華山から思迫山、迷いの尾根を越えて
8月29日。「月に一度は山に登ろう」――そんなささやかな決意を胸に、私は下関市の華山へ向かった。 歌野川キャンプ場側からのルートは、実際に足を踏み入れると、そこは人の気配が薄れた静寂の森。蜘蛛の巣が道をふさぎ、草木は好き勝手に伸び、最近誰も来ていない感じであった。 華山の頂は、雲が少し流れていたものの、景色は見事だった。 誰もいない山頂で風を浴びながら、「来てよかった」と素直に思った。しかし、ここからが物語の本番だった。 ■京の嶽、大滝山――静かな山々の試練 京の嶽へ向かう舗装道は単調で、最後まで行ってもたいしたことない。正直「行かなくてもよかったかな」と思うほど。それでも周回ルートを選んだのは、ただ華山を往復するだけでは物足りないと思ったからだ。 だが、下りに入ると昔からの持病――左膝の痛みが顔を出した。運動不足のツケがここで回ってきた。夜に歩く習慣も途絶え、柿ピーをつまみながらドラマ「VIVANT」やネットを見て寝る生活。身体は正直だ。 そして、復路の登山道はさらに正直だった。「これは本当に道なのか?」 赤い札はあったりなかったり、地面の四角柱のマークも頼りにならず、GPSがなければ完全に迷うレベル。そんな中、スマホの電池が突然20%を切った。 胸がざわついた。「やばいぞ……」 ■電池残量3%、膝痛、静寂――孤独な尾根での決断 大滝山を過ぎた頃、スマホの電池ランプはほとんどみえず。 誰ともすれ違わず、蜘蛛の巣だらけの道は「数日は誰も来ていない」と告げている。ヤマップには「この先、道迷い注意」の文字。実際、何度も道を外れた。 そして―― とうとうスマホは沈黙した。 森の中でひとり。 膝は痛む。疲労は蓄積。戻る気力はない。ひざもいたいし。 「最悪、一晩ここで過ごすことになるかもしれない」 そんな考えが頭をよぎった。落ち葉を敷いて横になり、助けを呼んでみるが、返事はない。静寂だけが返ってくる。たぶん誰も来ないだろう。 そこで私は決めた。 「迷ったら左へ行こう。西へ下れば、沢に出て、歌野川へ戻れるはずだ」 地図はない。頼れるのは自分の感覚だけ。 まるで物語の主人公が最後の選択を迫られる場面のようだった。 ■スマホなしで下山できたあ・・歌野川に帰る道 尾根を下り、また下り、そして左へ舵を切る。 林業の管理道のような細い道を見つけ、そこをひたすら降りた。 すると―― 視界が開け、見覚えのある道が現れた。 歌野川駐車場の近くだった。その瞬間、胸の奥が少し熱くなり、涙が出そうになった。「帰ってこれた……」 遭難を覚悟した時間が嘘のように。 ■おわりに 菊川のサングリーンの温泉で身体を癒しながら、今日の出来事を反芻した。 「ほんと、今回はやばかった」 「次は絶対に予備バッテリーを持っていこう」 「運動不足も解消しよう」 そう心に刻んだ土曜日の夕方でした。





