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古くから愛されてきた黄色い鳥、マヒワ|大橋弘一の「山の鳥」エッセイ Vol.20
山にはいろいろな野鳥が暮らしています。低山から高山まで、四季折々の山の鳥たちとの出会いのエピソードを、野鳥撮影歴30余年の大橋弘一さんがさまざまなトリビアを交えて綴る「山の鳥エッセイ」。第20回は「マヒワ」をテーマにお届けします。
山の鳥エッセイ #20/連載一覧
目次
【第20回 マヒワ】
英名:Eurasian Siskin
漢字表記:真鶸
分類:スズメ目アトリ科マヒワ属
イメージカラーは黄色

代表的な黄色い鳥4種(上段左ツメナガセキレイ、右キビタキ、下段左シマアオジ、右キセキレイ)
黄色い鳥と聞いて思い浮かべるのはどんな鳥でしょうか。初夏の森のキビタキ。渓流に遊ぶキセキレイ。北海道ならツメナガセキレイ。
今では絶滅寸前となってしまったシマアオジや、日本海側の離島以外ではほとんど見られないチャキンチョウなどは別として、日本で普通に見られる黄色い鳥は10種に満たない程度でしょう。
雌だけが黄色いイスカやギンザンマシコの例もありますが、黄色い部分がそれほど多くないカワラヒワやアオジ、ノジコは黄色い鳥と呼べるかどうか微妙なところです。ともあれ、黄色い鳥ってあまり多くないと言っていいと思います。

マヒワの雄。体上面も黄色の印象が強い
そんな中、私にはマヒワの黄色がとても印象深く感じられます。マヒワの黄色はあまり濃い色ではなく、レモンイエローに近いのですが、レモンよりも鮮やかな色に見えます。そして、特に雄は、顔から胸・腹などの体下面だけでなく、体の上面(背や翼の一部)も黄色味を帯びているので黄色の面積が広い鳥だと思います。
雌は雄に比べて黄色みがやや抑えられた色彩に見え、黒褐色の縦縞が目立ちますが、それでも全体的なイメージはやはり黄色です。日本の典型的な黄色い鳥。これが、マヒワを形容する言葉の第一歩だと思います。
見られる時期と生息環境

冬の雑木林に群れるマヒワ。木の芽をついばんでいるようだ
マヒワはほぼ全国で山地から平地の林に棲み、ハンノキやカラマツ、ダケカンバ、スギなどの種子や花穂、ブナ科の花芽などをおもに食べます。また、河原などの草原状の環境にも出てきてキク科植物やマツヨイグサ類などの小粒のタネを食べます。地面や雪面に落ちたタネを丹念に拾って食べる姿を見ることもあります。
日本では基本的に冬鳥で、10月頃から翌年の4月頃まで、群れで行動する場面を見かける地域が多いと思います。ただ、北海道では留鳥とされ、1年じゅう見る可能性があります。平地では本州と同じように冬にももちろん見かけますし、春から初夏の新緑の季節にも見ることがあります。
そして、夏の繁殖期には大雪山系や日高山脈、知床連山など標高の高い場所の針葉樹林が生息環境となります。マヒワに限らずアトリ科の鳥は基本的にベジタリアンで、植物性のものばかり食べていますが、マヒワは子育てには昆虫なども利用します。道東では少数が低地でも繁殖することがあるようです。

新緑の時期に見るマヒワ。北海道苫小牧市の森で
関東地方など本州の大半の地域では冬にしか見かけない鳥が、日本の北端である北海道では夏にも見られるわけですから、マヒワは日本列島が南北に長い国であることを改めて感じさせてくれる鳥のひとつだと思います。
マヒワは弱い鳥?

