投稿日 2022.07.28 更新日 2023.05.23

楽しむ

雑誌から書籍・ご当地情報誌まで作り手の偏愛が百花繚乱! 「山の本」を考察する

スマホを指でなぞれば、大体の情報が集まってしまうWeb全盛の現代社会。「あらかたWebで調べられるから、かれこれ1年以上本を買っていないなぁ〜」なんて人も多いのではないでしょうか? しかし侮るなかれ! 雑誌や書籍には、限られたページ内で自らの偏愛を表現しようとする執筆者や編集者の飽くなき想いが溢れんばかりに込められているのです!! 今回の「旅する道具偏愛論」は、山の本に込められた作り手たちの偏愛について、大内征氏が語ります。

低山トラベラー大内征の旅する道具偏愛論 #13連載一覧はこちら

目次

よく「どうやって山を探してるの?」と聞かれる件

低山って何メートル以下とか決まってるんですか? という質問のつぎに多いのが、いつもどうやって山を見つけるの? という質問だ。質問者からすれば、あまり知られていないものの登ったら面白そうな低山を高確率で発掘していることが不思議らしい。

日本中のさまざまな低山里山を歩いているけれど、たしかにマイナーな山が圧倒的に多い。地元ではさておき、これまで世の中から注目される機会に恵まれなかった山岳に、まだまだいい山がたくさんあると思うのだ。そういう山を調べては、実際に歩くということをして十何年。しばしばラジオ深夜便で話すようにしているし、いずれ本にまとめたいとも考えている。

・地図から探す
・登山誌から探す
・ガイドブックから探す
・SNS(インスタやツイッターなど)から探す
・YAMAPから探す
・地元の人から教えてもらう
・登った山から見える別の山から探す
・山に精通した人から教えてもらう
・古書や古地図から探す
・神話や風土記から探す
・小説や絵画などの文化作品から探す

ぼくの場合をざっと挙げてみたけれど、この「山を探す」という表現が適切かどうかはさておいて。つぎに登る山をどのようにして見つけるか、その情報源は人それぞれ。これって、とても興味深いことではないだろうか。

深田久弥著『日本百名山』の山をすべて登りたいと話す人は多く、もっともわかりやすい“探し方”のひとつだと思う。雑誌や書籍で紹介される山だとか、インスタなどのSNSでよく見る風景だとか、山仲間からオススメされた山などなど、つぎに登る山のヒントはそこら中に転がっている。もちろんYAMAPユーザーの日記で知った山に行ってみる、という人も多いことだろう。その場合、なにせルートのログまで確認できるのだから素晴らしい時代になったものだ。はてさて、読者のみなさんは、どうやって探しているだろうか。

登山誌の編集者と執筆者への大いなるリスペクト

ぼくは、こどもの頃から雑誌と地図がとにかく好きだった。とくに雑誌については幅広いジャンルを読んでいたものだから、一家言ある。いつだったか、出版社に勤めていた友人と「これまで読んで面白かった雑誌」をテーマに飲み語りしたことがあった。お互いの雑誌愛で大いに盛り上がって、めちゃめちゃ楽しかったことを覚えている。そして、二日酔いのひどかったことも。

突き詰めていくと、ぼくは、雑誌を作っている“人”が好きなのかもしれない。編集者や執筆者として第一線を走る(歩く)姿を勝手ながら思い浮かべ、その人たちのメガネを借りて、まだ知らない世界を覗き見ることが本当に楽しくて。カメラマンやイラストレーターや画家も同様で、そうした作り手や表現者たちが新しい提案をし、これまでにない視点を授けてくれるのだから、それはもう心からリスペクトなのだ。

そこまで言うのなら、なんでそっちの道に進まなかったんだと突っ込まれて、それもそうだと意味のない後悔をしたこともあったものだ。しかしながら時を経て、いまこうして文筆業を営んでいるのだから、人生とはわからないものである。

そんなわけで、今回の偏愛論は山の「雑誌」と「書籍」を取り上げたい。自宅にはかなりの蔵書がある。その中から「つぎに登る山を探す」ことに役に立ちそうな本を前提に、ざっくりと選んでみよう。

編集者視点で毎月“提案”してもらえるのが登山誌のいいところ

登山をしている人なら一度はページをめくった経験があるに違いない、それが登山誌だ。『岳人』『山と渓谷』『PEAKS』『ランドネ』といった定期刊行の雑誌が、その代表的なもの。不定期で登山の特集を組む『BE-PAL』や『散歩の達人』『男の隠れ家』なんかも面白い。惜しむらく休刊となった『ワンダーフォーゲル』という雑誌は、個人的に大好きだったなあ。

そうした数々の雑誌のバックナンバーをたくさん保管しているので、いまでも見返すことがたびたびある。ちょっとむかしの登山誌に、いま友人知人の関係だったり仕事仲間だったりする人の若かりしころが載っていたりして、そういうことも楽しい。背表紙がズラリと並んだ自宅の本棚には愛着があって、一冊でも欠けてしまうのが惜しく、なかなか捨てられない理由のひとつにさえなっている。

そんな登山誌の毎月の特集テーマをよく観察していると、編集者たちの視点や表現のなかに個性と工夫があることに気がつく。とくに、山に関わるさまざまな領域で活動するスペシャリストたちによる「おすすめの山」特集は、その理由も山域もコースも多岐にわたっていて参考になるから、買っておいて損はない。コメントをつぶさに読んで写真を眺めて、ピンときた山はさらに深掘りして調べてみる。その過程で集めた情報で、登山計画も立てられるはずだ。

