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熊野林業の新たな挑戦! 「熊野REBORN PROJECT」 第2回イベントレポート
日本を代表する「巡礼の道」として知られる紀伊半島南部の「熊野古道」。世界遺産に登録され、海外からも注目を集める熊野古道ですが、実は人口減少や一次産業の衰退によって、その文化は存亡の危機を迎えているのです。YAMAPでは、この危機を解消すべくユーザー15名の力を借りて、熊野古道に新たな観光資源を生み出す「熊野REBORN PROJECT」を2020年10月初旬にスタートしました。今回は「熊野に産声を上げた新たな林業の挑戦」をテーマに行われた第2回イベントの様子をレポートします。
熊野REBORN PROJECT #02/連載一覧はこちら
目次
今回のテーマは「熊野の林業」
前回のイベントからひと月ほど経った10月の末。目前に迫ったハロウィンの装飾が街を賑わす中、東京駅そばにあるイベントスペース「DIAGONAL RUN TOKYO」にて、「熊野REBORN PROJECT」の第2回イベントが開催されました。
15名のメンバーは前回のイベントで顔見知りになっていることもあり、会の雰囲気はグッと親密に。スタート前からメンバー間では和やかな会話が交わされています。
今回のテーマは「熊野の林業」について。
荒廃した森を再生する「切らない林業」を手掛ける森林コンサルタントの中川雅也さんと、虫食いによって商品価値が損なわれた木材に新たな価値を吹き込む異業種ユニット「BokuMoku」の代表榎本将明さんをゲストスピーカーとして迎え、「熊野の林業について」のトークセッションがスタートしました。
《トークセッション1》 中川雅也 熊野に芽吹いた新たな挑戦「切らない林業」
まず最初にマイクを取ったのは和歌山県田辺市、熊野古道中辺路の玄関口となる街で林業を営む株式会社中川の創業者兼従業員の中川雅也さん。様々な挑戦により、熊野一帯の林業に新しい風を起こしている中心人物です。
家族との時間を作るために始めた林業ベンチャー
中川:皆さん、初めまして。和歌山県田辺市から来ました中川雅也と申します。
まずは、簡単に自己紹介をしたいと思います。おそらく林業というと先祖代々というイメージを持たれる方も多いと思うんですが、私の実家はもともとガソリンスタンドを営んでいました。祖父が始めた家業ですので、私で三代目にあたります。まあ、当然のことながら、幼少時代は「将来ガソリンスタンドを継ぐんだろうな〜」と思いながら育ちました。
大学を出た後は、貿易会社に就職してインドネシアで仕事をしていたんですが、ある時「デング熱」という病気にかかってしまったんです。デング熱というのは、熱帯域に生息する蚊によって媒介される感染症なんですが、放置すると致死率が10~20%とも言われる病気。そして、1回目より2回目に感染すると重篤化する可能性が高いと言われています。
そんなたいそうな病気にかかってしまったこともあって、あえなく帰国・退職・地元和歌山へUターンということになったんですが、地元でニートをしているわけにもいかないので、たまたま就職口があった森林組合に席を置くことになりました。
森林組合在籍時には結婚をし、子供にも恵まれて幸せだったんですが、ある日長男に「もっとお父さんと遊びたい。お父さんの仕事はいつ終わるの?」と言われたんです。今考えれば、これが人生のターニングポイントになりました。
2人の子どもに囲まれて…熟睡する中川さん
当時は私もそれなりに忙しく働いていたのですが、この一言をきっかけに「もっと家族との時間を取れる働き方はないだろうか?」と考えるようになりました。そして、たどり着いた答えが「一次産業」での起業。農業や漁業など数ある一次産業について色々と悩んだ末、最後に残ったのが「林業」でした。
