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舞台は阿蘇のカルデラ! 新感覚アクティビティー 「ASOロゲイニング2020」
南北25km・東西18km、世界有数の大きさを誇る熊本県の阿蘇カルデラ。外輪山に代表される圧倒的な火山活動の痕跡もさることながら、このエリアの特徴はそのカルデラ内に人が住み、阿蘇市をはじめとした街が形成されていることです。2020年初冬、この阿蘇カルデラを全身で満喫する新感覚アクティビティー「ASOロゲイニング2020」が開催されました。YAMAPではこの大会の運営に全面協力。今回はライターが実際に参加し感じた、その魅力をお伝えします!
目次
「あっ、見つけた」
地図とにらめっこしながら、ようやく探し当てた飲食店の看板を指さす。看板に書かれた名前をもう一度確認して振り返ったその顔は、宝物を探し当てたようにちょっと誇らしげだった。喜びもつかの間、さあ、次はどこを目指そうか。
行き先は自由、世界屈指の規模を誇る阿蘇のカルデラを舞台に自分たちだけのルートを描くことができる。それが今回レポートする「ASOロゲイニング2020」。YAMAPアプリを使ってエリア内に点在するチェックポイントを制限時間内に巡り、合計得点を争うチーム競技だ。
カメラを片手にASOロゲイニングに参加した筆者(右)
大会が開催された12月5日、阿蘇外輪山の草原はすでに冬支度を終えて、枯れ草色に変わり、山々には紅葉の名残りも消えていた。時折吹く風は肌寒くて冬の訪れを感じさせるものの、それでも快晴に恵まれて昼間は長袖のシャツだけでも過ごせるほど。秋を思わせる陽気に誘われ、足取りが軽くなる。
YAMAPロゲイニングの特徴
大会の開始時刻は午前10時半で、制限時間は6時間。阿蘇市小里にある観光施設「はな阿蘇美」を起点に阿蘇市、南阿蘇村の一部を巡り、制限時間内に戻ってくる。通常のロゲイニングでは、紙地図を使うのが一般的だが、今大会はスマホがあればOK! 地図読みができなくとも楽しめるため、初心者でも参加しやすいのが特徴である。普段の山行でYAMAPを使うのと同じ要領なので、迷う心配はほとんどない。
世界屈指の広さを誇るカルデラがフィールドとなり、ルート次第では山の中にも入っていく。気になるのは安全面だが、今回の大会では、YAMAPのみまもり機能を使って、運営側で参加者の位置情報を随時確認できる仕組みを導入。いざという時に現在地を追跡できるため、参加者も安心して楽しむことができる。
地図、安全対策にもなるスマホは重要なので、モバイルバッテリーも必携品だった
本当に気軽? 筆者も急遽チームを結成して参加!
初心者でも気軽に参加できるということで、体験レポートを書くにあたり、ロゲイニング未経験者を誘って参加。初めてでも満喫できるのかは…終わってからのお楽しみだ。
大会ルールで決められた1チームあたりの人数は2〜4人。そのルールにのっとり、普段はトレイルランニングや山登りを楽しんでいるカナエさん、トーコさんの未経験者女性2人。そして、経験者ながら貪欲に得点を狙うあまり、制限時間を守れなくて減点されることの多い筆者という未知なるトリオでチームを結成した。初挑戦の2人は「目指すは入賞」と意気込んでいる。
初参加の2人。左からトーコさん、カナエさん
競技中は公共交通機関を使っての移動もOKなので、親子連れの参加も多く、会場の広場では各チームがなごやかな雰囲気で受付を済ませていた。開会式、競技説明が終わり、チェックポイントの記された地図が配布されると、参加者の目が真剣に。スタートまでのわずかな時間で、自分たちの回るルートを決めなくてはいけない。
子どもたちもやる気十分。おそろいのシューズがステキ
初めて見る地図に示されたチェックポイントの位置関係と、それぞれに割り振られた得点を把握して、自分たちにとって最も高得点になるルートを考えられるかが、ロゲイニングの肝になる。
阿蘇市街地を中心に南北約13km、東西約27kmに広がる広大なフィールドが今回のロゲイニングの舞台(画像をクリックすると、拡大表示が可能です)
女性2人にルート設定を任せたところ、「えー、どこから回っていいのか分からない」「どうしよう」と、キャーキャー言いながら、地図の上で目が泳ぐばかり。最初に向かう方向もなかなか決まらなくて、今度は静かになってしまった。夏休みの宿題が多すぎて、どこから手をつけてよいのか途方に暮れたような状態だ。地図公開からスタートはまでは10分しかないので、刻々とリミットは迫っている。
受け取った地図でルートづくり。攻めるのか、手堅くいくのか、性格が出る
行き先もないままスタート。まずは方針を決める
自分たちの足で走って得点を稼ぐのか、電車やバスを使うのか。遠くにある高得点を狙うのか、チェックポイントが固まっているエリアを攻めるのか。自由にルートを描けるのがロゲイニングのいいところ。一方で、自由すぎて、どこから手をつけてよいのか分からなくなることも。チェックポイントが104カ所もあって、各地点で得点が高かったり、低かったりと異なっているから、戸惑うのもムリはない。
結局はルートが決まらないままカウントダウンが始まり、とりあえずスタートを切ることになった。6時間後にここに戻ってくることだけを決め、行き当たりばったりで進むのも面白いが、ルートを設計していくのがロゲイニングの醍醐味。基本方針だけを決めて進むことにした。
ルートを決めて、いよいよ会場のはな阿蘇美を出発!
