04:09
16.1 km
1071 m
ちょっとなめてた賤機山
賤機山 (静岡)
2024.11.22(金) 日帰り
いや、ちょっとじゃない。心理的に完敗である。 賤機山(しずはたやま) 標高171mの、静岡駅から歩いていける、いわば里山である。 この日、友人と会うために静岡駅まで来たのだけれど、約束の時間は19時。特に地元でやることもないので、せっかくだから静岡駅から行ける山でも登ろうかと思って調べたところに興味深い名前の山があったが、あいにく平日はバスが無く、公共交通機関しか手段のない私はあきらめた。 それでも、せめて駿河を感じられる散歩くらいはしてみたい。 すると、駅から徒歩30分ほどにある浅間神社を登山口とする街を一望できそうな小高い丘のようなハイキングコースを見つけた。 【賤機山ハイキングコース】 しばらく山にも登れていなかったし、友人に会う前に疲れ果てては仕方ない。こんな低い標高の、山と呼んでいいかも迷うような賤機山を散歩することにした。 結果的に、登り下りでそれぞれ1000mを超えた。 決して6往復したわけではない。 小さく緩やかなアップダウンが数え切れないほどあり、ゆっくりと、しかし確実にふくらはぎを消耗させられる。 なんだここは。 歩き慣れた丹沢の大倉尾根よりよほど息が切れる。 途中で見た看板には、予定していたコースの所要時間が書いてある。 往復8時間? ウソだろ。約束の時間に間に合わないぞ。 標高だけ見て完全に油断した。危険箇所も全くない里山の、茶畑が和かに広がるこのハイキングコースが、まさかのロングコース! 上着を脱いでギアを一段上げていく。 せめて2割増しでコースタイムを歩かないと間に合わない。退きたくはない。せめて最初に予定していたコースは歩ききりたかった。登山でやってはいけない「意地を張る」の典型だが、この後に及んでまだなめていたのだろう。 景色は素晴らしかった。 富士山は霞んで見えなかったが、目論見どおり静岡市を東西に見下ろせる稜線は、見知らぬ街を隅々まで見通して気持ちが良かった。 里山のハイキングコースは多くの人の私有地を通る道らしく、みかん畑や静岡らしく茶畑の細い道を抜けていく。 高山にはない光景を見ながらも、足や肺に高山に劣らない負荷をかけ続けてきた。 最後のピークの福成山の山頂は神社になっていて、しかし無人で明らかに整備の行き届かない雰囲気だ。 衣食住を司る神様とのことで、丁寧に礼をして先をゆく。 最終地点の鯨ヶ池まで一気に下る。 孟宗竹が空を覆い尽くす暗いトンネルの中で聞こえた、太く、強い獣の息使い。 イノシシだ...! 太った中型犬のような黒い影が前方、登山道のやや下方に見えた。 私に気づいているのかいないのか、地面に頭を突っ込んでいるように見える。 イノシシは熊より好戦的と聞いている。噛み付かれたら骨や太い血管まで届く。あんなのは相手にしたくない。 足音をできるだけ殺して足早にその場を離れると、イノシシはこちらを追っては来なかった。 オイオイオイ... 里山ハイキングとは!? 背中に冷たい汗をかいていた。 ようやく鯨ヶ池まで着いた。 この池は大正時代まではとても綺麗な水で、徳川家康や大正天皇も飲水されたそうだ。 持ってきたおにぎりと駅で買ったパンを手早く腹におさめて、池の畔にあるトイレに行ってから残りの水分を確かめると500mLのペットボトルが1本。 ここまでずいぶん汗をかいており、座っていたコンクリートには汗ジミが出来た。うつむいていたからか、帽子のツバからも汗の雫が溜まっているのが目の端に写る。 緑とも茶色ともつかない水の色に、黒々とした魚影が見える池を見ても喉は鳴らなかった。 ここから、復路。あと、半分! もうナメないぞ!! 500mLのペットボトルをザックのサイドに入れ直し、イノシシの気配を見逃さないよう気を張り巡らせ、走らないまでも自分に出せる速度めいっぱいを出していく。 浅間神社に下山した時、しびれる両足と肺の感触が、里山登山の厳しさを教えてくれた。