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関西を代表するロングトレイル、高島トレイルを歩く | 深掘り登山ガイド 比良山地 #05
琵琶湖の西に広がる比良山地。京阪神からのアクセスの良さもあり四季を通じて多くの登山者を集めます。その比良山地には人気のロングトレイル、高島トレイルがあります。滋賀と福井の県境を走る中央分水嶺をたどる道筋の、最初の部分、国境からマキノ高原まではブナ林と草原歩きが楽しめるトレイル。関西在住のベテラン山岳ライター加藤芳樹さんが紹介します。
目次
高島トレイルは隠れた名山をつなぐ道
2005年、マキノ町、今津町、安曇川町、高島町、新旭町、朽木村が、合併してできた滋賀県高島市。その高島市と福井県のほぼ境界を走る中央分水嶺にトレイルを作ろうという動きは、合併の話が出始めたころからあった。当初は「湖西トレイル」という名称で話が進んでいたと記憶している。それが、現在は全国区となったロングトレイル、高島トレイルだ。総延長約80㎞、12の山と12の峠をつなぐ道である。
滋賀・福井県境には、古くから登山対象として楽しまれていた山々があった。マキノの赤坂山や、今津の大御影山、朽木の百里ヶ岳(ひゃくりがだけ)などがそれだ。ただし、それらをつなぐ縦走路はなかった。地元の人々の力でそれらを「人ひとり歩ける」程度で、過剰な整備をせずにつないだのだ。それゆえ、一部の人たちにしか登られていなかった三重岳や武奈ヶ嶽、駒ヶ岳など、隠れた名峰ともいえる山々が注目を浴びるようになった。ただ、これらの山々はトレイルが通じた現在でもアプローチが困難で、一気に縦走しなければ、なかなか訪れにくい。
ここでは高島トレイルの中でも、比較的、アプローチしやすい東部のマキノの山々を紹介したいと思う。
はじまりは美しいブナ林
トレイルの東の末端は国境スキー場で、JR湖西線マキノ駅からコミュニティバス20分の国境、愛発越(あらちごえ)からスタートする。スキー場の入口には高島トレイルを示す看板があるが、スキー場の敷地内は特に案内はない。ゲレンデを登り詰めて尾根の末端に出れば、高島トレイルの始まりだ。
特徴は美しいブナ林。春にはカタクリなどの花も咲く。乗鞍岳の北尾根に乗ると、あとはほぼ尾根通し。
乗鞍岳を過ぎ、電波塔施設を絡んで再び尾根道へ。日本海が望める芦原岳は、トレイルを少し北に外れるがぜひ寄っていこう。
猿ヶ馬場の見事なブナ林を過ぎると急降下して、トイレのある黒河(くろこ)峠に下り立つ。1日目はここで終了、テント泊の場合はこのあたりの林道脇にテントを張り、いったん降りる場合は、南に、白谷まで長い林道歩きとなる。
2日目のスタートは黒河峠から三国山への登り
2日目は峠からまずは三国山を目指して急登をこなす。この道は古くから赤坂山遊歩道として整備されていた道だ。初夏にはキンコウカが咲く湿原の先で、三国山への案内があるので、いったんトレイルを外れてたどっていくと山頂に着く。
トレイルに戻り、今度は赤坂山を目指そう。赤坂山手前には明王の禿(みょうおうのはげ)と呼ぶ岩場がある。もろいので、岩場には取り付かず見るだけにしておこう。
そこから少しだけ下って登り返すと赤坂山の山頂だ。このコースの醍醐味はここからで、南南西にある大谷山まで広大な草原歩きが楽しめる。琵琶湖の風景はもちろんだが、マキノ高原の有名なメタセコイア並木も見下ろす爽快な縦走路だ。春にはカタクリやオオバキスミレが路傍を飾る。
寒風と呼ばれるピークを越えて、大谷山へ。この先は、アクセスがなくなるので、いったんトレイル歩きはここで終了しよう。大谷山から直接下る道もあるが、少々長い。いったん寒風まで引き返して、マキノ高原への下山路をたどろう。この道もやはり花が多く、ピンクの花をつけるイワカガミがたくさん見られる。途中のブナ林も見ごたえがあり、新緑のころのさわやかさや、秋の黄金色一色の世界はしばらくそこで過ごしたくなるようないい林だ。最後は、マキノ高原のスキーゲレンデへと下り着く。
下山後はマキノ高原温泉で汗を流そう
