幌尻岳新冠陽希コースの紅葉に惚れた【百名山98座目】
幌尻岳・戸蔦別岳・伏美岳
(北海道)
2025.09.26(金)
3日間
4ヶ月連続、今シーズン4度目の北海道。登るつもりはなかった百名山の幌尻岳、前回の光岳と同じお盆明けのタイミングでやっぱり行ってみようという気になる。どうせ行くなら気になっていた新冠陽希コースを歩いてみたい。渡渉が好きではないので糠平コースにはそそられず、チロロを日帰りできる実力もないが、林道歩きは結構好きで、渡渉がないから天候に左右されにくく登頂率が高いコースだというのもいい。田中陽希さんのことはほぼ存じ上げないくせに、新冠陽希コースというネーミングもなんか格好いい。そこからガイドツアーを探してシルバーウィークのツアーに申し込み、準備万端で空港へ向かうも、機材やりくり都合という意味不明な理由で突然欠航になり、連休の北海道便なんて当然他社含めて全便満席で振替も不可。ダメ元でキャンセル待ちを入れて空港で待機していたら旅行会社から悪天候ツアー中止のメールが来て、予定通り飛んでいれば新千歳到着後にメールを見て絶望するしかなかったので、何か見えない力に助けられた気がした。往復航空券もツアー代も全額返金され、また来年、花の季節に行こうと思っていたが、同月末の新冠ツアーに空きがあるのを見つけてしまった… でも有休2日必要で今月休みまくっているから気が引けるし、9月末の北海道の避難小屋泊なんて激寒だろうし、見なかったことにした。そうして一度は諦めたものの、来年またツアー探したりキャンセル待ちしたり飛行機探したり有休の根回しするとか面倒だな〜とか、できれば百名山は今年中に区切りをつけて来年は自由な山歩きがしたいよな〜とか、羅臼みたいな熊事件が起こって突然閉鎖されないとも限らないよな〜などとうじうじ悩んだ結果、出発1週間前に意を決して有休申請し、ツアーに申し込み、航空券を予約する。
木曜日は前泊する静内のビジホへの移動のみ。飛行機が予定通り飛ぶのは当たり前ではなく奇跡なのだと2週間前に学んだばかりなので、また欠航になるんじゃないかとビクビクしながら頻繁に運行状況をチェックしながら伊丹へ向かい、でもちゃっかり北野ル・パンの限定モーニングセットは食べつつ、離陸しても着陸不能で引き返すとか言われるかもしれないから最後まで気が抜けず、新千歳に着いてようやくひと安心。空港の松尾ジンギスカンでランチしてホテルへ向かい、旧静内駅を散歩して夕食。同席の方は1年前に山登りに出会い、今年4月からは百名山を始めて今回の幌尻で既に58座で、年内中に更に70座まで進め、来年には完登予定という5児のお母さん(笑)ピーク時は月20日間山に入られたそうで、ガイドさんも「ガイド並みに山にいる😳」と驚いていた。しかも普通に仕事しながらだからね!世の中には凄い人がいて面白い。
金曜日は5時半にホテル出発、8時前に登山口のイドンナップ山荘へ。非舗装の穴ボコ林道で、海外でもこんな過酷な道を車で2時間も走ったことないレベルでお尻飛び跳ねまくり、揺れまくり。乗っているだけでぐったり。駐車場のレンタカーも普通車でなくSUVなど山用の車ばかり。この林道はパンクも多いそうだが、電波がないのでパンクしてもレッカーは呼べず、皆さんどうされているのだろう?うっかりソロで来なくてよかった。(林道もイドンナップ山荘も新冠ポロシリ山荘も全部圏外で、幌尻の稜線まで登るか静内の町へ戻らないと電波なし。)ヨレヨレになりながら廃墟感漂うイドンナップ山荘のトイレをお借りするも、ここのトイレはちょっと苦手でお花摘みする方がマシかもしれないが、紙があるのは有り難かった。山荘周辺は親子鹿がのんびり戯れていて平和。身支度したら山荘を出発して新冠ポロシリ山荘まで19㎞の林道を歩く。距離が長いので累積標高は1,000m↗︎600m↘︎になるものの、なんてことない普通の林道。ただここは日高、知床ほどではないがヒグマの聖域で、特に春秋は林道によく出没する季節であちこちにヒグマ達の糞が。