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「山の感動が写真で伝わらない…」|不慣れな一眼、スマホ撮影の悩み、YAMAPフォトコン受賞者が解決
そのときは雄大な山の景色に感動したのに、写真ではいまいち感動が伝わらない──。スマートフォンや不慣れな一眼カメラで撮影している人の悩みではないでしょうか。そこで、全国的な山岳写真展で最優秀賞の受賞歴があるmt.taketake(タケちゃん)さんが、誰でもすぐに実践できるコツを解説。自身の初心者のときの失敗を例に出しながら、肉眼で見たままの感動を撮影する方法を教えてくれました。
目次
悩みを解決してくれる大賞の受賞者は?
YAMAPをご愛用の皆さま、こんにちは。「YAMAPフォトコンテスト2021」でAdobe賞(大賞)をいただきましたタケちゃんです。まだ不慣れな一眼カメラはもちろん、スマホでの山の撮影で皆さんが困っている悩みを解決してほしい、というご要望を受け、今回執筆を拝命しました。
生まれて間もない頃から山を愛し、愛された山男。
普段はサラリーマンとして働き、多い時は年間100日を山で過ごす生粋の山男。
高尾山から北アルプス積雪期の北鎌尾根まで、幅広いフィールドで遊びつくす山男。
Instagramで mt.taketake というアカウントで山の写真を投稿しています。
もしかしたら、「そのアカウント知ってる!」という方もいらっしゃるかと思います。
親の都合で(?)山好きへと育てられ、気づいた頃には山がホームで麓が出稼ぎの場という逆転現象を引き起こした末に、カメラという新たな沼を手に入れ、今日まで日本の山々の絶景をSNSでお伝えしています。
本格的な山岳写真を志してから、2022年で6年目となります。
初期の写真は皆さんが思うような山の雄大さをなかなか伝えることができず、答えが分からないながらも模索していました。
しかし、6年という歳月の中で見つけた自分なりの答えや、さまざまな人や写真との出会いの中で気づかされたことなどを経て、2021年の「YAMAPフォトコンテスト」で大賞(Adobe賞)をいただけたのではないかなと感じています。
2022年は全日本山岳写真展にて最優秀賞である協会賞、日本山岳写真協会展にて優秀賞である準特選をいただけたのも、日々模索し続けた結果からなのかと思います。
写真をはじめた頃は思うような写真を撮れなかった自分が、これらの賞をいただけるまでになったのはなぜなのか。今日までどのようなことに気を付け、どのような考えで日々の撮影に臨んでいるかを、次の章から説明していきます。
写真が自分のイメージした風景と違う方へ
さっそくですが、みなさんは山の写真をイメージ通りに撮影できていますか?
この記事を読みにきたということは、「撮った写真がイメージと違う……」「あのときの感動がSNSではうまく伝わらない」という経験があるからでしょう。
魅力あふれる山の風景を写真で伝えるのはなかなか難しい。自分自身もみなさんと全く同じ経験をした一人でした。
最近はSNSでかっこいい写真を投稿する人がたくさんいますよね。そんな彼らも最初から上手い写真を撮っていたわけではありません。僕たちのように多くの失敗を経験しながら学んでいった人がほとんどだと思います。
ここからは、僕が失敗から学び、現在の撮影に活かしていることをわかりやすく解説します。
カメラは持っておらず普段はスマホで撮影しているという方にも、僕が実践しているテクニックが役立つはずです。
山で写真を撮る楽しさをこの記事で皆さんに知ってもらい、その延長線上にある、YAMAPをはじめとしたフォトコンテストへの入賞を目指してもらいたいと思っています。
よくある悩み①|臨場感が出ない…
雄大な山の景色を撮影したつもりが、なんだか臨場感がない写真になったことはありませんか? 特に山の写真においては、被写体が大きいがゆえに、スマホで見る写真は小さくなるので臨場感がなくなってしまいます。それでも臨場感を出す方法はあります。
被写体“だけ”を切り抜くだけではない
例えば、上の写真は北アルプスの南岳から撮影した、大キレット。これはこれでいい写真かもしれませんが、次に同じ場所から少し広めの画角で撮影した下の写真と比較してみましょう。
下の写真の方が大キレットという場所の荘厳な雰囲気が伝わり、より臨場感があるように感じます。
