投稿日 2021.08.23 更新日 2023.05.23

楽しむ

”ミドルレイヤー以上レインウェア未満” 頼れるウィンドシェルを常備せよ!

登山を趣味とする人にとって必携アイテムのミドルレイヤーやレインウェア。しかしその中間的な存在とも言える”ウインドシェル”となると「いざとなればレインウェアで代用できるし…、なくても大丈夫だよね?」とお考えの方も多いかと思います。しかし、あなどるなかれ! その汎用性には目を見張るものがあり、登山はもとより日常生活にも大活躍なのです。今回の「大内征の旅する道具偏愛論」では、大内氏をして「ぼくはもう、これがなければ生きていけなくなってしまった!」と言わしめるウインドシェルの実力をご紹介します。

低山トラベラー大内征の旅する道具偏愛論 #08連載一覧はこちら

目次

夏山でも使えるペラペラの“ウィンドシェル”

原稿を執筆している8月中旬現在、外はものすごい雨が降っている。いや、降り続いている、という表現が正しい。先週まではこれぞ真夏! という暑さで、午後になると決まって雷雨が発生していた。今日などは、もう夏は終わってしまったんじゃないかとため息をつくほどの肌寒さ。仕事部屋でこの原稿を書きながら、温かいコーヒーでひと息いれるものの、窓の外に顔を出すと吐く息が薄っすら白い。お盆だというのに。

そりゃあ、夏でも肌寒い日はある。平地でこれだけ寒いのだから、山の上はもっとだ。特に標高2,500mを超えるような山岳の稜線は風が冷たくて、ひとたび太陽が雲に隠れようものなら途端に空気がひやっとする。そんなとき、ぼくはあっという間に過ぎゆく故郷東北の夏を思い出す。

さてさて、山で肌寒さに耐えかねたとき、みなさんは何を羽織るだろうか。ロングスリーブなどの長袖ミドルレイヤー、あるいはレインウェアもあるだろう。薄手のソフトシェルとかフリースという選択肢もある。ここは好みが分かれるところだから、なにを選ぶかは人それぞれだと思うけれど、ぼくはウィンドシェルの一択。持っている人ならわかってくれるであろう、あの頼りがいのある“ペラペラ”した薄手のジャケットである。

ということで、今回は「ウィンドシェル」を取り上げたい。夏も冬も、もちろん春や秋も。これをザックに忍ばせておくだけで、屋外活動のクオリティは格段に向上する。ペラペラなのに!

特に夏山では、何度もウィンドシェルに助けられた

八ヶ岳の雪がほとんど解けたとの連絡を受けて、テントを背負って出かけてきたのが初夏のこと。麓の登山口は夏の盛りを思わせるほどの陽気だったため、登り始めは半袖だった。しかし、横岳から赤岳の稜線では燦々とふりそそぐ陽光以上に風が冷たく、ウィンドシェルが大活躍。愛用しているRabのVital Windshell Hoodyは、山で映える黄色がお気に入り。重量は160gと軽量で、左ポケットの内側に収納できるパッカブル仕様。ザックに入れておいて邪魔になることはない。

当たり前だけれど、標高2,800mの山上は夏でも気温が低く風は冷たい。一般に、標高が100m上がると気温は0.6度下がるとされている。さらに風速1mの風が吹けば体感温度は1度下がる。そこに加えて、自分の身体に密着する衣類が汗や雨で濡れていると気化熱によって熱を奪われてしまい、ますます寒くなるのだ。だから、風を防ぐことに特化した薄手のウィンドシェルは、夏こそ本当に出番が多い。

ロングスリーブなどの長袖ミドルレイヤーとか薄手のフリースなどは、風を通すという点で身体を冷やしてしまう。逆にレインウェアは風を通さないため密閉性が高く、かえって汗をかいてしまう可能性がある。ウィンドシェルが抜群なのは、その中間にある衣類だから。さらっと着れる生地の薄さは、風や空気の冷たさをほどよくシャットアウトしつつ、あまり汗をかきたくない状況にこそ本領を発揮する。