実際に私たちの後ろを歩いていた学生7名パーティはヒグマに遭遇し、2名は怖くなってUターン、そのままポロシリ山荘まで歩いてきた5名も顔面蒼白でどんより暗く、明日このまま登るか断念して帰るか迷っているとのこと。私は元々熊に対する恐怖心が薄い上、今回は頼もしい現地ガイドさん達と一緒ということもあり、不謹慎ながら正直に白状すると見てみたい気持ちもあった。でも襲われるのはソロだけだよとガイドさんに教わり、これからはヒグマの聖地をソロで歩く時はちゃんと気をつけようと思う。羅臼の事故のことも現地ガイドさんはやはりよくご存知で、詳しい話を聞けたことで気が引き締まる。実際にこの新冠コースでも8月末、登山道でヒグマに襲われた鹿の死骸に出くわしたツアーがあり、ガイドさん判断でその場でツアー中止となり下山したそう。登山道でのヒグマとの遭遇程度なら中止にまではならないが、鹿の死骸の場合、登山者がそれに近づくと獲物を取られると勘違いした熊に襲われるリスクがあるそうだ。
ポロシリ山荘に着いたらガイドさんが水を汲みに行って薪ストーブを炊いてお湯を沸かして下さり、ティータイムが始まる。それからお米を炊いて、ガイドさんの作ってくれた温かい夕食をみんなで囲む幸せタイム。近くに沢があるので水には困らず、トイレは紙が流せて夜中に行っても電気が点いて、ソロで来て一人でここに泊まるのは無理だけどガイドさんと泊まるなら全然ありなレベルの山荘だった。夜中に何度か通り雨があったが、その時以外は澄み渡る闇夜に星がびっくりするほど綺麗で、一人静かに眺めて感動していた。
土曜日、4時過ぎに起きて味噌汁&カフェオレでエネルギー補給し、まだ薄暗い5時にスタート。ヘッデンなくてもギリOK、寒くもなく防寒着も不要。登山道に真新しい熊の糞がいくつかあり、ガイドさんがホイッスルで熊除けしながら進む。渡渉を終えた辺りから稜線に出るまでひたすら急登。ただ、1,600m水場で森林限界を越えたら黄色とオレンジと赤の混じる見事な草紅葉が広がり、美しさに見惚れて溜め息しか出ない。今までで見た草紅葉の中で一番綺麗かも。幌尻ってこんなに素敵な山だったのか。深田久弥のお陰で天国のような風景を見ることができた。ありがとう。急登なのにちっとも気にならず、ただ目の前の景色を楽しみながら登った。稜線に出たら急登が終わり、緩やかな稜線を10分歩いたら山頂に着いた。エゾシマリスは昨日から何匹も見ていたが、山頂手前ではぴょんぴょん駆け回るナキウサギにも逢えた。最も長く稜線を歩けるコースはチロロ、糠平でも1時間は歩けるのに新冠はたった10分だと聞いて残念に感じていたが、草紅葉が素晴らしかったから新冠で結果オーライ。チングルマやミヤマダイコンソウの葉が真っ赤に紅葉していたから、花の季節も結構良さそう。ガイドさんいわく7月後半〜8月上旬は虫がすごいらしく、雪解け直後を狙うのが賢明かも。山頂には百名山達成者が2名。お一人は糠平コースを登られた東京のソロ男性、もう一人は同じツアーのAさん。Aさんは今回なんと6年越し6度目のアタックで、ようやく登頂できたという。最初の3年は旅行会社倒産、悪天候、林道通行止めでツアー中止、4年目はご自身が熱中症で1,600m水場でリタイヤ、昨年は同じ1,600m水場で悪天候によりツアーが撤退となったそうで、前世で日高のヒグマをいじめたのではないかと思うけど(笑)、お二人ともおめでとうございます。
山頂でガイドさん手作りの朝食おにぎり2個と持参したパンを食べて下山開始。山行を止めるか迷っていた学生5名も全員元気に登ってきたし、同宿の四日市のお母様&息子さんペアは山頂でお姿が見えないと思っていたら幌尻の肩まで足を伸ばされていたそうで羨ましい。ツアーでも時間に余裕がある時は幌尻の肩まで行ったり大岩へ登ったりもするそうだが、今回は平均年齢が高く山頂ピストンでギリな感じで、岩フェチの方は残念そうだった。下山も1,600m水場までは草紅葉の絶景を眺めながらなので激下りでも最高に楽しい。樹林帯に入ってからは何の面白みもなくひたすら下るだけの精神修行(笑)新冠コースにもいくつか渡渉があるのだが、ガイドさん同行だと石を並べて道を作って下さり、ストックを持っていない私にはストックを貸して下さり、渡渉時には手を貸して下さったりと至れり尽くせり。