投稿日 2021.02.24 更新日 2023.05.23

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埼玉県奥秩父|雲取山・白岩山・妙法ヶ岳。神々の頂を巡る三峰山登山

今回の旅の舞台は秩父の奥にどっしりとそびえる雲取山。三峯神社の奥宮でもある妙法ヶ岳、白岩山と合わせて三峰山と呼ばれています。気軽な山小屋泊もできるとあって、年間を通して登山者に人気のこの山で、YAMAPのツアー登山が開催されました。内容はマインドフルネス登山。自分を見つめながらゆっくり歩くことで見えてきたのは、山の守り人たちの存在でした。出会うことで知れることがある、そんな山登りの旅をご覧ください。

目次

信仰と深くかかわる、三峰山

久々に山小屋に泊まりたいと思うようになったのは、リモートワークで家から出る時間が少なくなり、非日常を体験したくなったからだ。電波の届かないどこか遠くに行きたい。日帰りじゃ味わえない山からの夜空を見たいという思いもあって、奥秩父の雲取山荘を目指すことにした。11月の奥秩父の紅葉は全国的にも人気があるそうだ。

雲取山(2,017m)には初めて登る。白岩山(1,921m)、妙法ヶ岳(1,329m)とあわせて三峰山とも称され、古来より山岳信仰文化が根付く奥秩父地域の霊山を縦走する行程。普段はソロで行くことが多いのだが、今回は、ガイド付きの登山。久しぶりの1泊2日の登山ということもあり、安心感がある。

三峯神社に安全登山を願って

登山ガイドのコノハラさんが今回のリーダー。普段はアルプスを舞台に活躍しているとのことで、道具や格好からも頼もしさが伝わってくる。同時に茶目っ気もあり、「最近iPhoneを最新のものに変えたので、写真は任せてください」と、親しみやすそう。一眼レフとかではないのかと聞いたら、重いですからと笑っていた。話しやすく笑顔が素敵で、安心してついていくことができそうだ。

まだ吐く息も白い早朝。今回挑むコースは三峯神社から雲取山に至る片道10km、コースタイムは6時間ほどの道のりだ。YAMAPを起動し、スタートボタンを押した。

三峯神社からの登山口は、妙法ヶ岳、霧藻ヶ峰、雲取山など様々な山へのアプローチとして使用される

歴史と自然を深く知る 白岩山ワンダー登山

スタートして間もなくは、整備された若木の間を進む。歩きやすい道でウォーミングアップにちょうど良い。10分ほど歩くと、左手に三峯神社の奥宮である妙法ヶ岳へと続く鳥居が見えてきた。

ここからおよそ30分ほどで妙法ヶ岳の山頂へと至る。ガイドのコノハラさんが「最初に登りますか?」と提案してきたが、帰りに立ち寄りましょうと話した。雲取山はまだまだ先。なるべく体力は温存したい。先へ向かおう。

しばらくは雑木と植林が混在した林歩き。木漏れ日と朝の爽やかさが心地よい。秋の時期の低山は個人的にはとても好きだ。

落ち葉が柔らかく、だんだんと昇る太陽が身体をあたたかく包んでくれる。斜面を歩いていると、炭窯の跡を見つけた。そういえばこの山はここ最近すごく人気がある。社会的ブームとなった『鬼滅の刃』の主人公・炭治郎が、この雲取山域出身という設定があるのだとか(真相は定かではない)。炭治郎はここで炭を焼き、街へ売りに出かけていたのだろうか。

炭窯跡から尾根に上がり、さらに急な登りを進むと、地蔵峠というピークに至る。スタート地点の三峯神社からはだいたい90分ほど。この場所は文政年間に置かれた石地蔵があるために地蔵峠と呼ばれているそうだ。ここからの見晴らしは良く、秩父三山の一つである両神山の特徴的な山容がそびえ、荒船山の向こうにはには遠く浅間山や日光の山々まで見通すことができる。天気に恵まれている。

峠からわずかに登ると西側に展望が抜けはじめる。そのすぐ先には秩父宮のレリーフが埋め込まれた岩壁と霧藻ヶ峰休憩舎があった。霧藻ヶ峰は白岩山の前にそびえる標高1,523mのピーク。通称燕岩と秩父地域では呼ばれていたが、秩父宮が昭和8年に登山をした際、霧の中に揺れるサルオガセを見つけ、その別名「霧藻」から「霧藻ヶ岳」と命名したとされている。

画面中央、木の枝から藻のように垂れ下がっているのがサルオカゼ。地衣類の一種で樹皮に付着し、写真の様に成長する

霧藻ヶ峰からトラバースをしつつ鞍部まで下ると、お清平と呼ばれる分岐に出る。悲恋に泣いた炭焼きの娘であるお清さんからその名がついたと、ガイドのコノハラさんが教えてくれた。ね、禰豆子…!?と興奮したものだが、これはあくまで空想の世界。