ここまでお話ししたらお気づきの方もいるかと思います。臨場感を感じるためには、被写体だけを切り抜くだけではなく、周りの景色も入れてあげることが大切です。
奥行きを意識
写真の奥行きを意識するとさらに臨場感のある写真を撮影できます。ちょっと説明が難しくなってきたでしょうか。
奥行きとはどういったものか。例えば山々の重なり。言うまでもなく、それぞれの山までの距離が違うので立体的に見えますよね。足元の景色を写真に入れることでも奥行きが作れます。
上の写真は足元に絨毯のように広がるチングルマの群生をダイナミックに撮影した写真。写真下部から上に向かってチングルマの群生が続くことで奥行きが生まれ、写真に立体感が出せています。
奥行きを生む撮影は、撮影者の立つ位置でかなり変わってきます。例えば下の写真は前景のお花と、奥に続く稜線を撮影しました。
小さい花だったのでしゃがんだ状態でかなり寄って撮影しました。ただ、花にボリュームがなく、奥に続く稜線へのつながりが悪いと思い、中腰の位置で再度撮影したのが下の写真です。
奥に続く花の群生と稜線にボリュームが生まれたので、奥行きを感じる写真になったかなと思います。ちなみに撮影に使ったレンズ・画角は2枚とも同じですが、全く違う写真のように感じますよね。
このように立つ位置を変えるだけでも写真の印象が違うものになります。
下の写真は私の写真管理をしているLightroomというソフトの画面ですが、この構図に行き着くまでに何枚も写真を撮っていることが分かります。
立つ位置を変えたり画角を変えたり、同じ構図でも何度も試行錯誤を繰り返しています。納得いく写真が撮れることもあれば、結局諦めてしまうことも多々。こういった積み重ねが、イメージに近い写真にしていくには欠かせません。
よくある悩み②|写真が傾いてる…
最高の写真を撮ったつもりだったのに、スマートフォンでチェックすると水平が傾いていたという経験はありませんでしょうか。せっかくの絶景だったのに…と残念な思いをする方も多いと思います。
私の主観ですが、意図した写真の傾きは除いて山岳写真においては水平方向の傾きは避けた方が良いと思っています。
水平が取れてない写真は本能的に不自然に見えてしまうことが多く、せっかくのいい写真を台無しにしてしまう可能性があります。
特にフォトコンテストを目指す方でしたら、真っ先に意識して欲しいのがこの点です。審査員によっては、どんなにいい写真でも水平が傾いてるだけで選考から外すと聞いたことがあります。YAMAPさんはそんなことないですよね?(笑)。
2度と訪れることがない一期一会の風景。できることなら確実に水平に撮りたい…。では、どのようにすれば水平が取れた写真が撮れるのでしょうか。
ある程度いい一眼レフのカメラをお持ちの方でしたら、カメラ内の設定で「水準器」という設定ができます。水準器は文字通りカメラが水平を検知し、撮影者に教えてくれる機能です。
ただ、エントリークラスの一眼カメラやスマホをメインで撮影している方だと、水準器が搭載されてない場合もあるかと思います。その時は「グリッド線」という機能を使いましょう。
グリッドとは縦横で構成された目安線のことで、写真撮影の際、構図を視覚的に把握しやすくするガイドのようなものです。
実は、このグリッド線を用いることで水平が傾いてしまう問題を解決できます。
山の風景において水平はどこにあるのでしょうか。答えは地平線です。当たり前ですね(笑)。稜線を歩く山でしたら、ほとんどの場合、地平線が見えると思います。地平線が見えない場合には、遠方の雲の底面や雲海、人が入る時は縦の線を人の線と並行にしたりします。
使い方は、景色に見える水平線と先ほど紹介したグリッド線を並行にするだけ。これでおおよその写真は水平の取れた写真になると思います。
地平線がない樹林帯の撮影においては、基準となる木と縦のグリッド線を合わせると、不自然に傾いた森の写真が解消できます。
水準器では水平が取れていても写真が傾いて見えることも。その場合は見え方を優先し、グリッド線に合わせることもあります。
水平となる目標物がない写真についてはある程度の傾きは許容できるかもしれません。
ただ、先ほどお伝えした水平となり得る目標物がある場合には不自然に傾いてみえてしまいます。今回の目的としては、水平で撮るより、「水平に見えるように撮る」という方が自然な流れかもしれませんね。
よくある悩み③|露出がイメージに合わない…(そもそも露出って?)