シラカバの花穂をついばむ雄。4月撮影
ところで、マヒワの漢字表記は「真鶸」です。真の鶸、というこの名前から、ヒワ(鶸)の意味が知りたくなる人もいらっしゃることでしょう。
参考までに、魚偏に弱はイワシ(鰯)ですよね。これは水揚げされるとすぐに死んでしまう弱い魚であることを示しているそうです。その傷みやすさから「よわし」と呼ばれていたものが時代と共に音韻変化して「いわし」になったと考えるのが語源の定説です(異説あり)。
では、鳥に弱いと書くヒワも実際に弱い鳥なのでしょうか?イワシの例に当てはめれば、捕まえてきて飼育してもすぐに死んでしまう鳥なのか?と考えられそうですが、真相はNOです。

シラカバの実をついばむ雌。中にある小さなタネを食べているのだろうか。1月撮影
ちょっと話がそれますが、野鳥の飼育は現代では違和感がありますが、昔は野山で鳥を捕まえてきて飼育することが広く行われていました(詳細は後述します)。
捕獲した野鳥を飼育する際には餌の調達難易度が最重要の課題となりますが、マヒワのように植物のタネを主食とする鳥は餌の調達は最もたやすいと思われます。アワ、ヒエなどいわゆる「小鳥の餌」として市販されているような穀物を与えれば、当面は死ぬことはないと考えられるからです。
ちなみに、昆虫をはじめ生きた小動物を食べる鳥はこれと比べて格段に餌調達が難しくなることは誰でも想像できるでしょう。そう考えると、植物食のマヒワは野鳥の中では世話しやすい鳥だったはずで、その意味で「弱い鳥」ではないと考えられるのです。
歴史に見るマヒワの飼育

マヒワの雄(左)と雌。雄の方が黄色い部分が多く、色調も鮮やか
現在では野鳥を飼育することは全面的に禁じられていますし、飼いたいとも思わない価値観が大勢だと思いますが、昔は愛玩をはじめとする様々な目的で野鳥が捕獲され飼育されていました。
ヒワの例では、古くは最古の随筆文学として有名な平安時代の『枕草子』(清少納言)に、著者の好きな鳥として「あうむ(オウム)」に続いて「くいな、しぎ、都鳥、ひわ、ひたき」と並べている一節があります。
オウムは異国のものと扱っていることから、ここに登場する鳥は飼育対象として見ていた可能性があります。少なくとも「ひわ、ひたき」と並べられた小鳥は愛玩目的で飼育される対象だったと考えられるでしょう。

飛ぶ雄(右)と雌。腹まで黄色い雄に対し、下から見ると雌は黄色味が乏しい
時代が下って、室町時代の永享年間(1429~1441)にはヒワ類が既に飼育されていた記録があります。さらに、江戸時代の何冊かの養禽書(鳥類飼育書)などの記述を見ると、じつに100種以上もの野鳥が当時は飼育対象であったと推定され、その中には当然のようにマヒワも含まれていました。
江戸時代は大名から庶民まで鳥の飼育が盛んに行われた”ペットブーム”のような時代でしたが、その文化は明治時代以降も続きました。輸入された外国産の「洋鳥」に対し、国内の野山で捕えてくる「和鳥」も多く飼育されていました。
そうした鳥の愛玩飼育は戦前まで広く続けられていましたが、昭和25(1950)年にヤマガラやマヒワなど7種類のみが飼育可能対象として指定され、それ以外の野鳥は原則として捕獲・飼育が禁じられる時代となりました。
その後、その「指定」種数は徐々に減らされ、最終的には平成24(2012)年に全面禁止となりました。マヒワは平成11(1999)年まで指定対象であり続け、飼い鳥として相当な人気があったことが伺えます。
語源は「ひわやか」

体が小さく(全長13㎝)、全体的に華奢な印象。「ひわやか」と形容された所以なのではないだろうか
話を元に戻しましょう。マヒワが比較的飼いやすい鳥だとすれば、マヒワが弱い鳥と見なされた理由は何なのでしょうか。それは、「ひわ」という鳥名の語源由来を考えると見えてくるものがあります。
鳥名「ひわ」の語源は「繊弱(ひわ)やか」という古い形容動詞だと考えられています。昭和初期に刊行された近代国語辞典の始祖と呼ばれる名辞典『大言海(だいげんかい)』(大槻文彦・初男著)にはヒワの語源として次のような記述があります。
「鶸は弱きに非ず。其形の繊小(ひわやか)なる意なり。<中略>細くたおやかなる、又、弱弱しき意なり」