入門的ガイドブックやムック本から第一歩を踏み出す

ガイドブックやムック本は、とくに初心者向けに制作されたものが多い。低山里山はもちろんのこと、高くても登りやすい山や、古道に街道、渓谷巡り、ケーブルカーで行ける山などなど、趣向を凝らした切り口で編集されているのが楽しくなる。こうした書籍から気に入った山を選んで実際に歩くことを繰り返しているうちに、自分なりのアンテナが育まれていくわけだ。

レコードやCDを中古屋で掘っていた世代のぼくとしては、ぱっと見で“ジャケ買い”をして思わぬ発見があったり(失敗も多かったけれど、笑)、お気に入りのバンドのルーツやサウンドの系統を掘り当てていくことによって、自分自身の音楽の世界も想像以上に広く深くなった経験がある。似たような人、多いのでは?

これと同じように、ガイドブックのお気に入りが見つかったら、その著者の作品を掘り起こしたりシリーズを集めてみるのはひとつのアイデアだ。たとえば『東京近郊ゆる登山』(実業之日本社)を執筆されている西野淑子さんの文章はとても読みやすく、まさにガイドブックのお手本のような著書ばかり。そういう方の作品を辿りながら、そこで紹介されている山をどんどん掘り当てていくのだ。これ、とてもいい方法だと思う。

著者の偏愛視点を味わえるニッチなテーマの書籍たち

一方で、特定的なテーマで編まれたちょっぴりニッチなタイトルはどうだろう。好きな人なら、ぐいぐいのめり込んでしまうに違いない。

たとえば『日本百名峠』(桐原書店)は、さまざまな書き手の随筆を集めて井出孫六が編んだ「峠」のアンソロジーである。日本各地から選ばれし「峠」の紀行文は、ぼくが個人的に越えたことのあるところもあったし、あまりの美しさに感動をした忘れがたい峠も取り上げられていて嬉しくなった。これから行く場所の予習はもちろんのこと、これまでに行ったことのある場所を見つけたときの喜びも大きいのだ。今年登場したヤマケイ文庫の『峠』もアンソロジーで、こちらは深田久弥が編集を手がけたものの復刻版。いずれの本も、峠ファンのぼくにとっては「つぎはどこにするか」を考える羅針盤のひとつになっている。

山岳信仰や神なる山に興味のある人には、おすすめしたい本がたくさんあるのだけれど、たとえば坂本大三郎著『山の神々』(A&F BOOKS)は、日本各地の山岳に伝わる伝承や信仰について造詣が深い著者の思いが綴られている。あまり表で語られることのなかった山も多く取り上げられているので、つぎなる山を考える大きなヒントになるはずだ。ぼく自身も知らない話があったりして、興味深く読んでいる。

日本全国津々浦々! 地元視点で編まれた資料本の数々

山旅や取材で訪ねた土地で手に入れた書籍、それとご当地資料も侮れない。地域の情報誌や新聞社などがとりまとめた地元のハイキングコースガイドや、同好会ひいては個人がつくった資料本の類は、日本各地でよく見かける。巻末には愛好会などが作成した手書き地図が付いていたりして、とにかく味わい深いものが多い。

ぼくはこうした資料に目がなくて、ついつい買ってしまう。道の駅やカフェ、工芸品店、ギャラリー、温泉施設、そして地元で長らく営んでこられた小さな書店に、そうした本が置かれていることが多い。寄り道したら店内をくまなく探してみよう。

この手の本は、範囲をぐぐっと限定している。狭い地域に絞っているがゆえに、ものすごく濃い内容になる。全国誌には載らないようなマイナーな山が巻頭特集になっていたりすると最高だ。まじでシビレる。

ユーザーの声と行動データから編まれた信頼の山情報

ぼくにとってみれば、まるで仕込みのようなタイミングで登場した『YAMAP 山登りベストコース 関東周辺版』(KADOKAWA)だけれど、今回のテーマとしてはピッタリの書籍だといえる。あまりのタイミングの良さゆえにPRだと思われそうだけれど、この本は地元の書店で購入したものだ。いや正直にいえば、ヤマップさんから献本あるかなーと期待して少し待ったことは認めよう(いやなにも協力していないのだから、なくて当然だけれど)。

標高の高低に関わらず人気の山岳に絞り込み、YAMAPユーザーの行動データや声から分析された「よく選ばれるコース」がこれでもかと掲載されている。読者が自分にぴったりのコースを選びやすいように、見どころ・体力度・歩行距離・高低差も掲載するなど、ずいぶん工夫を凝らしたそうだ。

べつに自慢するわけではないけれど、この本に掲載されている山の2つを除いて登った山ばかりだった。しかしながら、この本は「コース」にフォーカスしているところがYAMAPらしさといえる。その意味では、まだ歩いていないコースがけっこうあることに気づかされた。それこそが、ぼくがこの本を自費で買った一番の理由である。もちろん応援の気持ちもこめて。

さて、つぎはどこの山に行こうか?

このことを念頭において、道具としての「雑誌」と「書籍」を考察してきた。まだまだ紹介したい偏愛本がたくさんあるのだけれど、主題が異なるのでしぶしぶと本棚に引っ込めた次第。本は、目的があると飛躍的に活きる手段でもある。読んで終わりではなく、ぜひ現場まで確かめに出かけてみてほしい。

と、ここまで書いてきて、重大なミスに気がついた。自分の著書の存在を、すっかり忘れていた……。まあ、いっか。

文・写真
大内征(おおうち・せい) 低山トラベラー/山旅文筆家

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