最近のカメラやスマホは優秀で、シャッターを切るだけで誰でも簡単に綺麗な写真を撮影できるようになりました。
でも、任せすぎていると、自分がイメージしていたより明るかったり暗かったりすることはありませんか? これはカメラの特性で、すべてを目で見た通りに自動(オート)で調整するのは難しいのです。そこで、簡単に手動(マニュアル)で設定できる方法をお話しします。
なぜカメラの特性上難しいのか──。簡単に話すと、可もなく不可もない無難な写真が撮れる「適正露出」という明るさが基準として設定されているためです。
実際は暗いのに、明るくなってしまう理由
無難な明るさなので、おおむね問題はないのですが、あるシチュエーションのときに悪さをしてしまうことがあります。
例えば下の写真のようなシチュエーション。
日の出前、雲の隙間から朝の光が漏れてくるシチュエーション。こちらは私の設定であえてアンダーに設定し撮影していますが、カメラの自動(オート)設定の適正露出で撮影すると下の写真のようになってしまいます。
実は明暗のデータとしては間違っていないのです。でも、2枚を見比べたときに、どちらが印象的な写真かわかりますよね?
朝夕や森での撮影時、つまり、薄暗いシチュエーションの時には、自動設定だとカメラは明るく撮ろうとしてしまいます。ですので自ら手動で暗めに設定をしないと、イメージと違う写真ができ上がってしまうわけです。
これとは逆のシチュエーション、例えば雪山や太陽の光が強い場合には、逆に暗い写真ができ上がってしまいます。たぶん同じ体験をしていて、うなずく方も多いのではないでしょうか。
つまり、自分が感じた景色の雰囲気が明るい方がいいのか、暗い方がいいのかを判断し設定する必要があります。
露出レベルの補正を抑える
イメージに近づけるための簡単な露出の設定。それは「AE露出レベルの補正」という機能を使うことです。
「え、AE露出レベルって何!?」と思われた方に説明すると、カメラが認識したAE(自動露出)のことです。撮影者はAEを調整することでイメージに近づけられます。
「そんな機能、知らないよ、使ったこともない」という方。もし手元にカメラがあったらみてもらいたいのですが、モードの名称で【 P / Tv(S) / Av(A) 】 のいずれかにしてもらうと【 -3 ~ 0 ~ +3 】の数字が入ってる項目があると思います。
この項目がこれまで話した露出の値を表示する場所になります。
カメラによって設定の操作方法は異なりますが、マイナスにすれば暗くなり、プラスにすれば明るくなります。
スマホの場合はさらに簡単
カメラは設定が少々面倒かもしれませんが、スマホはもっと簡単に調整できます。
①まずはスマホのカメラ機能を起動
②次にピントを合わせたい場所を長押し
③最後に指を上下させる
④上に上げると明るくなり、下に下げると暗くなる
⑤適切だと思う露出に調整し、撮影ボタンを押す
思い通りに露出をコントロールできましたか?
失敗を恐れずいっぱい撮ろう
ここまで「写真の奥行き」、「水平」、「露出のコントロール」について説明していきました。ぜひ皆さんにやっていただきたいのは、一つの構図で画角を変えたり露出を変えたりと様々なパターンを撮影することです。
すると自分の想いとは違う新たな発見をすることがあります。たくさん撮影し、その中から光る一枚を見つける。これを何回も繰り返せば、いつか納得のいくオリジナルの写真が撮れる日が必ず訪れます。
山という雄大な大自然を目の前にした感動を、僕たちにたくさん見せてください!
YAMAPフォトコンテスト2023開催中
山岳フォトグラファー
mt.taketake(タケちゃん)
生まれた時から両親に山を仕込まれ、今日でも山を愛する生粋の山男。大学時代に東日本大震災を経験し、何気ない日常を記録したい想いからカメラを購入。ライフワーク化した登山で、目の前の素晴らしい景色を山岳写真として世界中の人に届けたいと、街から山へ写真活動のフィールドを移す。最近はコーヒーが好き過ぎるあまり、全国各地の山々でコーヒーを淹れるという野心を燃やしている。2021年にYAMAPフォトコンテスト大賞(Adobe賞)、2022年に全日本山岳写真展で最優秀賞(協会賞)と日本山岳写真協会展で優秀賞(準特選)など受賞。
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