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四阿山 | 日本百名山を背に、キャベツ畑の中心で妻に愛を叫んでみませんか
吾妻エリアのシンボルが日本百名山の四阿山(あずまやさん)。昔から多くの歴史を秘めた山として知られますが、古道としても人気の登山コースと山麓の観光スポットを紹介しましょう。
目次
日本武尊が東征の際、この地で亡き妻の弟橘媛(おとたちばなひめ)を偲んだことからその名が付けられたといわれるのが、四阿山東麓に広がる嬬恋村です。村名の由来をテーマに15年ほど前から「愛妻家の聖地」として売り出してきたユニークな村は、浅間山(2,568m)と草津白根山(2,171m)、そして四阿山(あずまやさん・2,354m)という人気の日本百名山に囲まれています。
嬬恋の名を全国に知らしめているのは何と言っても「高原キャベツ」。村内のレストランなどでさまざまなキャベツ料理が味わえるグルメの村なのです。そのキャベツ畑のなかを通り抜ける“つまごいパノラマライン”、途中にある“愛妻の丘”は村内有数の人気スポットとなっています。
3つの山名を持ち、どこから見てもなだらかな山容は吾妻エリアのシンボル
長野県との境に横たわる姿が穏やかな傾斜の屋根のように見えることから名付けられた四阿山は、群馬県側では吾妻山・吾嬬山(あづまやま・あがつまやま)と呼ばれる吾妻エリアのシンボル。古い火山で(現在は活火山ではない)、北側の谷にある日本の滝百選の米子大瀑布(よなこだいばくふ)はその名残といわれています。
山頂へのコースは群馬県側、長野県側からそれぞれ数本ずつ延びていて、いずれも個性的でかつ歩行時間もさまざまな登山道がありますが、歩行時間が比較的短く、古道としても人気の鳥居峠コースを紹介しましょう。
【四阿山(吾妻山)】標高2,354m
DATA
グレード:初級
日程:日帰り
歩行時間:5時間
歩行距離:7.9km
累積標高差:登り858m・下り858m
登山適期:5月上旬~10月下旬
アクセス/JR吾妻線万座・鹿沢口駅からタクシーで鳥居峠を経て鳥居峠林道終点の登山口へ(約25分)。マイカーは関越道渋川伊香保I.C.から県道35号、国道353・145・144号、鳥居峠林道等を経由して鳥居峠林道終点の登山口へ(約72㎞)。登山口付近に20台分程度の無料駐車場がある。
※鳥居峠林道は4月中旬~11月中旬(年にもよる)のみ通行可。また林道は路面がやや荒れているので、走行の際は要注意。
【四阿山オススメ登山コース】古くからの交通の要所、鳥居峠から歴史ある登山道を行く
林道終点の登山口からは2本のコースが分かれています。右は華童子(げどうじ)の宮跡を経由するコース、左は国の天然記念物に指定されている的岩を経由するコース。どちらも上部の古永井分岐(2,040m峰)で合流しますが、ここでは登りに華童子の宮跡を経由し、下りは的岩を経由する周回コースを歩きます。
登り始めは沢沿いの樹林帯の道。ひと頑張りして尾根に出ると展望が開け、賽の河原、あずま屋あたりから高山植物が増えてきます。木段を登ると華童子(花童子)の宮跡で、山頂の白山権現と里宮との中社とのこと。その昔、四阿山は女人禁制で、女性はここまでしか登ることができませんでした。あずま屋があるのでひと休みしましょう。
この先、しばらくは急な登りが続きますが、まだ前半なので無理しないように。1,958m峰で北西へと方向転換し、軽く下って登り返せば的岩コースとの合流点である古永井分岐に到着です。ここから山頂に向けては展望と高山植物を楽しみながらの尾根歩きが続きますが、岩尾根や急な階段もあるので、けっして気を抜かずに。
2,144mピークを越えて登り返すと樹間に山頂が見え始め、ほどなく嬬恋清水入口。水場まで5分前後かかりますが、おいしいと評判なので下山時に立ち寄るのもオススメです。
道は最後の登りにかかり、菅平牧場や別荘地からの道を合わせて階段を登ればやっと山頂。西方向に衝立のように高峰が並ぶ北アルプスや妙高山をはじめとした頸城山塊、間近の浅間山などの眺めが満喫できます。