ただ普通に歩いていては気にならないような地名の由来を聞けることは、ガイド登山ならでは。理解が深まるとさらに興味が湧くし、山への愛着も深まる。山の地名ひとつとっても多重に積み重なった歴史があり、目に見えるすべての自然にも、摂理がある。それらの代弁者としてのガイドから伝えてもらう価値、これはソロでは体験できないなと、今回のツアーの素晴らしさを感じた。

お清平からは急登が続くが、途中階段が整備されている

シラビソ原生林の足元には新しい森が芽吹いていた

お清平から1時間ほど歩くと、木々の間から雲取山が見えてくる。まもなく白岩小屋に到着した。白岩山は石灰岩の割合が多く山頂付近は白い山のようになっている。チチブミネバリなどが生えており、歩きはじめとの植生の違いがおもしろい。ここでお昼を取りましょうと、ガイドのコノハラさんがザックをおろした。

このちゃん特製贅沢絶景カレーライス

このころにはコノハラさんのことを「このちゃん」と呼び、親しい仲になっていた。ランチはツアーに含まれていたため、このちゃんが準備をしてくれることになっていた。

60リッターのザックからは、どんどんと食料が出てくる。写真の量の倍はあっただろうか。これなら3〜4日くらいはしのげそうだ。

「最初に言っときますけど、全部インスタントですよ」

いやいや、続く写真を見てほしい。ローストビーフが…カレーに乗っている!

よだれが止まらない

このちゃんの準備する目は真剣そのもの。シェフだ

そしてこのカレーはあっちで食べてくださいと言われる。案内された場所がここだ。

このロケーション! 天気! ベンチ!

そしてこう!

なにもせず、すべて用意してもらい、味は絶妙で計算されつくされている。インスタントとは思えない美味しさ。そしてこの圧倒的な景色。和名倉山や甲武信ヶ岳が生き生きと脈打っているように見えた。贅の極みはここ(白岩小屋)にあったのだ…! さすがに興奮しすぎたかもしれないが、そのくらいテンションが上がったのは事実である。いやー美味しかった。

このランチのためにカレー皿や、スプーンなども取り揃えてくれたそう。今までの登山であれば、自分で食料やガスを持っていき、山の上で調理をして、というのが当たり前。このようにいたれりつくせりに準備してもらったことがなかったため、ここでもガイドのありがたみを感じた。作ってもらった分、普段以上に食のありがたみを実感する。「普段山に入っている僕らにとっても、こういうカレーライスってごちそうなんですよ」と笑いかけてくれ、自分もいつか誰かに振る舞ってあげたいと思った。

美味しいランチのおかげで疲れもすっかり吹き飛んだ。雲取山までは半分以上来ている。踏み出す足が軽くなった。

遠く富士を眺めたあとは、満天の星空とふかふかの布団で

白岩小屋から白岩山山頂までは歩いて10分ほどで到着する。そこから平坦な道を進むと、芋ノ木ドッケという峰に着いた。芋ノ木とはコシアブラのことで、ドッケとは突起がなまった表現のこと。コシアブラの多い峰、という意味だそうだ。

ここからは若干の巻道を安全に進む

芋ノ木ドッケから下りながら、大ダワを目指す。ここまで来れば、あとは雲取山荘まで登るたけだ。ここからは男坂と女坂に分かれる。登りは直登の男坂を選んだ。もう一息。

ダワはたるみを意味する。鞍部の表現のひとつ

30分ほど歩くとついに立派な小屋が見えた。ここが本日の宿、雲取山荘だ。なんと立派な。山の建物は見るとホッとする。三峰神社から4時間半。コースタイムよりもはやく、目的地に到着することができた。

チェックインも済ませ荷物を部屋にデポ。今日の間に雲取山の山頂を目指す。もう陽も落ちかけている。

荷物も少ないのでこれまでの疲れが嘘のように身体が軽い。やはり頂上が近づくと心が躍るもの。山荘から20分ほどで山頂に着いた。

東京都の最高峰であり、唯一都内で2,000mを超える雲取山(2,017m)。近くは飛龍山が見え、石尾根の先には薄く雲がたなびき、遠くには霊峰富士が顔を出している。雲取山の由来は雲を抱き取っているように見えるからという話もあるそうだが、抱き取るというほど雲はなく、くっきりと遠くまで望むことができた。

雲取山荘は立派な山小屋だ。人のあたたかみも感じられるし、優しいオレンジの光も心が落ち着く。外界から隔絶された山荘。電気が通っていないはずだが、部屋にはこたつがあり、なぜだか暖かい。豆炭であたためているそうで、朝までぬくぬくとすることができたから驚きだ。