残雪の山麓で。雪面に落ちたタネなどを拾う
『大言海』は、言葉はその語源を知ることが正しい理解に不可欠であるという著者の考えから、語源の説明に力を入れていることが大きな特徴です。そこに弱々しいと表現されたことが鶸という字の根源になっていると考えられます。
この漢字そのものは国字(和製漢字)ではなく中国から伝わった字ではあるのですが、しかし、この字を「ひわ」と読んでアトリ科のヒワ(特にマヒワ)を意味するのは日本独自の使い方です。要するに、この字をこの鳥に当てたところに、日本人ならではの感性というか日本人独自のこの鳥の見方が反映されていると思うのです。
鳥名ヒワの名の由来として、この『大言海』説が現在も通説になっています。「ひわやか」は現代ではまず使われることのない言葉ですが、「細くたおやか」「弱々しい」ことを表す美しい表現で、それはマヒワの雰囲気にぴったりだと、私はマヒワを観察していていつも思います。
日本の伝統色「鶸色」

マヒワの色は「鶸色」と呼ばれる日本の伝統色だ
『枕草子』の話を前述しましたが、平安時代末期には、”歌聖”とまで呼ばれる歌人・西行が柳の芽を食べるマヒワを詠んだ歌を残しました。古くから可憐な小鳥としてマヒワが好ましく思われていたことがわかり、ほのぼのとした気持ちになります。
当時はこの鳥はただ「ひわ」(西行の表記は「ひは」)と呼ばれていたようですが、一方、マヒワの色は日本の伝統色「鶸色」として現代にまで生き続けています。

大群で流れるように飛ぶマヒワ。多い時には数百羽もが群れることもある
令和元(2019)年5月4日。皇居で行われた天皇陛下即位後初の一般参賀の際、新皇后・雅子さまがお召しになっていた鮮やかな色のドレスは新聞報道などで黄色と紹介されました。宮内庁は、この色はじつは「鶸色」であると発表し、鶸色がにわかに脚光を浴びることとなりました。
日本の伝統色は植物や気候風土に由来するものが多く、鳥に由来する色はあまり多くありません。そんな中でも、マヒワの色は日本の文化に伝統的に息づく色として認知されてきたのでしょう。
黄色と言えばマヒワ。マヒワと言えば黄色。黄色は、やはりマヒワを象徴する色なのです。
おもな参考文献・論文
・細川博昭著『大江戸飼い鳥草紙』(吉川弘文館)
・菅原浩・柿澤亮三編著『図説日本鳥名由来辞典』(柏書房)
・吉田金彦編著『語源辞典 動物編』(東京堂出版)
・大橋弘一著『鳥たちの素敵な名前の物語』(文一総合出版)
・Webサイト「伝統色のいろは」
*写真の無断転用を固くお断りします。
野鳥写真家
大橋 弘一
日本の野鳥全種全亜種の撮影を永遠のテーマとし、図鑑・書籍・雑誌等への作品提供をメインに活動。写真だけでなく、執筆・講演活動等を通して鳥を広く紹介することをライフワークとしており、特に鳥の呼び名(和名・英名・学名等)の語源由来、民話伝承・文学作品等での扱われ方など鳥と人との関わりを独自の「鳥の雑学」として解説している。NHK「ラジオ深夜便」で7年間担当した月に一度のコーナー「鳥の雑学ノート」も好評を博した。『鳥たちの素敵な名前の物語』(文一総合出版)、『鳥たちが彩る日本史』(山と溪谷社)、『ビジュアル図鑑北海道の鳥』(北海道新聞社)、『野鳥の呼び名事典』(世界文化社)など著書多数。日本鳥学会会員。日本野鳥の会会員。SSP日本自然科学写真協会会員。「ウェルカム北海道野鳥倶楽部」主宰。
https://ohashi.naturally.jpn.com/
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