2人とも体力には自信がある。6時間行動し続けることができるから、公共交通機関は時間が合えば使うことにして、それ以外はできるだけジョギングで回ることに。次に、遠くに行きすぎて帰ってくることができなくなるのを避けることを決めた。制限時間内にゴールできないと減点されてしまうからだ。
そして、最後にできるだけ得点を稼ぎつつも、スキあらばおいしいものを食べたいという願望をみんなで共有。この3つの方針を決めたことで、作戦が立てやすくなった。チームの方針が決まっていると、なにかあった時に決断を下しやすいのがメリットである。
ここまで決まると、あとは簡単。配布された地図に紹介されていた、YAMAPのオススメコースを基に、得点効率のよさそうなルートをアレンジすることにした。
内牧温泉エリア|まずは最寄りの温泉街で手堅くポイントをゲット
まずはスタート地点の近くにある内牧温泉を目指す。チェックポイントになる温泉宿や飲食店などが固まっていて、ちょっと進むたびに見つけることができる。
序盤ということもあり、温泉街の中は参加者でいっぱいだった
気になるお店を見つけたら、ふらりと中に入る。競技とは言いながら、観光や交流を楽しむことができるのも、「ASOロゲ」の魅力である。
ほかにも、ご当地の食が充実していた。阿蘇名物の「あか牛丼」を考案した名店・いまきん食堂もチェックポイントのひとつである。ついでに食べていきたくなってしまう、なんとも魅惑のコース設定だが、スタート直後なので、我慢、我慢。ちなみに、受付時に1,500円分のクーポン券が全員に与えられたので、対象店で使って食事をすることもできる。競技中でも、翌日でも使える嬉しい参加賞だ。
競技中は我慢した、いまきん食堂の名物・あか牛丼、ちゃんぽん
内牧温泉エリア→阿蘇神社エリア|ラン&バスで効率的に移動!
温泉街のポイントを全てゲットした後は、南東に8kmほど離れた阿蘇神社の周辺を目指すことに。近くにあるバス停から乗って行きたかったが、次発が来るのはちょっと時間がかかる。ほかの方法を調べてみると、JR阿蘇駅まで走って、そこからバスに乗った方が早く到着できると判明。最短距離で行って、ただ待っているのも時間がもったいない。方針に従って、駅までジョギングで向かいながらチェックポイントを取っていくことになった。
煙が吹き出しているところが阿蘇中岳。キラキラと輝くススキも美しい
駅への道中はずっと田園風景。だだっ広いからといって、単調なわけではない。むしろ頑張って走ろうと思えるほどに、気持ちがいい。前方には、阿蘇中岳から上がる噴煙、振り返れば阿蘇外輪山を眺めることができる。すがすがしい青空に山のシルエットの映えること。写真を撮れば、走っている姿が普段の3割増しになるのではないか、というほどカッコいい。少しずつ山の見え方が変わっていくので、飽きることもなく、順調にチェックポイントを回っていく。
途中に道路工事で通行止めの道があり、畦道を通って駅に向かう。この後、トーコさんがコケたのは内緒
選んだルートの関係で足を伸ばせなかったが、阿蘇中岳、草千里、大観峰など阿蘇を代表する景色が楽しめる場所もチェックポイントになっている。自力で行くのは大変だが、中岳、草千里はバスが出ていて、実はアクセスが難しくない。阿蘇山上広場まで行けば、火口まではもうすぐ。そばまで近づいて噴煙を見学することもできる。
飽きることなく眺めていられる大迫力の火口。競技中に行けなくとも、翌日の観光で行っておきたい場所のひとつ
阿蘇駅のそばにあるウソップ像もチェックポイント。真似したくなるポーズは、サタデーナイトフィーバー?(古い)
阿蘇駅につくと、まずは乗車券を購入。隣にある道の駅でおいしいものをゲットしたかったが、そんな時間はなく、ほどなくしてバスがやって来た。偶然にも狙いすましたかのようなタイミング。これで効率よく移動できる。
バスの車窓から景色を眺めていると、旅情がわいてくる。後ろから「この近くにチェックポイントあるね」とチームメイトのつぶやき。はじめてのロゲイニングをすっかり楽しんでいるようで、風景や旅気分よりも競技に集中している。
