投稿日 2022.12.06 更新日 2023.05.23

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38年ぶりに噴火した「世界最大の山」も掲載|鈴木ともこさんに聞く、新刊『山とハワイ』の世界

YAMAPユーザーの中には、コミックエッセイ『山登りはじめました』(KADOKAWA)がきっかけで山を始めた方も多いのではないでしょうか? それまでまったく登山経験のなかった著者の鈴木ともこさんが、山の魅力を知ってさまざまな山に登った体験を描いた本作は、シリーズ累計15万部を超える大ヒットとなりました。今年、その鈴木ともこさんが「世界最大(!)のハワイの山」に登り、旅して感じたことをまとめた待望の新作『山とハワイ』が新潮社から発売されたとのこと。山好きにはたまらない世界が描かれているのでは…ということで、さっそくお話をうかがいました。

目次

ハワイにある「世界最大の山」、知っていますか?


ー『山登りはじめました』シリーズで知られる鈴木ともこさんの新刊のテーマが、なぜ「ハワイ」なのでしょうか?

私はもともと、ハワイにはあまり興味がありませんでした。「海とショッピングとお正月の芸能人」くらいしか思い浮かばず、言葉は悪いですが「浮かれた観光地」という印象だったんです。でも『山登りはじめました』の次の作品について考えているとき、ハワイが実はとてつもない「山の島」だと知ったんです。

有名なのは、世界で一番活発な火山と言われる「キラウエア火山」(1,247m)ですが、それだけではありませんでした。実は世界で一番高い山と二番目に高い山がハワイにあるんです。どちらも標高は4,200m程度ですが、海底から海面まで5,000m以上そそり立っていることを含めると、合計9,000m以上の高さがあります。まったく知らなかった衝撃的な事実でした。しかも、そのひとつ「マウナ・ロア火山」(4,169m)は体積が世界一で、富士山50個分以上もある「世界最大の山」でもあるんです。

また、カウアイ島の「カララウ渓谷」は、もともと「マウナ・ロア火山」のような山だったところが、500万年かけて雨などで侵食されて出来ました。神様が作った彫刻としか思えない美しい断崖が、壮大なスケールで広がっています。「カララウ大聖堂」とも呼ばれ、私は「世界一美しい断崖」だと思っています。テントを背負って片道8時間歩く必要がありますが、アメリカのハイカーのあこがれのトレイルなんです。

そんなふうに、とにかくスケールの大きな自然がたくさんあることを知って、「ハワイに行ってみたい」と強く思いました。そして、自分の足で歩いて、目で見て、それをお伝えしたいと思ったのがハワイをテーマにした理由なんです。

大きくて脆くて変化し続けて…。まるで生き物のようなハワイの山と自然

ー『山とハワイ』を読んで、これまで想像していたよりはるかに「ハワイって自然豊か」と感じました。ハワイの山や自然の特徴はどんなところにあるのでしょうか?

日本で一般的にイメージする「ハワイ」は、おそらくホノルルなどキラキラした場所だと思います。でも実際に行ってみたらそれはごくごく一部で、ほんとうは大自然に抱かれた奥深い場所だということがよく分かりました。

ハワイの島々はもともと火山島なんです。しかも溶岩の噴出量がとてつもなく多いので、とにかく「スケールが大きいこと」が特徴です。トレイルも、とても長くて、山登りという感覚よりも、まるでどこか別の惑星にいるようでした。

もうひとつの特徴は急激に成長したので「脆いこと」です。例えば40万年前に海の上に顔を出した「マウナ・ロア火山」はまだまだ新しいので、山肌に大きなひび割れがあったり落とし穴のような空洞ができていてスカスカだったりします。いっぽう、510万年前にできたカウアイ島の古い火山は長い年月で雨風に削られていて、その削られ方に神々しい芸術性が宿っているんです。色も酸化して、赤くなっています。

日本の山は、変わらずにどっしりと存在する印象ですが、ハワイの山は大きくて脆くて変化し続けて、まるで生き物のようだと感じました。

それと、ハワイは登山者も面白かったですね。日本の山では見かけない、なんだか「怪しい人たち」と多くすれ違いました。例えばビキニや半裸でハイキングをしていたり、水がないから水が欲しいと言ってきたり、勝手に山に住み着いてる人までいたりして、びっくりしました。また、すれ違うときの挨拶で「Enjoy」と言ってくれる方が多かったのですが、それがとっても素敵でした。

ー作品を読んでみて、ハワイの山って日本の山とずいぶん違うなと思ったのですが、それを漫画で表現する難しさはありましたか?

