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地味だけど奥深い魅力、ビンズイ|大橋弘一の「山の鳥」エッセイ Vol.19
山にはいろいろな野鳥が暮らしています。低山から高山まで、四季折々の山の鳥たちとの出会いのエピソードを、野鳥撮影歴30余年の大橋弘一さんがさまざまなトリビアを交えて綴る「山の鳥エッセイ」。第19回は「ビンズイ」をテーマにお届けします。
山の鳥エッセイ #19/連載一覧
目次
【第19回 ビンズイ】
英名:Olive-backed Pipit
漢字表記:便追
分類:スズメ目セキレイ科タヒバリ属
夏も冬も地味な存在?

岩が散在するような高地もビンズイの生息地(撮影地:蔵王山刈田岳)
「ビンズイ」と聞いてすぐに姿が思い浮かぶ人は多くないかもしれません。鳥だとは思わない方もいらっしゃることでしょう。
ビンズイは、山地の林や岩が散在するような高原、さらには高山のハイマツ帯などで繁殖するセキレイ科の鳥です。大きさはスズメより少し大きい程度で、目立つ色彩のない地味な姿をしています。
しかし、亜高山帯の岩礫地が混じったハイマツ群落では個体数が多い場所もあり、夏の登山シーズンにはハイマツの梢などでさえずる姿を見る機会は少なくありません。夏山登山を楽しむ皆さんはきっと見たことがあるのではないでしょうか。
ただ、その割にはあまり話題に上らないというか、あまり注目されない存在のように思います。ハイマツ帯まで登れば、鳥といえばホシガラスやイワヒバリなどがいますし、場所によっては人気者のライチョウが見られるので、ビンズイはそれら人気者の陰に隠れた存在なのかもしれません。

正面から見た姿。胸の黒い縦斑が目立つ
一方、登山をしないバードウオッチャーにとっては冬の林で見かける鳥という印象が強いと思います。秋には平地や低山に降りてきて明るい林などで越冬し、特にあまり藪のない松林などでは尾を振りながら地面を歩いて食べ物を探す場面がよく見られます。
ただし、冬は大きな声を出すこともなく静かにひっそりと暮らしている印象です。暮らしぶりまで地味で、ウオッチャーたちの注目を集めることはあまりないようです。
漢字表記「便追」の意味

7月のビンズイ。ハイマツの枝先にとまって声高らかにさえずる(撮影地:蔵王山熊野岳)
鳥名の語源由来を調べ続けている私にとっては「ビンズイ」という和名そのものがまず非常に興味深いものです。
ビンズイは、漢字表記では「便追」と書きます。この漢字を初めて見た時、いったいどういう意味なのか全く分かりませんでした。しかし、タネ明かしをしてしまえば簡単で、さえずり声が「ビンビン、ヅイヅイ」と聞こえるので「びんづい」。漢字表記は、単なる当て字だったというわけです。
実は、私が「便追」を疑問に思ったときより約30年も前に、日本野鳥の会の創設者である中西悟堂(なかにしごどう、1895~1984)が同じ疑問をその著書に記していました。悟堂は歌人であり詩人、随筆家としても知られた人物ですから、言わば日本語のプロフェッショナルです。そういう人でさえ、最初は「便追」の意味がわからずに頭を悩ませたようなのです。
が、悟堂は鳥好きの性分か、鳥の特徴を考えに考え抜いた挙句、「鳴き声を表わしているに違いない」という結論にたどり着いたということでした。現在、ビンズイの名の語源説はこれ以外にはありません。

山頂を覆っていた霧が晴れたとき、気が付けばすぐそこにビンズイがいた
確かに、この鳥のさえずりは「チョッ、ピン、ツイツイ」とか「チーチーチー、ツイツイ」などと聞こえます。聞いたことのある人なら納得感のある語源説だと思います。夏山登山でハイマツ帯まで登り、是非ビンズイを探してさえずりを聞いてみてください。
なお、ビンズイの名の語源説については、最新の拙著『鳥たちの素敵な名前の物語』(文一総合出版・2026)に詳しく書きましたのでお読み頂ければ幸いです。
セキレイ科タヒバリ属

