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望遠鏡? カメラ? スマホでは味わえない「観ながら撮れる」 新しい感動体験を
山で写真を撮る時はいつも「スマホ」。しっかりとしたカメラは、難しそうだし…。そんな人にこそ試して欲しい「撮れる、望遠鏡」があのキヤノンから発売されています。その名も「PowerShot ZOOM」。YAMAP MAGAZINEの取材でも活躍しているフリーカメラマンの西條聡さんにフィールドで試してもらいました。
目次
山のカメラはスマホだけでじゅうぶん?
皆さん、山にはどんなカメラを持って行きますか?
コンパクトデジタルカメラ、本格的な一眼レフカメラ、そしてスマートフォン(以下スマホ)、それぞれの登山スタイルによって持っていくカメラは色々。中でもYAMAPユーザーならスマホを持っていく人が圧倒的に多いのではないでしょうか?
そんなスマホのカメラの進化は著しく、最新のスマホだとレンズが2、3個装備されており、撮影できる範囲が何種類も選べるものもあります。
例として私の使っているiPhone12miniではレンズが2つ装備されており広角と標準を切り替えて撮影できます。また、画面をピンチアウト(2本の指で広げる操作)すれば望遠まで撮影できます。画面を拡大しているだけなので画質は落ちますが。
参考に下の写真をみてもらえればイメージがつきやすいと思います。
私はカメラマンという職業柄、一眼レフカメラを持っていきますが、スナップショットならスマホで撮ることもあります。撮った写真を仲間と共有するのも簡単です。軽くて地図情報も見れて写真も撮れるスマホ。でも、遠くの野生生物や山並みを撮影する際には望遠性能に物足りなさを感じてしまう方も多いのではないでしょうか?
実は、そんな望遠撮影を楽しめる小さなカメラがあるのです。
「撮れる、望遠鏡」PowerShot ZOOMとは?
そのカメラは、キヤノンの「PowerShot ZOOM」。
謳い文句が「撮れる、望遠鏡」。
なんと手のひらサイズのコンパクトなサイズながら、スマホで撮れる風景や実際に目で見ている風景よりさらに遠くの風景を大きく見れる、撮れるんです。
そう、遠くのものを見るための望遠鏡とカメラ機能を融合させた「望遠に特化したカメラ」なんです!
焦点距離で表記すると100mm〜800mm!
私の持っている一眼レフカメラで同じような遠くのものを撮るためのレンズをつけると、その重量は2kg超えなんてことも。しかし、PowerShot ZOOMの重量はなんと「145g」!
私がいつも登山で持っていく10秒でチャージできるゼリー状飲料より軽い! このカメラがいかに軽いか分かりますね。
焦点距離が100mmから800mmと書きましたが、詳しく説明すると、100mmか400mmか800mmを切り替えて撮るという設計です。つまりズームの設定は3段階の切り替えということ。
200mmや300mmなど中間の焦点距離では撮れません。なのでカメラのズームレンズとは使い勝手が少し違います。800mmはデジタルズームと言って400mmの焦点距離を拡大して見ているという状態なので、画質は少し落ちます。
100mmとか400mmとか数字で言っても分かりにくいと思うので、この後のフィールドテストでの写真で分かりやすく撮り比べて紹介しましょう。
また、「カメラに望遠鏡?」と不思議に思った人もいると思うので、単純に遠くのものを拡大できるというだけではなく、風景を切り取るという使い方も解説します。
開発コンセプトは、「望遠の世界をもっと身近に!」。スマホの利用がメインで普段カメラに親しんでいない方にも望遠の魅力を知ってほしいという想いが込められています。
そんな望遠域に特化したカメラを持って山に行くとどんな画が撮れるのでしょうか?
白馬八方尾根でのフィールドテスト
今回PowerShot ZOOMのフィールドテストで向かったのは、標高2,060mにある国内屈指の絶景スポット、北アルプス・白馬八方池。道も整備されていて登りやすく、ゴンドラとリフトを乗り継いで標高を上げられるので、登山初心者でも挑戦しやすいアルプスの展望台です。
私の撮影機材は、PowerShot ZOOMとスマホのみという超軽量仕様。ちなみに作例写真は全て編集もトリミングもしていない「撮って出し」です。
携帯性に優れているので、登山中、気になる風景があるとすぐに撮れます。しかも重量は「145g」なのでストレスもありません。
ゴンドラやリフトに乗ると一気に景色が変わるので撮りたくなりますよね。手軽に遠くを見られるので覗いてるだけでも楽しいです。ただ、乗り物酔いする人はリフト乗車中は覗かない方が良いかもしれませんね。
最初にPowerShot ZOOMを覗いたとき、片手なので「カメラを覗いている」というより、このカメラの謳い文句にもある「望遠鏡を覗いている」ような感覚を覚えました。
この日は快晴とはいかず曇ったり晴れたりを繰り返す不安定な天候。でもそのおかげで様々な山の様子を見ることができました。
稜線に出て北アルプスの山々が見えてきたところで、さっそく撮影。
白馬三山は100mmでギリギリ入ります。ちなみに私は望遠で山を撮影するときはあまり空を入れずに写すことが多いんです。バランスが大事ですが、そのほうが山の迫力が伝わると思っています。
晴れてきて空も綺麗なのでもう少し広角で撮りたい場合はスマホの出番です。
私の使っているスマホの標準は26mmなので山と空を入れた写真を撮りたい時はスマホが良いですね。
そしてそんな撮影をしていると何か気になるものを発見!
