投稿日 2020.10.02 更新日 2020.10.14

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六甲山でも年間82件遭難。「人気の低山でも絶対に油断してはいけない」理由をレスキュー隊に聞いてみた

「密を避けて近場で登山を楽しもう」ということで、地元の低山によく登るようになったという方も多いのではないでしょうか。しかし、登山者も多くて標高が低い山だからといって、油断は禁物。いくら人気の低山とはいえども、毎年何件もの遭難事故が起こっているのです。今回は近畿地方でも随一の人気を誇る、兵庫県神戸市・六甲山での遭難事故について、神戸市消防局の山岳救助チームの方にお話を伺いました。六甲山の実例を交えながら、低山登山の際に注意するべきポイントについて解説します。

目次

六甲山は関西で最も人気の高い低山。絶景スポット、紅葉、観光…

古くから港町として栄えてきたイメージが強い神戸市ですが、街の北〜西側一帯を六甲山に囲まれているため、都会のすぐそばで海と山を同時に楽しむことのできる自然豊かな街でもあります。六甲山は神戸市民の憩いの場として多くの人に愛され、たくさんの施設が整備されてきました。展望台やロープウェイだけでなく、植物園や牧場、美術館に温泉など、登山をしない方でも楽しめる観光地として親しまれています。

もちろん多くの登山者が訪れる場所でもあり、六甲山には無数の登山口・コースが整備されています。「六甲全山縦走」と呼ばれる全長56kmの道のりを踏破する大会が実施されていたり、健康のために毎日どこかしらに登る「毎日登山」という習慣も根付いていたりと、登山文化という側面でもかなり発達している山域です。

11月になると、辺り一面に広がる紅葉も楽しめる

六甲山は、YAMAPの中で登られている山の数でも、じつは毎年1位につけています。たとえば2019年1〜12月の間に作成された活動日記の数を見てみると、YAMAPユーザーのみなさんがYAMAPを使って登った回数だけでも、55,000回を超えていることが分かります。

そんな六甲山ですが、実は毎年50件以上の山岳遭難が起こっています。それほど標高も高くなく誰でも登れるような山で、なぜ遭難事故が起こるのでしょうか。また、六甲山をはじめ低山に登るときに注意するべきポイントはなんでしょうか。六甲山の山域で山岳遭難のレスキュー活動にあたっている、神戸市消防局・北消防署の方にお話を伺いました。

神戸市消防局 北消防署 特別救助隊のお二人(左から岩倉徹さん、田中裕樹さん)

六甲山での遭難原因1位は?実際に遭難事故が起きたポイントを写真で解説

―まず、六甲山で起こっている山岳遭難の統計について簡単に教えてください。

2019年度の六甲山では、82件の山岳遭難事故が発生し、93名の方を救助しました。内訳としては道迷いが32件と最も多く、全体の39%を占めています。また60歳以上の年配の方が43名と、こちらも高い割合となりました。

―警察庁が毎年発表している統計でも、道迷いを原因とする遭難は全体の約40%と高い割合を示しており、それとほぼ同じ数字ですね。道迷い遭難が発生する原因には、どのようなものがありますか。

よくあるのは、GPS機器や地図+コンパスを持っていない、持っていたとしても使い方が分からない、といったケースですね。そういった方たちは道案内の看板を頼りに歩いていることが多く、看板と看板の間で間違った道に入ってしまうと、正しいルートに復帰できないことが多々あります。また、年配の方などは、GPSアプリの使い方が分からないということもあるようです。

もうひとつ多いのが、詳細な登山計画を立てていないケースです。どこを何時に通るか・何時に下山するかといった計画を立てていないと、想定よりも時間がかかって日が暮れてしまい、道が分からなくなって迷うことがあります。そしてヘッドライトなどを持っていないと、スマホのライトで下山しようとしてバッテリーが切れかけてしまい、仕方なく通報した…というケースがあとを絶ちません。たとえば北側の有馬温泉から三宮市街へ抜ける人気ルートを歩こうとしている場合でも、全体の行程としてはそれなりに時間がかかります。低山だからといって気軽に、そして大雑把に登ってしまうと、道に迷って遭難してしまうことがあります。

逆に言えば、GPS機器や地図を持っていて自分の現在地を正確に把握できること、詳細な登山計画を立てていること、この2つが揃っていて道迷いが原因で遭難してしまうケースはまだ見たことがありません。