セキレイ科セキレイ属の鳥たち(左上:ハクセキレイ、右上:セグロセキレイ、左下:キセキレイ、右下:ツメナガセキレイ)
冒頭でビンズイは「セキレイ科の鳥」とご紹介しました。もう少し詳しく言うと、セキレイ科タヒバリ属に分類される鳥です。
日本のセキレイ科は、セキレイ属とタヒバリ属にほぼ二分されます。セキレイ属は身近なハクセキレイやセグロセキレイ、キセキレイなどに代表され、タヒバリ属はタヒバリとビンズイが代表種です。セキレイ属は白黒の配色や黄色などはっきりした色彩のものが多いのに対し、タヒバリ属は褐色系の地味な色合いで下面に黒っぽい縦斑が入ることが特徴です。
ごく大雑把に言うと、色彩豊かなセキレイ属と地味な姿のタヒバリ属の対比が明らかです。どちらも地上歩行が得意で、長めの尾を上下に振る動作をよく行うのがセキレイ科としての共通の特徴と言えます。

ビンズイと似たイメージのタヒバリは夏羽と冬羽で羽色が違う(左:冬羽、右:夏羽)
タヒバリ属を代表するビンズイとタヒバリですが、この2種は(他のタヒバリ類も同様ですが)互いによく似ていて、初心者には識別が難しく感じられるかと思います。
実は、昔はビンズイとタヒバリは区別されずに同一視されていた、もしくは混同されていたことが江戸時代の文献からわかっています。江戸時代には”鳥類図譜”と呼ばれる図鑑のような書物がいくつも作られましたが、「びんずい」の項にタヒバリらしき鳥の絵が載せられていたりしているのです。
そもそも「びんずい」の名は江戸時代中期頃から書物に登場しますが、それ以前の文献には全く出てきません。現代の分類では日本で9種記録されているタヒバリ属の全て(もちろんビンズイも含みます)が区別されていなかった時代が長かったものと考えられます。
5月に平地の公園で

地面を歩くことも多い
私がビンズイを初めて見たのは30数年前の5月上旬、北海道美唄市の公園でのことでした。
当時、北海道で野鳥撮影を始めて間もなかった私は、ゴールデンウィークの頃に南から渡って来る夏鳥たちとの出会いがとても楽しみでした。オオルリやキビタキなど姿も声も美しい鳥たちに心をときめかせ、毎日のように森に出かけていました。
そんなあるとき、自然の植生が残された美唄の市街地に近い公園で、地面をうごめく鳥を見つけたのです。3羽いました。
灰色とも褐色ともいえるような色で、尾を振りながらのそのそと歩き、地面の虫か何かを探しているようでした。その動きは、まさに「うごめく」という表現がぴったり。私が写真を撮ろうと近づくと少し遠ざかりますが、それほど遠くへは行きません。
3羽が付かず離れず、それぞれ地面を時折つつきながらゆっくり歩いていきます。枝にとまっている色鮮やかな鳥にばかり目が向いていた私に、「地面にも目を向けなさい」とでも言っているかのように思いました。

山の水場で水浴びをするビンズイ。ちょっとした水たまりも利用する(撮影地:北海道苫小牧市)
森の野鳥観察では初心者のうちは高い所ばかりに目が行きがちですが、地表にも、藪などの低い所にも、鳥はいます。ビンズイとの初めての出会いは私にそんなことを教えてくれたような気がします。
その後、同じ時期(ゴールデンウィーク後半かその少し後)には、どこの森に出かけても地面で採食するビンズイをよく見かけるようになりました。地表にいる鳥にも自然と目を向けるようになったのだと思います。
さえずり飛翔を行う

春の渡りの時期のビンズイ。芽吹いたばかりの葉が赤みを帯びる”春紅葉”や山桜の花を背景に
実はこの時期はビンズイにとっては春の”渡り”の途中です。ビンズイは本州では通年生息する留鳥ですが、北海道では夏鳥で、東南アジアなどの越冬地から4月下旬か5月頃に渡来し山地で繁殖します。
この時期に平地で見かけるビンズイは、山地へ向かう旅の途中の姿ということになります。都市公園などの緑地に立ち寄り、栄養を補給して繁殖地へと向かうのです。繁殖地に早く着く必要から、滞在期間は短く、そのためタイミングが合わないと見る機会に恵まれません。
ただ、気を付けていれば4月末ごろから5月10日ごろの間なら観察のチャンスがあります。ちょうど芽吹いた木々の葉や桜の開花期とも重なりますから、季節感のある写真が撮れるかもしれません。

