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越後湯沢「大峯百番観音」と「湯沢温泉」を巡る | 東京から約1時間の巡礼登山(2)
上越新幹線の越後湯沢駅から下りると目の前に山が見えます。名前は「大峯山(おおみねやま・1,172m )」。ここに昭和初期に作られた大峯百番観音という巡礼の登山道があることを知る人はあまり多くはないでしょう。でも、トレッキングを楽しみながら巡ると大きなご利益があると最近、登山者の注目をあつめているそう。山好きイラストレーターの神田めぐみさんが、百番観音を巡る登山ルポに出かけてくれました。今回はその後編をお送りします。
目次
おさらい | 越後湯沢の『大峯百番観音』とは
突然ですが、みなさんは『日本百番観音』をご存知ですか?
西国三十三ヶ所(近畿地方周辺)、秩父三十四ヶ所(埼玉県秩父地方)、坂東三十三ヶ所(関東地方)の霊場からなる日本百番観音は、昔から全てを巡礼すると大きなご利益があると言われてきた観音様の霊場です。
今回の旅の舞台である湯沢町の『大峯百番観音』は、日本百番観音を模して彫った100体の石仏が大峯山と秋葉山の山中に祀られており、トレッキングを楽しみながら、それらを巡ることで日本百番観音を巡礼するのと同じご利益が得られるとされている、ありがたい巡礼登山道なのです!
前回お届けした「前編」では、越後湯沢駅からスタートして、大峯山の南尾根に配された西国三十三番を模した三十三の石仏を巡る1日目のトレッキングの様子をお伝えしました。900年続く湯沢温泉の老舗旅館『高半』に宿泊して英気を養い、2日目は一気に秩父三十四番と坂東三十三番を巡ります!
→「越後湯沢「大峯百番観音」と「湯沢温泉」を巡る」:1日目の記事はこちら
2日目は、越後の山々を見渡す秩父三十四番からスタート!
朝食にツヤぴかの魚沼産コシヒカリをもりもり食べて、朝から元気いっぱいの取材陣。初日、下山に利用した湯沢温泉ロープウェイに乗って、今日はいきなり山頂駅からトレッキングをスタートします。 昨日1日、西国三十三番を案内してくれた『高半』の若旦那、高橋五輪夫さんはお仕事で来られないとのことなので、今日は越後湯沢温泉観光協会から若手のホープが案内人を買って出てくれました。
青木翼さんは、入社2年目の27歳。湯沢町の隣である南魚沼市出身で、山好きのお父さまの影響で高校時代は山岳部に所属していたそう。現在も新潟の山を中心に登山を楽しんでいる山好きの好青年です。
青木さん:「今日はよろしくお願いします。まずは大峯山の山頂を目指しましょう!」
大峯山山頂へは、スキー場を直登するか、車道歩きで斜面をトラバースしてから傾斜の緩い尾根道を登ります。私たちは、時間を惜しんで敢えてスキー場を直登。朝一番から汗だくで激しめのウォーミングアップ!
