投稿日 2022.02.03 更新日 2023.05.23

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冬山から夏の高山まで大活躍! 化繊のアクティブ・インサレーションを考察する

歩いていると暑いし、立ち止まると寒い…。冬の登山の温度調節は何かと難しいもの。いまだに正解を導き出せずに悩んでいる方も多いかと思います。そんな悩みに、低山トラベラー大内征氏が導き出した答えは「アクティブ・インサレーション」。日進月歩進化する先端技術が詰まったその性能と大内氏お気に入りのアクティブ・インサレーションを今回はじっくりと考察します。

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目次

吹雪の中で感動した「DAS・ライト・フーディ」の威力

結論から言おう。パタゴニアの「DAS・ライト・フーディ」は、ぼくにとってここ数年でも最高の買い物のひとつだ。2020年の秋に発売されるやいなや恋に落ち、雪山には必ず連れ出している超が付くほどのお気に入り。爆風の稜線では全方位から吹きつける風雪をシャットアウトする鉄壁の守りで、それまでの雪上運動で蓄積した体温を無駄に放出することはなかった。それでいてかいた汗もすぐに乾く。なんとまあ優秀なことか。

この「DAS・ライト・フーディ」は、YAMAPひげ隊長がこよなく愛する同ブランド不朽の名作「DASパーカ」の軽量版として登場した化繊の新型インサレーションである。本家DASパーカ復活の話題は賑やかだったものの、こちらはあまり注目されなかったように思う。気のせいかもしれないけれど。

とはいえ、登山誌でたくさん取り上げられていたし、気になっていた読者は多いのではないだろうか。というか、元来パタゴニアのファンで買っちゃった人、けっこういると思う。みなさん、何色を買いました?

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インサレーションとは保温性のある防寒着のことを指す。特にどんどん進化する化学繊維の恩恵によって行動中でも着用することができる動的保温着「アクティブ・インサレーション」は、もはや冬山登山のマストアイテム。インシュレーションと呼ばれる場合もある。

で、実をいうと、インサレーションについてはこれだけではなく、過去にいくつか試してきた。

ぼくのメインフィールドは日本各地の低山だけれど、真冬ともなれば山の高低に関わらず防寒対策は必須だし、そもそも東北人ゆえ冬山歩きのみならず厳冬期には雪山が恋しくなる。ゆえに極寒の環境で行動中に着る衣類のアップデートは常に欠かさない。とくにインサレーションはこの2、3年で各ブランドがどんどん新作を出しているし、すでに力を入れているブランドはますます研鑽を重ねている。これだから、毎シーズンの新商品発表が楽しみで仕方がないのだ。

ということで、今回はインサレーションを取り上げたい。なかでも行動中に着ることを想定して開発された「化繊のアクティブ・インサレーション」に絞ってみようと思う。

化繊のインサレーションは行動着、ダウンは保温着

本題に入る前に、ひとつ握り合っておきたい。ふだん意識をせずに使っているであろう「ダウン」という言葉のことだ。ここで言う「ダウン」とは、いわゆるダウンジャケットのこと。一般的にはグース(ガチョウ)かダック(アヒル)の羽を用いた保温着のことを指す。その羽には大きく2つあって、フェザー(羽根)とダウン(羽毛)とに分かれる。

それでは、あなたの“ダウン”はグースだろうかダックだろうか。フェザーだろうかダウンだろうか。おそらく自分の着ている“ダウン”がどんな素材のどんな特性を持っているのか、細かく把握している人は少ないだろう。まるっと羽の保温着を「ダウン」と呼んでいるのが現状だと思う。

そのダウン、着るタイミングとしては停滞時に適している。わかりやすくいえば一時的に動きを止めている時やしばしの休憩中など。1日の行動を終えて小屋で過ごすときもダウンがフィットする。しかし濡れたらしばらく乾かないため、行動中に着るのは避けたいところだ。一方で化繊のインサレーションは中間着の性質が強く、行動中に着るのに向いている。汗をかいても乾きやすく、それでいて風を防ぐ能力は相当に高いのだから、初めて雪山で着用したときは本当に感動したものだった。

