立夏 遠島山と蓬森
遠島山
(岩手)
2025.05.05(月)
日帰り
ついこの前正月を迎えたと思ったらすでに立夏。暦の上では夏の始まり。七十二候では初候「蛙始鳴 (かわずはじめてなく)」となった。
ここ数日風の強い日が続き、晴れていると思えば突然曇ったりパラパラと降ったりの変わりやすい天候だった。
先日階上岳(南岳)から眺めた遠島山と蓬森。今年も山荘泊での予定だったが、車の修理やあれこれやる事に追われている内にそれも叶わず。
今日も夕方皆でバーベキューの予定も入っているが…。
夜中の雨音。今朝は上がったが、気温10℃の曇り空。
4:25出発。路面は濡れていて雲がもの凄い勢いで流れている。車窓から眺める階上岳は大ビラキから上は雲で見えなかった。
三陸道を久慈へと車を飛ばさない。至って安全運転主義。
侍浜へ入ると大海原に雲間から光のカーテンが降りそそいでいる。
(三角錐の遠島山が見えた!)
久慈のすき家、本町のLAWSONに立寄り、再出発が5:30。天気は回復し青空が広がり始めていた。
滝ダムを過ぎ、県道7号線下戸鎖で青看板に平庭高原、県道29号野田山形線を右折、左の牛舎に牛が見える。保礼羅(ほれいら)。何と良い響き、良い地名だ。そして橋場、葛形を過ぎ内間木へと左折。
問題は内間木洞の遠島山登山口からの林道。直近の林道情報が無い。ダメ元で進んでみると先ずは二合目の先と三合目付近が特に荒れている。道端にはニリンソウが風に揺れていてまるでニリンソウ畑の中を走るような感じ。四駆のスイッチON。ゆっくり路面を選びながら登ってゆく。カーブでは無理をせずスイッチバック。
(軽バスのアトレーだが山荘まで登れた。スペアタイヤ必須)
6:10、竜ヶ平到着。何と先客あり。それもブログで見たことがある黒塗りの車。挨拶でもと思い山荘入口まで行ってみたが鍵がかけられ留守のようだった。
風が強い。プチプチと雨粒も飛んでくる。支度して出発が6:30。
4合目のミズナラ林。ニリンソウ、ヤマエンゴサク、エンレイソウ、フッキソウ畑。昨年はちょうど良かったサンカヨウはツボミのまま。あと一週間ほどか…。
五合目のブナのマザーツリー。木に無しでブナを手に無しでなでる。芽吹きの峰走りはここには届いてないらしい。近くでアカゲラの声がする。
ブナ林から一面ダケカンバの林となる。六合目だ。ダケカンバからカラマツ林へと入ると風の音にまぎれ微かにクマ鈴の音が聞こえて来た。背の大きいいかにも山好きといった感じの男性と挨拶を交わす。
「上は風が強くすごく寒いですよ」と。
「ありがとうございます。泊まりですか?」
の問いに「そうです」との答え。
間違いない。その後はテンションが上がってしまい、こちらを名乗らずにしゃべってしまった。後から失礼だったなと反省。でももし山荘泊だったらもっと話せたなと後悔を背に登りかえす。
ブナも空の色もまるで冬枯れのような七合目。ブナに山火事用心の鉄プレート。この辺りからイヌガヤも見え始め、夜のみぞれがそのまま凍って残り、わずかな地肌に2、3センチのヒメイチゲが寒そうに咲いている。木を透かしてキラキラの太平洋が見え近くでミソサザイが鳴く。天気も回復へ向かっているのだろうが、とにかく寒風が吹き抜ける。
オンコの木も多い八合目。残雪に昨夜のみぞれが突風で木の上からパチパチと落ちて来る九合目。ブナも矮性か樹高も低くなり、ダケカンバと西側にはヒメコマツの緑。
7:40、今年初の遠島山頂。立派な山名板。その下にアカミノイヌツゲの常緑。山頂下のハクサンシャクナゲにはツボミも確認できた。東には大海原に野田湾と三崎平、普代村の北山崎が眺められ、眼下には山根の一本桜のある牧野のみどりがパッチワークのように見える。三河産の花崗岩で出来ている二等三角点。主三角点と小祠のある三畳ほどの山頂は東側の展望となる。少し南の岩峰、妙見菩薩の石碑のある展望場へ出れば上外川高原の風車、目の前には牧野のある穴目ヶ岳、東には標高点1238mの大きな塊、その奥にちょこんと天神森、薄っすら黒森山から折壁山が眺められた。天候に恵まれると岩手山や早池峰も望まれる。先ずは寛政十年(1798年)十一月二日建立の妙見大菩薩碑に手を合わせる。野田村海蔵院実仙和尚の建立したこの妙見碑のおかげで天神森、栃澤、三峯と歩き回れたことに感謝する。
