雁峰山(愛知)
2026.06.21 (日)日帰り
生きとし生けるものの湧き出るが如くの季節が、下界よりは少し遅れて低山にも訪れる。
やはり気を遣うのは谷筋のヒル。そして薮のダニであろうか。特にDは時として致命傷になりかねず、神経質にならざるを得ない。
しばらくは顔を出していなかった三河。本宮山と鳳来寺山の間に「御岳山」という何とも贅沢な名を持つピークがある。
今回は、登り残しているこの一座に絞ろう。早く降りて、明日までに片付けておかねばならぬ仕事に向かうのだ。
豊田の市街地を抜けて、新城に入ります。御岳山のお向かい、巴山を水原とする巴川を縫いながら、どこまで続いているのか分からぬ酷道を15分ほど登った所に車を停めて歩き始めです。
元は林業のために舗装もされていたであろう路を、Hくんに気を付けながら登ってゆきます。先ほどまで降っていた雨のせいか、登っていく足元にも水が流れてきます。
次第に薮っぽくなっていく道はやがて草木に埋もれ、どこかめぼしいところから尾根に取り付かないと…なのです。
…にしても、予想はしていましたが、雨後の乾く間もない薮の取り付きは、過酷です。
濡れた枝や草をつかみながら、服も手足も全部びしょ濡れ。
雨後の谷筋といえば、当然H。薮といえばD。どこかにくっ付いてないかにおののきながら、何とか尾根に乗れました。
…が。ここからは距離は短く、傾斜もさほどないのに、なかなかにハードなのでした…。このルート、これまでにして誰も歩いてないこと間違いなしなのであります…。尾根芯を外さずに進みたいのですが、薮の濃さに負けて右側にずれてしまうと、知らぬうちに尾根芯を外してしまい、復旧に苦労するのは目に見えているのです。そのあんばいがこれまた悩ましい…。
やっとこさ御岳山と雁峰山をつなぐ、ヒトの道に出ます。ここからは見違えるような幸せな路となりました。
5分足らずでピークに到着です。展望とてない小広い場所に三角点がぽつんとたたずんでいます。これが御岳山。
良き道の幸福感をかみしめながら帰路につくとしましょう。先ほどの薮尾根を分け、鞍部を越えるとすぐの丘の付近から登山口に戻れる立派な道があります。
…が、天気も好転。残してきた仕事は気になるものの、この気持ちのよい場所にもう少し…という誘惑には勝てず、雁峰山まで足を伸ばすことにします。
ここからは残らず材木運搬のための、いわばハイキングコース。スピードは上がります。どこを見ても檜だったり杉だったり。最後にほんのわずかの山道を刻めばもう雁峰山ピークなのでした。
Uターンして、林道の際の木漏れ日の広場で持ってきたコンビニおにぎりを頬張る至福の時。
下山路の分岐に戻り、植林檜の絨毯を気持ちよく歩きます。やがて沢筋に。曲がりくねって流れた歴史の跡か、河床の跡が広がっています。
のんびり歩いているうちに、道はしっかりした舗装路となり、作手田代の集落に出ました。
こちらの気配を察してか、離れた所から猛烈に吠えかかる犬の声。近づくと2頭のワンちゃんが、代わる代わる威嚇してくるのでした。おそらくは、こんな風に鈴を鳴らしながらぶらぶら歩いてくる生き物は、彼らにとっても初見でありましょう。
何事かとご主人も顔を出します。「登山です。」と、聞かれもせぬのに応える私にご主人の男性もしばし絶句。「この付近に登るような山、あったんか?」と、心の中まで読めてしまうのでした。
ここまでの道筋とこれからの予定ルートを、精一杯怪しまれないように説明するのですが、警戒心を解かぬ番犬sの鳴き声を背に、何となく挨拶をして、「名瀑 田代の本滝」の道標に従って谷に降りていきます。すぐに薄暗く湿ったプチ渓谷に。Hの影におののきながら左岸を下りること20分ほどで、谷筋を離れればそこはもう舗装路でした。Hクンには何とか吸い付かれずにすみました。あとは本宮山あたりの風呂に浸かったら、岡崎の味噌ラーメンで一日を締めくくることになりそうなのです。
が。話はこれで終わらない。
翌日の夜、残業しつつ、ふと右脇の後ろ側に感じる違和感。左手で触れてみる。我が体に記憶のない突起である。強い灯りの元で何とか見てみたり、スマホで接写してみるもののはっきりしない。
もしDならば、食いつかれてから1日以上経過していることになる。今は触らずに、皮膚科の主治医に見せるしかないのだ。
ビンゴであった。さほど膨らんではいないが、強烈な病原菌を持つ“ヤツ”である。
患部に麻酔を打つ。直接触らずに、周りの皮膚ごと除去する。見せてもらうと、しっかりDの全身とそれよりも巨大な我が皮膚。生体検査の結果は1週間後だそうで、それまでは抗生剤を処方された。
間違いなく、雨後の藪をうろついたせいに違いない。
…が、今までだってそんな山歩きは限りなくしてきたはずなのに、なぜひと月のうちに2回も襲撃されるのか。首まで隠れる長袖で歩き、藪を通り過ぎれば何度もはらったはずなのに、とくよくよするのだった。
1週間後。感染症状は出ていない。Dから感染源は検出されなかった。今回も命拾いである。