それから林業のことをより深く勉強して、ようやく会社を立ち上げようということになったんですが、「家業のガソリンスタンドで儲かってるから、林業できてるんでしょ? 林業なんてそれ一本では食っていけないでしょ?」という周りの声が非常に悔しかった。
なので…、エイやっ!でガソリンスタンドを畳んで、林業一本で頑張ることにしたんです。
林業の衰退と山の荒廃
林業って本当に多くの課題がある産業なんです。皆さんもご存知だと思うんですが、そもそも、働き手が極めて少ない。3Kの代表格とも言われる職種なので、働く人は年々減っていて新しい人もあまり入ってきません。それは、ここ和歌山でも同じです。山は変わらずそこにあるのに、手入れをする人がいないので、山はどんどん荒れてしまう。
和歌山県調査統計課(和歌山県統計情報館)Webサイト「和歌山県の林業」より引用
本来、山には経済的な価値以外に「水を蓄える」「災害を防ぐ」「生き物の住処になる」といった複合的な価値があるんです。林野庁の発表によると、日本の山には、こういった役割だけで約75兆円の価値があるとされています(平成12年9月6日林野庁)。
でも、この価値が年々減少している。山には木材の材料になる針葉樹が植えられていますが、切り出された後に、植樹がされなくなってきているんです。
具体的にいうと、伐採された木の約4割程度しか植樹されなくなっている。あとの6割は何も植えられずに放置されているんです。木が生えていない山に雨が降ると土が流されるので、土砂災害が起こる。そしてますます山が荒れていくという負のスパイラルに陥っているのが、日本の山林の現状なのです。
崖崩れ後の山の風景。自然の力を失った斜面は大雨によって簡単に崩落してしまう
「山と人を育てる」新たな林業への挑戦
「荒れた山の現状をなんとかしたい、そして家族との時間をもっと確保したい」。そういう思いから2016年に立ち上げた会社が「株式会社中川」です。
社長は私の母。現在(2020年11月末時点)のメンバーは、21名(アルバイト除く)です。
会社の社訓は「育林は育人」というもの。これは江戸時代から林業家の間に伝わる言葉なんですが「山を育てるためには人を育てなくてはならない。人を育てるためには山を育てなければならない」という意味です。
言わずもがなですが、林業にとって、人を育てることと山を育てることは表裏一体なんです。豊かな山と経験ある職人が共に支え合って生きていくことこそが、本当の林業だと思います。
そこで我々が挑戦しているのが「木を切らない林業」。苗を育て、木を植え、下草を刈り、間伐をして山を健康な状態に保つ、そしてその工程を通して次世代を担う林業従事者を育成していくのが私たちの主な仕事です。
「木を切らない林業」と聞いて、ピンとこない方もいらっしゃると思うんですが、日本全国には、少なくなったとはいえ、まだまだ木を切る林業を行っている会社はあるんです。
一方で、植樹はというと、そういった木を切る会社が片手間でやっている。結果として、十全な植樹がなされていないという実情があります。だからこそ、我々は木を切るのではなく、そういった伐採をした後に山の手当をする林業、すなわち木を植える林業を生業としていこうと決めたんです。
植樹の風景
加えて、私たちが大切にしているのが、山を持つ人々である「山主」さんとの関係構築。山に興味がない山主さんから、山の管理を任せてもらって、林業に必要な道を通し、山の価値を高めていくような仕事もしています。
木が売れないから衰退してしまった林業なんですが、このままだと山はどんどん荒れて、さらに価値がないものになってしまう。だからこそ、それを改善するために荒れた山を整備し、木を植え、そこに生えた木を含めた山の価値を上げていこうという取り組みをしているんです。
どんぐりを通してつながる森と人の輪
では、山の価値を上げるためにどういった取り組みをしているのか?