阿蘇神社エリア|レトロな街並みで阿蘇グルメを堪能
バスから降りたら、すぐさまジョギングを再開。阿蘇神社周辺もチェックポイントが密集していて、短時間で得点を稼ぐことができる。調べたところ、制限時間の30分ほど前にゴール地点の前に到着するバスがあって、帰りの心配もしなくて済みそうだ。
阿蘇神社に隣接する門前町商店街。ちょっとレトロで雰囲気がいい
阿蘇神社の周辺も、内牧温泉と同じで飲食店や商店がずらりと並んでいる。あか牛丼、高菜飯などランチメニューも豊富だが、僕以外はゆっくり腰をおろして食べる気がない。
そうは言っても、女性陣もお腹は空いているし、阿蘇を満喫したいという葛藤もある。いい店はないかと探していたら、あった! 手軽に食べることができて、ご当地感にあふれる逸品に出合えた。それが阿蘇神社の門前町商店街に店を構える「阿蘇とり宮」の名物料理である「馬ロッケ」。熊本でおなじみの馬肉ミンチがたっぷり入ったコロッケだ。
後から入って来たスタッフも馬ロッケを注文
注文が入ってから、馬ロッケが揚げ油の中を泳ぐ。プクプクと浮かんでくる気泡を眺めながら、待つこと数分。この時間はもったいないとは感じない。キツネ色に変わる衣に期待が膨らむ。
想像以上に馬肉ミンチがたっぷり。後から来るお客さんに思わず勧めてしまうほど
手渡された「馬ロッケ」はもちろん熱々。ハフハフと口の中で転がしながら馬肉の肉汁と旨味を味わう。我慢できずにノンアルコールビールも開けてしまう。「ランチより時間かからないから、ねっ!」と3人でうなずき合う。時間の限られた競技中だからか、余計に贅沢をしている気分になった。
乾いた喉にノンアルのビールがしみた表情のカナエさん(右)
普通に観光だけを楽しむのもいいけれど、ロゲイニングに打ち込みつつ、その合間に観光も楽しむ。ゆったりとすることはできないが、競技とのメリハリが利いていて、思い出として鮮明に残る気がした。動き回っているから、なんでもおいしく食べられるのも、こうしたスタイルでの観光のよさかもしれない。
実は内牧温泉でも、雰囲気のよさそうな洋菓子専門店「Patisserid`Aso MIYUKI」にちょっと寄り道していた。甘い誘惑である。腰を据えてケーキを味わいたいが、やはり女性2人がやる気満々。言い出せなくて、行動中に持ち運びやすいスイーツを注文した。
「こんな大会があって、出場しているんですよ」とカナエさんが店主と話している。すると、「ちょっと待って」といったん奥に戻る店主。すぐにお皿を持って戻ってきた。小分けに切ったチョコレートケーキを「これも食べていって」と差し出してくれた。なんとも嬉しいサプライズ。開始早々から阿蘇の人情に触れることができたのであった。
週末限定のアップルパイ。シュークリームと悩んだ末、どちらも購入
馬ロッケを食べて満たされた後は、阿蘇神社の周辺をあらかた回る。商店街を離れると、再び田んぼ道。のんびり走っていると、向こうから近づいてくるトラクターのおじさんと目が合った。すれ違いざまに「こんにちは」と声をかけるカナエさんに、運転中のおじさんがほほえむ。こんな何気ないやりとりも、秋日和の空気同様に心地いい。
すれ違うトラクターのおじさんと交流。田園風景で心も開放的に
気がつけば、残り時間が2時間ほどになっていた。そろそろ帰ることを意識しないといけない。ゴールのある会場までは8kmほどだ。まだ付近にあるチェックポイントは狙えそう。欲張ってギリギリまで狙うのか、それとも手堅く余裕をもって戻るのか。難しいところである。ここでも最初に決めた「遠くに行きすぎて帰れなくなるのを避ける」という方針に従い、近くにあるバス停と時刻表を確認しておく。
ここまで走れば戻ることができる、と分かっているから頑張りやすい。短い時間なので無理なく走ることに集中する。その甲斐あって、なんとかバスの時間に間に合い、このエリア最後のチェックポイントとなるポケットパーク湧水から帰路に就くことができた。
阿蘇神社エリア→ゴール付近|貪欲にラストスパート!