到着した山頂には、さっそく、秩父第一番と第二番の観音様が、清々しい朝の空気の中に並んでいました。
青木さん:「秩父三番観音の場所が分かりづらくて、大峯百番観音を整備しなおしたときも見つからずに苦労したんですよ」
三番は、ちょっと外れた草むらの中…。整備中になかなか見つけられなかったところを、散歩に来ていた地元のおじさんが「ここにあるよ」と教えてくれたのだそう。
さらに少し下った場所にある展望台の下に四番の観音さまを発見。なんだかトレッキングをしながら宝探しみたいにワクワクできるのも大峯百番観音の楽しみなのかもしれません。
展望台に登ってみると、越後の山々を見渡す絶景が広がっています。大源太山に茂倉山、遠くに越後三山も見える! 迫る山々の間に湯沢の町が細長く広がっていて、改めて山に囲まれた町であることを実感します。
展望台を降りた青木さんは、東京電力の無線中継所の柵の脇にするっと入っていきました。
「えっ! そこ入っていいんですか!?」
青木さん:「これがルートなんです。ほら、誘導テープも下げてあります」
ちょっとシュールなルート…ということで図解イラストを描きました。参考にしてみてくださいね。
小さな森の恵みを拾い食い? 明るいブナ林に心が躍る
ここから先は、ブナの森に囲まれた分かりやすい一本道の登山道を歩きます。
「これ、何だか分かりますか?」と振り向いた青木さんの手には、ピンポン球くらいの丸くて茶色い実がのっています。
「あ、クルミ!ですよね? じつは昨日、高橋さんに教えてもらいました〜」
私たちが知っているゴツゴツした硬い殻のクルミはこの実のなかに入っているんだと、昨日案内をしてくれた高橋さんから教えてもらったのでした。
青木さん:「うわぁ〜そうか〜! じゃあこの黒い枝の木は知ってますか?」
「クロモジですよね。それも昨日教えてもらいました〜」
青木さん:「うぅ…。まぁ僕も上司から教えてもらったんですけどね。じゃあ、ブナの実は食べましたか?脂肪分が多くて美味しいんですよ」
昨日拾ったブナの実は中身が空だったけど、今日は中に小さな白い実がしっかり詰まっています。青木さんの真似をしてひょいと口に放り込んでみると…美味しい! 渋味や苦味はまったくなくて、クルミやマツの実に似た香ばしい味。クマの大好物だそうですが、こんなに小さな実であの大きなお腹が膨れるのかしら。
気持ちのいい明るいブナ林を歩きながらも、ついつい意識は美味しいブナの実を探して足元に…いけないいけない。ひきつづき、観音さまをひとつひとつお参りしながら歩きます。人が多くて賑やかだった昨日のルートに比べると、誰ともすれ違わない静かなルート。のんびりした里山歩きに、心が穏やかになります。
なんて思っていたら、かなり急な下りがあったりするので気を抜いてはいけません。不安な方は、トレッキングポールを持って行くといいですよ!
四番から二十一番までの観音さまについての詳細は割愛しますが、いずれも美しい森の中に優しく佇んでおり、息を切らして登る私を励ましてくれたのでした。
秩父三十四観音の最後は、大峯山の東斜面にあるNASPAスキーガーデンを下ります。
点々と配置されていた二十二番から三十三番までの観音さまは、スキー場が作られた際に一箇所に並べられました。
いよいよラストの坂東三十三観音へ! コンプリートなるか!?
スキー場を下りきり、街並みを観察しながら10分ほど車道歩きをすると、坂東三十三観音がある秋葉山の登山口に到着。登山再開です!
秋葉山の標高は、大峰山の約半分の590m。低いだけに町をすぐ近くに見下ろせます。この山に点在しているのが、坂東三十三番観音像。昨日今日と巡ってきた、西国、秩父はなんとなく分かりますが、坂東とはどのあたりのことでしょう?
答えは「箱根の”坂”(足柄峠)より”東”の国」= 関東一円を指します。そして、坂東第一番は杉本寺。
「むむ! 杉本寺って鎌倉の杉本寺? 第四番も鎌倉の長谷寺のことを言っているのかな」
生まれも育ちも神奈川生まれのワタクシ、鎌倉はかなり歩き回って杉本寺も長谷寺も行ったことがあります。他にも知っているお寺がいくつかあることに気づいて、それだけでより楽しくなってきました!
