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神奈川県箱根町|トレラン・ハイク・トレイルワークで箱根外輪山をフルに楽しむ
都心から最も近い観光地・高級リゾートとして名高い神奈川県箱根町。“箱根外輪山”と称される名山にぐるりと囲まれた山好きのメッカとしても知られています。今回ご紹介するのはトレイルランナ—とハイカーが一緒に山を楽しみ、それぞれのカルチャーを理解し合うという異色の企画。参加したのは登山歴7年、トレラン未経験のハイカー武石綾子さん。山を歩き山について考え、全身で楽しみつくす。そんな3日間の記録をお届けします。
目次
箱根はほぼ地元である。厳密に言えば出身はお隣の御殿場市だが、ドライブと言えば仙石原だったし、始めて登った山は小学生の金時山(1,212m)だった。昨今の時勢、箱根のために微力でもできることはないか。そんなことを考えながら、今回の旅に参加することにした。
旅程は3日間。1日目はトレランチーム、ハイクチームの二手に分かれて箱根外輪山の一部を縦走。夜は両者の共存に向けたディスカッション。2日目は1日目に歩いた登山道を補修するトレイルワーク。3日目はヨガ体験。アクティブな予定が盛りだくさんだ。
トレイルランナーとハイカー、初日はそれぞれの流儀で山を楽しむ
初日の集合はAM8:30。
始まりからトレイルランナーVSハイカーで火花がバチバチ散って険悪な雰囲気…というのは冗談で、初対面の方がほとんどにも関わらずとても和やかな雰囲気で始まった。
それぞれのチームをその道のプロフェッショナルがリードする。トレランチームには海外のレース経験も豊富な礒村真介さん。ハイクチームには低山トラベラー/山旅文筆家として数多くのメディアにも出演している大内征さん、最近youtubeも人気のヤマップ専属ガイド前田央輝さん(通称ひげ隊長)。
トレランチームが先発。そしてハイクチームがのんびりと後を追う。走るのが遅い私はもちろんハイクチーム所属。
荷物も足取りも軽快にスタートするトレランチーム
マイペースに歩き出すハイクチーム
まずは公時(きんとき)神社から箱根外輪山の最高峰、金時山を目指す。その後矢倉沢峠から明神ヶ岳(1,169m)を経由し、宮城野エリアへ下山。コースタイムはハイク想定で概ね7時間ほど。危険箇所はあまり無いが、それなりに体力が必要とされる“ミドルトレイル”だ。
今回の登山コース。YAMAPの該当地図はこちらから
天気は快晴。歩き始め10分程でじんわりと汗が浮かぶ。アウターを脱いで水分補給。そういえばトレランチームは格好も身軽だったな~とうらやましくなりながら厚手のジャケットをザックに詰め込む。
クイズを出したり山の伝承や小噺に驚いたり、大内さんとひげ隊長の掛け合いを楽しみながら登り坂をしばし歩く。
「トレランチームはそろそろ金時の頂上に着く頃ですかねえ」
「いやいや意外と遅かったりして…」
そんな冗談を言っていると、なんとも爽快な笑顔で駆け下りてくる集団が。先発のトレランチームだ。山頂まではまだ結構な距離がある。速かった。想像より圧倒的に速かった。むしろ表情からは余裕すら感じられる。
「頑張ってくださいね~」と言いながらすれ違って軽快に駆け下りていく。次の経由地矢倉坂峠へと走り去る後ろ姿がかっこいい。
余裕の笑顔で手を振るトレランチーム
ハイクチームも負けじと金時山山頂に到着。真っ青な空に富士山が映える!まさに絶景。
ハイクチームみんなで“おつかれ山”ポーズ
山頂の売店、“金時茶屋”では飲み物や食事も調達できる。道のりが長い我々には嬉しい。茶屋のご主人によると、やはりほぼ毎日富士山を詣でに登ってくるハイカーがいるそうだ。天井に目を向けると、「二〇〇〇回、三〇〇〇回」と書かれた札の横に名前がずらりと並んでいる。
歴史が感じられる金時茶屋の店内
「もう中毒だよねえ、金時中毒」
そう言って嬉しそうに笑うご主人の姿を見ていると、何度も来てしまう理由はこの絶景だけではないのだろうなあと思わされる。折を見て顔を出しに来たくなる親しみやすさと安心感。
都心からアクセス抜群で、コースは歩いて2時間程度。そしてこれだけの絶景。人気の理由がよくわかる。すでに結構な達成感を味わってしまったけれど、道はまだまだ続く。面白い道はメジャーな山の先にこそあるものだ。そしてトレランチームはすでに遥か先を行っている(多分)。
金時山から明神ヶ岳へのびる登山道が美しい
トレランチームの後を追い、明神ヶ岳を目指す。平坦な尾根道かと思いきやアップダウンがなかなかに激しい。昼には一気に気温があがる。残雪が溶けた後か、足元はぬかるんできた。時に足を取られそうになりながらペースを保つ。無心で歩いていくといつのまにか金時山は遥か後方、そのさらに後方で富士山が見守ってくれている。
休憩スポットにて寝転がるひげ隊長。冬とは想えないぽかぽか陽気
途中経由地の明神ヶ岳に到着!ここからの富士山、金時山の景色も絶景!