・・・ということを今回の前提として、ここから先は考察を深めていきたい。

軽くて小さいから、常備としても予備としても超優秀

以前、この連載で取り上げた「ウィンドシェル」は、夏場に常備しておきたいアイテムとしてそのメリットに触れた。山はもちろん職場や公共交通機関などでも活躍するし、パッカブルだから携行しやすいのだ、と。片やこちらのアクティブ・インレサーションは冬場に常備しておきたいアイテムだ。気温の低い高所の夏山でも期待を超えた活躍をしてくれる。つまり、四季を通じて役に立つアイテムだと考えていい。メインとして常備するか、サブとして予備にしておくかは、使い方次第。

軽くてパッカブル!

昨今の化学繊維素材は羽根や羽毛に負けず劣らずで、とにかく軽くてあたたかい。技術的な進歩がもたらす登山革命の最たるものがインサレーションではないだろうか。それゆえ、いくつものブランドの開発は日進月歩。たとえば収納方法についても余念がなく、上の写真のようにポケットに丸め込んで小さく納められることは、もはや当然の仕様だといえよう。別売りのスタッフサックを買うなら2リットルか3リットルくらいの袋がちょうどいい。3つ並べたうちの右側がグラナイトギアの2リットルサイズのスタッフサックで、中にはアークテリクスの「Atom SL Hoody」が入っている。ご参考に。

と、そんなことを言っておきながら、ぼくはあまり丸めて収納することはない。というのは、ザックの余白スペースを埋めるようにしてその隙間にグイグイと突っ込むから。こうしておくとザックの形が整い、デッドスペースも埋められる。そんなわけで、ラフに使っても耐えうるインサレーションが好みだったりする。

登山の大敵「汗と風」に強い!

すでに軽く触れた通り、風が強くてもほぼシャットアウトしてくれることや、汗をかきながら着用していても乾きが速く、かつ、保温性も適度に保っていることが感動レベルで高い。この“適度な保温性”を保つことが、ハードシェルとの大きな違いだろう。

今ぼくは化繊のアクティブ・インサレーションをメインで使い、ハードシェルをザックに備えておくスタイルが多くなった。もちろん後者にも出番はあるけれど、是非はともかく行動中に着るなら前者がぼくの好みではある。

では、ここから先は、ぼく自身がどういう状況でどのインサレーションを使っているか、その理由とともに考察していこうと思う。あくまで個人的な視点と好みに過ぎないけれど、すべて実体験によるものなので、これから購入する人にとってなんらかのヒントが得られれば嬉しい。

夏山縦走のテント泊は「マイクロ・パフ・ジャケット」が快適

パタゴニアの「マイクロ・パフ・ジャケット」は、その重量に対する保温性の高さが同ブランド随一だ。さらには280g(実測)と軽いうえに柔らかく、水にも強いのだから言うことなし。

この特性を活かすべく、ぼくは主に夏山でのテント泊縦走に持っていくことが多い。夏とはいえ高山の夜は肌寒いのだから、テント設営後のまったりタイムや就寝時はこれがちょうどいい具合になる。袖口と裾が伸縮素材になっているのも、体温を逃がさない点で高ポイント。着るのが暑いなら丸めて枕にしてもいい。

もうひとつ付け加えると、内側の左右に大きなポケットがあるので、ここに濡れたウールの手袋や靴下を入れておくこともできる。行動中の体温で少しでも早く乾かしたいときには有効だから、覚えておくといいだろう。とはいえ、中の衣類の内側に挟み込んで乾かす方がもっと速いかもしれないけれど。

厳冬期の雪山は「DAS・ライト・フーディ」の一択

2020年の秋に彗星のごとく現れた革命児。と言ったらいささか大袈裟かもしれないけれど、個人的にそれくらいのインパクトを受けた「DAS・ライト・フーディ」は、雪山に持っていくベストチョイス。冒頭でべた褒めしている通りである。

