投稿日 2023.03.02 更新日 2024.01.26

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安全で疲れにくい歩き方|歩行技術を登山ガイドが解説【山登り初心者の基礎知識】

山登りでの疲労や足のトラブルは、「歩き方」に起因することもしばしば。逆に言えば、効率的な「歩き方」を身に付けることで、より快適に登山を楽しめるようになります。今回は登山ガイドが実践する、安全で疲れにくい「歩き方」を紹介します。

目次

平地と登山道で全く違う歩き方

平地での歩き方(撮影:鷲尾 太輔)

「フラットフッティング」が基本

普段あまり意識することはありませんが、平地では一般的に「かかとで着地して爪先で次の一歩を蹴り出す」という動きで歩いています。
この動きで1分間あたり100〜120歩のピッチで歩くと、時速約4kmという一般的な歩行速度になるのです。

登山道での歩き方(撮影:鷲尾 太輔)

登山道では「フラットフッティング」と呼ばれる、常に靴底の全体を接地させる歩き方が基本。登山靴の靴底(アウトソール)には、材質やラグ(靴底の突起)の形状など、不整地の登山道でも滑りにくい工夫が凝らされています。

かかと、つま先だけで接地している状態では、その性能を十分に発揮できず、スリップなどの原因にも。ガレ場やザレ場で爪先で蹴り出すと落石を引き起こし、後方の登山者にケガを負わせてしまうリスクもあります。

平地でフラットフッティングを実践してみると、必然的に歩幅が小さくなり、スピードを出せません。登山では「フラットフッティング」で1分間あたり60〜80歩のピッチ、時速約2kmの速度で進めば、一般的なコースタイム通りに歩けます。

次の一歩は「静荷重・静移動」を意識

次の一歩は慎重に(撮影:鷲尾 太輔)

不整地の登山道では次の一歩が滑りやすかったり、崩れやすかったりと、危険な足場があります。そこで、もうひとつのポイントが「静荷重・静移動」です。

後側の足にしっかり重心を残したまま、静かに前側の足を接地し、次の一歩の足場が安定していることをまずは確認。その上で少しずつ前側の足に重心を移動させ、後側の足をそっと地面から離します。

難しく感じるかもしれませんが、まずは「大きな足音でドタバタ歩かない」、もしくは「日本武道や伝統芸能でのすり足」を少し意識するだけで、自然と実践できるようになります。

安全で疲れにくい歩き方|登り編

体力を消耗しやすい登りでのポイントは?(撮影:鷲尾 太輔)

体力を消耗しやすい登りは、前述した1分間あたり60〜80歩の歩行ピッチをなるべく一定に保つことが、心拍数を安定させて疲労の防止につながります。

大きな段差を避けて歩く

無理に直線的に進むと疲労の原因に(撮影:鷲尾 太輔)

自然の地形をそのまま活かした登山道には、木の根や岩で段差がある場所も。ここで無理に直線的に進もうとすると大きな段差を越えることになり、疲労の原因になります。写真に矢印で示した通り、多少遠回りになっても段差の小さい場所を選んで進みましょう。

こまめに目線を上げる

うつむいたまま歩き続けると……(撮影:鷲尾 太輔)

それでも苦しい登り、ついついうつむき加減になりがちです。けれども数歩進むごとに一度目線を上げることを意識しましょう。視界にはずっと地面だけ……という状態で歩き続けると、上方から進んでくるすれ違いの登山者に気づくのが遅れるだけでなく、登山道に張り出した樹木に頭をぶつけたり、分岐を見逃して道間違いの原因になってしまいます。

足を開いてフラットフッティングを維持

急斜面では足を開く(撮影:鷲尾 太輔)

斜面が急になるほど、すねが圧迫されてフラットフッティングの維持が難しくなってきます。ここで上半身を無理に起こしたり前屈みにすると、ザックの重さも相まってバランスを崩すことも。

こうした場合は足を逆ハの字あるいはL字に開くと、すねに負担をかけずフラットフッティングを維持できます。

安全で疲れにくい歩き方|下り編

スリップや足の痛みを起こしやすい下りでのポイントは?(撮影:鷲尾 太輔)

体力面、特に心肺への負荷は少ないものの、スリップや膝・足裏などの痛みを引き起こしやすい下り。基本的に下りは登山後半となるため、疲労も蓄積されてきて辛い区間です。ここでは下りでのしんどさを少しでも軽減するポイントを紹介します。

大きな段差を避けて歩く

無理に直線的に進むと足のダメージの原因に(撮影:鷲尾 太輔)

登りと同様に、大きな段差を避けて歩くことがまずは大切。無理に直線的に進もうとして大きな段差に次の一歩を踏み出すとスリップの原因になるだけでなく、足に大きな負荷がかかり、特に膝痛の原因になってしまいます。

下りでは登り以上に「静荷重・静移動」を意識して、一歩ずつ慎重に進みましょう。

落葉スリップの防止策

落葉を払って地面を確認(撮影:鷲尾 太輔)