夕食はハンバーグと味噌汁と白飯。米は雲取山盛り、富士山盛り、チョモランマ盛りを選べるとのこと。しっかりチョモランマ盛りをいただいた。山での食事は、普段よりもありがたみをより一層感じる。

「山で見る星空はすごくきれいなんですよ」

夕食中にこのちゃんが天体観測を提案してくれた。用意周到ガイドのこのちゃんは、持参したiPadにしっかり星座早見表をインストールしていた。なんてロマンチストなガイド。オリオン座と蠍座の話であるとか、天の川の話であるとか、星空の神話について教えてくれた。そんな話を寝転びながら聞き、東京都とは思えない贅沢な星空をしばらく眺めていた。

俗世を離れて山小屋に寝泊まりをしたいと、東京を出てはるばるここまでやってきたが、やはり歩いてきた人にしかわからない絶景がここにはあった。そして何より山小屋の管理人さんたちは明るくたくましい。こうした場所が続いていることに、管理人さんたちの弛まぬ努力も感じた。

当たり前にご飯が食べられ、トイレがあり、布団があり、電気や水道がある。一時期は山小屋は密だからという声もあったが、しっかりと感染対策もしており、その賑わいは例年とあまり変わらないという(宿泊人数を絞り限定営業をしている)。

ソロのテント泊も自然を感じることができて好きだが、こうした山小屋泊もたまにはいい。偶然の出会いや温かな人情に触れると、”感謝”という気持ちが自然に湧いてくる。山を守る人がいて、こうして今日も安全に登山をすることができた。今日はゆっくり眠れそうだ。ふかふかの布団に身を包み、すぐに夢の人となった。

雲海と霧をあとにして

山小屋の朝ははやい。昨晩は9時に全員消灯していたので睡眠もばっちり。寒くて寝れないということもなく、非常に快適だった。朝食後に外に出ると、日の出前の雲海が美しく広がっていた。

日が昇るまでずっと眺めていた

朝晩の冷えでベンチの上には霜がたっている。チェックアウトをし、雲取山荘に別れを告げた。ここはまたぜひ来たい。外に出て陽の光を直接浴びると脳と身体が冴えてくる。準備体操をして、帰りの道へと歩を進めた。

帰り道は女坂の緩やかな道を下っていく。霧がかっており幻想的な風景。いま自分は雲の中にいるのだと深く感じた。静かな山道を踏みしめて行く足跡だけが聞こえる。

鹿たちも慣れているのか、近づいても逃げる素振りがなかった

静かに歩いていると、山の一部が剥げてしまっている箇所を見つけた。

「これは台風被害の影響です。台風で木が折れて原生林などが破壊されると、そのあたりは明るくなるので太陽が直接地面にあたります。すると地面は乾燥して、湿った苔の上で育つシラビソなんかは発芽できないので、森が育たないんですよね」

一度森が荒れてしまうと、以前の原生林に戻るには、200年から300年ほどの永い月日が必要らしい。今、目前に広がっている自然の風景がいかに貴重なものであるかというのを教えられた気がした。ガイドを通して、自然が語りかけてくれているようにも感じた。

台風の被害により、森が一部のみ荒れ果てていた

芽吹く花もある

白岩山や霧藻ヶ峰で小休止を挟みながら、妙法ヶ岳登山口まで戻ってきた。ここからは、往路で据え置きにしていた妙法ヶ岳を目指す。古くは修験者が通った道であるが、神社の神職は現在も登拝しているそう。ここからは最後の登りとなる。

普段は意識できていない自分の呼吸や筋肉の動き、足の裏の感触、肌に触れる風に集中しながら神聖な道を踏みしめる。ゆっくりと歩き40分ほど。最後の岩にかかる梯子を登れば、標高1,329 mの山頂だ。

山頂からは、歩いてきた道が見える。手前には白岩山、奥に雲取山。三峰山を歩ききった瞬間である。霊峰三山の縦走をやりきった充実感と共に、心の充足感でも満たされる山行となった。

ゴールである三峯登山口に戻ってきた。

「どうでした?」

とこのちゃんが尋ねてくれた。自然や歴史を知れ、山小屋のあたたかさを実感できたことは、ガイドがいたからこそ。そして白岩山での絶景ランチの感動を伝えると、このちゃんも嬉しそうに笑っていた。またガイドと登り、愛着の湧く登山をしたいと思う。もちろんこのちゃんとも、どこかの山で再会したい。

大自然の中で心からリフレッシュでき、晴れ晴れとしている。ただ山を歩くだけじゃなく、山と関わる守り人たちと時間を共有できた喜びのおかげだ。やりきった達成感に満たされた思いのまま、改めて歩き切った道を眺めてみると、そこには雲はなく、青空の下でただ美しく山だけが聳えていた。

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