投稿日 2021.12.21 更新日 2021.12.22

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「近自然工法」という登山道整備の新しい概念とその可能性について|DOMO講演会レポート

2021年7月14日にリリースしたYAMAPの循環型コミュニティポイント「DOMO(ドーモ)」。 YAMAPのユーザー同士でおくり合える他、山の再生や登山道整備など様々なプロジェクトを支援することができます。「大雪山の登山道整備 in 北海道」は、その支援プロジェクトの一つ。いったいどんなプロジェクトで、DOMOポイントはどんなふうに使われるのか? DOMO提携パートナーとして本プロジェクトを推進する「一般社団法人大雪山・山守隊」の代表・岡崎哲三さんをお招きし、12月8日に講演会を開催しました。本記事では、その模様を要約してお伝えします。

目次

● 登壇者紹介

岡崎 哲三(おかざき・てつぞう)
一般社団法人大雪山・山守隊、合同会社北海道山岳整備代表
1975年生まれ、北海道札幌市出身。学生時代、勉強が大嫌いで常に自然の中に身を置く。
高校卒業後、大雪山の山小屋で働きはじめ登山道整備に興味を持つ。2003年近自然工法
という発想に出会い、2011年この発想と技術を深めるために北海道山岳整備を立ち上げる。
2018年に民・官・学・企業が連携した山岳管理システムを構築すべく、大雪山・山守隊
を立ち上げ、日本各地の民間団体と連携しながら次世代の国立公園管理を目指している。

春山 慶彦(はるやま・よしひこ)
株式会社ヤマップ代表
1980年生まれ、福岡県春日市出身。同志社大学卒業、アラスカ大学中退。ユーラシア旅行社『風の旅人』編集部に勤務後、2010年に福岡へ帰郷。2013年にITやスマートフォンを活用して、日本の自然・風土の豊かさを再発見する”仕組み”をつくりたいと登山アプリYAMAP(ヤマップ)をリリース。アプリは、2021年11月時点で280万ダウンロードを突破。国内最大の登山・アウトドアプラットフォームとなっている。

登山道の荒廃が進む、大雪山の現状

ーーまずは岡崎さんたち山守隊の方々が活動されている、北海道・大雪山を取り巻く現状のお話からスタート。大雪山というと自然豊かなイメージが強いですが、実際は……? 現地で登山道整備をされている岡崎さんだからこその視点で、大雪山の知られざる課題を共有いただきました。

岡崎:私ども山守隊の活動拠点は、北海道の大雪山です。大雪山には本州のように急峻な山はなく、一度登ってしまえば多少のアップダウンでいろんなところへ行けるという、広さを感じられるところだと思います。

日本一の広さを誇る大雪山国立公園。ここが岡崎さんたち山守隊の活動拠点

白雲岳の避難小屋周辺にて。大雪山ならではの壮大な景観を楽しむことができる(写真【A】)

岡崎:まるでなだらかな丘のような、壮大な景色が楽しめる素晴らしい場所です。ただ、残念ながら、大雪山は登山道侵食の ”見本だらけ” なんです。例えば上で紹介した写真【A】、本当に素晴らしい景色なんですが、登山道付近をクローズアップすると、荒廃の現場がしっかりと写っているわけです。

写真【A】をクローズアップしたもの。一見すると素晴らしい景色の中にも、登山道荒廃の影が潜んでいる

岡崎:他にも、次の写真。写真中央のえぐれた道を普通に登山者が歩いていますけれども、実は右と左の植物帯は本来つながっていたところです。最初は登山者の歩行が起因となり、そこに水やら色々な要因が重なりここまで掘れてしまった……。崩れかけている植物群の中には、正直、あと数年でなくなってしまうものもあります。

登山者が何気なく歩いているこの道は、もとは左右の繋がった平坦な土壌。「残念でならないのは、荒廃の進行にほとんどの人が気がついてさえいないということ」だと、岡崎さんは訴える

荒廃が進んだ登山道の一例。ここまで荒廃が進んでしまうと、凍結融解(✳︎)現象の影響などで少しずつ土壌が削れていき ”歩かなくても土壌が流れ続ける状態” になってしまうそう(✳︎凍結融解とは…土壌が凍結や融解を繰り返すことで、地表に多用な影響を与えること)

過去に「人が施工した箇所」も例外ではない

岡崎:人が施工したところ=既存の施工物でも似たような状況が見られます。大雪山にはメンテナンスが追いつかず、「どうやって歩けばいいのかな?」と思うようなところが実はたくさんあるんです。崩壊した木道を指して「ここを歩いてください」なんて言えないですよね、危ないから。この手の荒廃は登山者というより管理する側の問題ですが、今はかつてのように登山道整備に予算がつきにくいこともあり、メンテナンスが行き届かないのが現状です。