秋から冬の低山で多いのが、滑りやすい地面が落葉に隠れていて気づかずに起こる、通称・落葉スリップ。「静荷重・静移動」の原則は守りつつ、止むを得ず大きな段差を下るときなどは特に、前側の足で落葉を払いのけて地面の状態を確認することが、有効な防止策となります。

膝を曲げてフラットフッティングを維持

急斜面では膝を曲げる(撮影:鷲尾 太輔)

斜面が急になるほど、すねが延ばされてフラットフッティングの維持が難しくなってきます。下りでは膝を曲げることで、フラットフッティングを維持しましょう。

もうひとつのポイントは上半身の角度です。鉛直(斜面に対して垂直ではなく地球に対して垂直)に近い角度に保つことで、足裏全体に荷重がかかって下りの歩行が安定します。

上半身が前傾(前のめり)や後傾(へっぴり腰)の状態で下り続けると、爪先やかかとなど足裏の偏った部分に痛みを引き起こすことも。足裏の痛みに悩んでいる人は特に、上半身の角度を見直してみましょう。

急階段・急斜面の歩き方

心が折れる急階段(撮影:鷲尾 太輔)

基本はジグザグ歩行

目の前に立ちはだかる急階段や急斜面は、心がくじけそうになる場面。こうした場所では登山道の幅やすれ違い、追い越しをする他の登山者に配慮した上で、可能な限りジグザグに歩き、体力の消耗を軽減できます。急斜面をつづら折りに登る、富士山の登山道と同じ原理です。

ジグザグに滑降したスノーボーダーのシュプール(撮影:鷲尾 太輔)

下りの急斜面も同様に、正面を向いて下るのではなくジグザグに進むことがスリップや転倒の防止につながります。こちらは直滑降でなくジグザグのシュプールを描くことでスピードをコントロールする、スキー・スノーボードを思い浮かべると理解しやすいのではないでしょうか。

状況に応じてクライムダウンも

これは下っている写真です(撮影:鷲尾 太輔)

鎖場など斜度がきつく前向きに下ることが怖い斜面では、後ろ向きに下る「クライムダウン」という歩き方があります。

文字通り登りと同じように斜面に顔と体を向け、必要に応じて手でも斜面をつかみながら、後ろ向きにゆっくり下っていきます。斜面にへばりつかず、常に下方の足場を目視できる姿勢で下ることがポイントです。

ストック(トレッキングポール)の正しい使い方

トレッキングポールを正しく使おう(撮影:鷲尾 太輔)

安定した歩行や足痛の防止に有効なトレッキングポール。昨今は2本セットで使用するストックタイプが主流です。正しい使用法で安全・快適に歩きましょう。

身長に合わせた長さ調整

基本となる長さはひじが直角になる状態(撮影:鷲尾 太輔)

トレッキングポールを使用する際の長さは、使う人の身長によって変わります。平坦な場所では、写真のようにひじが直角になる長さが基本になります。

登り・下りで異なる長さと握り方

登りでの長さと握り方(撮影:鷲尾 太輔)

斜面が近い登りでは、長さは短めに調整しましょう。落下防止のためストラップに腕を通して、グリップを握ります。

下りでの長さと握り方(撮影:鷲尾 太輔)

斜面が遠い下りでは、トレッキングポールを長めに調整します。登り同様にストラップへ腕を通した上で、グリップは上部を包み込むように握りましょう。

トレッキングポールを使った歩き方

静かに接地・自然に離す(撮影:鷲尾 太輔)

トレッキングポールの先端を接地させるポイントは、次の一歩で足を置く付近が目安。あまり遠くに接地させてしまうと、身体を引き寄せるために腕が疲れてしまいます。

「静荷重・静移動」の原則通り、体重をかけずに静かに接地しましょう。前進すると身体に沿って自然にトレッキングポールが足より後ろに来るので、静かに地面から離して次のポイントに接地させます。

地面から離したら、後ろに振り回さないこともポイント。後方の登山者に恐怖心を与えるだけでなく、負傷させてしまうこともあります。

こまめに緩みをチェック

このトレッキングポールは上部がレバーロック式・下部がスクリューロック式(撮影:鷲尾 太輔)

トレッキングポールを接地させる際に体重をかけてはいけない理由がもうひとつあります。それは、長さ調整するジョイント部が緩んでいて急激に短くなり、転倒の原因になることです。

特にスクリューロック式のジョイント部は、目視だけでは緩みを確認できません。こまめにスクリューを締めて、緩みを防止しましょう。

高機能インソールの使用も快適な歩行に有効!

ここまで紹介した歩き方を実践しても、扁平足などが原因で膝や足裏の痛みが解消できない場合もあります。

そこでおすすめなのが、登山靴に付属しているインソールから別売の高機能インソールへの交換。歩く時の足の形状や姿勢を理想的な状態に維持してくれるので、より足への負担が軽減されトラブルの予防につながります。

執筆・素材協力・トップ画像撮影=鷲尾 太輔(登山ガイド)

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