今は町の中にも耕作放棄地が増えていますが、そういったところを活用して、拾ってきたどんぐりから広葉樹の苗を育て、それを山に植樹する活動をしています。林業における植樹というと、杉や檜を想像される方も多いと思うんですが、実は広葉樹も山の価値向上に大きく貢献するんです。
なぜ、自社で広葉樹の苗を作っているのか? 主に木材の材料になる針葉樹の苗は全国各地で作られているんですが、広葉樹の苗というのはなかなか作られていない。
私たちが育てている広葉樹の一種「ウバメガシ」なんかは、紀州に古くから伝わる「紀州備長炭」の原料であり、和歌山県の県木にも指定されている木なんですが、実はその苗木を手に入れようとすると四国や九州から取り寄せなくてはいけないんです。
でも実は、地元和歌山の山にはウバメガシのどんぐりがたくさん落ちている。であれば、地元の山で集めたどんぐりから苗木を作った方が良いじゃないかということで、地元産のどんぐりを使った育苗を始めました。
どんぐりを集める工程も工夫しています。地元の子供たちの協力を仰いでいるんです。ウバメガシは、山の中はもとより、子供たちが日常遊ぶ場所にも生えているので、子供たちは遊びの延長でどんぐりを集めてくれるんです。
そうすることで、山々を豊かにするのと同時に、子供たちが山について、自然について考えるきっかけにもなる。「育林は育人」という言葉に倣い、森を育てると同時に次世代を担う子供たちの心も育てられればと思っています。
どんぐりを拾う子供たち
最近では地域一体となった山作りを実現していくべく、集めたどんぐりを地域の企業に配布し、苗を育ててもらい、その苗をまた我々が買い取る取り組みも開始しています。買い取ってお支払いしたお金の一部は、山の再生のために使う基金に寄付してもらう。そうして、地域全体で山作りをするサイクルを作り出せればと思っています。
おかげさまでこういった取り組みが注目を集め、今年はGOOD DESIGN賞もいただくことができました。「ようやく、いろいろな分野から、林業が注目されはじめたな」そういう実感を持って仕事を進めることができるようになりましたね。
ドローンの活用による3K脱却
そういった活動の一方で、やはり林業のやり方自体も変わっていかなければいけない。今までの林業のやり方は、正直キツイんです。重い苗木を担いで急斜面を登るのは体力的にも厳しいし、労災の危険性もとても大きい。林業のやり方自体もテクノロジーを取り入れてアップデートしていかなければいけないと思っています。
そこで我々が挑戦しているのが、ドローンの活用。昨年には、大体27kgくらいのものまでを持ち上げることができるドローンを自社で開発しました。これを使うと、山の頂上まで一気に荷物を運ぶことができる。人が背負うと片道40分くらいかかるんですが、それがおおよそ2~3分で済んでしまうんです。
ドローンを用いた輸送の様子
最初は従業員のよもやま話に出てきた夢物語だったんですが、1,200万円ほどの開発費用をかけて、実用まで漕ぎ着けました。
投資としては大きかったですが、これができたことによって、従業員はいちいち下に降りてこず、山の上でずっと効率的に仕事ができるようになりましたし、労災も昨年までは年3〜4件発生していたのが、今年は0件。確実に効果を出せていると感じています。
まだまだ道半ばですが、林業は変わっていかなければならない。大切な部分は守りつつ、でも変えるべき部分は大胆に変えていく。最先端の技術を取り入れつつ、次の時代を作っていけるような仕事ができればと思っています。
《トークセッション2》 榎本将明 虫食い材に新たな価値をもたらす 森の錬金術
中川さんの熱いトークの後を引き継いだのは、同じく田辺市にある創業110年の老舗家具店の4代目であり、異業種ユニットBokuMokuの代表も務める榎本将明さん。家具作りを通して、熊野の森を守り、虫食いによって価値が損なわれてしまった木材に新しい価値を産み出そうとしている取り組みの仕掛け人です。
木の国に広がる「虫食い」の危機
榎本:始めまして。榎本家具店代表取締役兼BokuMoku代表の榎本将明と申します。
僕の会社は1910年に曽祖父が指物屋(釘などを使用せず木を組み合わせて作った家具・建具を取り扱うお店)として創業したもの、僕で4代目になります。
昭和30年年代中頃の家具店の様子
創業以来ずっと熊野にあるので、熊野の人々、そして木を生み出してくれる熊野の山に育ててもらった会社です。
和歌山県は元々紀州と呼ばれていましたが、その語源は「木の国」であるとも伝えられています。和歌山で育つ木材は「紀州材」と呼ばれ、昔から非常に尊ばれてきました。例えば江戸城の大改装に使われたり、寺社仏閣の建材としても珍重されたと言われています。