道迷いポイント:登山道が急に曲がっている場所

―現在地の確認ができていると迷いにくくはなりますが、それだけではなくどんな低山でも油断せずに計画をきちんと立てておくことが大切ですね。では、実際に六甲山での遭難事故はどんな場所で発生しているのでしょうか。

最も多い場所のひとつは、摩耶山へ登る山寺尾根周辺です。登山口から尾根筋を登り、人気の夜景スポット・掬星台や摩耶山山頂へ向かうルートとなっています。特に多いのは、下山時の道迷いですね。下りの際は、掬星台から下りたらふたつのピーク・コルを越えて南側に向かって尾根を下っていくのですが、たとえばふたつめのピークから南側に折れて進むべきところをまっすぐ進み、北側にある別の尾根を下ってしまうケースがあります。カクっと90°曲がっているようなルートだと、下山時には気付かずまっすぐ進んでしまうことがよくあるんですよね。

黒線が通常の登山道、赤線がマイナールート・迷いやすい尾根道。以降の写真は画像内の番号と向きに対応

間違ったルート側から分岐点を見た写真。別尾根にもしっかり踏み跡があるため、気をつけていないとこちらに迷い込んでしまう

道迷いポイント:紛らわしい踏み跡

また、掬星台から下ってきたところのすぐ南側に尾根や踏み跡があり、そこが正規ルートだと勘違いしてそのまま進んでしまう人も多く見受けられます。そのまま進むと摩耶東谷という沢沿いに出るのですが、こちらは旧ルートのため整備されておらず、初心者には危険といえるルートのひとつです。

ここもマイナールート側に折れて進んでしまう

間違ったルートはいかにも道のように見えるが、そのまま進むと急に難易度の高い箇所に遭遇する

―この南側に折れている部分ですね。なるほど、確かにここは分かりづらい…!明るい時間帯ならともかく、暗いと余計に道を見落としてしまいそうになりますね。

そうなんです。この場所の場合、夜になると神戸市の夜景が南側に見えてくるんです。下山が遅くなりあたりが暗くなると、焦って明かりのある方を目指しがちになるので、早く下りたいがためにここで曲がってしまい、旧ルートに迷い込んでしまいます。そのまま下って沢あたりに出ると、さっきまで見えていた神戸の夜景が急に見えなくなり真っ暗になります。そのままスマホのライト頼りになり、バッテリー切れで動けなくなって下山する、というパターンもありました。

―私でも暗くなったときに現在地が分からないと、明かりを目指してしまうと思います。あまり考えずにまっすぐ進んで道を間違えた、というのも多くの人が経験していそうですね。

道迷いポイント:等高線の広い場所、尾根から逸れる場所

山寺尾根は他にも迷いやすい場所があります。登りはじめの部分で北側の沢筋に入ってしまったり、南側にある別の尾根を登って虹駅へ向かう斜面を登ってしまっているケースです。人気ルートとはいえ、意外と遭難しやすい箇所も多いので気をつけて歩いてくださいね。

しっかりとした踏み跡がないと、こういった広い場所で間違った方向に進むことも

ずっと尾根の上を進んできたからとそのまま左側の道へ行くと、正規の登山道とは別の場所に出てしまう

―ありがとうございます。その他に遭難しやすい場所などはありますでしょうか?

道迷いではないのですが、芦屋地獄谷や大月地獄谷と呼ばれる谷のルートは、転倒・転落事故がとても多い場所のひとつです。沢のそばがぬかるんでいたり、石・岩など足場が不安定な場所を歩くことが多く、踏み外して転落してしまう事故が頻発しています。もちろん道迷いが発生しないというわけではなく、沢を渡ったときに正規ルートを見失うなどといったケースも頻発しています。このふたつは難しいルートですが、沢沿い・谷沿いのルート全般に言えることなので、そういった道を歩く際はじゅうぶんに注意してください。

低山での遭難はどうやって防ぐ?必ず準備するもの3つと、もし道に迷ってしまったときの対処法

上から望む山寺尾根。これだけ街が近くに見えていても、一歩間違うと遭難してしまう

―お話を伺っていると、低山での遭難は3000m級の高山で起こる遭難とは質が違いそうですね。

そうですね。低山ならではの遭難としては、例えば電力会社さんの鉄塔がある場所や、周辺の生活道などに間違って入ってしまうことなどが挙げられます。また、林業の方がつけているピンクテープなどを目印に歩き、道に迷ってしまうことも。これは高山ではなかなか見られない事象ですね。