個人的“登山5種の神器”

よく知られている登山の“3種の神器”とは、登山靴、ザック、レインウェアのことを指す。そこに、近年その有用性が周知されつつあるドライレイヤーを加えて“4種の神器”とする論調もある。汗を吸収するか撥水するかによって重ね着しているミドルレイヤーなどに汗を受け渡し、肌に直接触れているドライレイヤー自体はできるだけ乾きやすいドライな状態を実現する速乾アイテム。現代の登山には欠かせない高機能のアンダーウェアである。

個人的には、ここに“5つ目の神器”としてウィンドシェルを加えたい。シンプルながらハズせない利点があるのだ。

①とにかく軽量でコンパクト、だから荷物にならない

たとえばこの黒のシェルは、パタゴニアの傑作「フーディニ・ジャケット」。左胸のポケットに収納できるよう設計されており、手のひらに収まる小ささになる。公表されている重量は105gとかなり軽量。登山のザックはもちろん、ビジネスバッグなどに忍ばせておきたい逸品だ。大き目のサコッシュやポーチにも入る。

②ペラペラの生地だが、実は着心地がとてもいい

薄くて軽いナイロン素材はさらっとした肌触りで、まとわりつく感じがないのが◎だ。同じ薄手のジャケットならレインウェアだけでいいじゃん、と思うところだけれど、レインウェアほど密閉され過ぎない生地の薄さがほどよい。これは一度着てみるとクセになる。

③ほかの衣類と組み合わせて機能拡張

より寒さを感じるとき、ウィンドシェルの上にレインウェアを重ねて着るのはひとつのアイデアだ。互いに薄手の生地ながら、重ねて着るとなかなか温かい。夏山の稜線で天候が崩れたり、寝袋の中で寒さに目を覚ますような夜があったら試してみる価値はある。春先や秋冬なら化繊のインサレーションの上なり下なりに着て防風保温の足しにすることもできる。

行動着として優秀、停滞時の防風にもばっちり、他の衣類と組み合わせて機能拡張。もはや欠かせないマルチプレイヤーである。

移動の飛行機や新幹線、オフィスやカフェでも大活躍

登山をする際、その行き帰りに公共交通機関を利用することは多いだろう。そんな時もウィンドシェルが活躍する。最近は、飛行機の機内で借りられるブランケットが姿を消した。新型コロナウイルスの感染対策の一環として、共用するものを減らしているためだ。ゆえに、手荷物の中にはウィンドシェルを備えておきたい。これさえあれば、羽織ることはもちろん、ひざにかければ足元の冷えにも対応できる。電車やバスなどで居眠りしてしまった場合の身体の冷えも、あらかじめこれを着ておけば心配なし。意外と登山の前後で出番が多いのだ。

クーラーが効いてキンキンに冷えた屋内空間でも、ウィンドシェルは本領を発揮する。冷房の冷たい風が漂うオフィスや病院の待合室、図書館や美術館など。とくに原稿を書こうと入ったカフェで長居をするようなときは、速やかにバッグから取り出す。フードがあるので、ちょっとした雨のときにも慌てずに済む。

普段使いとしてむかしから愛用しているのがCHUMSのレディバグジャケット。とてもしっかりした作りなので、ウィンドシェルというよりは普通にアウタージャケットとしても重宝している。腰のあたりに収納用のポケットがあるパッカブル仕様。計測してみたら180g程度だった。撥水機能とUVカットは夏山で重宝するし、静電気防止効果のある素材は冬の屋内でも安心して使える。毎シーズン生地の柄が変わるので、新色を楽しみにする時間もまた楽しい。

そんなわけで、登山道具の中でもっとも出番の多いアイテムのひとつ“ウィンドシェル”を考察してきた。登山中も、その前後の移動中も、日常生活の中でも、気がついたら羽織っているウィンドシェル。ぼくはもう、これがなければ生きていけなくなってしまった。

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文・写真
大内征(おおうち・せい) 低山トラベラー/山旅文筆家

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