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来年の年賀状用写真は、ここで撮る!? 深山で出会う「オリンピック」
圧倒的な山行日数を誇る人気山岳/アウトドアライター、高橋庄太郎さんによる連載「いつかは行きたい! 山の名スポット、珍スポット」。 毎月1ケ所「え、こんなところにこんなものが?!」と驚く、知られざるスポットを紹介します。
高橋庄太郎の「いつかは行きたい!」山の名スポット、珍スポット #05/連載一覧はこちら
目次
「東京オリンピック=東京五輪」は来年に延期されてしまったが…
新型コロナウイルスによる問題はあまりにも大きく、そのために日本にとって今年どころか21世紀を代表するはずだった一大イベントのことが、いまやほとんど話題にもなっていない。それは「2020年東京オリンピック」だ。今のところ来年に延期されているので「2021年東京オリンピック」となるのかもしれない。
オリンピックといえば、別名「五輪」。今回紹介したいのは、山中の「五輪」が付く場所である。もともとは「オリンピック・イヤーの今年、訪れてみよう!」という方向での記事化を計画していたのだが、まさかの事態で「オリンピック前に行ってみよう!」という話になってしまったが…。
ともあれ、今年のうちに山中の「五輪」の前で写真を撮っておけば、2021年の年賀状の図柄として利用できる。この時代、わざわざ年賀状を書く人は少なくなっているが、SNSやメールなどによる年始のメッセージに使うのもよいだろう。
さて、山中の「五輪」はどこにあるのか? じつは日本には「五輪山」という山は複数あるが、そのなかでさらに「五輪尾根」「五輪高原」「五輪の森」などと、周囲に「五輪」の地名がいくつも並ぶのは、あの北アルプス。日本300名山の朝日岳の近くである。
標高2,253m、北アルプス北部にたたずむ五輪山
「五輪」の場所をより正確に説明すれば、朝日岳山頂の北東方向。朝日岳山頂から登山道を少し下っていくと、すぐにこんもりとなだらかな山塊が見える。これが五輪尾根だ。朝日岳山頂から五輪尾根の一角までは1時間もかからず、つまり朝日岳と五輪尾根は“開催間近”といった距離感である。
五輪尾根には南側の山腹に長大な登山道がつけられ、山上の起点である吹上のコルから秘湯として名高い蓮華温泉を結んでいる。ちなみに吹上のコルは、朝日岳から親不知(日本海)へ向かう栂海新道の起点でもある。
この付近は日本屈指の豪雪地帯だ。年にもよるが、夏でも大きな雪渓が残っていることも珍しくない。雪解けした水は周囲の大地に染みこみ、沢水としてさまざまな場所から流れ出している。そのために五輪尾根には沢とともに湿原が多く、初夏には高山植物の花々でいっぱいだ。花を見るために五輪尾根を歩くのも楽しい。
五輪山を背景にした「お勧め撮影ポイント」
僕が推薦する五輪尾根の撮影スポットは、吹上のコルから登山道を少しだけ下って行ったあたり。それまでは茫洋としていて印象が薄かった五輪山が、山らしくそびえ立って見えてくるからだ。本当は五輪山の山頂で撮影したいところだが、残念ながら登山道は山頂を通っていない。だから、背景に五輪山が入るカットがお勧めなのである。ちなみに、五輪山へ登ったことがある人によれば、夏の五輪尾根は全面的にハイマツとナナカマド、そしてササがミックスした険しいヤブになっているらしい。ただし、五輪山の山頂部分だけは大きな石が折り重なっているという。
さて、そこで撮った写真を適当に加工すると、以下のような感じに。短時間で作ったためにかなりテキトーだが、そんなに悪くはない気がする。手前に人でも立っていれば、さらにキャッチーに仕上がるだろう。僕が撮影したこの画像はフリー素材にするので、もしも年賀状に使いたい方がいれば、ご自由にどうぞ!
その後、登山道は「五輪の森」と呼ばれる樹林帯の中へ。途中には道標もあるが、劣化していて文字が読み取れない。知らずに通りすぎる人も多いようである。
このあたりはその名の通りに森が美しく、心がリラックスする区間なのだが、森が深くて写真は少々撮りにくい。しかし、もっと先にはすばらしい山上の別天地が待っている。
五輪高原は、草原と木道のコンビがバツグン!
森を抜けると、登山道は突然のように一気に広い場所へ出る。このあたりが「五輪高原」だ。草原のなかに木道が長々と延び、ここは北アルプスの登山道の中でトップクラスの解放感! 豪雪地帯の北アルプス北部らしく、北海道や東北の山々のような雄大さと優しさがあふれ出し、じつに気持ちがよい場所なのである。
いや~、年賀状などと関係なくても、本当にいい場所ではないか! 僕はこの山域のことを山雑誌『PEAKS』の2020年6月号に詳しく書いた(白馬岳~朝日岳~蓮華温泉の山行ルポ)。その号はこの『YAMAP』とも連動した特集になっているので、ぜひご覧いただきたい。
山中の「五輪」は、全国にまだまだある!
ところで、先に述べたように「五輪山」は全国各地に点在している。せっかくなので、ここでいくつか紹介しておこう。
首都圏の人が行きやすい「五輪山」は、奥武蔵。低山ながら人気の伊豆ヶ岳のすぐ北に位置し、これまでに知らずに通りすぎていた人が多いかもしれない。ただ、正直なところ地味すぎる存在なので、ここだけ登ってもあまり面白くはない。伊豆ヶ岳のついでに行くとよいだろう。
中国地方では、広島に標高883mの五輪山がある。僕は行ったことがないが、該当する場所は地図で見ていただける。
同じく中国地方は、岡山にも五輪山がある。標高は980mだ。
また、登山道は通っていないが、北志賀高原にも標高1,620mの五輪山がある。上越の霊峰・米山は、旧名が五輪山だ。そのほか、僕が把握していないだけで、五輪山は全国にまだいくつかありそうである。「五輪峠」という地名も赤城山など全国各地に所在しているので、なにかのときに行ってみるのもいいかもしれない。
最後に軽いウンチク。「五輪」は仏教に由来する
それにしても、どうして「五輪」が付く地名は山に多いのか? 今回はシャレでオリンピックと結びつけたが、これだけ多くの日本の山がオリンピックに由来しているはずがない。
そもそも「五輪」とは、仏教では万物を構成する“地、水、火、風、空”を表す言葉。そして、それをモチーフとするのが石積みの“五輪塔”だ。
広島や北志賀高原の五輪山の山名の由来は、ズバリ、山頂に五輪塔が残されていたことによる。仏教と深い関わりを持つ日本だけに、全国の大半の「五輪」地名は五輪塔にまつわるものだろう。
しかし、今回紹介した北アルプスの五輪山は、五輪塔と関連付けられることを示す文献や書籍データを見つけることができなかった…。標高2,000mを超える山頂に、昔は五輪塔があったのだろうか? どなたかご存知の方がいたら、教えていただきたい。
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山岳/アウトドアライター
高橋 庄太郎
出版社勤務後、国内外を2年間ほど放浪し、その後にフリーライターに。テント泊にこだわった人力での旅を愛し、そのフィールドはもっぱら山。現在は日本の山を丹念に歩いている。著書に『トレッキング実践学 改訂版』(ADDIX)、『テント泊登山の基本テクニック』(山と渓谷社)など多数。イベントやテレビへの出演も多い。
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