でも…、先ほどの中川さんの話にもあったんですが、現在和歌山の林業は衰退しており、輸入材の進出などによって木材価格も大きく下落しています。価格のピークは1981年、今はその頃に比べると、おおよそ1/4になっているんです。
そしてさらに、近年では「あかね材」と呼ばれる虫食い材も増え、それが木材価格をさらに押し下げています。
「あかね材」という言葉を初めて耳にした方も多いと思うんですが、これは「スギノアカネトラカミキリムシ」という虫によって食害が起こってしまった木材のこと。その虫食い跡が残っていることや、赤や茶に変色することで、木材の商品価値が大きく損なわれてしまうんです。
スギノアカネトラカミキリムシの成虫。杉や檜の枯れ枝に産卵し、孵化した幼虫が枝から幹に侵入、枝の根本を中心に上下に食害を引き起こす
以前は和歌山県南部が被害の中心だったんですが、温暖化の影響もあり徐々に範囲を広げています。林業従事者が減少することで、手入れをされない森が増え、結果としてスギノアカネトラカミキリムシの生息域が拡大しているという現状もあるようです。
食害によって凹凸と変色が出てしまった檜材の断面
木材として強度や品質にはなんら問題がないんですが、見た目が悪い(個性的)なことから、建築材としては敬遠されてしまいます。
結果として、あかね材は、梱包材やベニヤ、ひどい場合は価値がないと見做されて焼却処分されてしまうようなことに。つまり、あかね材が増えることは、木材価格の下落に直結するんです。
そして、木材価格が下落すればするほど木は切り出されず、山は放置される。そうするとまた手入れされない森が増えて虫が増殖、あかね材が増えるという負のスパイラルに陥ってしまうんです。
手入れがされず、荒れてしまった森
「虫食い」を木の個性として活かすものづくり
でも、繰り返しになりますが、あかね材というのは、強度や品質にはなんら問題はないんです。ただ、見た目が個性的なだけ。
だったら、その個性を活かすような使い方はできないものか? その個性にデザインの力を加えることで、商品として誇れるものが作れないか? そういった発想から生まれた集団が「BokuMoku」なんです。
写真の左から製材・グラフィックデザイナー・一級建築士・家具屋・林業・木工。多様な才能を持つメンバーを、地域の中から集めて作った異業種ユニットです。
このユニットの活動には大きく3つの領域があります。
まずは物づくり。あかね材が持つ節や虫食い跡をデザインとして取り入れ、森で生きていた木の姿を想像できるようなダイナミックなデザインのテーブルや椅子、フォトフレームなどを制作・販売しています。
この写真は、田辺の市長室で使われているテーブルなのですが、これがBokuMokuの納品第一号。市長も僕たちの取り組みに賛同してくれて、直々に「第一号の商品は市長室のテーブルにしてくれ」というオーダーをいただき、納品することができました。
他にも椅子やソファーなんかも作りますしYAMAPさんの東京支社の内装にも使っていただいています。
そして2つ目の領域がワークショップ。イベントなんかに出展して、あかね材や間伐材で作った工作キットを使って、木材に触れる楽しさ、あかね材の素晴らしさを一般の方にも伝えています。作ることで山を想い、作ることで山を守るような活動ができればと思って、力を入れている領域です。
自らの手で作るという体験は、とても想像力を刺激するらしく、参加者の方は手を動かしながら、山のことをしっかりと考えてくれるんです。
そして3つめは森林体験や勉強会。中川さんの力も借りながら、林業の現場に子供たちを招いて、紀州材の素晴らしさや山の現状、伐採や植林の工程を体験してもらう取り組みです。
こういった活動を通してこれからの世の中を背負う世代に、地元の山を知るきっかけを提供できればと思って継続しています。
あかね材のブランド化の先にあるもの
僕たちは、地域の中で産業をつくって、地域の中で回していける循環型の経済を実現したいと思って、BokuMokuを運営しています。熊野の山を健全な状態に保つための助けになりたいと思っているんです。
でも、僕たちが解決しようとしている問題というのは、大きな山のごくごく一部のことでしかありません。個人の力、限られた集団の力では、多様な山の問題を全て解決することは当然できない。だからこそ、先ほどの活動やあかね材で作った商品を通して、多くの人に、山と向き合い、山のことを考えるきっかけを広めていければと思っているんです。
《フリーディスカッション》 参加者からは林業、そしてあかね材に関する質問が続々と!