「あ!海が見えますよ~!!」
無事に明神ヶ岳を経てさらに歩くと、目の前に湘南の海が拡がる。そうか、箱根の山からは海が見えるのか…! 地理的に考えれば当然のことだけれど、こんなに綺麗に一望できるものだとは。歩くたびに見える景色が変わり、その全てが絶景。箱根外輪山トレイル、最高だ。
眼前に広がる湘南の海。青い空と水平線がなじんでいるようにも見える
ついつい足を止めて景色を眺めていたくなるけれど、冬の登山は時間との勝負。日が暮れる前に下山しなくては…。少しずつ足早になり、口数が少なくなる。後方からは「温泉…ビール…」とささやく声が聞こえてくる。
後半のスピードアップの甲斐あって、明るいうちに無事、宮城野の明神ヶ岳登山口(ハイキングコース入り口)へ下山。距離約13km、6時間半の縦走(ハイクチーム実績)。はじめて顔を合わせたメンバーもいるが、一緒に山を歩けばもうすっかり同志だ。
宿につくと、2時間近く前に到着していたトレランチームがすでにリラックスモードで宴を開始していた。走るのが速い人たちは飲むのも早い。
ランナー×ハイカー 共存に向けたディスカッション
初日の宿は源泉かけ流し温泉付きのゲストハウス、HAKONETENT。1階のバーではおいしいお酒に、食事メニューも豪華。スタッフの対応も温かくとにかく居心地が良い。
温泉で身体を温めお腹も膨れたところで、ディスカッションへとうつる。テーマは「トレイルランナ—とハイカーの共存」「箱根外輪山の魅力を伝える為には」。進行は大内さん。
初対面同士だと緊張してなかなか意見が言えないものだったりするが、大内さんの絶妙な声かけで、メンバー一人ひとりが自然と口を開く。
「ハイカーを追い抜く際、相手が気付きやすいよう熊鈴をつけたら良いのでは」「レースの情報をもっとわかりやすく広報してくれるといいよね」「箱根外輪山のスタンプラリーが面白いのでは?」など、様々な意見が交わされていく。
ディスカッションの内容は、グラフィックレコーダーの中尾仁士さんがわかりやすく、親しみやすいイラスト付きでまとめてくれる。
グラフィックレコーディングの全体像。圧巻!
装備も持ち物も、必要な体力も違うトレイルランとハイク。正直なところ、「共存」ということについて考えたことが無かった。考える「機会」が無かった、という方が正しいかもしれない。実際は決して相容れないものでも相反するものでない。両者とも「山」というフィールドが好きで、全力で楽しんでいるという点では何ら変わらない。
あえて言い切ってしまえば、山は分断が起こりやすい場所でもある。一歩間違えれば命の危険があり、皆が真剣に向き合う。だからこそ意見の食い違いや衝突も起きる。そして、多くの人は未経験のこと、未知なことにどこか距離を置いてしまうものだ。
今回のような機会がもっとあれば必要以上に距離が生まれるということもないのかもしれない。小さな一歩かもしれないけれど、お互いが歩み寄ることによって想定すらしていなかった新しいものが生まれたり、良い化学反応が起きるという事はあり得る。そんな可能性を感じられる、とても良い夜だった。
山を守るための活動を知る、トレイルワーク
2日目も快晴。箱根の冬は寒いはずなのだが、前日に続き小春日和。チェーンスパイクや厚手のダウンを用意していたけれど、置いていこう。
宿を出て昨日下山した明神ヶ岳ハイキングコースの登山口へ向かう。20分程だろうか、道すがらトレランチームのメンバーに身体のメンテナンスや体力維持のコツなどを聞いてみる。本人は全くその気は無さそうだけれどかなりストイック…。気持ちだけでも見習いたい。
現地に着くと、トレイルワークの先生、箱根ビジターセンターの加藤さんが元気いっぱいに迎えてくれた。富士箱根伊豆国立公園の環境整備や保全活動を行っており、箱根の山にも精通している自然のプロフェッショナルだ。
登山道の現状やトレイルワークの流れについてレクチャーを受ける
普段何気なく歩いている登山道。そのほとんどは自治体であったりボランティアであったり、山を想う人たちの手によって整備されている。予算は限られているし、時間も体力も消耗する。そのうえ大雨に見舞われれば雨水や土砂が登山道に流れ込み、荒れた状態に戻ってしまう。登山道の補修作業はこの繰り返しだ。
登山者の安全だけでなく、自然を守る・傷つけないことにも最大限の配慮が必要。不要なものは極力持ち込まないよう、補修に使われる資材はなるべく天然のものを使う。今日はいつもの快適なザックのかわりに、木材、スコップ、ハンマー等を歩荷スタイルで背負う。