100mmで撮影したこの写真の真ん中の下側に雪渓があるのですが、そのちょっと上に滝のようなものが! そこで次は400mmに切り替えて撮影してみました。
これが400mmの写真。ぐっと対象物に迫ったのがお分かりいただけると思います。
あ、やっぱり滝がある! さらに拡大してみましょう!
大きな滝で20m以上の大きさはありそうです。ここから日本海まで流れる水の源流です。
800mmならここまで拡大して撮影できるんです。これはスマホでは見つけることすらできなかったと思います。PowerShot ZOOMの本領発揮です!
登っていると人を入れて撮れそうな広い場所があったので山をバックに、望遠を活かした一枚を狙ってみました。圧縮効果で後ろの山を引き寄せた迫力のある写真です。
バックの山の高さにもよりますが5m〜10mぐらい離れたところから撮れば人を入れた山を切り取れます。
400mmは山肌を撮るのに適しています。
望遠を使って撮影をしたことがない人だと、おそらく撮ったことがない写真ではないでしょうか?
望遠で切り取ると山の険しさやパッと見ただけでは分からなかった色彩が見えてきます。例えばこれからこの山の稜線を歩く計画なら、こんな岩でゴツゴツしたところを登るんだ!ということが分かります。広角ではここまではっきりと山肌の立体感はでないし単純にカッコいい写真が撮れます!
山肌の一部を切り取る構図も試してみましょう。
ガスが出てきて稜線の木が幻想的だったので切り取ってみた1枚です。後ろにガスがないと見えなかった稜線の木々、奥に光が当たり手前が暗いのでシルエットっぽくなりました。
撮影を続けるうちに八方池に到着しました。八方池といえば水面の反射で撮るリフレクション写真! 池の反対側から狙ってみました。
天候が崩れて風もあり水面が波打ってしまい残念ながら全く水面に反射せず…。そこで池をほぼ入れず横構図も一枚。
縦と横を使い分けると同じ100mmでも色々構図を考えられますね。決められた焦点距離しかないと構図の良い勉強になります。
山だけでなく高山植物なども撮影してみました。季節的に花は少なかったですが紅葉が始まっていたりと色々撮影することができました。
100mmの時のピントが合う最小距離が1mと意外と近いので花も近距離で撮影できます。立ち入り禁止エリア内に咲いている花も、望遠を使えば登山道から観察できるし、大きく撮影することもできます。
八方尾根スキー場はゴンドラを降りたところからパラグライダーがよく飛んでいるのですが、スマホだとほぼ視認できないような写真もPowerShot ZOOMでは撮れました。
ずっと風待ちをしていて飛んでなかったのですが、振り返るとすでに飛び立っていて、急いで撮影。すぐに起動でき100mmから400mm、800mmとワンタッチで素早く切り替えられるので見失うことなく写すことができました。ただ、いきなり800mmで探そうとするとファインダーに被写体を入れるのがかなり難しいでしょう。
フィールドテストの最後は「視点共有機能」を紹介しましょう。自分が見ているものをスマホを通して他の人に共有できる機能です。
私が見ている対象がこのようにスマホに表示されます。視点共有機能を使えば希少動物を見つけた時など、自分だけでなく仲間も一緒に感動できることでしょう。スマホを見ている人が画面上でシャッターを押すこともできます。
なお、このカメラは持ちやすくデザインされている為、丸みを帯びており転がりやすいので、地面などにカメラを置いて撮影する場合、ザックなどを利用して転がらないように工夫しましょう。
PowerShot ZOOMのフィールドテストで分かったこと
PowerShot ZOOMを使っての撮影では、「決められた焦点距離で撮る」ので、結構頭を使います。でもそういったところも含めて楽しいカメラだと思いました。
普通カメラは何かを探すツールではなく、見えている風景をどう切り取るかなので、カメラを覗いて何かを探すということをあまりしません。しかし、PowerShot ZOOMは「覗いて、探して、撮影する」という全く新しい体験ができるので、ついつい何かないか探してしまいます。
また、鳥や動物を見つけた時、すぐに起動し撮影できる手軽さは、本当に素晴らしい。
今回の登山では動物には出会えませんでしたが、パラグライダーを撮影した時に見つけてから撮影までのスピードが実感できました。
片手でサッと持った時にすぐに押せる電源ボタンの位置とサイズ感、携帯中は電源がオフでも、慣れてくると覗く時には電源を入れられてすぐに撮影できるでしょう。
私の場合、カメラが基本ザックの中なので、あ! と思ってザック下ろして中からカメラ出して…とやっているうちに被写体は逃げてしまいます。画質は違えど撮れるか撮れないかは大きな差です。
そして一番感動したのが「手ぶれ補正」!