充実した2人のプレゼンの後は、フリーディスカッションの時間。参加者たちは、今後熊野に新たな観光資源を作り出すミッションを背負っているため、そのヒントになる情報を集めるべく、活発な質疑をしていました。ここでは、その中からいくつかをご紹介したいと思います。
Q. あかね材は普通の木材と比べて、どの程度価格差があるのですか?
榎本:市場への卸値としては、虫食いがない木材と比べて20~30%程度低い価格です。意外と価値が落ちないように感じるかもしれませんが、木を育てる経費・切り出してくる搬出費などを差し引くと、30%減はとても厳しい。でも、何度も言いますが、見た目が個性的なだけで、品質面には問題がないんですよね。
僕たちは、安く仕入れられるからといって、あかね材で作った商品を安くで売りたくないんです。しっかりといいものを作って、きちんと利益を上げて、その利益を山を育てることに使っていきたいと考えています。
Q.どういう森を作りたいと思いますか? その理想に対して現状は?
中川:まずは現状から。和歌山では、谷から尾根まで、すべて杉などの針葉樹という森が非常に多い。そうなると、どんぐりを落とす木がなくなって鹿や猪は食べ物に困ってしまう。お腹が空いた鹿、猪は里の田畑を荒らし、獣害を引き起こすといったことが発生しています。
私たちはそういった状況を少しでも改善すべく、尾根にどんぐりを植える山作りをしています。山のてっぺんの方にどんぐりの苗を植えるんです。尾根にどんぐりの木があると、将来的に下に植えられている針葉樹が切られた後に、そこにどんぐりがコロコロっと転がっていって芽吹く。針葉樹というのは、伐採されるとなかなか新たな芽が出てこない。そこに、どんぐりが転がって芽吹けば、山はまた再生することができます。
そして、山の上にどんぐりがあれば、猪や鹿はそれを食べて山で生きていける。麓の農業従事者を悩ませている獣害も解消できるかもしれないんです。
私は今30代後半なので、おそらく山に携われるのは残り30年程度。私がいなくなった後の世界に、山がおのずから再生できるような仕組みを残したいなと思っています。
Q.木を売らない林業ってビジネスとして成立するのでしょうか?
中川:成立します! 今、私の会社で一番大きい分野は植樹の請負ですね。今までは伐採した業者が、そのまま植樹まで担当していた。でも専門ではないので、どうしても植樹にかかるコストが割高になってしまっていたんです。そこを私たちが植樹専門で受け持つ。そうすると、専門なのでコストも抑えることができる。伐採業者としてもそれは渡りに船なんですね。植樹に特化した林業でお金をいただいているのが、最も大きなビジネスです。
他にはどんぐりの苗木の販売やイベントへの出展・外部視察の受け入れなんかもあります。
Q.ワークショップに参加するのはどういう方ですか?
中川:子供たちが多いですね。子供を自然に触れさせたいと思っている親御さんも増えているので、そういった方が多い。トンカチやノコギリを使ったワークショップを行うと、孫の可愛い一瞬を撮ろうと、おじいちゃん・おばあちゃんが一生懸命撮影する風景なんかも見れて、微笑ましいですね。
ちょっと話はそれますが、おじいちゃん・おばあちゃんの中には、山主さんも結構いるんですが、多くの人が山への興味を失ってしまっている。でも、そういう方に対して、お孫さんが「どんぐりを拾って苗を作って山に植えたよ〜」なんて話をすると、急に興味が刺激されて、「良い山を孫に残したい!だから山の手入れの相談させてくれ」という具合になるみたいなんです。私たちの活動がきっかけで、そういう山主さんが少しづつ増えているのも嬉しいことですね。
Q.ドローンでの輸送に続くテクノロジーの活用は考えていますか?
中川:まだ夢物語なんですが、植樹自体をドローンでできないかなと考えています。子供たちにどんぐりが入った泥団子を作ってもらって、それをドローンで運んで、山の中に撒けばひょっとしたら発芽するんじゃないかな。鹿や猪がどんぐりを食べちゃうことに対する予防策は必要ですが、それが実現できれば、地域のおじいちゃんやおばあちゃん、子供たちなんかが集まって、山のために泥団子を一生懸命作るような状況が出来上がるかもしれない。それはとても素敵な光景だと思うんです。
Q.突然目の前に魔法使いが現れて「なんでも願いを叶えてあげる」って言われたら、何をお願いしますか?
