投稿日 2021.11.18 更新日 2021.11.18

楽しむ

伝説の古道「伊藤新道」が復活! 再興プロジェクト現地レポート

かつて三俣山荘への最短経路として拓かれた古道「伊藤新道」。その再興の様子を、インスタグラマーのYURIEさんが突撃現地レポート! 近年はキャンパーにも人気の、歩いてしか行けない北アルプスの温泉「湯俣温泉」にも立ち寄りつつ、クラシックルートの成り立ちや現在、そして ”これから” を等身大でお伝えします。

目次

「伊藤新道 再興プロジェクト」の現場を直撃!

はじめまして。YURIEです。先日、縁あって、北アルプスの古道「伊藤新道」へ冒険(取材)しに行ってきました。「新道」っていうくらいなので、さぞ快適で整備が行き届いてるんだろうなぁと思っていたのですが、あらためて調べてみると実際はその真逆でビックリ!

というのも、伊藤新道が開通したのは今から65年前。度重なる地形崩壊によって荒廃が進み、現在は沢歩きが可能な人のみ通行可能(それ以外の方にとってはほぼ通行困難)……という、上級者向けの登山道として知られてる場所なのです。

伊藤新道の全体像。雲ノ平の玄関口にあたる「三俣山荘」と、高瀬渓谷の「湯俣」を結んでいる(kumonodaira.netで公開されている詳細マップより)

普段は山よりキャンプ派なわたしが、そんな場所になぜ取材に行ったのか!! 実は、荒廃した登山道を蘇らせようとする新たな取り組み「伊藤新道 再興プロジェクト」が絶賛進行中なんです。プロジェクトの一環である “つり橋完成” の歴史的瞬間に立ち会ってほしいと、声をかけていただいたことが本取材のきっかけです。

わたしに、そんな大役が務まるのかと多少不安もありましたが、人生でそんな経験はなかなかできないだろうと思い、車を走らせ長野へと出発しました。

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さて、現地到着後は、いよいよ伊藤新道に足を踏み入れます! 目指すは今回の取材の舞台となる「第一つり橋」。ガイドさんのあとについて意気揚々とスタートするも、道は次第に険しくなっていくなっていって…。

伊藤新道の「第一つり橋」を目指し、ガイドの深澤陽介さん(右)とともに伊藤新道を進む

第一つり橋跡付近。大きな岩が延々と続く…

岩を登り下りして先へと進まなければならない、まさに「道なき道」。初めての経験にドキドキ…

湯俣温泉・晴嵐荘から第一つり橋までは約1時間の行程。私にとってはかなりの大冒険でしたが、無事、目的地までたどり着くことができました!

あらためて振り返る「伊藤新道」の歴史と再興の意義

つり橋完成の瞬間をお伝えする前に、ここであらためて、「伊藤新道」の歴史について触れておこうと思います。

時は昭和20年。山好きであった伊藤正一さん(当時22歳)が、屋根も柱もないボロボロになった山小屋(現・三俣山荘)を買うことからすべてがはじまります。

山小屋を復活させるためには建築資材を最短で運ぶ道が必要だということで、正一さんはさっそく探索を開始。ルートが決まるまでに、なんと7年間もの時間を要したそうです。昭和28年に着工を開始し、「伊藤新道」としてこの道が開通したのは昭和31年のことでした。

昭和38年には山小屋のリニューアルが完成しましたが、ちょうどこの年あたりから徐々に道が崩れはじめ、昭和58年には通行困難となってしまったのです…。

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わたしが伊藤新道のルーツを知って真っ先に疑問に思ったのが、なぜそこまでして山小屋復活にこだわったのかということでした。その疑問を解消すべく、伊藤正一さんの息子であり、現・三俣山荘オーナーの伊藤圭さんにお話を伺いました。

