投稿日 2021.05.26 更新日 2021.06.21

楽しむ

登山×野鳥図鑑|夏の高山で見られる鳥の鳴き声、特徴など

もうすぐ本格的な夏山シーズンを迎えます。野山が鳥たちのさわやかな歌声に包まれる季節。標高の高い場所に棲む鳥たちの絶好の観察機会です。野鳥写真家の第一人者、大橋弘一さんに、日本の夏の高山で見られる野鳥を8種(名前の由来、特徴、鳴き声など)を教えていただきました。

目次

1:ライチョウ | 「真正の高山鳥」と言える国の特別天然記念物

ライチョウは雄と雌で色が全く異なる。こちらは「雌と雛」

こちらはライチョウの「雄」

標準和名:ライチョウ
分類:キジ目キジ科ライチョウ属
漢字表記:雷鳥
英名:Rock Ptarmigan
学名:Lagopus muta
全長:37cm

年間を通して高い山から離れずに暮らす”真正の高山鳥”と言えるのは日本ではライチョウしかいません。夏には高山で暮らす鳥でも冬は平地や低山に移動するケースがほとんどですが、ライチョウだけは違うのです。

ライチョウの生息地は北アルプスや南アルプス、それに新潟県の焼山や火打山などの標高2,400m以上の高山帯で、冬はやや低い所へ移動するとは言え、それでも基本的に標高2,000m程度だそうです。

過酷な高山の厳寒期にも耐えるため、ライチョウは様々な適応力を身に付けています。夏と冬とで大きく羽色を変えることはよく知られていますが、他にも、足指の先まで羽毛に覆われていたり、硬い氷の下からも植物を掘り出すことができる鋭く力強い嘴、雪を掘って眠る習性など、極寒の地に生き抜く体と知恵を備えているのです。

そんなライチョウたちも夏は子育てに忙しくなります。雛たちは母鳥のこまやかな愛情を受けて日に日に成長していきますが、怖いのは猛禽などの天敵。最近はキツネやニホンザルといった高山にいないはずの動物がライチョウの生息域にまで出没してライチョウを襲う事例が起きており、新たな環境問題として注視されています。

ただでさえ、ライチョウは大変貴重な”氷河期の生き残り”です。国の特別天然記念物に指定されている理由を私たち一人一人が理解し、その生息環境が十分に保全され続けることを祈らずにはいられません。

2:カヤクグリ | 日本列島以外には生息しない「日本固有種」

標準和名:カヤクグリ
分類:スズメ目イワヒバリ科カヤクグリ属
漢字表記:茅潜
英名:Japanese Accentor
学名:Prunella rubida
全長:14cm

ほぼ全国的に高山帯から亜高山帯に生息するスズメほどの大きさの暗褐色の小鳥です。九州でも冬に姿が見られ、日本国内では広い範囲に分布しながらも日本列島以外には生息しない「日本固有種」のひとつです。

夏山で、ハイマツの梢などで「チュリリリリリリリチー」などと美しい声でさえずる茶色っぽい小鳥、と言えば「ああ、あの鳥」とピンとくる方が多いかもしれません。外国の山に行ってもこの鳥には出会えませんから、カヤクグリの鈴の音のような澄んだ歌声を聞きながらの登山は日本ならではの楽しみだと言えるでしょう。

ところで、カヤクグリという美しい響きの名前もこの鳥の魅力のひとつではないでしょうか。「かやくぐり」は室町時代から使われている呼び名で、いわば歴史ある由緒正しい鳥名のひとつですが、その語源はちょっと難解です。「カヤの中に潜むもの」という意味であることは想像できますが、では「カヤ」とは何でしょうか。カヤと読む漢字は茅・萱・榧の三つがあり、茅と萱は同義でススキなどイネ科植物の総称です。榧はイチイ科の常緑針葉樹だそうです。どのカヤもこの鳥との関係性はなさそうです。

じつは、カヤには特定の植物ではなく「茂み」や「薮」の意味があります。カヤクグリという和名の語源は、冬に山麓に降りてきたこの鳥が薮の中に隠れるようにひっそりと過ごす様子であろうと想像されるのです。

3:イワヒバリ | 観察するほど色彩の豊かさがわかる美しい鳥

標準和名:イワヒバリ
分類:スズメ目イワヒバリ科カヤクグリ属
漢字表記:岩雲雀
英名:Alpine Accentor
学名:Prunella collaris
全長:18cm