この突風通り抜ける岩峰にも小さな花が咲く。オオバヒョウタンボク。長居は出来ずすぐに天神森との鞍部へ下りた。
岩峰には文字の消えた木のプレート「この先道無し」だ。オンコの木、ブナの間、薄い踏み跡の笹原を漕ぐ。鞍部を右へと旧松ヶ沢登山口へと進む。時々木の杖でブナを叩き音を出す。「旧六月二日牛見に来た」の鉈目。雪解けが今年は遅かったのだろう、山径は沢(泥濘)となり足元を気にしているうちに「七月九日シャクナゲノ花マンカイ」の鉈目は見逃してしまった。踏み跡もほぼ無く所々ブナに赤ペイントがしてあるのを逃さないようにして松ヶ沢林道からの作業道(標高点1092mの破線)へ出た。すぐにブナの林へ入りジグザグに旧牛小屋へと下りる。遠島山荘、水場の指標。遠島山頂の方はいつも下に落ちている。そこからは境界線の破線を北西へとたどる。切り開きに腰ほどのクマザサを漕ぐ。稜線、北東側に牧野跡の鉄柱が見えて来る。昔(ほんの数十年前)は松ヶ沢側は広大な牧野だったのであろう。そんな景色を想像しながら細い山径を進んだ。笹原に不鮮明ながらも薄く残る踏み跡。だが、しっかりと足裏へ地面の硬さが伝わって来る。今は獣と物好きだけが通う街道。蓬森から遠別岳への道(跡)。鉄柱に木のプレート。すでに判読不能だが「安家森と平庭岳」の文字が昨年までは読み取れた。ブナにオレンジのペイント「獅子狩線→」ここから西へ方向を変え松ヶ沢林道へ出た。相変わらず車両の往来はなくこの林道は廃れる一方なのだろう。
松ヶ沢林道峠、小国方面と蓬森方面への別れ。西の林道を蓬森へと向かう。途中、大きなクマ棚が頭上にあった。昨年の秋か、ブナには爪痕も残る。何故か「ヨシヨシ!」と声が出る。採草場跡、木の間から蓬森の突き出た鼻が見える。目の前にウソが二羽。カメラを構える。逃げる。今度はヒガラがちょっかいを出して来る。構える、逃げるの繰り返し。昨日のものか、残雪には内股のクマの足跡が点々と続く。クマザサのカーブを過ぎ蓬森の峠へ出た。南への切り開きを進む。残雪に大きなダケカンバが点在し林床には芝が広がる。小さなヒメイチゲの群生地だ。三等三角点天神森の先は木の育たない風衝荒廃地が広がる蓬森山頂。先ほどの遠島山、天神森、折壁、黒森、穴目が近くに見え、その南に薄っすら堺ノ神、高峰、害鷹森見える。手前の鈴峠からの稜線には高次大森まで雪庇が残り、安家森、遠別岳、平庭岳までの大展望地。天候次第では北上山地の秀峰早池峰山や高次大森の右に岩手山も望める。
子供の頃の思い出がよみがえる。薄っすら消えかけて逝く思い出が。
風の蓬森から来た道を旧牛小屋へと戻る。途中、黄色いテンが横切る。クマザサを分け牛小屋へと着いた。牛小屋から水場へ下りると滅多に来ない客のためかミソサザイがしきりに鳴いてくれる。そしてこの先はクマの巣だ。至る所にクマのフン。ブナには新しい爪痕。おそらく遠くからこちらを見ているのだろう。標高点1021mで休憩しメモを取る。その後ジグザグに下るが標高900m辺りの等高線上は特にクマのフンが凄かった。ここに居れば必ず出会えるのだろう場所だ。ひとつ気になることがあった。泥濘にフェルト底の様なペタッとした足跡。ソール形が見えない足跡。底のすり減った長靴で歩いているのであろうか?時々現れる足跡だ。
ブナの若葉も見え始めた。日差しも暖かい。少しずつ遠島山にも春が近づいて来る。キツツキの音、ウグイスの鳴き声。カラマツの新緑。山荘の水場が近い。静かな山歩きができた。ありがとうよ、遠島山。そして蓬森。