活動データ
タイム
05:20
距離
0m
のぼり
0m
くだり
0m
活動詳細
すべて見る今回は、宮崎県で一緒に仕事をしている若者と高千穂峰に登った。若者はK君、27歳。神奈川県の協力会社の社員で開発業務を担当している。私のクライアントとしての立場から見た彼の印象は、素直な性格で一所懸命に仕事をしてくれる好青年だ。彼は今回初めての長期出張で、宮崎県に来たのも初めてだった。 宮崎県都城市にある仕事場から天気の良い日には高千穂峰がよく見える。彼がその高千穂峰を一緒に出張してきた上役と眺めているとき、上役が私が登ったことがあるという話をしたらしい。そのときの話を彼らと私が一緒にいるときに聞いたので、私は一緒に登ってみるかい?と聞いてみた。すると彼は表情を変え、是非お願いしますと答えたのである。 訊けば地元の同級生が最近登山にはまっているらしく、山の話を聞くうちに自分も同級生と一緒に行きたいと思い始めていたらしい。半ズボンとTシャツでもいいですかというので、いいけど安物でいいから登山用の靴だけは買わないとだめだよ、できれば水筒とザックもあるといいよと伝えた。高千穂峰に登る日、午前4時30分、彼が身に着けていたのは、急ごしらえであったためユニクロのデイバッグを背負ってはいたが、トレッキングパンツとちゃんとしたウェアとショートカットの登山靴だった。 車を持っていない彼は日々の通勤に自転車を利用している。片道4kmの距離なのでそれほどでもないが、若者は朝弱いという定説通り彼も早起きが苦手、遅刻を回避するため毎日全速力でペダルを漕ぐという。おかげで結構鍛えられているらしい。実際好きなように行っていいよと言って先に行かせたら、姿が見えなくなるくらい離された。 こっちは色々と担いでいるので速度は上がらないのだが、それにしても元気で息が切れることもない。しかし、ちょっと待ってくれてもいいじゃない、と言いたくなってくる。まあ、学生時代は陸上をやっていたらしいし、なにしろ若いし基礎体力もあるので勝てるわけがない。老いを感じることは辛いことだが、若々しい彼の後ろ姿を見ていると一歩下がって眺めるのも悪くないと思った。 私は以前2回の高千穂峰登山の経験があった。1回目は強風&ガスの中で眺望無し、2回目はナイトハイクで星狙いだったが成果なしであった。自分も絶景を拝みたいし、それ以上に初めてのK君には最高の景色を見せたい。そして今回も判断が難しい状況で高千穂峰を諦め韓国岳にするか最後まで悩んだ。結局直前のシミュレーションで朝方雲が切れるチャンスがあり午後は雨になる可能性が高いと読んだ。結論を言えば早朝にして大正解であったし韓国岳であっても最高の景色が拝めたであろう。 山行の途中から彼はハイテンションに。半分も登れば錦江湾(鹿児島湾)と雲間に浮かび上がる桜島の姿が見えるのだから当然だ。そして、生まれて初めて上から覗き見る火口(御鉢)や朱に輝く日向灘、朝靄にかすむ山々を見れば若者の血が沸き立つに決まっている。その景色は、古の天孫降臨のみぎり、ニニギノミコトが見た景色と同じなのだ。後ろから見守る私の方はと言えば、次第に気分が好々爺になってしまっていることに気付き苦笑する。彼は来てよかったと何度も言ってくれた。私の心は温まった。 山を下りた後、お腹が空いたという彼のためにレンタカーを飛ばして霧島神宮に近いオムライス屋に行った。若者と中年が一緒にいると必ず聞くのが、彼女はいるか?ってことだ。言っといてなんだが、余計なお世話なので今後この発言を世界中で禁止することを提案する。彼はその質問に”いない”と答えた。 その後の話の流れで分かったのだが、実は高校時代や大学時代に女性から告白されたことが何度かあったらしい。優しそうな目をした彼のことだから当然なのだが、なぜかその都度断ったという。彼は、絶対うまくいかない気がするから、絶対別れることになると思うから拒絶したと言った。それは、その先に結婚があるからとも言った。 彼は自分の生い立ちを話してくれた。3人兄弟の長男で母親は再婚している。彼の実父は母親が離婚した最初の旦那で、二人いる弟の実父は継父である。最初の父親は毎日のように母親にDVしていたという。当時幼かった彼の目にはそのことが焼き付いている。そして、二人目の父親の話をそれとなく聞くと、言外に冷たくされていたことを匂わせた。トラウマと言ってしまえば簡単だが、実態はそれよりも深刻であった。彼は実父の姿を自分に投影しているのだ。実際の彼と対面していてそんな風になるとは到底思えないのだが、彼の心は頑なだった。そして、彼は優しい目をしていると思っていたが、実際は寂しそうな目なんだと気がついた。彼は誰のことも恨んでいない。自分の結婚に関して特殊な理由で諦めているだけだ。私は、いつかこの青年の固く閉ざされた心を優しく解きほぐしてくれる素敵な女性が現れることを祈っている。ただ、「すみません、撮った写真の私が写っている写真を頂けませんか、弟たちに自慢したいから」と言ってくれたことは、彼の家族観を考える上で一つの救いなのであった。
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