ハイマツ帯など高山の岩場や草地で繁殖するやや大きめの小鳥です。夏の立山などではライチョウやカヤクグリと並んで頻繁に姿を見かける鳥です。

高山の鳥は概して人に対する警戒心が薄いものですが、特にこのイワヒバリは手の届くような距離まで近づいてもほとんど恐れる様子を見せません。平気で登山者の足元を歩き回ったりすることもあり、じっくりと姿や行動を観察することができます。遠目には地味な鳥に見えるかもしれませんが、近くで見ると嘴の黄色や脇腹の栗色、翼にある小さな白斑など、思いのほか色彩が豊富で美しい鳥だと気付きます。

一つ知っておきたいことは、名前から誤解を受けやすいこと。名に「ヒバリ」と付いていますがヒバリの仲間ではありません。イワヒバリ科という全く別の分類の鳥であり、ヒバリ科とは類縁関係は近くないのです。よく見れば体形や行動などがヒバリとは全く違っていてヒバリ類ではないことは歴然です。せっかく近くでじっくり観察できる鳥なのですから、機会があったらそいう点にも注目しながら観察してみてはいかがでしょうか。ヒバリとは明らかに違うと気付くことができれば、あなたも野鳥観察の初心者卒業!かもしれません。

さえずりは、岩の上などにとまって「チョイチョイチュチュルピッピッ」などとよく響く声で美しい歌声を聞かせてくれます。

4:メボソムシクイ | 繁殖期の朝夕は高山の歌声の主役に

標準和名:メボソムシクイ
分類:スズメ目ムシクイ科ムシクイ属
漢字表記:目細虫食
英名:Japanese Leaf Warbler
学名:Phylloscopus xanthodryas
全長:13cm

高山のハイマツ帯や亜高山帯の針葉樹林で繁殖するオリーブ色の小鳥です。抑揚のない声で「チョリチョリチョリチョリチョリ…」と平板にさえずります。繁殖期の早朝や夕方には一斉にさえずることがあり、しばしば高山の歌声の主役となります。

ムシクイ類は、たがいによく似た姿の鳥が何種類もあり、外見で識別することの難しいグループです。しかし、さえずり声は全く異なっていて、それによって交雑を防いでいると考えられています。私たち観察者から見れば、さえずり声を聞けば種名を言い当てる大きな手掛かりになるわけです。

それともうひとつ、国内で数の多いムシクイ類は種ごとに繁殖分布が標高や植生によって違っていて、メボソムシクイが最も標高の高い場所で繁殖し、次いでエゾムシクイがやや標高のある山地の針葉樹林、そしてセンダイムシクイが平地の広葉樹林にと、うまく棲み分けています。ただ、国内ではこの代表的な3種のほかにも特定の地域のみで繁殖するものなど数種類のムシクイ類がいるので、専門家でも識別に頭を悩ませることがある鳥たちです。

ところでメボソムシクイは、繁殖分布は本州から九州に限られています。国外に繁殖地はありません。日本でしか繁殖しない夏鳥ということであり、地球規模で見れば繁殖地が非常に狭い鳥と言えます。あまり目立たない鳥かもしれませんが、じつ日本ならではの貴重なムシクイ類なのです。

5:ホシガラス | 登山者にもバードウォッチャーにも人気の鳥

標準和名:ホシガラス
分類:スズメ目カラス科ホシガラス属
漢字表記:星鴉
英名:Spotted Nutcracker
学名:Nucifraga caryocatactes
全長:35cm

国内では北海道から九州にかけての高山のハイマツ帯や亜高山帯の針葉樹林に棲むカラスの仲間です。カラスと言っても真っ黒な鳥ではなく、チョコレート色の地に多数の白斑のある姿で、星を散らしたような模様に見えることからこの名が付けられました。大きさも市街地のカラス(ハシブトガラスやハシボソガラス)よりだいぶ小さく、嫌われ者のイメージはありません。むしろ登山者にもバードウォッチャーにも人気のある鳥です。

春から秋まで高い山で姿が見られ、冬には山麓へ漂行してくるものもいます。ハイマツの実が熟す頃になるとその松ぼっくりを岩の上に持ってきて嘴でつつき、種子をほじくり出して食べます。また、のど袋に入れてどこかへ運びコケのなど間に隠す”貯食行動”を盛んに行います。隠されたまま忘れられたハイマツの種子が芽を出し、生育することも多く、いわゆる種子散布にホシガラスが重要な役割を果たしています。高山の植生に欠かせないハイマツはホシガラスと見事な共生関係にあるのです。

とは言え、ホシガラスもカラスの仲間。ハイマツの実だけを食べているわけではありません。登山者の多い夏山シーズンには山小屋などから出されたゴミをあさるなど、カラスらしい一面も見られます。