中川:そ、そうですね…(汗)。なんでも良いんだったら…。私はトトロに出てくるような里山を作りたいとお願いします。トトロの世界って本当にすごい。あれだけ子供たちが山の中・森の中を走り回っているのに、動物が出てこないんです。あれは、山が豊かだから、わざわざ鹿や猪が人の生活圏まで降りてきていないんですね。ああいった里山が各地にあれば、それは人だけでなく、動物たちにとっても安住の場所になると思うんです。もし、ひとつ願いが叶うなら、そういった里山づくりが実現するようにお願いしたいと思いますね。
榎本:僕は、ドラえもんのタイムマシンが欲しいです(笑)。僕らがやっている活動っていうのは、自分の寿命を超えた時間軸、それこそ100年単位で成果が出てくるようなものです。なので、美しく豊かになった山を目の当たりにすることができない。もし願いが叶うなら、自分の仕事の結果、山がどう変わったのか? それをタイムマシンを使って見に行きたいなと思います。そこで自分の孫とかひ孫が「爺ちゃんがやったことは凄かったんやな」って言ってくれてたら最高ですね。
《アイデア発表》 キャンプ場の設立からサブカルの活用まで。実に多様なアイデアが!
トークセッションとフリーディスカッションを経て、会の最後は、参加者各人が抱いたアイデアの共有。「熊野REBORN PROJECT」は全3回のワークショップ&現地ツアーの後、最後に各人から事業プランの発表を予定していますが、それぞれの会でも、ジャストアイデアを共有する場を設けています。
ここで共有されたジャストアイデアが混ざり合い、磨かれ、そして最終的なプランにつながっていくと考えているためです。
ここでは、各人から発表された内容のうち、数人分ををちょっと覗き見してみましょう。
林業をもっとかっこよく! 整備しないキャンプ場もありかも!?(熊山)
感じたのはやっぱり人手不足。観光客だけじゃなく、山に定住して、山の仕事をする人も増えた方がいいと思っています。そのためには「林業はかっこいい」という雰囲気を醸成していくことが大切だと思うんです。例えば、アメリカの林業従事者なんかは、ピックアップトラックに乗って、かっこいいつなぎを着ている印象があるんですが、そういうかっこいい林業を作っていければ、人手不足の解消にもつながるのではないかと思いました。
後は、敢えて整備しないキャンプ場。最近だとブッシュクラフトなんかも流行っているので、快適に過ごすための場所づくりすらも、体験として提供するようなキャンプ場が山の中にあってもいいと思います。環境負荷もそれほど高くないだろうし。そういうことを教えるワークショップもセットで開催して、最低限の荷物で山で宿泊する術をマスターするみたいなアトラクションを作れると、山を愛する人も増えるし、林業従事者が持つノウハウなんかも楽しく広まっていくんじゃないかなと思いますね。
山の保全と登山者をつなぐYAMAPの仕組みがあるといい!(喜一朗)
山の保全と登山者を結びつけるような取り組みがあるといいなと思いました。おそらく登山者が山のためにできることって多様にあって、その難易度もまちまちだと思うんです。なので、そういった山の技能について習熟度別の等級を設定して、登山者は山に行くついでに研修を受けて、技能を習得していく。技能が高まっていくと、YAMAP上でバッジなどが付与されてモチベーションにもつながる。そういった、登山者が山の保全に介入していくことを後押しする仕組みが作れるといいと思いました。
サブカルを活用して若い世代の興味を喚起!(直人)
林業の衰退だけでなくこの「熊野REBORN PROJECT」が生まれた理由にしてもそうですが、いずれの課題も根本にあるのは「関心が無い」ということではないかと感じてます。多くの人が山に興味を持つにはどうすればいいのか? 私はその一つの解がアニメなどのサブカルチャーにある気がしています。「鬼滅の刃」の雲取山や「君の名は」の飛騨高山、そういったものに類するサブカルチャーをうまく使うと、もっと和歌山の山に興味を持ってくれる人を増やせるのではないでしょうか。
IT系技術者の移住&地域おこしプロジェクト!(まいまい)