伊藤新道を開通した先代・伊藤正一さんのご子息で、現・三俣山荘のオーナーを務める伊藤圭さん

伊藤圭さん:父には、北アルプスの最深部である雲ノ平の景色をたくさんの人に見せたいという強い想いがありました。雲ノ平は日本で最も高い位置にある溶岩台地で、高山植物の宝庫。父は、探検の末、初めてそこにたどり着いたわけですが、あまりの美しさに心を奪われたと聞いています。自身の著書『黒部の山賊』でも、雲ノ平を「天国のようなところ」と書いていますね。
  
しかし、雲ノ平はアクセスがしにくいところ。正一さんは多くの人に素晴らしい景色を共有するため、巨額のお金を投資し、文字通り命がけで、雲ノ平までのコースを作りました。

伊藤圭さん:伊藤新道が開通した当時は、登り6時間下り4時間のコースタイムで、1日500人ー1000人ほど利用していました。昭和32年頃の登山ブームもあってか、渋滞ができるほど人で溢れかえり活気があったんです。今回のプロジェクトを通じて伊藤新道を復活させることで、より濃密な自然体験ができる「新しい北アルプスの遊び方」を模索しつつ、街にも活気を取り戻すことができるんじゃないかと、そういう気持ちで取り組んでいます。

通行困難な伊藤新道に、再びつり橋がかかる!

さて、ここからはお待ちかね、 ”橋がかかる瞬間” をレポートしていきます!

全長20mのつり橋を新たにかけるということで、大勢のメンバーがいるかと思いきや、職人さんは少人数(この日は4名程)で作業していました。

前日から取材日(2021年10月某日)にかけて2日間の作業でつり橋自体はほぼ完成しており、あとは安全性の確認を残すのみ。職人さんが黙々と何度も橋を往復しています。万が一にも壊れるようなことがあれば命に関わりますので、念入りにチェックをします。わたしも固唾を飲んで見守っていました。

職人さんたちが念入りにつり橋を調整している

開通当時の第一つり橋の残骸

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待つこと数十分後、「チェック終了したので渡ってみてください」と、声がかかりました。できたてのつり橋を渡る経験なんて、もちろん産まれてはじめてなので、急に緊張してきました。手に汗をかいてます。

つり橋の下には流れの速い川

「念入りにチェックしてくれてたから大丈夫」と自分に言い聞かせ、勇気を絞っていざ渡ります。足をかけると思った以上に揺れ、真下を見ると流れの強い川が目に入り、中々スリリングです。

きらきらと光る川面と、できたての足場

しかし、両手でロープを掴むことで安定感が増し、すいすいと渡ることができました。

幅が狭いので足元をみながらつり橋を渡る

この橋がなければ、川をじゃぶじゃぶと歩いて渡らなければならなかったことを想像すると、橋って何て画期的で便利なんだろうと、あらためて思いました。同時に、山につり橋をかける技術のある職人さんを心から尊敬しました。

危険な場所での作業なので、さぞ苦労が多かった現場だったと容易に想像がつきます。

そこで職人さんに何が大変だったかを尋ねてみると、意外な答えが返ってきました。

「今は電動の工具があるから、つり橋をかけること自体はそんなに難しいことじゃない。昔は、手動の工具だからとても大変だっただろうけど。それよりも、重い資材と工具を現場まで持っていくのが大変だった。運ぶのに2日間かかった。普通は現場に資材が置いてあるけど、山の場合はそうはいかない。この仕事をして、現場に資材があることって、ありがたいことなんだなと思ったよ」

この話を聞くと、元々かかっていた全長60mの “第一つり橋” は、運搬を含め相当ハードな作業だったことがわかります。

手動の工具で手間をかけて作った橋が崩れてしまうというのはとても悲しいことです。今回新しくかけたつり橋を渡った先に、昔のつり橋の残骸がみえるので、複雑な心境になりました。人がたくさん通る道は、細かな手入れが行き届くと聞いたので、多くの人にこの橋を渡ってもらい、長い年月活躍するつり橋になってほしいと願います。