難しかったのは「色彩」です。『山登りはじめました』でも、屋久島の緑の豊富さに苦労したんですが、ハワイは特に溶岩を表すための「黒」の種類が多くて大変でした。つやつや光っていたり、鈍い色だったりと複雑なんです。しかも、気をつけないと漫画のコマが真っ黒になってしまうので、その点からも苦労しました。

また、溶岩に限らずですが、資料用に撮った写真を見ても、自分が記憶してきた色と違うことが多いんです。『山とハワイ』はオールカラーなので、実際に見て記憶してきた色彩を再現するまでが大変でした。

ハワイは私にとってとにかく強烈な体験だったので、知らないものを知る喜び、想像を超えるような驚きを、漫画でも体感してもらうことを目指しました。「ハワイの山に登ったことのない方」に、どうすればリアリティーを感じてもらえるのかについては、いろいろ工夫したつもりなので、読者の方の反応が恐くもあり楽しみでもありますね。

ー作中ではハワイ在住の個性的なガイドさんが登場しましたが、ガイドツアーの醍醐味を教えて下さい

今回、ふたりのガイドさんに案内してもらったのですが、それぞれのキャラクターがほんとうに濃くて、登場人物として漫画に描くときにとても助かりました(笑)。ふたりとも、人を楽しませたいという気持ちに溢れている上に、ハワイ愛も強くて、一緒に歩く楽しさがすごくアップしました。お願いしたのは、本来はガイドなしでも大丈夫なルートだったんですが、ガイドさんがいたほうがより心に余裕を持って楽しめると思います。

ー鈴木さんの作品には美味しそうな食事やおやつがいつも登場します。この作品でもハワイのグルメが紹介されていましたが特に印象に残っているものはありますか?

「ポケ丼」が印象的でした。ごはんの上に味付けしたマグロやタコなど魚介の切り身をのせて食べるのですが、これがハワイの気候に合う味付けで、海鮮丼ともまた違う独特の美味しさがありました。具材の種類もすごく多くて、自分の好みの組み合わせを選ぶスタイルです。そこにはハワイの複雑なルーツと自由を大切にする文化が表れているようにも感じました。「ポケ丼」はもともとハワイの「ポケ」という料理ですが、日系人が進化させて丼物にしたので、具材に「イイダコ」など日本語がそのまま使われているのも面白かったです。

ー作品を通して、ハワイの歴史や地質を学べる漫画だと思ったのですが、描く上で大変だったことってありますか? 個人的には「火山の女神ペレ」が印象的でハワイの成り立ちを理解する助けになりました。

調べる作業は、ほんとうに大変でした。ハワイの神話や地質などは日本の文献だけでは分からないこともあって現地から何冊もの本を取り寄せて、漫画を描きながら同時に英語の文献にも当たる作業もしていたんです。

今回の旅や作品を通じて、私自身が、知らなかったことを知ることができてとても楽しかったですね。でも、その事実をただ記載するんじゃなくて、例えば「火山の女神ペレ」を「ハーバード白熱教室」風に描いたりと、読む方の興味に応えられるように工夫したつもりです。

ハワイが歩んで来た歴史も、けっして「楽園」というイメージに収まらない重いものがあります。途中、ワイピオという渓谷でハワイアンの方の怒りに触れるシーンに立ち会ったんですが、それはハワイが歩んだ悲しい歴史に対する怒りだったんです。これを目の当たりにした私は、単なる登山者や観光客で終わるのではなく、しっかりと歴史や文化に向き合わなくてはいけないと思いました。

でも、それこそが旅の醍醐味だと思うんです。出発前の目的を果たすだけよりも、想像を超える刺激をもらって帰ってくる。そして、その後の人生に活かしていく。日本の山旅でもそういう経験はありますが、ハワイの山にもやっぱりあったんです。

気になる次回作のテーマは?

ー鈴木さんの次回作を期待している読者も多いと思います。次の作品のテーマは決まっているのでしょうか?

まだ、漠然となんですが、日本の山を描きたいと思っています。特に福島や熊本、あるいは御嶽山のような大きな災害のあったエリアの山をもっと知りたいと思いますし、その魅力を紹介して応援できたらと考えています。また、日本は火山大国なので、火山の恩恵と魅力を伝えたいし、知ってほしいという思いもあります。

もっと言えば、私たちの暮らす街と自然が、切り離された別の世界ではなく続いているんだよ、ということを楽しみながら感じていただける作品が作れたらうれしいです。

ー最後にYAMAPユーザーさんに伝えたいメッセージがあれば教えて下さい。

「ハワイなんて観光地ってしょ」って思っている読者の方も多いと思います。でもこの作品を読んでいただければ、ハワイのイメージがひっくり返るはずです。「ハワイに行きましょう」と誘うものではなく、行かなくてもいいので、こんな世界があるんだということをお伝えしたいと思って、心を込めて描きました。

上下巻と長いのですが、それは最終的にお伝えしたいことも結構真剣な内容だからです。上巻だけではそれをお伝えできないので、ぜひ下巻まで通しで読んでいただければと思います。本の中で一緒に旅をした感覚になって、きっと何かを感じていただけると思います。

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