崩壊したまま放置されている木道。木道の脇には人の歩く道ができて植物がなくなってしまっている

岡崎:あるいは、せっかく予算を注ぎ込んで整備をしても、現地の環境とそぐわない施工をしてしまったがゆえに数年で再び荒廃してしまうということもあります。その一例として、次の写真【B】を見てください。この辺りの地層は、表土から1mほど下は氷土でできていると言われています。こんなふうに人の歩行や水の流れによって土壌がV字・U字に掘れてしまう「ガリー侵食」(✳︎)が進行すると、地面の奥の方に熱が届き、凍土が緩んでしまいます。そうすると、ブロックのような形で植物群が崩れてしまいます。
(​​✳︎ ガリー侵食とは…地表を流れる雨水が地面を削ってできた溝に、さらに水が集中して溝が深くなる現象)

荒廃が進んだことで凍土が緩み、植物群がブロック状に崩れ落ちてしまった箇所(写真【B】)

これを公共事業によって修復したのが、下の写真【C】です。およそ20mの距離で、飛騰しては数百万円はかかったと聞いています。ヘリコプターで下界から石材を運び、土砂が崩れないように施工したのですが、それからな10年経たずして写真【D】のように崩れてしまったんです。

写真【B】を公共工事で修復。下界から石材を運び、土砂の崩れを防いだものの……(写真【C】)

10年経たずして再び壊れてしまった登山道(写真【D】)

岡崎:原因は、公共工事で使用した石材。現場にはもともとなかった、人が持ち込んだ重たい石です。石には熱を溜め込む性質があるので、石材が溜め込んだ熱が下の凍土まで浸透してしまい、かえって荒廃を進めてしまっていたんですね。折悪く台風も重なって、わずか一晩でここまで陥没してしまいました。行政がしっかりお金をかけてメンテナンスしてくれていても、「生態系と合った施工」という点ではまだまだ課題がある、というのが実情です。

「大雪山の登山道整備 in 北海道」における、DOMOポイントの使い道

ーー続いてのトピックスは、DOMOプロジェクト「大雪山の登山道整備 in 北海道」で、DOMOポイントがどんなふうに使われているのか、というお話。豊富な写真を交えながら、一つひとつ、丁寧にお伝えいただきました。本記事では、ここまでのお話の中で事例として触れられていた「ガリー侵食」にまつわるものとして、「白雲岳避難小屋周辺のガリー侵食防止」の項目についてお伝えします。他の項目についてはセミナー当日の録画(YouTube動画)をご覧ください。

岡崎:DOMOポイントを活用し、大きくは上記5つの項目を進めてきました(一部、現在進行中のものやこれからの取り組みも含む)。その一つ、「白雲岳避難小屋のガリー侵食防止」なんですが、コロナ禍だったので現地集合・現地解散で行いました。そのため、資材は事前に白雲岳避難小屋まで荷上げをしておいて、当日、参加者の皆さんと一緒に小屋から運搬するというスタイルを採用しました。参加者は1日20人ほど。登山道の一極に溜まった土砂を取り除き、各所に土を集めて登山道を修復する、というような作業を行いました。

現場周辺を上空から撮影した写真。登山道には3mほどの高低差がある。低い部分(中央部)に土砂が溜まっているのを整備するのが今回の登山整備のミッション

溜まってしまった土壌を掻き出している様子。すべての作業は「植物に配慮しながら」行われる

ヤシの素材でできた土嚢袋の購入や、登山道整備の知識がある方々への謝礼などにもDOMOポイントが使われている

メンバーの作業によりガリーがある程度埋まった様子。「今後、上の土壌に生えている植物が落ちたとしても、今回の作業で集め置いた土砂がきっちりと受け皿になってくれる

土砂が流れ出てしまった穴も、土嚢袋を使った嵩上げをして、穴を塞ぐ作業を行った

岡崎:登山道以外の植物帯に入って土砂を集めるという作業は、登山ではなかなか経験できないこと。植物がどういうところにあって、そこにはどんな土がかぶさっていて、それを避けるためにはどうしたらいいのか……。登山道整備をすることで、植物への配慮とか、自然を守りたいという気持ちが生まれるのではないかと思います。登山者にとっても新しい視点を持つ機会になると思います。

