04:24
7.1 km
736 m
笹子雁ヶ腹摺山
滝子山・大谷ヶ丸・笹子雁ヶ腹摺山 (山梨)
2025.11.26(水) 日帰り
雁ヶ腹摺山シリーズ、ではないが、雁ヶ腹摺山、牛窪ノ雁ヶ腹摺山に続いて笹子雁ヶ腹摺山へ。 旧中山道歩き以来の腰痛も、まだ寝起きはかなり痛んで靴下もズボンも履くのに苦労する状態だが、一度起きると後は寝るまでほぼ正常に生活できるので、1ヶ月ぶりの登山に出かけることにした。 6時ちょい過ぎに車で出発。府中ICから中央高速に乗る。日の出は6時半頃なので、空はまだ明け切っていない。晴れているのか曇っているのかよくわからなかったが、高速からは遠くの山々がよく見える。そして厚く雪を被った真っ白な富士。相模湖あたりに来ると、湖からあがってくる霧がたなびいている。 大月ICで下り、右折して国道20号、つまり甲州街道を笹子峠の方向に向かって走る。笹子駅を過ぎて2キロほど、登山口の新中橋のバス停留所の脇の小さな駐車スペースに着いたのは、8時前。 登り始めていきなり急登。山頂までの約1時間40分、基本的にずっと急登だ。最初長袖のTシャツの上にライトジャケットを着ていたが直ぐに暑くなり脱いだ。九十九折りもすぐに左右の方向転換をする、つまりほぼ直登に近い九十九折り。しかし他の人の日記で急登が続くらしいとわかっていたし、車なので交通機関の時間も気にする必要はなし、初めから焦らず、そしてもちろんストックを使って一歩一歩ゆっくり、登って行った。 山の中に入っていっても、しばらく下界の喧騒が上がってくる。車の音、電車の音、町の様々な音が渾然と、立ち上ってくる。山道からの見通しはあまり良くない。葉が落ちているとは言え、青空に伸びている枯れ枝が視界を遮る。時に滑り落ちそうなくらい急な箇所もある。腰に負担をかけないよう、ストックを持つ手に力が入る。 だんだんと下界の音が遠くなっていることに気付く。下界から上がってくるざわめきが山の静けさに押しとどめられているような。そしていつの間にか全く何も聞こえなくなっていた。それまで流れ落ちていた汗も、寒さのせいか、ピタッと止まっていた。標高1,000mを越えた頃だろうか、氷のような冷たい風が汗で濡れていた身体に巻き付いてきた。手もかじかむ。しかし、寒さも長くは続かない。 ときおり立ち止まって水分補給をする時、見上げる空は青く静かに輝いている。最後の山頂へのアプローチはまたキツい急登だ。登り始めて1時間40分、笹子雁ヶ腹摺山山頂に到達した。これまで誰にも会わず。山頂も独り占め。冠雪した富士山と南アルプスの山々が出迎えてくれた。このペースだと、本当に疲労感はない。そうか、山ってこうやって登れば良いのかと、登山3年目にして初めて思い知った。 富士を正面に見るベンチが一つ。まだ10時前だが朝飯を食べたのは5時。お腹が空いていた。富士と対面しながらコンビニで買ってきたカレーパンと、おいなりさんと太巻きのお弁当を腹に入れた。風の音以外何も聞こえぬ。何も聞かない。何も思い出さない。何も考えない。何も怖れない。山上の孤独ってなんと幸せな時間だろう。 でも僕は結局そこに永遠に留まりたいとは思っていられぬ落ち着きのない、または意地汚い貪欲な、性質のようだ。しかしそれ故に、メフィストフェレスに魂を取られることもないわけだ。 下山しよう。 いきなり恐ろしい急角度な下山道。こちら側は落ち葉に埋もれてもいる。滑り落ちたら半端な怪我では済まなさそう。一歩ごと慎重の上にも慎重に、そしてへっぴり腰で、ゆっくりゆっくり下りていく。しかしそれも最初だけ。その後一旦登りになった後は、割となだらかな下りで、また急な箇所は黒い硬いゴムだか木なのか、の階段が設置されていて安心して下りることができた。 下山し始めて1時間強で笹子隧道に。ここで始めて、思い出した。ここに来たことがある。今から6年前、旧甲州街道を歩いていたとき、ここを通ったのだった。あれは5月3日だ。笹子駅から勝沼駅まで歩いたのだ。家に帰ってその時の記録をめくってみたら、今日この笹子隧道前から車を停めた新中橋のバス停まで歩いた道を、全く逆に歩いていたのだ。全然記憶にないのだが、矢立の杉で写真も撮っていた。たった6年前のことなのに、覚えていたのは笹子隧道の景色だけだった。 あの日、そこから山に入って笹子峠まで登り、その後どこをどう歩いたのか、とにかく八木牧夫さんのちゃんと歩ける甲州街道という本だけを頼りに、山を下り県道に出て甲府方面に向かって歩き勝沼ぶどう郷駅まで歩いたのだった。あの頃、登山などは人のすることで自分には何の関係もないものと思っていた。靴もウォーキングシューズ、チノパンに普通のポロシャツ、街歩き用のリュック、と言ういでたちだった。 でもこの笹子峠や中山道の碓氷峠、東海道の箱根等を越えていくうち、そうだ山に登ってみよう、と言う気になったのだが。そして登り始めて3年半、いつの間にか300座を越す山に登っていた。 思い出話になってしまったが、笹子隧道から自動車道、山道、また自動車道、山道、そして最後は長い自動車道を歩いて駐車場に戻った。 今日もまた素晴らしい青空に恵まれ、本当に良い山行だった。 お疲れ山でした。