秘境「湯俣温泉」と「噴塔丘」を体験

そして、今回の取材で、わたしが密かに楽しみにしていたことが道中の湯俣温泉。歩いてしか辿り着かない秘湯中の秘湯と呼ばれています。温泉マニアの憧れらしいです。

取材の宿泊地である山小屋“晴嵐荘”で入ることもできますが、20分ほど歩けば自然の中に湧く“野湯“ を楽しむことができるんです。絶景過ぎる大自然の中の温泉なんて、最高でしかありません。

早速、向かってみることにします。雄大な北アルプスを眺めながら進むので、道中も楽しいです。

噴湯丘のまわりは至る所で湯が湧き出ている

しかし途中で川を渡らなくてはならないので、油断は禁物です。幸いこの日は水量が少なかったので川から顔を出す石の上を渡ることができました。

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ようやく野湯に到着です。先人が作った手掘りの露天風呂がいくつかあったので、そこで足湯をすることにしました。

手掘りの露天風呂で足湯体験。川の水を取り込んで温度調整をする

野湯のすぐ横には冷たい川が流れている

ここの源泉は100度近くの高温なので、川の水を混ぜて適温にしなければなりません。この調整が結構難しく、火傷しそうな温度になったり、冷たくなりすぎたりします。適温にするのに苦労しますが、自然を相手にしたゲーム感覚と考えると、楽しかったです。晴嵐荘でシャベルを借りることもできるので、次来たときは自分で掘ったオリジナル露天風呂を作ってみたいと思いました。

あと、忘れてはいけないもう一つの見どころが、国の天然記念物の噴湯丘です。大きなタマネギの様なシルエット。アート作品のような出立ちで、こんなものが自然にできあがるものなのかと感心しました。長い年月をかけて温泉成分が固まったものらしいです。他の惑星にたどり着いたような、異世界感を味わうことができます。

国指定の天然記念物、噴湯丘。近くまで行くには川を渡渉する必要がある

伊藤新道のこれからに目が離せない!

今回の取材を通して一番強く感じたことは、日本にこんな場所があったなんて知らなかった、ということです。

それもそのはず、伊藤新道が廃道になってから、相当の年月が経っているのでベテランの登山者でさえ存在を知らない “知る人ぞ知る“ ルートになりつつあります。

ここは日本なのか?!と思うような風景。そこには、わずか数時間前にコンビニにいたことが信じられないような景色が広がっていました。こんな美しい場所、知らなきゃもったいない、そう思いました。

そんな秘境を知ることをできたのは、わたしにとって今回の取材の大きな収穫でした。

そして、もう一つ収穫がありました。山に登らないという遊び方の発見です。山は登るものという既成概念がありましたが、別に登山が目的じゃなくても遊びに行っていいんだと思えました。

今回の取材の拠点となった「湯俣温泉・晴嵐荘」は、ハイキングコースでたどり着くことができます。目の前のテント場でキャンプをして、のんびりと温泉を楽しんで帰る。そんな週末の遊び方もとても良いと思いました。

もしくは、伊藤新道に新しくかかったつり橋を渡る体験をする。噴湯丘を見に行く。なども良いと思います。その場所を歩き、その土地、ストーリーを知ることが、ひとつのコンテンツだと気づきました。

11月中旬にオープン予定の「三俣山荘図書室」では、誰でも気軽に、伊藤新道や湯俣を取り巻く歴史や、目指している新しい登山カルチャーに触れることができるようです。周辺を訪れる際は、ぜひ立ち寄ってみてください。

知ってからその土地を遊ぶことで楽しみが何倍にもなると思います。ストーリーを知った今、わたしは伊藤新道の開通が待ち遠しくて仕方がありません。

伊藤新道を通って、伊藤正一さんが多くの人に見せたかったという雲ノ平に行きたい!

再興プロジェクトの今後の計画としては、残りのつり橋の復活、避難小屋の新設、専属ガイドの雇用、など徐々に進めていくようです。

伊藤新道のこれからに目が離せません。

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