言及できていない点を加えるなら、形とサイズ感が絶妙ということだろう。シェルやフリースなどを着ている上からさらに羽織ることを想定して、少しゆとりのあるサイズをチョイスするのが◎だ。背面がやや長いので、雪の上に座る場合はこれが助かる。フードのサイズと動きも絶妙で、ヘルメットやビーニーの上からでもスムーズにかぶることができる。こういう実践的な配慮は良好。高機能なわりに331g(実測)と軽量なのも最高。

雪の少ない山域や小屋は「ゼネアライトジャケット」が絶好調

イギリスのアウトドアブランドにはずっと注目していて、中でもRabの存在感には目を瞠る。発売当初から着ている「ゼネアライトジャケット」は、これまた実測値で250gとかなり軽量。それでいて作りはしっかりしており、日常から使いたくなる軽い着心地だ。マットなブラックカラーというのもいい。

ミドルレイヤーとして着用してもかさばらない厚さで、汗の抜けもいいし、冬の低山にもばっちり。ジャケットの襟は高すぎずとも首元をしっかりガード。袖口は手を覆うサムホール仕様になっている。天候が穏やかな場合は雪山でも使い勝手は抜群にいい。

たまたまYAMAP STOREでも扱っていて、この原稿を書いている時点で在庫は僅少だった。ぼくは身長178cmでUK「M」を着用している。これはJPN「L」にあたるから、購入時の参考にしてほしい。

冬の低山、厳冬期の雪山、夏山縦走、春秋の予備着として

写真は秋の奥秩父のひとコマだ。日中ならまだ陽射しがあたたかく、衣類の調整に忙しいシーズンである。きっとみなさんも同様の経験をしていることと思う。しかしながら標高2,000mを越えてくると空気はとたんに冷たくなり、ひとたび風が吹けば身体を芯から冷やす。

そんな時にザックから取り出すのは、アークテリクスの「Atom SL Hoody」だ。アトムシリーズは同ブランドの定番インサレーションだけれど、この「SL」については売り場に出るのは夏場のみだと店舗のスタッフの方が言っていた。たしかに秋冬用にしてはかなりの薄さだ。とはいえオンラインストアでは入手できるから、気になる人は要チェック。

着てみると、その構造には工夫が感じられる。たとえばボディと背面だけに極めて薄い化繊が封入されていて、重さは261g(実測)となかなかの軽さ。着心地はミドルレイヤーそのもので、袖の内側から脇下と脇腹までが一枚生地になっており、とにかく行動中の通気がいい。フードも同様に一枚生地。こうして軽量化が図られて、かつ、極端に薄いインサレーションとして仕上がっているため、アルプスなどの夏山縦走にも活躍する。さすがはアトムシリーズ最軽量。

まあ、ぼくは極端に暑がりだから、冬の低山でもこれをよく使っている。季節に応じ、組み合わせて相乗効果を得られるようなフリースやシェルの類も忘れずに持つけれど。

さてさて、今回は化繊のアクティブ・インサレーションについてあれこれと論じてみた。目的と手段をふまえた道具選びをすれば、クオリティ・オブ・ハイクは間違いなく向上する。これはインサレーションに限ったことではない。

今回取り上げたアイテムのほかにも、パタゴニアの「ナノ・パフ・フーディ」と「ナノ・パフ・ベスト」はずっと溺愛している相棒だ。低山に街にと一番出番が多いのが、実はナノ・パフ・フーディだったりする。ベストは予備としてバイプレイヤー的存在感を発揮する。重さはフーディが387g(実測)とやや重めで、ベストは実測値で217gとほんとうに軽い。そんなナノ・パフのいいところは、とにかく作りがタフにできていること。少々荒っぽく扱えるという点で、上記のアイテムに大きく差をつけている。

そうそう、ここに登場したすべての化繊インサレーションは家庭で洗濯することができるのも大きなポイント。そういうところ、本当に良いと思う。洗うときはネットに入れることを忘れないようにしたい。

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文・写真
大内征(おおうち・せい) 低山トラベラー/山旅文筆家

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