いくつかの観音様に手を合わせながら、せっせと徒歩を進め、意気揚々と山頂に到着! 広々した山頂には秋葉山神社の祠があり、そのかたわらに十四番から十九番の石仏が並んでいます。
時計を見ると、もう14時。ひとつひとつ石仏を拝みながらだと、思った以上に時間がかかります。ちなみに、アドベンチャーレーサーの田中正人さんは、私たちが2日間使って歩いているこのルートをたった3時間で駆け抜けたそうな! さすがですが、早すぎて参考になりませぬ…。
時間はかかりつつも順調に進んでいた大峯百番観音巡りですが、ここにきて暗雲が。下山口付近まで来て、坂東第三十二番の観音さまが見当たらないのです! せっかくここまで巡礼してきたのに、ひとつだけお参りできなかったなんて! ということで、石仏を探しながら来た道を戻ることに。
青木さんも坂東三十三番観音だけは初めて歩くそうで、巡礼路マップとYAMAPアプリをよ〜く見比べ『豊受皇大神』の巨大な石碑あたりがあやしいと目星をつけてくれました。たしかに、突然現れた立派な石碑に気を取られて周囲を見ていなかったかも…。
石碑の少し手前、下草が生い茂る開けた空間を探してみると、茂みの中に倒れてしまっている三十二番の石仏を発見! あったー!! 石仏はあまりに重くて自分たちでは起こすことができませんでしたが、しっかりとお参りをして、これで心置きなく先に進むことができます。
無事に下山口まで下りてきて、ゴール! …ではありません!
西国第三十三番、秩父第三十四番、坂東第三十三番、それぞれ最後の番号の観音さま三体は、宝珠庵というお寺に置かれています。何を隠そう、当初、大峯百番観音巡礼路を湯沢町に作ろうと発願したのは宝珠庵のお坊さんでした。最後にこちらを参拝して…、これでやっとゴール!
観音さまの穏やかなお顔を眺めていると、達成感とともに、心がすっきり軽くなる気がします。西国・坂東・秩父と日本各地に広がる日本百番観音と比べればすご〜〜く小規模ではありますが、それでも百体全て巡るのはなかなか大変な道のりでした!
それにしても、日本中に点在する百体の観音さまの特徴を模して、ひとつひとつ手で彫って、さらにこの重い石仏を人力で山中に運んだのかと思うと、改めて当時の湯沢町の人たちの並々ならぬ信仰心を感じずにはいられません。と言いつつ「ご利益がわんさか舞い込むといいなぁ♪」なんて、煩悩を捨てきれない私でした…。
【山の情報】
大峰山
標高 1,172m
公共交通機関:JR上越新幹線 越後湯沢駅から徒歩(約20分)で登山口
車:関越自動車道 湯沢ICから約10分
秋葉山
標高 590m
今回紹介した「大峰山百番観音ハイキング」がツアーで手軽に参加できます!
さまざまなハイキングツアーを企画している四季の旅ツアーが、「大峰山百番観音ハイキング」のツアーを募集中。新宿発着の便利でオトクなツアーなので、気になった方は四季の旅ツアーをクリック!
下山後は、お楽しみの湯沢町歩き♪
さぁ、巡礼を終えたら、時間が許すまで越後湯沢の町を楽しみましょう!
まずは、行動食しか食べていない一行のお腹を満たすべく『そば処 しんばし』へ!
こちらでは新潟県魚沼発祥の「へぎそば」を食べることができます。へぎ(片木)と呼ばれる四角い木製の器にそばを盛るため、その名がつきました。そばのつなぎには、布海苔(ふのり)という海藻が使用されていて、コシの強さが特徴です。
『しんばし』は創業85年の老舗。そば粉をはじめ地元産の食材にこだわり、そば打ちには魚沼の伏流水を使用しているそう。
お腹を満たしたら、次はやっぱり温泉ですよね!