6:ノゴマ | 大雪山系など北海道のみで繁殖する「野の駒鳥」

標準和名:ノゴマ
分類:スズメ目ヒタキ科ノゴマ属
漢字表記:野駒
英名:Siberian Rubythroat
学名:Luscinia calliope
全長:16cm

雄の鮮やかな朱色の喉が印象的な小鳥で、国内では基本的に北海道だけで繁殖します。コマドリと同属で、ノゴマという標準和名は、異説もあるものの「野の駒鳥」の意味と言われています。

北海道では大雪山系など高山のハイマツ帯で多数が繁殖していて、6月から7月にかけての繁殖期にはハイマツ帯のあちこちから「キョロキリキョロキリ、キーキョロピンピン、チリリ、チゥイー」などと快活で複雑な歌声が聞こえてきます。場所によっては最も数の多い鳥となります。

ただ、不思議なのは、北海道では海岸沿いの草原でも多数繁殖していることです。この鳥の繁殖環境は”高山のハイマツ帯”か”低地の草原”のいずれかなのです。両者の標高差は約1,600mにもなりますが、その中間地点(例えば標高数百メートルの山地)には生息していません。これはどういうことなのでしょう? 草原状の見通しの良い場所を好み、その条件さえ満たせば標高は関係ないということなのでしょうか? そもそもハイマツ林って草原なの? ……ノゴマの繁殖環境を考えるとこのように疑問符が次々に浮かんできます。

環境適応性に富んでいることは間違いないと思いますが、これほど標高差のある場所の両端で繁殖する鳥はノゴマの他には思い当たりません。

7:サメビタキ | クリッとした大きめの目が愛らしい小鳥

標準和名:サメビタキ
分類:スズメ目ヒタキ科サメビタキ属
漢字表記:鮫鶲
英名:Dark-sided Flycatcher
学名:Muscicapa sibirica
全長:14cm

北海道から本州中部の亜高山帯の林などに棲む夏鳥で、時には高山のハイマツ帯などにまで姿を現します。スズメよりやや小さく、濃い灰色で派手な色彩はありませんが、大きめの目がクリッとして可愛らしい雰囲気の小鳥です。

日本で繁殖する同属の鳥にコサメビタキがいますが、姿のよく似た両者は繁殖地の標高によってうまく棲み分けており、コサメビタキは平地から低山で、サメビタキは亜高山帯でそれぞれ繁殖します。ただ、渡りの時期になるとどちらも同じ平地林などにも現れますし、そうした場所にはさらに別のよく似たヒタキ類も渡来しますので、識別には気を使います。

枝から空中に飛び出して、飛んでいる虫を捕える”フライングキャッチ”が得意で、その捕食方法を多用する結果、アブ類やハエ類ハチ類などの成虫を多く食べています。さえずりはつぶやくような小声で「チョヂーチヂョ、チュイチリリリリリリ…」などと早口な歌声です。

秋の渡りの時期には樹木の多い都市公園にも現れ、ミズキやタラノキなどの木の実をよく食べます。

8:ギンザンマシコ | 雄は赤、雌は黄色の色鮮やかな大柄の鳥

標準和名:ギンザンマシコ
分類:スズメ目アトリ科ギンザンマシコ属
漢字表記:銀山猿子
英名:Pine Grosbeak
学名:Pinicola enucleator
全長:22cm

国内では北海道の高山でのみ繁殖するアトリ科の小鳥です。雄は赤く、雌は黄色く、どちらも色鮮やかな鳥として知られています。大柄でどっしりした印象の体つきで、全長は22cmもあり、小鳥と呼ぶことがちょっとはばかられるような大きさです。

北海道の高山のハイマツ帯で繁殖し、ハイマツの実を好んで食べ、「ピュルピュルピョロピョロピョロリ」などと柔らかい声でさえずります。人をあまり恐れず、状況次第では至近距離から観察することができることから、北海道では、登山者の間で「ギンザンマシコの赤い大きな姿を見ると登山の疲れも吹っ飛ぶ」と言われ、親しまれています。

北海道の高山を代表する野鳥でありながら、ギンザンマシコは冬にはしばしば群れで平地へ降りてきます。そして、冬の糧として林や公園にあるナナカマドの赤い実を好んで食べます。北海道ではナナカマドが公園だけでなく街路樹として植栽されている道路が多く、そのため冬には市街地でも”赤い大きな姿”が見られることになります。ただし、その頻度は高くなく、一説にはギンザンマシコが見られる冬は10年に1度しかないなどと言われています。

その点、夏に大雪山系や知床連山などに登れば、数が少ないとはいえ毎年繁殖していますので、この鳥に出会うチャンスはあるはずです。

*写真の無断転用を固くお断りします。

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