登山道整備の新たなスタイル 「近自然工法」を実践する山守隊

ーー岡崎さんたちが日々の活動において実践しているのが、”地質や環境に合わせた登山道整備” を実現する「近自然工法」。そのポイントや事例を教えていただきました。

岡崎:特に大雪山のような高山帯では、”地質に合わせた施工” が顕著に求められます。地質への理解があり、荒廃の原因を見極め最適なプランを実行できる人がいてこそ、登山道整備は成り立ちます。その上で、お金があり、資材が買えて、労働力がある……。このシステムができないと、本当の意味での、いい登山道整備はできません。知識・経験を持ち合わせた「登山道専門員」の教育こそが重要で、今から取り組むべきことなのではと思っています。

”生態系に適した施工” を実現する「近自然工法」のポイント。「近自然工法は ”手法” ではなく ”概念” 」と、岡崎さん

岡崎:私たちが日々実践している「近自然工法」は、その “地質や環境に合わせた登山道整備” を実現する考え方です。ポイントは「生態系の底辺が住める環境を復元させること」、これに尽きると思います。以下の事例にあるように、施工の現場では、鉄の杭など自然界にないものは極力使いません。代わりに、木の幹や石など “その場所にあるもの” をうまく使って土壌の修復を試みます。

「自然の中の構造物を取り入れる」という、近自然工法の原則を用いた施工事例。自然界の摂理に習い、自然界に存在しない鉄の杭は使わず、太い木の幹や石を配置してステップを刻んでいる

小笠原諸島での施工事例。土砂が崩れ植物が育ちにくい状態のところ(施工前・左)に、石を置き道をつくった(施工後・右)

施工から一年後、同じ場所には下層植物が育ち、土壌の崩れが起きにくい環境ができていた

岡崎:施工して何年か後に植物が育っているのを見ると、嬉しいというか、登山では味わえない、なんとも言えない気持ちになります。近自然工法は決して簡単なことではないですが、そういう喜びを感じられるのはいいところかなと思います。

行政も民間も頑張ってはいますが、残念ながら、侵食や荒廃のペースに追いつけていないのが国立公園の登山道の現状です。本当の管理とは「利用や自然災害による荒廃と、保全による復元力をバランスよく保つこと」です。そのためには、問題提起や利用者の意識変化、登山文化・自然教育の浸透が重要だと思っています。自分ができるのはあくまで「保全を考えられる人の確保」。だたし、それだけでは足りなくて、「利用と保全のバランスをとるシステム」「自然環境は人間にとって必要不可欠なものなんだと誰もが思っている状態」をつくっていかなければ、国立公園が抱える登山道の課題は打破できないと思います。

「この3つが揃ってこそ、国立公園の未来がある」と岡崎さんは語る

岡崎:今回DOMOプロジェクトとして支援いただいたことで、登山道整備や自然環境に対してこれだけたくさんの人が目を向けてくれているのだと実感できたことはすごく嬉しいですし、本当に感謝しています。ありがとうございました。

本プロジェクトを深掘り! 大雪山・山守隊 × YAMAP 両社代表による、プチ・クロストーク

大雪山・山守隊の岡崎さん(左)と、ヤマップの春山(右)

春山:お話を聞いて感じたのは、登山道整備をしたことがある人は一般の登山者とはまた違った山の見方をされるんだなということ。地形や地質を見て、その環境に適した方法で整備をしていく……つまり自然を読みながら登山道整備をするというのは、自然や山を知る貴重な機会になると思いました。行政任せにして登山者が関わらないのはもったいない。楽しみながら、自分たちの遊び場を自分たちで良くしていく姿勢、登山道整備を登山者自身が行っていくという文化を、一緒につくっていきたいですね。

岡崎:私に登山道整備や近自然工法のいろはを教えてくれたのは、四国にお住いの土木の方なんです。その教えはまるで禅問答のような言葉も多くてですね。「答えは自然の中にある」ですとか、「答えは一つではない」とか、「自然を観察して参考にしなさい」とか(笑)。自分も馬鹿正直なもんで、「よし、自然を見てやろう」と思ってやってみると、本当にそのとき初めて、いろんなものが見えてきたんですね。

春山さんがおっしゃる通り、登山道整備における視点は登山のそれとはまったく違います。水の流れを辿ることで小さな渓流の成り立ちを理解したり、一見なんの変哲もない石が、実は土壌崩れを防いでいることに気がついたり……。こういった視点で自然を読めるようになると、純粋に面白いんですよね。その面白さこそが、法人化して登山道整備を続けたいなと思った一番の要因かもしれません。面白さをきっかけに、登山道整備がもっと広く、普及してくれたらと思います。