普通、400mmの望遠レンズを撮影しようとすると両手でホールドしないといけないですが、このカメラであれば、片手で扱うことが出来ます。
手持ちで撮影しようとするとかなりガッチリホールドしないとブレますが、片手なのにブレにくい、見たいところで止まってくれて見やすい!
これはキヤノンの双眼鏡の技術ですね。さすがです。
だからリフトに乗りながらも使えるし、足場の悪いところでも見やすい。これは言葉で説明するのは難しいので店頭で現物を手にして、ぜひ体感してほしいです!
あと、当たり前ですがさすがキヤノン、こんなに小さいのに画質も十分満足です。
撮った写真のプレビューがファインダー内なので、撮りながら画像の確認をすると良くわかりませんでしたが、スマホと連携してスマホ画面で見ると思ってた数倍綺麗に撮れてて驚きました! 撮影中はシャッター音もしないので本当に撮れているのか不安になるくらいでしたが。
そして山で実際に使ってみて、このカメラを使うのにおすすめな人は、まず「今まで撮影にスマホしか使っていなかった人」だと感じました。
スマホしか使っていなかった人は、このカメラを追加で山に持っていくことで撮影の世界が確実に広がり、いつもとは違う写真が撮れるでしょう。おそらく、今までより玄人志向の山岳写真が撮影できるはず。そして、鳥の鳴き声に反応するようになり、遠くの何かを撮りたくなる。
ただ、デメリットとしてはついつい覗いて撮りすぎてしまうので登山スピードが確実に落ちます(笑)
次に「普段、双眼鏡を持って登る人」にもオススメしたいですね。
双眼鏡で見ているものを撮ることは、今までになかったこと。見ながら記録できるというのは待ちに待った機能ではないでしょうか? 私も双眼鏡を使うことがありますが、覗いているこの瞬間を撮りたいと思ったことは多々あります。また双眼鏡だと、覗いている人が動物か何かを見つけても横で見ている人は全く見えないので、「視点共有機能」で見ているものを共有できるという点も面白いです。
最後は「望遠レンズを持って登るのが難しい人」にもオススメです。
山登りの場合は、どうしても他にも荷物があり出来るだけ軽い装備で行きたいですが、望遠レンズを持っていけない時でもこのカメラがあれば、遠くが撮影出来ます。どうしても望遠レンズを持っていきたいシチュエーションもあるかと思いますが、身軽さを優先したい時は、このカメラを持っていくことをおすすめします。
このカメラがあれば、 およそ2kgの軽量化に成功します。100mm、400mm、800mmというちょっと癖のある3段階という点と、大きなプリントアウトには向いていないと言う点が気にならなければ。
PowerShot ZOOMの山でオススメの使い方は?
楽しくてずっと覗いていたいPowerShot ZOOMですが軽量コンパクトなため、連続起動時間は約70分となっています。私のように登山中ずっと撮影し続けるなど、使い方によってはバッテリー容量はそれほど多くないと感じました。
そこで、開発コンセプトにもあるスマホで撮れないものを撮る! ということに重点を置いて使用することをお勧めします。
基本はスマホで撮影して、ここぞ! というときにこのカメラを使って撮影する。そうすれば日帰り登山ならバッテリーは持つでしょう。どうしても途中で充電したい場合は、USB-CのPower Delivery(PD)出力対応のモバイルバッテリーを使用すれば充電できます。
また、カメラ自体に保護カバーはないので、登山中はザックのバックルにつけて携帯するなど岩など硬い部分に当たらないように注意してください。持っていることを忘れるぐらい軽量ですが、そこは精密機器。ラフな扱いはせず普通のカメラと同じく慎重に扱ってくださいね。
スマホ程度の重さで遠くが見れる、撮れる、という新しいコンセプトのカメラ。
今までと一味違った写真を撮りたい人、新たな楽しさを見つけたい人は、ぜひこのPowerShot ZOOMを体験してみてください!
※ 夜間や暗いシーンでの撮影、天体観測では適していないシーンがあります。
※ 35mm判換算。100mmと400mm時は光学ズームによる切り替え。
800mm時はデジタルズームのため、画質が低下します。
※ 重さ145gにはメモリーカードを含みます。
※ 縦横検知はありません。
▼この記事でご紹介した「PowerShot ZOOM」についての感想などをぜひ教えてください。
取材・原稿・作例写真:西條聡
撮影:河野祥伍
協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社
アクションスポーツカメラマン
西條聡
雪山の過酷な環境から街中の人混みまで、どんなところでも撮影に行き、写真で人々を感動させる最高の一枚を追い求めている。アクションスポーツと星空を融合させた「エクストリーム星景写真」を得意とし、世界最大級のフォトコンテスト「Red Bull illume(レッドブルイリューム)」で複数回入賞。
insta : @satoshi.saijo
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