ビンズイの「さえずり飛翔」。さえずりながら弧を描いて飛ぶ(撮影地:宮城県)
もうひとつ、私のビンズイ体験談ですが、初めてこの鳥のさえずりを聞いたのも北海道でのことでした。場所は阿寒の山中。時期は7月だったと思います。たまたま訪れた地で聞きなれないさえずりを聞いて姿を確認したらビンズイでした。
「ヅイヅイ」と聞こえる部分が他の鳥にはない印象的なものだと感じました。基本的には枝先にとまってさえずりますが、突然そこから飛び立って弧を描くように飛びながら複雑にさえずる「さえずり飛翔」も見せてくれました。
「さえずり飛翔」は縄張りを主張する行動ですが、これを行う鳥はセッカやシマセンニュウ、ヒバリなどに限られています。ヒバリは弧を描く飛び方ではなく、しかも延々と鳴き続ける点でビンズイとは違うタイプといえます。セキレイ科ではタヒバリ属だけの行動で、セキレイ属の鳥は行いません。
枝の上を歩く特技

春の平地の森に現れたビンズイ。このときも枝の上を歩いていた(撮影地:札幌市)
ビンズイの行動でもうひとつ特徴的なのは、横枝の上を歩くことです。これは、言われないと案外気付きませんが、枝にとまってさえずる鳥も、その枝の上を歩くことはまずありません。
どんな鳥でも横に2、3歩移動することはありますが、それだけでは「歩く」とはいえないでしょう。ところがビンズイは、枝づたいに器用に歩くことができるのです。女子体操競技の平均台を思い出してしまいますが、ビンズイの場合は全く危なげなく歩きます。
私が知る限り、ビンズイ以外にはこの「特技」を持つ鳥はいません。特技といっては大袈裟かもしれませんが、なぜビンズイがそういう行動をするのか不思議です。
考えられる理由を科学的に見てみると、まずビンズイの歩き方が「ウォーキング」であることに着目する必要があります。ちなみに、鳥の歩き方は、両足を揃えて跳ねる「ホッピング」と両足を交互に出す「ウォーキング」が代表的です。
種によってどちらで歩くかがだいたい決まっていて前者の代表はスズメ、後者の代表はハトです。樹上性で体が小さい鳥はホッピングを行い、地上を歩くことが多い大きめの鳥はウォーキングをすることが多いといえます。

さえずっているとき、近くを飛んだ虫に反応して捕食しそうな態勢になった
セキレイ科の鳥は体は小さいですが、地上を歩き回って虫などを捕ることが多いためウォーキングの歩き方が発達しました。
しかし同じセキレイ科でもセキレイ属はホッピングも行うことがあるのに対し、ビンズイなどタヒバリ属の鳥はホッピングは行いません。それでいて木の枝にとまることも少なくないのがビンズイです。
つまり、ビンズイにとっては木の枝も地面の延長であり、従って跳ねるのではなく、歩くのに支障がないというわけです。さらに、この生態には、前述のようにビンズイが冬季に松林に多いという暮らしぶりも関係していると考えられます。
松の横枝は太いものが多く、「歩く」ことに何ら不都合がなく、地面から枝に飛び移りそのまま枝上を歩くことがビンズイにとって自然なことになったと考えられるのです。
生物の進化は、その生き方、暮らし方によって決まって来る。この大原則がビンズイにも当てはまるのですね。
おもな参考文献
・叶内拓哉・安部直哉・上田秀雄著『山溪ハンディ図鑑 新日本の野鳥』(山と溪谷社)
・藤田祐樹「鳥とヒトの二足歩行」(化石研究会誌Vol.38(1))
・菅原浩・柿澤亮三編著『図説日本鳥名由来辞典』(柏書房)
・大橋弘一著『鳥たちの素敵な名前の物語』(文一総合出版)
*写真の無断転用を固くお断りします。
野鳥写真家
大橋 弘一
日本の野鳥全種全亜種の撮影を永遠のテーマとし、図鑑・書籍・雑誌等への作品提供をメインに活動。写真だけでなく、執筆・講演活動等を通して鳥を広く紹介することをライフワークとしており、特に鳥の呼び名(和名・英名・学名等)の語源由来、民話伝承・文学作品等での扱われ方など鳥と人との関わりを独自の「鳥の雑学」として解説している。NHK「ラジオ深夜便」で7年間担当した月に一度のコーナー「鳥の雑学ノート」も好評を博した。『鳥たちの素敵な名前の物語』(文一総合出版)、『鳥たちが彩る日本史』(山と溪谷社)、『ビジュアル図鑑北海道の鳥』(北海道新聞社)、『野鳥の呼び名事典』(世界文化社)など著書多数。日本鳥学会会員。日本野鳥の会会員。SSP日本自然科学写真協会会員。「ウェルカム北海道野鳥倶楽部」主宰。
https://ohashi.naturally.jpn.com/
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