富良野岳二十二林班沢での雪崩事故のこと●-2022-03-05

2022.03.05(土) 日帰り

活動データ

タイム

05:28

距離

7.0km

のぼり

1106m

くだり

1001m

チェックポイント

DAY 1
合計時間
5 時間 28
休憩時間
2 時間 6
距離
7.0 km
のぼり / くだり
1106 / 1001 m
5 28

活動詳細

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TVやネットニュースなどでも報道されたので、 もしかしたらご存じの方もいるかもしれませんが、 その日のことを書き残しておく。 ───── 2022年3月5日(土) 天気予報によると、発達した低気圧が日本海上にあり、 強い南風、正午にかけ気温は上昇、天候は悪化傾向だけど、視界は良さそう。 この気象条件で楽しめる場所として、富良野岳の北斜面周辺を選ぶ。 7:20 スキー4名(A氏、自分、C氏、D氏)で入山 9:00 G尾根 標高1450m付近よりベベルイ沢方向へ滑走。 尾根1400m付近より上部は酷い暴風だった。上部は風で雪が叩かれまくっていたが、下部は雪質良好。 10:00 G尾根 標高1330m付近より二十二林班沢方向へ滑走。 (この滑走した西面が2時間半後に雪崩れたのだけど、この時の斜面は危険の匂いはしなかった) 12:10 西尾根 標高1350m付近より二十二林班沢方向へ滑走。 12:30 二十二林班沢にて4名が集合し、下山に向けて登り返しの準備をしていたところ雪崩に遭遇。 全員がスキーを外し、ザックを下ろしている時だった。雪崩発生の瞬間は誰も見ていない。音も無かった。 登り返しの準備をしながら下山後の温泉の話をしていたところ、突然頭部左側になんらかの衝撃を受け、突然景色が暗闇になった。全身が吹き飛ばされ、暗闇の中の長い滞空時間、すぐ麓側にあった滝地形(5m程度)を落下しているのは感覚でわかった。その後、着地してさらに全身3回転ほどして止まった。頭がぼーっとする。背中が痛い。 ゆっくり顔を上げると、ぼんやり自分のいる場所が見えてきた。やっぱり滝の下にいた。雪崩に巻き込まれたのだとなんとなく認識する。山側をみると、滝地形の直下、自分から約10m離れたところに逆さになって両足だけ出し、誰かが1名(A氏)が苦しそうに藻掻いているのが見えた。麓側をみると、100m程離れたところに残る2名が見える。1名(C氏)は半身埋没しており、助けを求めている。もう1名(D氏)は埋没しなかったようで動けていた。ザックなど荷物類もデブリの末端側に散乱している。 4名全員の所在が確認できた。A氏が生命の危機という状況だ。自分は下半身埋没していたけど、幸い自力で脱出できた。全力振り絞って急いでA氏のもとへ向かうが、深いデブリの雪と急斜面、たった10m程度の距離の移動に数分かかった。A氏は両足をばたばたさせ、苦しそうにうめき声を上げている。まだ息はある。大声で励ましながら素手で掘り起こそうにも、深いところは雪が硬い。呼吸が確保できるところまでどうしても掘り起こせない。両足を引っ張りあげようにも一人の力ではとても無理だった。そうこうしてるうちに、A氏の両足は脱力し、呼吸も止まってしまった。 D氏がスコップを持って到着する。急いで周囲の雪を除去して、D氏と自分とでA氏の両足を引っ張り出す。ようやくA氏を掘り起こすことに成功。上半身埋没して10分以上が経過していたはず。(ログを確認すると正確には12分だった。) 顔面蒼白、呼吸はしていない。意識もない、反射もない。正直もうだめかもしれないとも思ってしまった。D氏がただちに胸部圧迫を開始する。すると、微かにむせ反射があった。口腔内の雪や水分を掻き出し気道確保をすると、微弱ながら浅く速い自力呼吸を確認。良かった。ぎりぎり間に合った。数分後、声掛けに微かに反応が見られた。昏迷状態にあり、保温しななくては危ない。生き残った荷物から、ツェルト、ダウン、カイロ、お湯などでA氏最優先で保温する。 12:50 救助要請。意外と冷静だった。温泉の話しをしていた際、携帯の電波が届く場所だったのは把握していたから。山の奥で沢地形で携帯の電波があるなんて不幸中の超幸い。 深い雪のなか4名全員が歩行具(スキー)を失い。さらに、1名が低体温による生命の危機。自力下山は無理なのは明らかで、救助要請に迷いはなかった。消防や警察の方々に多大な労力を掛けさせてしまうことへの申し訳ない気持ちで一杯と。ニュースになるんだろうな…非難されるだろうな…と思いながら。GPSから正確な座標を伝える。 14:15 強風によりヘリは飛べない。最悪の場合ここで一晩過ごすことも覚悟していたが、その後の連絡で14:30地上部隊が入山し現地へ向かうとのこと。ひとまずは安心した。滝地形より100m程下、安全と思われる斜面に雪洞を掘って、救助隊の到着するまで待機。メンバーで手持ちの行動食を分け合った。周囲の天候は悪化。地吹雪のような強い風が吹き荒れる。A氏の意識レベルはやや改善して、少し会話ができるようになり、介助で歩けるようになった。 16:15 上富良野消防隊が到着。「もう大丈夫だから!」励ましの掛け声が嬉しかった。お湯や行動食をたくさん分けてくれた。優しく気さくに応じてくれた。スノーシューを借していただき隊員とともに下山開始。 下山途中、西斜面の雪をポールで軽く叩いてみた。すると、厚さ10cm程度下に弱層があり、簡単に崩れ落ちた。午前滑走したときは何ともなかったはずが、強風と気温上昇が危険な斜面に変えてしまっていたのかもしれない。 19:20頃 隊員らとともに4名自力歩行で下山。 詳しく事情聴取を受けるが、消防隊や警察の隊員誰一人も今回私達4名の行動を非難しなかった。 山奥で雪崩に巻き込まれどうしようもない状況から救われた。もう頭が上がらない。 捜索隊が入山時、TVや新聞のマスコミも来ていたらしい。 我々が全員無事に下山したときにはもういなかった。もっと香ばしいネタが欲しかったのか。 その後、富良野市内の病院で診察を受け、解散。 ───── 今回の雪崩の規模は、4名が流れ着いた場所から雪崩発生箇所が見えず不明。 発生箇所はおそらく二十二林班沢の側面(西斜面)標高1200m~1150mあたり デブリは沢伝いに100~150m、幅5~10m程度。 雪崩は恐ろしい。 命が助かって良かった。とは言ってもらえるけど、 今回の事故は自分としては「不運の雪崩事故」ではなく「回避できたはずの雪崩事故」だと思ってる。 ログを見ての通り、沢底付近に留まっている時間が無駄に長いし 雪崩に巻き込まれたのも沢底にいる時。 基本を守っていれば、回避できた事故だったはず。 安全行動に妥協はしてはならない、それが今回の最大の教訓。 これを機に今季のパウダーシーズンはこれにて終了とした。 残雪期シーズンにBC再開予定。

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