越後湯沢駅東口から伸びる駅前通り沿いにある『江神温泉共同浴場』は、地元の人たちに愛される小さな日帰り温泉施設。
さすが温泉処とあって、加温なしの源泉掛け流しです。これで大人400円という安さ…。
共同浴場というと、シャワーが無いかもと心配する女性も多いかと思いますが、シャワーあります! そして、受付周辺には、登山のリュックやスキー、スノボなど、大きな荷物を置ける場所もあるのです! ありがたすぎて泣けてくる…。
新幹線に乗るまでの待ち時間は『越後のお酒ミュージアム ぽんしゅ館』へどうぞ。越後湯沢駅の構内、お土産屋さんや飲食店が立ち並ぶ「がんぎ通り」の一角にあり、新潟の地酒や食品を多数取り揃えているお店です。
ぜひ体験していただきたいのが「越後乃酒蔵 唎酒番所」。のれんをくぐった先にあるのは、壁一面に効き酒マシンが並ぶ日本酒ワンダーランド! 季節限定や数量限定なども含め、時期によって120種類前後の地酒を試飲できます。
受付で500円を支払うとメダル5枚とマイおちょこが渡されるので、飲んでみたい銘柄のマシンにマイおちょこを置いてメダルを入れ、ボタンを押すと自動で日本酒がそそがれます。ゲームセンター的な仕組みでワクワク。(ほとんどがメダル1枚で試飲できますが、2枚以上必要なものもある)なかなか飲めないレアものを飲んでみたり、気に入ったお酒をお土産に購入したり、楽しみ方はそれぞれ。
マシンにはそれぞれの銘柄の特徴が書かれたパネルがあり、壁には人気ランキングも貼り出してあるので、「どれにしよう〜」と決まらない方は参考にしてくださいね。
ぽんしゅ館には他にも糀(こうじ)を使用したカフェや、温泉に日本酒をミックスしたお風呂もあるので、なんなら新幹線を1本でも2本でも見送って、旅の終わりを惜しみながらのんびり過ごしましょう。
【情報】
そば処 しんばし
新潟県南魚沼郡湯沢町湯沢488-1
http://www.soba-shinbashi.net
江神温泉共同浴場
新潟県南魚沼郡湯沢町湯沢1-1-8
https://egamionsen.com
ぽんしゅ館
JR越後湯沢駅 CoCoLo湯沢内
https://www.ponshukan.com
まとめ
無事に帰りの新幹線に乗り込んで思い返すと、百体の観音さまといい、山頂から見渡せる越後の山々といい、低山にしてはスケールの大きな山歩きだったなぁ。しかもこれが、新幹線の駅を起点にすべて徒歩で完結できるうえに、川端康成や深田久弥が愛した歴史ある温泉も堪能できるとは…、本当に盛りだくさんの旅でした。
みなさんもぜひ、大峯百番観音巡礼の旅と魅力満載の湯沢町歩きで心も体もリフレッシュしてくださいね!
今度は雪景色の越後湯沢にも会いに来たいなぁ。
今回紹介した「大峰山百番観音ハイキング」がツアーで手軽に参加できます!
さまざまなハイキングツアーを企画している四季の旅ツアーが、「大峰山百番観音ハイキング」のツアーを募集中。新宿発着の便利でオトクなツアーなので、気になった方は四季の旅ツアーをクリック!
「百番観音トレッキングルートでデジタル御朱印」を実施中!
越後湯沢温泉観光協会では「大峰山百番観音コース」を構成する 3 コース(西国 33番、秩父 33番、坂東 34番)を踏破しデジタル御朱印を獲得すると、宿泊券やステッカーが当たるキャンペーンを実施しています。
気になる方は越後湯沢温泉観光協会HPの「大峯百番観音巡礼路 デシタル御朱印キャンペーン」をチェック!
*2022年は雪が多いため、5月28日より利用開始予定です。
このエリアの事が気になった方は雪国観光圏のサイトもチェック!
雪国観光圏は、新潟、長野、群馬の3県7市町村が連携した広域観光圏。登山やロングトレイル、グルメなど地域の特性を活かした様々なプログラムを提供しています。
雪国観光圏のサイトをクリック!
*「大峯百番観音」の地図(大峰・秋葉山・清津峡)がYAMAPでダウンロードできるようになりました。ぜひチェックしてみてください。
「大峰・秋葉山・清津峡」の地図ダウンロードはこちら
湯沢温泉へのアクセスと交通
詳しくは越後湯沢温泉観光協会でアクセス情報をチェック
文・イラスト:神田めぐみ
写真:川野恭子
協力:越後湯沢温泉観光協会、雪国の宿 高半
山好きイラストレーター
神田めぐみ
山岳雑誌を中心に活動中。山に関するイラストルポや図解を多く描いている。取材で訪れた山小屋は130軒を超える。プライベートでもマイペースに山を楽しみ、夏は高山、冬はライトな雪山にと一年を通して出かけている。もうすぐ、神奈川県の海と小さな山のある街に移住する予定!
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