下りは古永井分岐まで往路を戻りますが、急斜面ではスリップに十分な注意を。古永井分岐からは南西(右方向)へと的岩分岐を目指します。コメツガなどの樹林の尾根を下ると間もなく的岩分岐。このまま下れば登山口に戻れますが、せっかくなので的岩を見にいきましょう。
的岩は岩脈が屏風状に露出したもので、幅わずか2~3m、高さ15m、長さ200mほどの岩塊。屏風岩とも呼ばれる特異なスタイルのこの岩は、地質学的に貴重なものとして国の天然記念物に指定されています。見学を終えたら登山口へと下ります。
四阿山 | その他のコース
最短コースとして知られるのが、北側にあるパルコールつま恋スキーリゾートのゴンドラ山頂駅から往復するコース。ゴンドラの運行は期間限定の土曜・休日などで平日運行はありませんが、4時間ほどで四阿山を往復できるコースは魅力です。
また、時間に余裕があれば、北西の根子岳(標高2,207m)まで足を延ばすのもおすすめです(四阿山山頂から往復約3時間30分)。四阿山と根子岳の鞍部に広がる大スキマは広大な草原になっていて、開放的な山歩きが楽しめるコースです。
四阿山のとっておきの観光情報 |温泉・グルメ・文化・歴史
温泉、グルメ、地ビールと何でも揃っているのが嬬恋村。爽やかな高原の村で山歩きだけとは何とももったいないです。キャベツ畑の中心で妻に愛を叫べる人は叫んでいただき、そうでない人もキャベツグルメや温泉を堪能して帰りましょう。
【温泉編】豊かな自然の中に湧く高原のいで湯でリフレッシュ
■鹿沢温泉・新鹿沢温泉
レンゲツツジの群落地、湯の丸高原入り口に湧く鹿沢温泉は「雪山讃歌」発祥の地としても知られています。かつては数軒の旅館が建ち並んでいましたが、大正7(1918)年の大火により現在は標高1,500mに建つ一軒宿の「紅葉館」のみ。
標高1,300mに位置する新鹿沢温泉は鹿沢温泉からの引湯で、多数の旅館やホテルがあります。泉質は神経痛や筋肉痛などに効能があるマグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩泉。両温泉の宿では日帰り入浴も楽しめます。
■嬬恋バラギ温泉 湖畔の湯
四阿山のふもと、標高1,300m、周囲2kmの人工湖・バラキ湖畔にある日帰り温泉。カラマツ林に囲まれた静かな環境で、小鳥のさえずりが間近に聞こえてきます。泉質はアルカリ性単純温泉で、入浴すると肌がツルツルすべすべに。広々とした檜風呂と石風呂の内湯があり、週ごとに男湯と女湯が入れ替え制。館内にはお休み処、お食事処、嬬恋村の特産品を取りそろえたお土産処があります。
【グルメ編】嬬恋の地で育まれたキャベツとビールを堪能
■嬬恋村のキャベツ料理
標高800~1,400mの高冷地で育てられる「嬬恋高原キャベツ」。嬬恋村の6月から9月の平均気温がキャベツの生育に適した15~20℃であること、夏の降水量が多く昼夜の温度差が大きいことなどが、おいしいキャベツができる理由といわれています。嬬恋村の飲食店や家庭では、揚げ物や肉料理のつけ合わせのほか、さまざまな料理にたっぷりのキャベツが使われます。キャベツを桜えびなどと揚げた「キャベツのかき揚げ」や丸ごと電子レンジで加熱した「まるごとキャベツ」など珍しいメニューも。
■嬬恋高原ブルワリー
1997年、浅間山を望む地に創設したブルワリー。自社栽培(または委託栽培)大麦と嬬恋高原の良質な地下水を使用し、自社製麦芽によりクラフトビールを造っています。工房併設のレストランでは、こだわりのビールとともに自社農園産のキャベツサラダ、完熟トマト、フライドポテトなど、地産地消メニューが味わえます。苦みとホップの香りが強い「嬬恋ペールエール」、フルーティーな味わいの小麦のビール「前橋ウィート」など、ビールの種類も豊富。
【文化・歴史編】浅間山の麓で「命」と「愛」の奇跡に出会う
■鎌原観音堂