ポロシリ山荘に戻ってからも水を汲んでお湯を沸かしてお米を炊いてご飯作って…って休む間もなく私達の世話を焼き、もちろん食糧はガイドさんが全部持って下さるし、ガイドさんって凄い!旅行会社のツアーだと人数多いからどうしてもレトルトになるけど、普段は少人数の個人ツアーが中心で、その時は食材を担いで調理して振舞われるのだそう。そういう至れり尽くせりなガイドさんがいるのは国内では北海道と屋久島だけみたい。
ポロシリ山荘2泊目は、昨日の学生5名、親子2名、私達8名に加え、明日アタック予定のソロ男性計3名がジョイン。ソロであの道を運転し、ヒグマの聖域の林道を片道19㎞歩くのはすごい。仮にそれを乗り越えてポロシリ山荘に辿り着いたとして、もし他に誰も宿泊者がいなくて一人きりだったら悪夢で、かと言って不審者と二人きりとか怪しげなパーティと一夜を過ごすのも身の危険を感じるし、ソロ女性が新冠で幌尻とかあるのだろうか…?でも今回一緒だった皆さんは、ツアー参加中の身でなければ色々お話ししてみたい素敵そうな方ばかりだった。昨夜のルーロー飯に続き今夜はスパイス海老カレーとお洒落なメニューが続く。誰もおかわりされないので一人で3回もおかわりし、スープもガイドさんが食後のデザートにむいてくださった林檎も美味しくいただき、寝床に入る。昨晩はダウンとフリースを重ね着して寝たら少し暑いくらいだったが、二晩目は冷え込みがきつくなり寒さで夜中に目が覚めた。でも一階で寝ていた学生さんが起き出して薪に火を入れてくれ、お陰で朝まで眠ることができた。
翌朝も4時過ぎに起きてお味噌汁&カフェオレを投入し、5時出発で5時間歩いてイドンナップ山荘へ戻り、迎えのバスに乗るも林道でパンクし、なんとか新冠温泉レ・コードの湯まで車を走らせていただき、温泉で綺麗さっぱりしつつ代車を待つ。前世で日高のヒグマをいじめたであろうAさんと一緒なので、やはりスムーズには帰してもらえない(笑)温泉天国北海道の中で火山のない日高は唯一温泉が湧かない土地らしく、ここはかろうじて堀削した温泉ということだったのでなんの期待もせず入ったのだが、トロトロでかなり気持ちよかった。堀削では過去イチのクオリティかも。ここでランチの予定が食いっぱぐれたので朝食おにぎりでお腹を満たし、空港に着いてからえびそば一幻で旅の締めくくりとした。素晴らしいガイドさんに恵まれ、草紅葉や満天の星空に感動し、百名山ハントしに訪れただけの幌尻だったのに素敵な山だと知ってしまい、また糠平コースの幌尻山荘は管理人さん常駐で売店やシュラフ貸出もあるという情報を聞いたので、次は個人で花の季節に糠平コースを歩いてみたくなった。糠平コースなら運転もできそうだし空港からも近いし。個人だと幌尻山荘の予約が絶望的らしいのが難点だけど、何とか予約を取って、ここはもう一度登りたいな(๑˃̵ᴗ˂̵)
そして幌尻でついに百名山98座目となり、まだ2座残ってはいるものの、手の届かない存在だと思っていた幌尻岳に登れてしまったことで(ツアーという裏技を使ってだけど・笑)、私の中の百名山ハント欲がなんだかすっかり満たされてしまったので、これをもって百名山呪縛を解除し、好きな山に好きなように登る、元の自由なスタイルに戻すことにする♡ とは言っても残る皇海山と前掛山に登るのをやめるわけではなく、皇海山は来年以降、天気が良くて気分が乗れば日帰りピストンでチャレンジするかもだし、浅間山へは前掛山の規制が解除された暁にはぜひお邪魔したい。前掛山へ登れないからと外輪山で百名山カウントするのは個人的に気乗りしないからやらないけど、ただ昨今、山は逃げない説は既に崩壊しており、のん気に前掛山の解禁を待って外輪山や黒斑山も温めていたら、岩手山や羅臼岳のようにある日登山口が封鎖される可能性もゼロではないから、外輪山は早めに行っておこう。そう考えると、皇海山も封鎖されて登れなくなったら後悔するかもだから、やっぱり来年行こう💪