このコースのいいところは、山もそうだが、下山してから「マキノ高原温泉さらさ」があるところだ。コニュニティーバスも温泉施設の前まで来てくれ、マキノ駅まで約20分、便数も多いので、ゆっくりと汗を流して帰途につくことができる。
マキノ高原温泉さらさ
マキノ高原はキャンプ場やレストランなど充実した施設のある山岳リゾート。温泉は刺激が弱く肌に優しい単純泉。「さらさ」の名前は、付近に自生する「サラサドウダンツツジ」に因んで名づけらた。また、水着で利用できる男女混浴場「バーデゾーン」もある。
滋賀県高島市マキノ町牧野931
TEL:0740-27-8126
利用料金:700円
また、赤坂山は、積雪期も登りやすい山だ。登山者が多ければ軽アイゼンで登れるし、積雪が多いようなら、高原施設でスノーシューのレンタルができる。積雪の状況はマキノ高原の事務所で確認するといいだろう。
高島トレイルのその他のエリアは、また別の機会があれば紹介したいが、整備されてから月日が経ち、やや道がわかりにくくなっていることや、この先はテント泊が必須となるので、上級者向きとなる。
高島トレイルを歩く際の注意点
◼️避難小屋やトイレ
避難小屋はいっさいありません。トイレは黒河峠の林道脇にあるだけ。トレイルから離れた場所で穴を掘って行ない、必ず埋め戻して下さい。使用した紙等は持ち帰るのがマナーです。
◼️テントサイト
テント指定地はいっさいありません。自然保護の観点からも整備する予定はありません。施設の整ったキャンプ場はマキノ高原、ビラデスト今津、リバーランズ角川(水坂峠近くの角川にあり、予約が必要)、くつきの森、平良ふれあいセンター(トレイル終点桑原の隣)です。これらのキャンプ場へ行く余裕のない時は、トレイルを横切る林道などの車道脇の駐車スペースがテントサイトとなります。(水場となる沢まで距離がありますから、水の準備が必要です。)使用した場合はゴミを残さず、掘った溝も埋めて、使用前の状態に戻すのがマナーです。
◼️携帯の電波について
マキノの山では概ね携帯電話を使えますが、今津、朽木の山では使えないことが多いようです。日によっては電波が届くこともありますが、あまりあてにはできません。行動中は山頂などでチェックして、万が一の時に備えるようにしてください。山では予備電源もお忘れなく。
◼️水場
おすすめできる湧き水の出る場所はありません。小さな沢であれば、三国山近くの赤坂山自然歩道、抜土若狭側、ナベクボ峠近江側にあります。池も三重嶽太尾、駒ケ岳やおにゅう峠とナベクボ峠間の尾根上にありますが、煮沸が必要です。(水場は高島トレイル詳細マップにも記載されています。)
主な水場は下記のとおりです。
・黒河峠(ポイント2)
・三国山(ポイント3手前)
・明王ノ禿(ポイント4の手前)
・抜土(ポイント8)
・近江坂(林道脇)
・水坂峠(ポイント12)
・横谷峠(ポイント16)
・木地山峠(ポイント21)
・ナベクボ峠(ポイント25から少し東へ)
・三国岳(ポイント26から東へ)
◼️標識
主要な山頂、峠にはすべて地点標識が、登山道との主な分岐には案内標識が設置済みです。さらに迷いやすい箇所にはテープを立ち木に仮設置してあり、現在は専用テープに順次移行中です。地点標識には遭難対策用のポイント番号が付けられ、トレイルマップと対応させています。
*「高島トレイルを歩く際の注意点」は高島トレイルHPより引用
もっと詳しく知りたい方は
高島トレイルHP
トップ画像:チョッパーさんの活動日記から/木道に咲くキンコウカ。奥に見えるのは伊吹山と鈴鹿山脈
ライター/編集者
加藤 芳樹
山と溪谷社大阪支局山岳部門編集長を経て、フリーの編集者・ライターに。特に雑誌「関西ハイキング」(現在休刊)を長年責任編集し、関西の山に精通。現在、「岳人」の編集部に所属しながらも、「山と溪谷」など山岳誌を中心に活躍。主な著書に『関西周辺 週末の山登り120』『兵庫県の山』(山と溪谷社)。
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