こういった環境って、ハッカーマインドを持ったエンジニア達にとっても宝物のような場所になり得るんではないかと思いました。静かな環境で仕事ができるし、ネット環境とPCさえ揃っていればいい。都会にはない刺激的なその土地ならではの課題がハックされるのを待って眠っている。「山主さんの高齢化で山の所有境界線をはっきりさせるのに50年かかる」という話も、これまでとは全く違うテクノロジーやデータを使ったアプローチで、ハッカー集団として一気に解決、みたいなこともあるかもしれないな、と感じています。
あとは、アメリカのサマーキャンプのように夏休みの子供たちを受け入れる取り組みをしてはどうかと思いました。その中で林業などの一次産業に触れて学んでもらう。「山のキッザニア」的な取り組みがあると楽しそう。
全国のあかねさんに協力してもらってトトロの森を作る!(ただしくん)
みんなが一緒に目指すことのできる「大目標」があるといいと思いました。例えば、かつてアメリカではケネディー大統領が「月に行こう」という大目標を宣言したことで、様々な科学が一気に発展した(以来、このような大目標を「ムーンショット」と呼ぶそうです)。さっき中川さんがおっしゃった「トトロの世界のような里山を作りたい」っていうのは、その「大目標」になりうるんじゃないかと思うんです。みんなトトロ好きですし(笑)。例えば、あかね材の活用にしても、日本中の著名なプロダクトデザイナーに「トトロの里山を作りたいんです。どうか協力してください」といった手紙を出せば、少なくとも1人位は反応してくれると思うんですよね。
あと「あかね材」の認知向上のために、日本中の「あかねさん」という名前の方に呼びかけて「トトロの里山を作りたいんです。つきましては協力してください」といえば、結構な人数が興味を持ってくれると思います。年に数回は「あかね祭」を熊野で開催して、全国のあかねさんに集まってもらい、あかねさんとあかね材の魅力について語り合ってもらう。そして、祭りの後、日本各地に帰っていったあかねさんたちに「あかね材」のことを語ってもらい、エバンジェリストになってもらうというのも面白そうです。
社会の仕組みを変えて、山を救う!(なお)
森林を投資の対象にできないかなと考えてみました。世界では森林ファンドというのは結構あるんですけど、日本ではそういう仕組みがまだ未成熟。個人や市町村レベルではなく、国単位で森林をどう活かしていくか? そういう大きな流れを作る仕組み作りができないかなと考えています。ボランティアも大切だけど、ボランティアや個人の活動だと限界がある。根本的な解決には、森を取り囲む状況を社会全体で変えていかなければいけないと考えています。
あかね材の価値が低いのは、業界内の固定概念かも?(りお)
あかね材は市場価値が低いという話だったんですが、私は初めてあかね材を見て、普通にかっこいいと思ったんですね。ひょっとすると「あかね材は価値が低い」というのは、業界内の思い込みかもしれない。中間の人が低い値付けをしているだけで、実は一般消費者からしたら、そんなに気にならない、むしろ価値がある特徴かもしれない。そういった固定概念を崩すと、意外とブレイクスルーする気がします。ちょっとリーズナブルな無垢材といったポジショニングであれば、DIYなんかも流行っているし、今の若い世代には受け入れられると思うんですよね。
回を追うごとに白熱する議論! 次回はいよいよ座学最終回
座学第2回目となる今回のイベント、参加者は熊野の林業について学び、未完成ながらアイデアを表現するに至りました。このアイデアの種は次回、第3回目の座学、そして2泊3日の熊野フィールドワークを経て生まれる新たなアイデアと融合し、磨き上げられ、最終発表で披露されることになります。
座学最終回となる次回のテーマは「熊野の農業と狩猟について」。熊野で繰り広げられる農業と観光の融合とは? そして害獣と呼ばれる動物たちから価値を生み出す熊野の狩猟とは? ぜひご期待ください!
イベントの内容が一目瞭然!「グラフィックレコーディング」
今回のイベントについても、前回同様グラフィックレコーダーの中尾仁士さんの協力を得て、会の様子をイラスト化してもらいました。トークセッションのトピックや文章では紹介しきれなかった各人のアイデアなども収録された充実の仕上がり! 記事と合わせて読み込むことで、より一層の理解が深まる内容になっています。
YAMAP MAGAZINE 編集部
登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。
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