登山道整備活動を通じて、近自然工法のいろはや概念を伝える岡崎さん

春山:「その土地にある材料で修理する」という近自然工法の姿勢は、素晴らしいと思います。特に、下界から運んだ石材で修復するも、10年足らずで壊れてしまったというエピソードは印象的でした。人の手であれこれ持ち込んで修復を試みるよりも、その土地にある材で、その土地に適した整備をする方が、長持ちし、年月を経るほどに強くなる。これは登山道整備に限定される話ではなく、生き方や自然との関わりという意味でも重要な示唆を与えてくれているのではと思います。尊敬する中村哲さんも、まさに同じ考え方でアフガニンスタンでの用水路建設を実行されており、場所や分野は違えど、自然との関わり方という意味では通ずるところがあると感じました。

岡崎:繰り返しになりますが、自分が常に意識しているのは「周りの自然を見ること」です。例えば植物が復元しているスポットを観察して、「ここはどうしてこんなに復元しているのか」と考えてみる。「もしかしたらこの石が一個引っかかって、それにまた別の石が引っかかった結果、土壌が溜まって平坦な地形ができ、安定勾配になる。そこにまた石材が落ちてきて……」と、観察と思案を繰り返していくわけです。すると、「なるほど自分がやるのは全部直すことじゃないんだ。直るきっかけをつくれば、あとは自ずとよくなっていくんだな」と、思い至る。

私たちの仕事は ”きっかけづくり” なんです。自然に対しても、人に対しても。大雪山以外でも各地域で登山道整備や講演活動をしていますが、あくまで ”きっかけづくり” に過ぎません。実際に育つのは、その土地の植物であり、手入れをするのはそこで暮らす人々です。どんなにゆっくりでもいいから、その土地土地に合うかたちで植物が育ち、地元の人たちが手入れを行っていくのがあるべき姿なんだと思います。

春山:登山道整備において、標高が高く夏が短い大雪山は、気候的にも環境的にも、難易度が高いのではないでしょうか?

岡崎:登山道整備のレベルというより、荒廃の進み具合・深刻度では「どこに行っても大雪山に比べたら大丈夫だな」という感覚はあるかもしれません(笑)。大雪山への人の入り込みなんて、本州のアルプスに比べたら少ないんです。よく「オーバーユースが原因で荒廃している」なんて言いますけれど、大雪山の場合は全然オーバーユースではない。人が入らなくても侵食が進行していることが問題なのに、多くの人がそれに気がついていないんですよね。その深刻さに気がつくと、今度は「今、なんとかせねば!」と焦ってくる。常に自然を観察して考える日々です。ただ、利用と保全を確立するという意味ではそれだけでは不十分なんです。利用する人の量とそこに育つ植物と、利用しても崩れないような日々のメンテナンス。これらをしっかり構築することが必要です。

大雪山の美しい景色。この景色を守るためにはメンテナンス体制を構築する必要がある

春山:そうですね。その中でも、登山道整備の知識・技術を持った人の存在は大きいかと思います。利用と保全のバランスを成り立たせるためには、登山道整備の技術者が、最低でも1〜2人は国立公園に配置されるといいですね。ちなみに 近自然工法の知識・技術を持っていて、それを人に教えられる人は国内にどれくらいいるのでしょうか? あるいは、登山道整備のいろはを学べる場所はあるのでしょうか?

岡崎:近自然工法を実践している人は何人かいますが、自分も含めまだまだ発展途上で試行錯誤を重ねながらの人が多いと思います。各地域の実情に合わせて体系的に教えられる人となると、ごくわずかでしょうね。

日本にマッチするかどうかはわかりませんが、海外には登山道整備のシステム化を実現した事例があります。アメリカの国立公園では、1万世帯以上のボランティア登録があります。ボランティア団体が自ら稼いだ資金の他、企業・自治体からの助成金などを元手に、登山道整備のボランティアを指導するチームも含めて運営されているようです。

日本もそういう文化ができる一歩手前まで来ているとは思っています。現代は、今ある道をいかに保全していけるかという時代。共感・賛同してくれる仲間を増やし、一緒になって登山道の保全活動を進めていきたいですね。

春山:僕たちもぜひ協力させていただきたいです。日本には茶道や剣道のように「◯◯道」の概念がありますから「登山道整備道」みたいに、自然と対話し、自然を読みながら登山道を整備する仕組みや文化をつくっていきたいですね。

岡崎:自然保護・環境保全は、私たちも含めいろんな人たちが同じ方向を向いてできることですよね。民・官・学が共同し生態系保全の取り組みとしても、登山道整備を実施していければと思います。

「大雪山の登山道整備 in 北海道」についてさらに詳しく知りたい方は…

今回の記事ではご紹介できなかった話を含め、講演会の模様を下記YouTubeにて配信しております。ぜひご覧ください。

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