落ち葉や土砂のかきだし、土嚢の設置、階段の設置・補修など作業は多岐に渡る。中にはむき出しになった塩ビ管(塩化ビニル管)を埋める、といったものも。登山道の下を通る近隣別荘地の排水管がその正体だ。大変滑りやすく危険なため、土をかぶせ木版を設置するのだという。今回のトレイルワークでは、それらの作業を区間ごと、3グループに分かれて行う。
補修が必要な箇所は予めチェックされ、歩道管理No.を基準に担当区間を分けて行う
ボランティア用ビブス(ユニフォーム)を身につけ、いざ登山道へ。レクチャーを受けた後だと、少し違った目線で見るようになり荒れ具合がよくわかる。普段の山とは違った筋肉を使いながら、皆全力で作業に取り組む。加藤さんが各グループをまわってアドバイスしながら「うまいですね!順調ですね!」と声をかけてくれる。チームでやればハードな作業も楽しい。
あっという間に3時間程経過し、トレイルワークは終了。計画完遂に近いところまで作業を終えられたようだ。山歩きとはまた違った達成感に溢れ、皆充実した表情。
普段の山行中に登山道の整備について想像力を働かせることはなかなか難しいけれど、大切なことは道を守ってくれる方への敬意と感謝を忘れないこと。今回のような取り組みが山の道を守ることについて考えるひとつのきっかけとなれば、書き手としてはとても嬉しい。
ラグジュアリーなリゾートで箱根らしい体験を
2日目の宿は仙石原の北欧風リゾート、箱根リトリートföre(フォーレ)。箱根らしいラグジュアリーさはありながらも肩肘はらずに家族や友人とリラックスして過ごす“スモールギャザリング”(小さな集まり)を提案しているホテルだ。
箱根には国内でも有数の高級ホテルブランドが軒を連ねる。山帰りに宿泊するには少し敷居が高く感じるかもしれない。しかし「山を歩くこと」「ホテルを含めた町を楽しむこと」それぞれに魅力がつまっているこの地で、そこを切り離してしまうのはもったいない。
例えば1日は箱根の山をぐるりと一周することに使って、2日目は少し朝寝坊しながら温泉にゆっくり使ってのんびり街歩きをする。せっかく来たのだから、最大限楽しめるプランを考えたいもの。
この日は最後の夜らしくフルコースのディナーでお腹を満たし、満点の星空を見ながらの露天風呂。トレイルワークで酷使した身体はすっかりほぐれ、少しだけ夜更かしして、“スモールギャザリング”を楽しんだ。
全身をフル稼働させて、旅の終わりまで箱根を楽しみつくす
3日目はAM6:30に集合。1日目とは異なるコースで早朝からトレイルランニング。参加は任意だったが、トレランチームのメンバーは全員集合。さすがアクティブ!
出発地点の長尾峠から見える、朝焼けに光る富士山がなんと美しいこと。少しずつ昇っていく朝陽を眺めながら山を駆け抜けるのは気持ち良いだろうなあ、と想像しつつ、撮影隊の私はお先に車でホテルに戻る。
朝ごはんはリッチな洋食ビュッフェ。デザートまでお腹いっぱいいただく。少し休憩したら、この度最後のアクティビティであるヨガで身体を整える。3日間本当に良く身体を使ったので、最後はしっかりとストレッチ。
大きな窓が開放的なスペースで、身体を思い切り伸ばす。靴下を脱ぐと少し肌寒いけれど、身体を動かしているうちに体温が上がっていく。優しい指導ながらも少しずつハードなポーズも入ってきて、顔をゆがめるメンバーも…。1時間の体験が終わり、身も心もすっきり。全身をフルに使った3日間の整理運動。呼吸も深くなり、吸い込む空気がおいしい。
終わってみればあっという間の3日間。クロージングは少し名残おしい。箱根という場所に対しても、トレイルランとハイクの共存に関しても、新たな視野が開け可能性を感じられた充実の旅。今度箱根に来るときは外輪山の別の山を歩いてみようかな。いや、これを機にトレランに挑戦してみようか…。いずれにしても、富士山を眺めながらの温泉は欠かせない。遊び方は無限大のこの地に、次に訪れる日が楽しみだ。
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ライター
武石 綾子
静岡県御殿場市生まれ。一度きりの挑戦のつもりで富士山に登ったことから山にはまり込み、里山からアルプスまで季節を問わず足を運んでいる。コンサルティング会社等を経て2018年にフリーに。執筆やコミュニティ運営等の活動を通じて、各地の山・自然の中で過ごす余暇の提案や、地域の魅力を再発見する活動を行っている。
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