制限時間まで30分ほど残して、はな阿蘇美のバス停に到着。ここからさらに、女性陣の決断により、近くのチェックポイントも狙うことに。時間が余っていたら行こうと決めていたのだ。片道2kmほどを走らないと間に合わないとわかり、気力を振りしぼって駆け出した。本音を言うと、行かずにゴールしてもいいなと思っていたが、2人の諦めない姿勢に心打たれて黙々と走る。
その甲斐あって、無事に最後のチェックポイントを取り終え、あとはゴールするだけだ。会場に向かう道で初めてのロゲイニング挑戦を振り返ろうと思うが、2人とも口数が減ってしまい、それどころではなさそう。特にトーコさんがしばらく前から沈黙していた。口よりも足を動かせという無言のメッセージかもしれない。
最後の最後まで汗を流したおかげで、なんとか7分前にゴールゲートをくぐることができた。ウォークラリーのようであり、観光あり、最後に熱血あり、と盛りだくさんな6時間。長いようで短い旅のようなひとときだった。
最後は仲良く手をつないでゴールへ
結果はというと、、、
取材チームはオープン参加なので、順位がつかないものの、得点としては2位に入る健闘を見せた。ヘトヘトになりながらも、初参加の2人はいい表情を見せ「来年はちゃんと出場して優勝を狙おっか」と、すっかりロゲイニングの魅力にハマってしまった模様だった。
大会の楽しさが詰まった写真を表彰! フォト部門賞
今回の大会では、ポイントによる順位とは別に、競技中の美しい風景や楽しい競技の様子を収めた写真を募集し、表彰するフォトコンテストも開催されていた。受賞作はどれも阿蘇の自然美やロゲイニングという競技の楽しさがぎゅっと詰まった秀逸なものばかり。ここからは受賞作をご紹介しよう。
グランプリ賞 受賞者:Anna Bellさん
【審査委員会コメント】阿蘇五岳をバックに子どもが地図をもって歩く。まさにロゲイニング! という写真です。後ろの軽トラを意図して入れたのかは不明ですが、のどかな風景の中に子どもの表情がたまりません
→受賞作が公開されている活動日記はこちら
入賞 受賞者:こーへーさん
【審査委員会コメント】阿蘇山上広場から烏帽子岳をバックにASOの人文字が存分に楽しんでいるのを感じさせてくれます。出来れば仲間に加わりたいそんな気持ちになりました。
→受賞作が公開されている活動日記はこちら
入賞 受賞者:mint7332さん
【審査委員会コメント】今回のロゲイニングは、豊肥本線があったことで戦略性が大きく変わりました。その豊肥本線を眺める後姿の勇ましさに惚れてしまうような写真です。
→受賞作が公開されている活動日記はこちら
入賞 受賞者:SAYUさん
【審査委員会コメント】左手に持っている紙袋の中身は多分食べ物だろうと思いますが、食べ歩きも勿論ロゲイニングの醍醐味。バスを待つ姿に紙袋の中身は何だろうと気になってしまいました。
→受賞作が公開されている活動日記はこちら
周辺スポットの紹介はこちらから
今回の記事中で登場した場所以外にも、国造神社、霜神社など、阿蘇の神話が残っている歴史的な場所、阿蘇の水資源の豊かさを感じられるポケットパーク湧水の自噴水、雲海の見られる田子山など、周辺エリア訪れておきたいスポットだらけ。観光情報は以下のサイトで確認を!
ASONAVI
走るライター
若岡 拓也
1984年石川県生まれ。ランナー、ライター、ニュースディレクター。PAAGO WORKS、Icebreakerをこよなく愛するアンバサダー。ステージレース、トレイルランニング、アドベンチャーレースなどに出場している。2021年は日本山脈縦走(秋吉台ー富士山、八甲田山ー富士山)にチャレンジ予定。
公式SNSで山の情報を発信中
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