天明3(1783)年8月5日、浅間山火口から12km離れた鎌原村は浅間山の大爆発による土石なだれに襲われ、人口570人のうち477人もの尊い命が失われてしまいます。高台の鎌原観音堂にたどり着いた93人だけが助かったため、噴火災害から村人の命を守った奇跡の地、厄除けの観音様として知られ、多くの参拝者が訪れるようになりました。災害と復興の歴史を受け継ぐ鎌原観音堂奉仕会の方々によって大切に守られ、毎年8月5日には供養祭が行われます。県の史跡指定。
■つまごいパノラマライン「愛妻の丘」
嬬恋村を約2/3周する主要村道のつまごいパノラマライン(全長約30km)は、浅間山北側の山裾を走る南ルートと国道146号線田代付近から四阿山と草津白根山の山裾を走る北ルートからなっています。長い直線やアップダウンが多い北ルートは、沿道にキャベツ畑が広がり、夏には出荷前のキャベツが畑一面に見られる人気のドライブコース。北ルート沿いには「愛妻の丘」があり、毎年9月にはイベント「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ(キャベチュー)」を開催しています。「妻に愛を叫ぶ専用叫び台」から山に向かって愛を叫んでみては。
【教えて、四阿山の魅力!】東京から移住した荒井西夏さんが語る「私の大好きな嬬恋」
東京で生まれ育ったものの、山が身近にある環境で働きたかったという登山好きの荒井西夏(せいか)さんは大学卒業後、嬬恋村のホテルに就職。その後、嬬恋村の地域おこし協力隊員として活動し、任期終了後は無印良品カンパーニャ嬬恋キャンプ場で働く荒井さんに、大好きな嬬恋村の魅力を語っていただきました。
-いつもどんな山登りをされていますか
荒井:嬬恋の魅力は山がたくさんあること。有名な山(四阿山や浅間山、草津白根山など)はもちろん、地図に名前が載らないような小さな山でも素敵な山がいっぱいあります。私は普段、そんな小さな山に行く回数のほうが多いです。半日もあればお手軽登山を楽しめるし、自然をひとり占めしているかのような気分を味わうことができる「私だけの特別な山」がいくつもあります。
-四阿山のオススメのコースや歩き方は?
荒井:私が好きなのは鳥居峠からのコースです。突如、現れる的岩、高山植物、稜線からの展望など見どころたっぷりですが、このコース最大のオススメは山頂直下にある「嬬恋清水」の湧き水。冷たくておいしいので持ち帰り用のボトルを忘れないでくださいね。それと下山後の温泉セットも忘れずに!
-その温泉ですが、オススメはありますか
荒井:イチオシは乳白色で硫黄臭(この匂いがやみつきです)の強い万座温泉ですが、四阿山の登山後なら、登山口から車で15分ほどの鹿沢温泉がオススメです。こちらは無色透明・無臭の温泉ですが、いつまでも体がポカポカです。
-嬬恋での登山以外の遊び方を教えてください
荒井:自分の勤務先のPRみたいになって恐縮ですが、「無印良品カンパーニャ嬬恋キャンプ場」では、キャンプをされない方でもアウトドアアクティビティが体験できますよ。キャンプ場近くのバラギ湖をマウンテンバイクで一周したり、ルアーフィッシングやフライフィッシング、えさ釣りなども楽しめます。爽やかに晴れた日は、四阿山を眺めながらのんびりボートを漕いでみてはどうでしょうか。
-やっぱりキャベツはおいしいですか
荒井:「嬬恋キャベツ」は文句なしとして、トウモロコシやナス、ズッキーニなどの夏野菜のおいしさも大きな魅力ですね。また、あまり知られていませんが、ここのジャガイモは北海道に負けないくらいおいしいですよ。これらの野菜は村内16カ所にある農産物直売所で購入できます。営業期間はだいたい7月~10月で、私のオススメの直売所は、「海野農園」「羽生田売店」「あさまのいぶき」の3カ所。ぜひ立ち寄ってみてください。
●農産物直販所マップ
*=画像提供「ググっとぐんま」(群馬県観光物産国際協会)
協力:群馬県観光物産国際協会
YAMAP MAGAZINE 編集部
登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。
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