【空を衝く番人】壺神山
壺神山という、いかにも何かありそうな名の山へ向かった。 登山口へ着いて、まず目に入ったのは山ではなく巨大な電波塔である。鉄骨とアンテナを背負い、青空へ向かって物々しく突き出している。 鉄塔の脇を通ると、姿なき番人から一言あった。こちらには何の下心もないのだが、向こうには少々あるものと見える。 ともかく山へ来たのであるから、山へ入る。 すると今度は藪である。 道は草に遠慮しているのか、ところどころ己の存在を忘れている。これを登山道と呼ぶなら、世の中の大抵の隙間は道として通用しそうである。 藪を抜けると杉林になった。 木がある。 また木がある。 その向こうにも、やはり木がある。 そうして歩いているうちに、あっけなく山頂へ着いた。 「壺神山 九七〇米」 なるほど、山頂である。 三角点があり、標識があり、木がある。 眺望というものは、どうやら麓へ置いてきたらしい。 しかし、これでも立派な四国百名山である。 山頂標識を眺めながら、これを選んだ人には、我々凡人には容易に窺い知れぬ深い事情があったのだろうと思うことにした。 絶景があるわけでもなく、長い道のりがあるわけでもない。 登ったと思ったら、もう終わっている。 名山とは何であるか。 その問いだけを登山者に残し、壺神山は杉林の中で黙っていた。 下山すると、再び巨大な電波塔が青空の下に現れた。 山頂より立派である。 写真映えもする。 おまけに、こちらへ話しかけてもくる。 壺神山へ登ったはずなのだが、帰る頃には山より鉄塔の方が記憶に残っていた。 百名山とは、まことに奥深いものである。