そしてもっとも大きな違いは、低山ならではのハードルの低さです。3000m級の高い山に登ろうとしている方は、それなりに道具を買い揃え、紙の地図も購入して、入念な下調べののちに行程の計画を立てることが多いでしょう。しかし、低山の場合は大丈夫だろうと気が緩んでしまい、登山計画を立てずに登ってしまうケースが多々見受けられます。低山だろうと油断せずに、装備や計画などしっかり準備をしてください。

―冒頭にもお話があった通り、計画を立てることの重要性がここでも出てきましたね。気の緩みとは少し異なりますが、先程のお話の中で「焦って下山しようとすると道を間違える」といったことが出てきました。登山のときは気持ちというか、心理的な理由で生死を分けることがありそうですね。

はい、特に道迷い遭難は心理的なものが原因であると言われています。道迷い遭難者の心理状況として、特に多いのが以下のものです。

  1. 急いで下山していると、登りとは道の見え方が全く異なり、登りのときには気付かなかった分かれ道に入ってしまうことがある。
  2. 下山時は特にせっかちになりやすい。
  3. 歩いて下に向かっていれば、いつかふもとの街に辿り着けるだろう。
  4. 道に迷うと焦ってしまい、来た道を戻るという選択肢が頭に浮かばない。
  5. 登り返すより下るほうが楽だろうという考えになり、つい下ってしまう。
  6. それなりに登山の経験がある人は、プライドが高く道を間違えたことを認められず、戻れなくなってしまう。

 

―ああ、1番は未だに私もやってしまいますね…。そして4番も経験があります。今でこそ道に迷うと冷静に登り返すという判断ができるようになりましたが、登山を始めたばかりのころは登り返すのが辛くて、そのまま突き進んでしまったことがありました。結果的に下山できたのでよかったのですが、どれだけ危険な行為をしていたのか、後から深く反省しました。

1番は特に多いケースです。登りは尾根を目指すだけなのであまり深く考えませんが、下山時は道が末広がりになっており、尾根や沢など一見すると道のように見える箇所が目の前にたくさん現れます。よく注意していないと見落としてしまいがちですね。

―こういった低山に特に多い道迷い遭難を防ぐには、どうすればよいでしょうか。

具体的な方法は3つあります。

まずは、自分の位置情報を把握する術を、何かしらの手段で確実に身に着けておいてください。YAMAPなどのGPSアプリを使用すること、GPS機器を持つこと、地図とコンパスで読図をすることです。現在地を知ることができなければ、自分が道に迷っていることに気付きすらしません。これはみなさん徹底してください。

次に、それに対する予備の手段や備えを持っておいてください。たとえばGPSアプリやGPS機器を使用する場合、スマートフォンの予備バッテリーを持っておくこと。地図やコンパスを使用する場合でも、念のためにスマートフォンにGPSアプリを入れておくなどしておきましょう。特に予備バッテリーは重要です。遭難したときはスマートフォンのバッテリーが生命線になることがあります。

最後に、登山計画をしっかりと立てることです。入念に自分が歩く予定のコースについて下調べをした上で、どの道を何時間かけて歩き、何時にどこに下山するか、といった計画を立ててください。

YAMAPアプリを使って、こまめに自分の現在地を把握。ルートから外れていたら引き返す

―冒頭でもお話がありましたが、これらを守っている方が道迷い遭難をしてしまうケースはほぼないそうです。初心者・ベテラン問わず、必ず守ってくださいね。

転倒・転落や滑落による遭難事故は、防ごうとしても様々な条件によって起こってしまうものです。ですが、道迷い遭難は防ぐことができます。「高い山でしか遭難しない」という潜在的な意識を持っている方も非常に多くいらっしゃいますが、実際に六甲山のような低山でも遭難事故は起きています。しっかりと準備してください。

―ありがとうございます。それでももし、万が一道に迷ってしまったときは、どのような行動を取るのがベストでしょうか。

ひとまず見えている尾根を目指して歩いてください。下山中であれば、歩いてきた道を分かる場所まで戻ってください。そのまま進めば下山できそうに見えていても、そうでない場合に取り返しのつかないことになるかもしれません。「このまま何とかなりそうだ」という考えは捨てた方がいいでしょう。

…とは言っても、山に慣れている方ならともかく、初心者・中級者の方が即座に正しい行動を取れるかと言われると、なかなか難しいんですよね。なので、とにかくGPSアプリなどを持つようにしてください。

―自分の現在地を知ることが道迷い遭難を防ぐ最初の一歩、ですね。では、道迷いに限らず、もし遭難してしまったときはどうすればよいでしょうか。

まずは携帯電話のバッテリー消耗を抑えるよう心がけましょう。機内モードオン、画面を暗くする、起動しているアプリの終了、プッシュ通知オフ、バックグラウンド操作の停止、アプリの自動更新オフ、省データモードオンなど、できることはたくさんあります。通報のため、ネットで調べ物をするため、暗いときにライトを使うためなど、携帯電話が生命線になることがあるので、まずはこれを行いましょう。

もし通報する際は、分かれば緯度・経度も一緒に教えてください。GPSアプリやその他の地図アプリなどで確認できます。警察に電話で通報すればそれだけで位置情報を特定できることもあるのですが、電話をもとにした位置情報は誤差が大きく、正確な位置情報を把握できていないケースが多々あります。もし道に迷って電話で通報ができたとしても、正確な位置情報は伝わっていない、と思って行動した方が賢明です。

YAMAPアプリで活動中の画面に緯度・経度を表示している図

捜索隊に自分の位置を知らせるために、笛などを持っておくのも有効です。もし動くだけの元気があれば、上から見つけてもらいやすいように開けた場所まで出てもよいでしょう。

あとは、ヘッドライトを必ず持っておいてください。下山中に道に迷ってあたりが暗くなってしまう可能性は常に想定しておいたほうがよいでしょう。登山には必須の道具です。

―どうもありがとうございます、もし遭難してしまっても、考えることはたくさんありますね…。
最後に、六甲山を愛するみなさんと、全国の登山者のみなさんへメッセージをいただけますでしょうか。

岩倉さん:これからは秋の行楽シーズン、紅葉も始まって各地で景色のきれいな山に登る方も増えると思います。ですが、山岳遭難は低い山でも確実に起こっています。もちろん、遭難したくてしている人なんてひとりもいません。無事に下山するためにも、アプリやGPSで自分の位置情報を確認できるようにした上で、紅葉の季節を楽しんでくださいね。

田中さん:僕たち救助隊も、山岳救助に関する研究や訓練・準備は常日頃から行っています。登山者のみなさん、もし万が一の事態に陥ってしまっても、まずは無理に行動せずにいったん心を落ち着かせてください。そして、絶対に諦めずに僕たちの救助を待っていてください。その間に僕たちがみなさんを探して見つけ出し、必ず救助します。

低山だからといって油断せず、YAMAPをフル活用して安全登山を

YAMAPの登山計画機能。10月上旬に大幅アップデートを予定しており、利便性が格段に向上する

低山の遭難を防ぐために必要なことのうち、「現在地の確認」「登山計画の作成」は、YAMAPアプリを使うことでクリアできます。登山地図を見て常に現在地を確認しながら歩くことはもちろん、登山計画もYAMAPの地図を見ながら作ってしまうことをおすすめします。

レスキュー費用を補償する「YAMAP登山保険」

YAMAP登山保険のプラン一覧。豊富なプランと1日単位から加入できる手軽さが魅力

また、万が一に備えて加入しておくと安心なのが、遭難救助費用を補償してくれる登山保険です。「YAMAP登山保険」は、遭難救助やケガの補償・(不慮の事故による)道具の破損や故障に対応するものなど、登山者のためにつくった保険。低山・高山問わず、不慮の事故をカバーします。

面倒な手続きも必要なく、スマホでかんたんに申し込めて、翌日から適用される手軽さも魅力です。そして1年プランに加入すると、1日あたり約13円からととってもリーズナブル。低山・高山問わず、頻繁に山に行く方にはおすすめの登山保険です。

YAMAPは、登山者の命に寄り添うインフラサービスとなるべく、日夜さまざまな機能を開発しています。GPSでの現在地確認や登山計画機能、そして登山保険を有効に活用して、これからも安全に登山を楽しんでくださいね。

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